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8話 ギルドでの対話

 保存食の補充ということでヘレナに連れていかれたのは色々な屋台が立ち並んでいる区画だった。

 そこかしこから美味しそうな匂いがして、ついついそれによっていこうとしたらヘレナに引っ張られて先を急がされた。なんでも午後には遺跡に向かいたいかららしい。


 また、ヘレナは干し肉と魔石をいくつか買っていた。それとレムスも買っていた。わたしのご機嫌とり用だろう。あのどろっとしてほのかに甘くて、地味に好きなものだからよしとする。



「コレでいいですかね、あとは……」



 ヘレナは一息ついて、沈んだ顔をする。

 買い物はコレで終わりなの? 宿から出てそんなに時間が経っていない。午後になるまでまだかなり時間があるのだけど……。



「ねぇ! なら食べ歩こうよ!」

「ごめんなさい……これからギルドに行かないといけないのです」



 嬉々として言ったわたしに、心底面倒臭そうな声のヘレナ。

 そういえばとわたしは昨日ギルドに入った時、ヘレナが受け付けのエルフと揉めていたのを思い出した。

 多分その話の続きなんだろうけど、なんでわたしもそれに参加しないといけないのかな?


 そう思っていたことが顔に出ていたんだろう、ヘレナが申し訳なさそうに言う。



「あなたの話も必要がありそうですので……」

「えぇ……めんどっちいなー」

「向かう途中にある屋台には寄っていいですから……空いているところだけですが……」



 しょうがないな、とわたしは肩を竦め答える。

 ここで駄々をこねているよりも、さっさと終わらせた方がいいと思ったからだ。

 なんでもかんでも駄々をこねればいいってものじゃないからね。うふふん、わたしだってそんなことくらいわかるのよん。


 途中途中にある空いている屋台で色々と買い物をし、しばらくしてギルドについた。

 前に来た時も思ったけどここは他に比べて建物が大きい。それだけ重要な施設なのか、それともそれだけの稼ぎがあるのか……。

 そんなことを思いながらヘレナの後に続き、開かれた扉の先へと足を進める。



「うっわ……ちょっと人多すぎない……これ。昨日と段違いだよ……」



 昨日は飲み食いしている人種たちがポツポツ、エルフのいた受付に並んでいる人がそこそこいた感じだった。

 しかし今日は食事をしているのはあまりいないないが、受付に並んでいるもの、並ぼうとしているものでギルド一階はてんやわんやだった。


 ヘレナがあんなに気落ちしていた理由が今ならわかる。


 やかましくて仕方ないのだ。それに人が多いことで熱気もすごく、朝からこんな所にいたいと思わない。これじゃあ落ち着いて食事も取れやしないよ。


 わたしがギルドの喧騒にうへぇーとしていると、同じような顔をしたヘレナが急ぐように言う。



「二階に行きましょう。私たちの目的はそちらにありますので」

「わ、わかった……」



 ヘレナは人種の合間合間を縫って、二階に続き階段に向かって行く。わたしもそれに続いて……とそんなことをするわけがなく、気配を消しその場で高く飛び上がり、天井を蹴って階段の正面に降り立った。


