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閑話 とあるレポーターの災難

いつも感想ありがとうございます。


いただいた感想から着想を得て書かせていただきました。

「おはようございます」


 もう日が落ち、夜の帳が降りた時間。どう考えても見当違いな挨拶が響く。しかし、この業界にとっては正しい挨拶なのであった。


「神通さん、今回もよろしくお願いします」


「那珂さん、こちらこそよろしく。今回の夜襲も成功させましょうや」


 この二人、ある意味で有名なカメラマンとレポーターである。彼らは米国横断スーパークイズにおいて、就寝中の回答者の部屋に夜襲を敢行。あわれな生け贄の寝顔を全国のお茶の間に届けるという刺客を長年勤めているのである。


 そんな二人に番組のプロデューサーが近づく。今夜敢行する夜襲の打ち合わせを行う為である。


「那珂さん、神通さん、今年は困難だが遣り甲斐のあるターゲットとなる。顔を向けずにあちらを見てくれ」


 談笑するふりをして視線のみを向けた二人が見たのは、ホテルのスタッフらしき制服を着た女性と話す少女の姿だった。無地のTシャツにGパン姿という飾り気のない服装であるものの、二人は視線を外す事は出来なかった。


 背が低くまだ幼いと思われるその少女は、一部がとても少女と思えない成長ぶりを発揮していた。普通の成人男子である那珂と神通がその胸部装甲から目を離せないからといって、誰がそれを咎める事が出来ようか。


「ちょっ、まだ未成年の女の子じゃないですか!問題ありすぎでしょう!」


「今時、成人でも女性の部屋に無断で入れば叩かれますよ。それを未成年のなんて、通報ものですって!」


 下手をすれば・・・いや、下手をしなくとも犯罪者扱いされる仕事内容に、二人はプロデューサーに対して猛抗議を始めた。


「おいおい、二人とも知らないのか?あの娘は・・・カオルちゃんは男の娘だぞ?」


「「はあっ?・・・男の娘?!」」


 期せずして那珂と神通の声が重なった。長年コンビで仕事をしているだけあって、呼吸はピッタリ合っているようだ。


「プロデューサー、あの娘が男だなんて嘘でしょう?」


「嘘をつくなら、もう少しまともな嘘をお願いします。それは幾らなんでも引っ掛かりませんよ」


 プロデューサーは無言でタブレットを差し出した。それには武蔵芸能の看板となりつつある新人のページが表示されていた。


「「・・・本当だ」」


「事務所と、未成年なので保護者にも許可は取ってある。二人の戦果に期待する!」


 プロデューサーは、問題となる点を事前に潰していた。最も難航すると予想された保護者も、ノーカット版のデータを渡す事で許可を得たのであった。


 そして、草木も眠る丑三つ時。夜襲作戦は敢行されるのであった。


「皆さんこんばんは。夜襲レポーターの神通です。今日は一次国内予選を通過した回答者に夜襲をかけたいと思います」


 暗闇の中、僅かな明かりに照らされた神通がレポートを始める。しかしその表情は、例年に比べて緊張している様子であった。


「この部屋に今回のターゲットが宿泊しています。那珂さん、起こさないように慎重に行きますよ」


 ロックを解除されたドアが、音をたてずに開かれる。典型的なシングルルームを進むと、小さな山が形成されたベッドが映し出された。


「よく寝ているようです。那珂さん、近づいてみましょう」


 ベッドの脇まで進んだ二人は、仕事を忘れて立ち竦んだ。二人の方を向いて眠っているカオルの寝顔に見入ってしまったのだ。


「うわぁ、この子、本当に男の娘か?」


「うちの嫁さんなんて比べ物にならない程に可愛い・・・」


 後日、流出した動画を彼のお嫁さんが発見。那珂家にて盛大な夫婦喧嘩が勃発するのであるが、それは自業自得と言えよう。


「神通さん、起こさないとまずいのでは?」


「馬鹿、那珂は起こせるのかよ」


 内心、二人の意思は「この寝顔を見ていたい」という事で一致していた。しかし、長年行ってきた仕事へのプライドが辛うじて欲求を凌駕した。


「カオルちゃん、カオルちゃん、起きて下さい」


「う、うーん」


 声をかけられてもカオルは起きず、悩ましい声をあげるのみ。


「那珂さん、俺、色々と限界になりそうなんですが・・・」


「言うな、俺も新たな扉を開きそうで恐い」


 二人は必死で「彼は男、彼は男」と自分に言い聞かせる。神通は転ぶ前に仕事を終わらせようと、カオルを揺すって起こす事を決意した。


「カオルちゃん、朝ですよ。起きて下さい」


 揺すろうと手を伸ばした神通に対し、カオルは予想の斜め上を行く反応を見せた。揺すられて目を覚ましたカオルは、襲われたと誤解して腕を確保。飛び付くと腕ひしぎ逆十字を極めたのであった。


「痛い!痛いけど、二の腕に柔らかい感触があっ!」


 相手の腕を両手で抱くように極め、両足で相手の上腕を挟んで決める技である。小さな体躯のカオルがそれを仕掛ければ、神通の腕は豊満なカオルの胸部装甲に挟まれる事となる。

 それにより、神通は天国と地獄を同時に味わう羽目となるのであった。


 その後、神通の叫びを聞いて駆けつけた番組スタッフにより事情を聞かされたカオルは技を解き謝罪。トラブルにより今年のこの企画はお蔵入りとなった。


 しかし、事の顛末は某掲示板にて流布され、カオルの胸に挟まれた神通は大量の脅迫メールに悩まされる事となるのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 ほう、カオルちゃんの胸に挟まれたとな? 血涙流して迫ってくる大きなお友達の集団と、鬼女板の皆さんが大挙して「この!うらやまけしからん奴めっ!」襲ってくるのが目に浮…
[良い点] うーん。 天国は一瞬。 地獄は長々と続きそうですね。 レポーターさんも大変ですな。 でも美少女の寝顔と胸部装甲の破壊力は抜群だからな〜 すでに新たな扉は開いてしまっているかもな。 [一言…
[一言] この二人、羨ましいようなそうでも無いような。 とりあえず死刑。
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