僕、一次予選に挑みました
長らくお待たせしました。更新を再開します。
あれから一週間が経ちました。今日は国内予選が開催される日です。地方予選を勝ち抜いた僕達は、各地方予選会場に集まり番組が用意したバスに乗せられて移動しています。
「カオル君、国内予選に対する意気込みは?」
「出来れば勝ち抜いてハワイに行きたいですけど、果たして行けるかどうか。兎に角全力を尽くします」
取材のカメラマンさんと軽い会話をしつつ車窓を眺めます。さいたま新都心を出発したバスは、国道16号線を一路西進しています。
「あれ?国内予選は都内のホテルでは?」
「去年まではそうだったのですが、今年は会場が変わったんです。場所は着いてからのお楽しみということで」
僕達の会話を聞いた人が周囲に伝えたようで、車内に軽いざわめきが広がりました。しかし、場所がどこであろうとやることは変わりません。
クイズに答え、予選を突破することが僕達に課せられた課題なのです。
「皆様、お疲れ様でした。目的地に到着しました。お忘れもののないようにご注意してお降りください」
運転手さんのアナウンスに従い、荷物を持ってバスを降ります。降り立ったのは、広い駐車場でした。他にも数台のバスが停まっていて、僕達のように辺りを見回している人が多数見受けられます。
「こっ、ここはっ!」
「知っているのか、雷電!」
お約束のネタが耳に入ってきました。ここが何処だか知っているようです。
「かつて、独特な宣伝で海外の宣伝会社の耳目を集めたレジャーランド東京真夏ランドだっ!」
「皆さん、国内予選の登録を行います。こちらで参加証を提示して予選会場へ移動して下さい」
ハンドスピーカーの声に従い、手続きを済ませて移動します。園内に入ると、他の地方予選を勝ち抜いたと思われる人達がたむろしていました。
「おい、あれ・・・」
「ちょっと結婚前提に求婚してくるわ」
「馬鹿、あの娘は男の娘だぞ?」
「問題ない(キリッ)」
危ない目で見られているような気がしますが、それは今更でしょう。気にせずに指示された場所を目指して歩きます。
「カオル君、大人気ですね。俺も時折理性が負けそうになる時が・・・」
「男に言い寄られても嬉しくありません。カメラマンさん、お願いですから理性さんの強化をお願いします」
仕事柄好意を寄せられるのは有難いのですが、度が過ぎた好意はノーサンキューです。芸能界に入ったとはいえ、ストーカーには遭いたくないです。
施設内の広場に入ると、多数の早押し機が並んでいました。参加証に書かれた番号の席に座ると段々と席が埋まっていき、やがて全ての席が埋まりました。
「ニューヨークに行きたいかー!」
「「「「「おーっ!」」」」」
「罰ゲームは恐ろしくないかーっ!」
「「「「「「おーっ!」」」」」」
スピーカーから流れてきた朝霞さんの声に、僕ら出場者が声を揃えて応えます。全員が一つになったような連帯感は、癖になりそうな快感を感じさせました。
「これより、米国横断スーパークイズ国内予選を開催します。司会は私ことユーリと・・・」
「『何役やってもギャラは同じ』でお馴染みの、朝霞でお送りします」
司会の二人が現れると、盛大な拍手が参加者から贈られました。勿論、僕も全力で拍手をしましたよ。
「第一予選は早押しです。一問正解で勝ち抜きで、お手つき誤答は一回休みとなります。では第一問・・・」
正解すれば勝ち抜きという、シンプルな内容です。地方予選で振り落とされたとはいえ、まだかなりの人数が勝ち残っています。ここで時間をかけてはいられないのでしょう。
次々と問題が答えられ、勝ち抜いた人が席を離れます。問題の途中で回答され、最後まで問題が読まれる事はありません。僕は答える機会さえ得られずに勝ち抜いていく人達を見送るしかありませんでした。
「ては、次の問題です。鉛と錫のご・・・」
「おっと、ここで今話題の男の娘カオルちゃんが回答権を取りました。カオルちゃん、回答をどうぞ!」
早押しボタンを押すこと十数回、漸く回答権を得ることが出来ました。
「ハンダです」
「正解!鉛と錫の合金で、金属の接合に使用される金属の俗称は何か?というのが問題でした」
「カオルちゃん、一次予選を勝ち抜きました。実物は凶悪なまでに可愛いですね、お持ち帰りしたいです」
何と答えてよいかわからなかったので、深く一礼して席を立ちました。ユーリさんにお持ち帰りなんてされたら、掲示板の人達から怨みを買いまくりそえて怖いです。
「一次予選突破、おめでとうございます。二次予選は明日になりますので、ホテルでお休み下さい」
今日は東京真夏ランドに併設されたホテルに泊まれるようです。明日の二次予選、僕は突破出来るのでしょうか。