 わざわざ狭苦しい所に行きたくないから仕方ないよね。だってくさそうなおっさんがいるんだもん、近寄りたくないよ。



「や、やっと着きました……って、貴女はもうついていたのですね。流石です」



 ヘレナはわたしが整えてあげた髪をボサボサにしていた。髪が短いからボサボサでも一応様にはなっているが……直しといてあげよう。

 ヘレナに魔法をかけ、先に行こう、と言ってわたしはヘレナに先を歩くように階段を指差す。



「そうですね……」



 ヘレナはトボトボと階段を上って行く。わたしもそれに続き、話が終わる頃までには一階も落ち着いていたらいいのに、とそう思うのであった。



 ***



 二階の様子は一階と違ってとても静かな雰囲気であった。と言っても下から騒がしさが伝わってくるのだが……。

 内装は一階とそう変わりはない。一階の受付があった場所に同じような受付があり、食堂があった場所は個室になっているようだ。

 違う点はまだいくつかあるけど、一番の違いは人種の少なさだ。数組のグループがいるだけで、彼らは掲示板を見ている。


 ヘレナはそんな二階の様子を気にすることなく、受付の方に歩いて行った。



「ヘレナ・カーコフです。話は通っているはずですね」

「はい、お聞きしています。では案内をつけます」



 そう男のヒューマンが言うと、受付に続く扉から女のヒューマンが出てくる。

 こちらです、とヒューマンのいく先をわたしとヘレナは黙ってついていく。わたしは特に聞きたいことはない。あと、ヘレナはなんだか不機嫌だ。


 上ってきた階段の向かいにある階段を登り、三階へ。


 ギルドの三階はどうやら個室しかないようだ。三階についた私たちを案内係は一つの部屋に通し、少しお待ちくださいと言って帰って行った。


 わたしはとりあえず奥にある方の長椅子に座り、ヘレナにレムスを出してもらいそれをこねこねして、棒にとってぺろぺろ舐めて暇を潰していた。


 しかし――



「遅い!」



 少し、そう言われて退屈なのを我慢して待っていたわけだけど、レムスを一箱食べ尽くしてしまった。そのことでどれだけ時間が経ったのか……わたしにははっきりと分かってしまう。レムス一箱……手の平サイズだけど、中身はそこそこ多いのだ。


 もう待てない! と怒りを表し、それをヘレナと見も知らない待たせている者にぶつける。



「なんでこんなに待たされないといけないの! そもそもなんでヘレナはこんなとこに来たの!」



 わたしの態度に気圧され、ヘレナはそっと口を開く。



「それは――」

「それは護衛以来の件に関しての抗議ためだ。待たせちまったな。すまんすまん」



 ヘレナの言葉を遮り、反省をちっともしていないような、軽く見ているような声で言う男のヒューマンが扉を開けてそこに立っていた。



「本来はこっち側が来客用なんだが……まぁあんたは貴族様だからな。……そっちの嬢ちゃんは知らんが」



 わははとわざとらしく笑い、頭を書きながら扉側の長椅子にどかっと座る。


 わたしは細目になっていたことにヒューマンが座ってから気づき、しかしそのまま目を閉じる。

 さほど興味が無くなったと言うのもあるが、ただ何となくどういう話なのか分かってしまい、呆れてしまったからだ。


 大男はわたしの存在を気にする様子もなく、ヘレナに対し威圧するような声で話し出す。



「護衛依頼の違約金、とのことだそうだが……こちらは達成されたものだと処理されている。よって、違約金云々はない」

「で、ですからそのようなことはあり得ません! 彼らは私を置いて逃げて行きました!」



 ヘレナはちょっと声が上ずってはいるけど、しっかりと答えている。



「それに! 私は依頼達成書にサインしていません!」

「そうは言ってもだな、こっちはあんたのサインが入ったものを貰ってるんだ。貴族様の言いがかりにしか聞こえねぇ。それに傷一つありゃしねぇじゃないか」



 そう言ってヒューマンは上から下へとヘレナの体を見る。たしかにわたしが治したから傷一つあるわけがない。

 それはそうと、このヒューマンは服の上から見て体に傷があるかどうか分かるのかな? それはただの変態じゃないのかな?


 うふふん。わたしはわかるけどね!


 ヘレナは両手をバン! と机についてヒューマンに言い返す。しかし顔はまだ下を向いている。



「それはアリシアに助けてもらったからです。傷もそのときに治してもらいました。彼女がいなかったらわたしはここにいません!」

「ほぅ、この嬢ちゃんが、か? ……く、くっははは! それは大層な冗談だ! 貴族様はシャレにも通じてるってな!」

「な! し、失礼ですよ⁉︎」



 ほぅ、ヘレナよ。それはどちらに対しての言葉なのかな? わたしに対して? それとも自分? ま、どっちでもいいんだけどね。見た目で侮ってると、すぐにバカを見ることになるからね。というか、ヘレナって一応貴族だよね? こんなことを言って大丈夫なのかな、このヒューマンは……。まぁそれもどっちでもいいや。


