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閑話 とある局長の最後

「現場では、使えるタレントが不足しています。これでは番組の制作など出来ません。至急対処をお願いします!」


「それをやるのがお前らの仕事だろうが!とっとと行って対処しろ!」


 ここは一本テレビ内にある編成局長の部屋。数人のディレクターが編成局長に対して苦情を申し立てていた。


「局長が武蔵のタレント締め出しなんて馬鹿をやったから、仕事の少ない無名や新人しか出演してくれない。それでどうしろと言うのだ!」


「使うタレントの指示を出す権限は俺にある。それに従って番組を作るのがお前らだろう!言われた仕事も出来ない無能だと自白していると気付けよ!」


 似たような言い争いを延々と続ける両者。編成局長もディレクターも、引く気は全く無いようだ。

 流石の編成局長も、番組製作の現場を纏めるディレクターを纏めて飛ばしたら制作が立ち行かないと理解はしているようであった。


 そんなエンドレスで続きそうな言い争いを終わらせる使者は、唐突に部屋へと侵入した。


「誰だ、ノックもなしに無礼な・・・これは常務、お呼びいただければ伺いましたものを」


 怒鳴り合いにも怯まず、ドアを荒々しく開けて乱入したのは一本テレビの重役である常務取締役であった。それを確認した局長の手のひら返しの早さは、社畜ならば見倣うべき早さであった。


「局長、武蔵のタレントを除外した件についてなんだが、何故そんな事をしたのか説明してもらえないかな?」


「はっ、はい。カオルとかいうタレントに出演依頼をしたのですが、尊大な態度で断られました。その態度を注意すると暴言を吐いたため、武蔵の事務所に苦情を申し立てたのです。しかし事務所側が無視したので、武蔵のタレント全員を出入り禁止としました。不祥事が多発する昨今、更なる不祥事は防がねばなりませんから」


 一から十まで捏造して説明する局長。居合わせたディレクターには目線で余計な口を挟むなと脅しを入れたのであった。


「成る程ね。では局長、武蔵のタレント締め出しを解くつもりはないのかな?」


「武蔵側が謝罪と賠償を行い、カオルとかいうタレントの処分を行えば吝かではありません。けじめも付けずに許せば助長しますからな」


 局長の態度に眉を潜める常務取締役。しかし、それに編成局長は気付かなかった。


「そうか。実はかなりの数のスポンサーから、その件について抗議が寄せられている。それに対してはどう対処するつもりだ?」


「私の職掌は、番組製作の管理統括です。そういった用向きは経営陣たる方々の領分かと」


 基本的に編成局長の弁は間違えていない。しかし、今回の件は編成局長が元凶である。


「では、君を処罰して武蔵に謝罪と賠償を申し入れる。その上でスポンサー各社に説明を行うというのが妥当かな」


「ちょっ、ちょっと待って下さい。どうして私が処罰されるのですか!」


 自分が処罰されると言われ、慌てる編成局長。しかし、彼以外の人間はそれが当然というような顔をしていた。


「私が聞いた話では、局長が一方的に出演を命じたとなっているが?」


「そ、そんなデマを誰が!そうか、お前らだな!」


 立ち去らずに室内に残っていたディレクター達を睨む編成局長。しかし、それは冤罪というものである。


「それは全くのデマであります。スポンサーの方々には真実を話し、誤解を解いていただければ解決いたします」


「そうか、デマなのか。こういった物があるのだが、これは何なのだろうな」


 常務取締役がスマホで再生した音声データは、編成局長にとって覚えのあるやり取りであった。あの日、カオルを脅した時のやり取りだった。


「これも捏造だとでも言うのかな?君の処罰は勿論ながら、我々も君を放置した責を取らねばならぬだろう。君達、悪いがこいつを会議室に閉じ込めてくれないか。警官が来たら引き渡してくれたまえ」


「常務、警官とはどういう事ですか!」


 処罰と言われても社内でのものになると思っていた編成局長は、取り乱し机を叩いて聞きただした。


「君の行為は、立派な脅迫罪だ。こうして証拠もある以上、市民の義務として犯罪者を警察に引き渡すのは当然の義務だと思うのだが?」


 編成局長は叫び抵抗したが、三人がかりで取り押さえられ会議室へと連れられて行った。


 一本テレビから社内での脅迫行為を確認し、犯人を確保したと通報を受けた所轄警察は、すぐに警官を派遣し編成局長を逮捕した。


 一本テレビは緊急特番を組んでそれを隠さずに放送し、再発の防止に努めると誓いカオルと武蔵芸能に謝罪した。

 自浄能力が失われていない事を示した一本テレビは、すんでの所で破滅を免れたのであった。



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