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79話 夢見た光景

『幸』を得た後には『不幸』が来てしまうように、『忙しい』の後には『暇』がなくちゃいけないと思う。

 この理不尽に包まれた世界でも――『不幸』しか訪れないような人生であっても……。それでも頑張った成果として休みくらいは欲しいもんだ。


 いいじゃないか、今は平和なんだし、戦争の予兆もない。経済は……まぁなんとかなる範囲だ。街も賑わっているし、王国との関係も良好らしい。


 みんながみんな、とは行かずとも、ほとんどの人が毎日楽しそうにしている。

 朝には活気のある声がそこらから聞こえ、キレリア王国に来た観光客も楽しそうにしている。

 夜にちらっと酒場に赴けば、農家のおじさんや鍛冶屋のおっさんが酒瓶を交わしていた。


 確かに規模とか質とかの話をするのなら別だけど、始まったばっかりなんだしこれでいいと思う。

 思うんだけど、別にわたしが働かなくちゃいけない理由にはならないはずだよ。



「アリシア‼︎ 聞いているんですか‼︎」

「あ〜はいはい、聞いてますよ〜」

「絶対に聞いていないじゃないですか‼︎」



 パーチク騒いでいるのは、この国の王様であるはずのヘレナだ。王になったんだし、落ち着きってのを身につけてもらいたい。


 今わたしはキレリア王国の王城の一室に招かれている。そう、招かれているのだ。

 一昨日くらいにルミエ経由でヘレナから手紙が届き、今日この日に会いたいと言う旨が記されていた。



「もう。魔族と上手く付き合えるかの分水嶺なんですよ?」

「なんでわたしなのさ……。てか、わたしにこう言うことを任せると、大抵ろくなことにならないよ? カレンとかに任せたらいいじゃん……」

「そう言うわけにはいけませんよ。アリシアも王様なんですし、しっかりしてください」



 わがままな子どもに言い聞かせるようにヘレナは言う。

 ヘレナにこうして呼ばれた理由としては、魔族がこの国にいる際に適用される法を決めるためだ。


 わたしとしては手紙を見た瞬間にカレンに丸投げしようとした。実際したし。

 でも、カレンはわたしをここに来させた。ヘレナ直々の指名ということと、ずっとぐーたれていたわたしを見兼ねて……みたいなところだろうか。



「ねぇ〜カレン〜。あとは任せてもいいよね〜? いやさ、ここまで出て来たんだし、引きこもりは抜け出したよ?」



 わたしは振り返り、付き添いとして強制連行して来たカレンに声をかける。

 しかし返ってきたのは無慈悲なものだった。



「ダメですよ。アリシア様が唯一出来そうなお仕事です。この際ですので働いて下さい」

「うへぇ……。いいじゃん、わたし結構働いたじゃん……。トーヤを除いてだけど、勇者全員返したし、ヘレナの戴冠式だってやったじゃん」



 あんなでも結構疲れたのだ。いや、肉体的には疲れてないけどさ。

 今までヘレナと旅をしてきて何を、と言われるが、『したいこと』と『しなくちゃならないこと』ってのには大きな違いがある。

 気の向くまま何かをするのは楽しい。でも強制されて何かをするのはめんどくさい、そして疲れる。


 あの旅の中では色々あったけど、それらはわたしの自由意志で関わってきたことだ。なにせ、本当に嫌と思ったのなら転移で帰ればよかったからだ。


 マイはともかく、その他の38人の勇者を元の世界に返す義理はなかった。この世界の害となるのなら、殺してしまう方が手っ取り早い。

 それでもわたしはヘレナとあのアホの願いで、その手段を変えた。


 戴冠式だってそうだ。別にわたしがつとめる必要はなかった。通例に倣って、神官長とか呼んだら良かったのだ。

 でもヘリックの頼みがあり、ヘレナの晴れ舞台ということもあってわたしが行った。



「てか、そっちが一方的に決めといても良かったんだよ? そっちの法なんだし。普通、魔族側のわたしに決めさせる? 立場とかは置いておくとして、ヘレナってわたしに逆らえないじゃん? 力関係的に。だから一方的に魔族が有利な条件を出すかもよ?」



 まぁしかし、嫌々ながらでも来てしまったからには仕方がない。

 わたしは少し真剣に聞いてみる。


 ヘレナは曖昧な笑みを浮かべて頰をかく。



「えっと、まぁそうなんですけどね。でもアリシアってそんなことしないですよね。したとしても『アリシアは飲食無料にしろ』みたいなことなんじゃないですか?」

「おい! 流石にそれはわたしに失礼だよ! てか、お金なんて腐るほどあるんだから、そんなんでケチらないよ!」



 ヘレナの中のわたしはどうなってるさ!