 わたしは閉じていた目を開き、ヒューマンを見る。

 たしかに鍛えているのだろう。筋肉がそこそこ付いているのが分かるし、魔力も人種にしてはある方だ。魔力の流れからして戦い慣れているのも、まぁわかる。『人種にしては』だけどね。

 下級の魔族数体とならまともな戦闘になるだろうけど、中級となると厳しいものがある。いくらスキルがあるからと言っても、上級魔族には手も足も出ないだろうね。


 わたしはヘレナにそっと声をかける。



「所詮はその程度ってね。ヘレナ、落ち着きなさい。いちいちこんなのに反応してどうする。貴族なら貴族らしくどっと構えていなさい」

「ア、アリシア……?」

「な、な! 貴様!」



 口調も雰囲気も違ったわたしに、ヘレナは驚き戸惑っている。

 またヒューマンは何故か顔を真っ赤にし、鼻息を荒くしながら立ち上がった。


 このヒューマンは何なのだろうか。これじゃあ一階とそう変わらなくなってしまいそうだよ……。

 わたしはそうなってほしくないため、さっさとこの話を終わらせることにした。



「そこのヒューマン、護衛依頼は確かに達成されていなかったよ。わたしがヘレナと会ったとき、ヘレナは石のオオカミ数体に追われていたからね」



 淡々とヒューマンにわかりやすいように説明する。

 だが男は納得しなかったようだ。



「だから、それはお前らが口裏合わせて言ってるだけだろ! そこの貧乏貴族が嘘を言ってるだけだ!」



 男はそう言ってヘレナを指差して睨む。

 はぁ……ヘレナの懐事情を何で民間にまで知られているんだろ……。みんなにケチって思われてるんだ……ヘレナってかわいそうだね。



「確かにヘレナはケチだけど――」

「アリシア⁉︎」

「うるさい黙ってて。……ヘレナはケチだけど、そんなことをするほどアホじゃないよ」

「そんなのわからねぇだろ! こっちは達成書は提出されてんだ!」



 だから言いがかりにも程があるって? そもそもの話、ギルドのルールは甘いにも程があるんじゃないかな。わたしは今聞いたことしか規約は知らない。だけど、それだけでも抜け道が見えてしまう。


 ならそこを突いたらヘレナの勝利で終わるね。



「ねぇヒューマン。ヘレナの護衛をしたっていう人種たち、ここに連れてきて?」

「あぁ? あいつらはもうこの街にはいねぇよ。西に向かうつって昨日のうちに出てった」

「はぁ」



 なんというか……人種ってここまでバカだったっけ? いやこいつだけかな? この男は目の前のことしか見えないのだろう。それに貴族嫌いなところがあるから尚更見えなくなっているのかな?


 仕方がないと肩を竦め、わたしはヘレナの方に近寄っていき片手で頭をガシッと掴む。



「ア、アリシア⁉︎ 何ですか⁉︎」

「ヘレナを護衛してたやつらの事を思い浮かべてくれる? ……早く」



 ヘレナはさっきからわたしの名前しか呼んでいない気がする。まぁいいか。

 わたしはヘレナの頭の中を覗き、護衛をしていた者たちを知った。そうなれば早い。わたしはその者たちをこの場に転移させる。



「は?」

「んだよここ⁉︎」

「な、何が起こった⁉︎」



 わたしが転移させてきたのは三人のヒューマンだ。人種の中では若い方に入るかな。



「ア、アリシア……。あ、貴女は何をしたんですか⁉︎」

「どこから現れた⁉︎」



 やはりというか……ヘレナと男の顔は驚きに満ちている。

 わたしがしたのは簡単なことだ。ヘレナから三人組の情報を知り、あとは異空間で探し物を見つけるときの応用だ。たった二工程の作業だね。


 わたしはこれでひと段落した、と対して疲れてないけどこれ以上はめんどくさいのでヘレナと怒鳴っていた男に任せることにして一階に行こう。



「あとはよろしく〜。ヘレナ頑張ってね。まぁ無理だったら一階に来てよ。白状させるくらい簡単にできるからね。でもギリギリまで粘ってね? 貴族なら誇りを持たないとね」

「え、えぇ……」



 わたしは戸惑っている連中を部屋の中に残し、ご飯を食べに一階へ行く。

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