僕、外出決定します
僕の脂肪落とし大作戦は見事に失敗しました。筋肉を付けるという過程は成功したものの、胸を小さくする事に失敗しただけではなく、形を良くして更に目立つようになるという逆効果な結果に。
「薫ちゃん、これはきちんとしたブラを買う必要があるわよ」
「どうしても駄目かなぁ」
体型がこうなったといえ、女性の下着を付けるというのには抵抗があります。
「その顔でその胸よ、注目されない筈がないわ。それでノーブラなんて、血に飢えた狼の前に極上の生肉を差し出すようなものよ」
お母さんの言うこともわかります。そう遠くない時に外に出ようと思っているので、買わない訳にはいかないでしょう。
「ならばネット通販で買おう」
家に居ながらにしてあらゆる物を買えるネット通販、女性用下着もあるはずです。探した事はないけどね。
「あら、ダメよ。薫ちゃんの胸のサイズを計らないといけないんだから、専門店に行く必要があるわ」
「合わない下着だと下着の跡がついたり、苦しくなったりするのよ」
お母さんと穂香の反対により、通販は却下されました。でも、サイズが分かれば問題はないはずです。
「それじゃあ、お母さんに計って貰って通販で買えば……」
「素人が計ってもきちんと計れないわ。こういうのは、プロに任せるのが一番なのよ」
ブラを着けたことがない僕が、いつも使用している二人に言い負けるのは自明の理。専門店に買いに行くことになりました。
「平日の昼間なら人も少ないだろう。他にも揃えた方が良いから、ショッピングモールに行こう。有給はまだまだあるから大丈夫だ」
「じゃあ私も学校休む!」
お父さんが引きこもっていた僕を気遣って、平日の昼間に行くことを決めました。穂香は学校があるから三人で、と思ったら穂香は休むと言い出しました。
「では、家族全員でお出かけしようか」
「楽しみね。明後日なら仕事も少ないし、明日で仕事を片付けましょう」
両親は、穂香のずる休み宣言を咎めるどころかあっさりと認めました。
「三年引きこもった僕が言うのもなんだけど、ズル休みを認めて良いの?」
「学校の勉強なんて、役に立たない物が多いからな。目くじら立てる必要ないだろ。」
「僕もその意見には賛成だけど、一応建前だけでも否定しないと!」
不登校の僕がそれを言うのは、天に唾吐く行為だとの自覚はあります。それでも突っ込まずにはいられませんでした。
「一日だけだし、穂香ちゃん成績優秀だしね。お姉ちゃん大好きな穂香ちゃんが、一緒の買い物を行けないのは可哀想だわ」
「お母さんもお姉ちゃん呼び定着ですか。まあ、その方が違和感ないと言われたら反論出来ないし……」
穂香に続き、お母さんまで僕をお姉ちゃん呼びし始めました。強く拒否したら止めてくれると分かっているのですが、外でお兄ちゃんと呼ばれたら奇異の目で見られると気付き黙認することにしました。
「お姉ちゃんには、どんな下着が似合うかしら。フリル付きとか良さそう!」
「シルクの下着に身を包んだ薫ちゃん……想像しただけで涎が」
穂香とお母さんが、危ない妄想に浸ってる!二人とも、こんな性格だったっけ?
「お母さん、シルクなんて高い物は止めてね。手入れも大変なんだから!穂香、派手な下着とか絶対に着ないからな!」
釘を刺して置かないと、当日大変なことになりそうです。
「お姉ちゃん、なんでシルクの下着のお手入れなんて知っているの?興味あるのね!」
「違うって。布地の歴史に興味を持ったから、素材に関しても調べた事があるんだよ」
何でも簡単に調べられるインターネット、本当に便利です。
「それなら、シルクの下着を着たときの注意点も知ってるのね。嬉しい誤算だわ」
「やぶ蛇だった!化繊か木綿で十分だからね!」
両親が大企業の重役な為、高価な素材の下着だろうと買えるだけの財力がうちにはあります。なんとしても普通の物にさせなければ。
そうして二日後、僕は三年ぶりに家の外に出かけるのでした。