 旅の中でも、わたしは誰かにたかった姿なんて見せていない。そもそもとして、金銭感覚が曖昧なわたしはいつも過剰に代金を支払っていた気がする。


 そんなやりとりを見ていたカレンはそっと口を挟んでくる。



「アリシア様。いつまでも言い合っていても埒が明きませんよ」

「うぅ……。分かってはいるよ……いるんだけど」

「ほら、ここはアリシア様の年の功を見せて下さいよ。ね?」

「…………。はぁ、分かったよ。ちょっと考えるから待っていてね」



 カレンに乗せられた感はあるが、こっちが大人になってやろう。

 ヘレナにそう言葉を残し、思考の海に潜る。横でカレンがお茶を入れてくれる。大変よくできた子だ。


 さて、必要なのは人種と魔族が『対等』なことだ。というか、それ以外は重要じゃないとまで言える。

 人が争い合うのは『不平さ』が一番の理由だからだ。仲良くするって言っているのに、その前提から間違うわけにはいかない。


 例えばの話をしよう。

 あるところに二つの国にがあった。

 あの国は裕福。対して自分たちの国は貧困……。


『貧困な国』に住む者たちは『裕福な国』に対して思う。


 ――幸せそうで羨ましい。

 ――何にも困っていなさそうで妬ましい。

 ――なんで自分たちはああじゃないんだ。


 もちろんその『裕福な国』にはなんの責任もない。あるとするのならば、その『貧困な国』に援助していないことだろう。


 だから『貧困な国』は『裕福な国』に戦争を仕掛けてしまう。


 ――裕福なんだから分けてくれてもいいじゃないか。

 ――こっちはこんなにも困っているんだから、手を差し伸べてくれてもいいじゃないか



 誰しもが『幸せ』を手放したくない。得てしまってから……知ってしまってからは……。

 もし『裕福な国』が『貧困な国』に援助をしたとしよう。そうすれば片方の国の生活基準は下がり、もう片方のは上がるだろう。


 ここで問題になるのが、生活基準が下がった国だ。

『裕福な国』はこう思うだろう。


 ――あいつらのせいで。


『貧困な国』に援助をしなければ、自分たちは今までの生活を続けてこられた。

 貧困しているのはあちらの責任であり、自分たちに非はない。


 ――だったらあの国を滅ぼせば元に戻るんじゃないか?

 ――いっそのこと支配して、そして搾取すればもっと。


 そうして戦争が起こってしまう。

 そこまで燃え広がらないにしても、暴力事件は多発するだろう。もちろん『裕福な国』の者たちが『貧困な国』の者たちに対する、だ。



『不平さ』とはこう言ったことが起こり得る。

 例に挙げた通りに『財政』というのも争いの種だ。

 そして『立場』というのも、その種たり得るのだ。


 もしこの国において『人種』が『魔族』よりも『立場』が高ければ、『人種』は『魔族』を虐げるだろう。

 その逆であるのなら、『人種』はそんな法を認めたヘレナに『不平』を並べるであろう。


 しかし、不思議なことに、上の二つのどちらであっても辿る道は同じなのだ。

 過程の違い。ただそれだけであり、そしてその結果はヘレナの夢が破れるってことだ。


『対等』じゃないのはどちらにも不満をもたらす。『みんな』が笑えるようにするのなら、()()だけをしっかりと考えればいい。


 そうしてわたしはじっくりと考える。

 カレンには申し訳ないが、お茶が冷めてしまっている。


 わたしが言うのもなんだけど、魔族ってのは危険だ。もちろん人種にとって、なんだけどね。

 人種の安全、そして補償を考えれば非常に重い枷をつけなくてはならない。

 でも、そんなことしたら魔族はこの国に立ち寄らないだろう。

 それに、魔族のみんなは人種と関わることを楽しみにしている節がある。

 少し前に城下町に住む魔族の話を盗み聞きしてみると、遊びに行ってみたい。みたいな会話が聞こえてきた。


 思えば、わたしは彼らには人種との接触を禁止している。以前のわたしを見せつけられそうな気がして……。

 だから彼らは話でしか知らない『人種』に、ある種の『憧れ』を持っている。


『未知』というのは怖いものだ。しかしして、それ以上に興味をそそられるものがあるのだ。

 それを人一倍わたしは知っている。

 だからあの子たちには身軽な身体で楽しんでもらいたいのだ。



 考えに考えた結果。わたしはこんな答えを出すしかできなかった。


 わたしは静かに口を開く。それをヘレナは固唾を呑んで見ている。



「そうだね……。出来れば、まぁわたしの希望とすれば――人種と同じ法をお願いしたいね」

「え? えっと、それって……」

「まぁ分かるよ」



 ヘレナは戸惑ったような声をあげ、わたしはつい苦笑してしまう。


 魔族は危険。


 それはヘレナも重々承知していること。彼女は魔族を他の人たちよりも知っているのだろう。わたしやカレンたちと接しているのだから、大体のことも理解しているはずだ。

 それでも、いくらわたしが治めている国に住む魔族たちだからと言って、心から安心することが出来ないのだ。


 それは自分が王になって国を眺めた結果だからだ。

 やはり、人は人それぞれなのだ。怠ける者もいれば、犯罪に手を出す者もいる。

 この平和で幸せな国であっても、盗賊騒ぎはあるのだ。


 魔族はその『特殊さ』を除けば、人種に酷似している。

 だから犯罪を犯す者が出てくるだろう。

 そして魔族の犯罪者を取り押さえるのには、些か人種の警備兵だけでは厳しいものがある。

 ヘレナかトーヤら一行くらいしか、傷を負わずに取り押さえられることが出来ないだろう。



「もちろんわたしの方から警備隊を出すよ。まぁ魔族専門で、人種にはあんまし効果はないんだけどね」

「そ、そうですか……。その、どう言えばいいのか分からないんですけど」



 ヘレナはそこで少し言い淀み、しかしなんとか先を続ける。



「色々考えた結果なんですよね?」

「そだね。魔族を縛るのも考えはしたんだけどさ。まぁなんだ。わたしも色々考えたのさ」



 そしてヘレナは考える素振りを見せ、チラッと後ろに控えているガインに視線をやる。

 目を合わせた二人は視線でなにかを交わし合うと、コクっと頷く。


 そこまですると、方針が決まったのかヘレナはわたしの方に向き直り、真っ直ぐに見つめて口を開く。



「分かりました。ではそのように進めることにします」

「……そう」

「あと、その警備隊っていつ頃来ることが出来ますか?」

「ん? あぁそれね。えっと、この城? の前に広場があったよね。あそこに出すよ」



 早い方がいいだろうし、今から行こう。そうヘレナに告げる。

 ヘレナはそれに逡巡するも、後の書類仕事はガインに任せることにしたようだ。

 ガイン一人に押し付けてもいいのだが、カレンも残していってあげよう。別にわたしだけが忙しいのが不満なんじゃないよ?


 そうしてわたしたちは王城 (仮)前の広場に出てきた。

 一国の王がうろちょろしていいの? という当然の疑問はあるだろうが、ヘレナは時々遊び歩いているので問題ない。てか、この国にこの子を害せる者がいない。


 人が少しいるくらいなので、邪魔にならないようなところでわたしは腕を一振りする。



「? えっと、これが警備兵ですか?」

「そだよ、可愛いしいいでしょ? いかつければいいってもんじゃないし」

「まぁそうですけど……」



 わたしたちの目の前にはたくさんの警備兵がいる。

 4本の足で地をしっかりと踏みしめ、口から覗く歯は鋭く尖っているように見えなくもない。

 くりっとしたお目目はキュートだ。

 左右に揺れる尻尾はきっとこいつらのチャームポイント。

 クロ、シロ、グレー、トラ、ミケ。いっぱい柄があるのもプリチーだ。


 そんな愛くるしい生物を見てヘレナが一言。



「どこからどう見てもノラ猫の類ですよね⁉︎」

「だね」

「ね、猫に警備なんて出来るんですか⁉︎」



 失礼な。この猫たちはそれはもう高性能なのだ。

 まず見た目からしていいじゃないか。人種の警備兵はむさ苦しいし、汗臭い。

 打って変わってこの子たちは見ていて癒される。小さいし威圧感を与えない。それに街の人たちから好かれること間違いなしだろう。


 まぁでも勘違いをしているヘレナを安心させてあげよう。



「この猫たちはいわゆるゴーレムってやつだよ。動力原である魔力は周囲から集めることでまかなえる。それにわたしのお手製だから魔族の対してはめっぽう強い。まぁ人種を取り締まるように命令していないから、魔族に対してしか効果はないけどね」

「ゴ、ゴーレム……。わたしも文字魔法で作れはしますが……。やっぱアリシアは規格外ですね」

「当たり前じゃん! てか、その文字魔法のオリジナルはわたしだっての!」



 ヘレナに再認識させるためにカレンをつけてやろうかな?


 と、今はそんなことを置いておいて、このにゃんこどもに街をうろちょろしろと命令を下す。

 それだけで100匹近くいた猫たちは散開していき、いそいそと路地に入っていく。


 そんな習性をつけた覚えはないんだけど……本能ってやつかな? いや、本質的にはゴーレムのはずなんだけどさ。

 まぁでもあいつらは探知魔法を常時使っているし、犯罪行為を見逃すことはないだろう。


 ヘレナが去っていく猫たちを見ながら呆れているのを横目に、なんだか街の方が騒がしいことに気がついた。



「あれ? 今日あっちの方でなにかやってんの?」

「え? あぁ、わたしの戴冠式のお祝いとして祭りを開いているらしいですよ? 行ってみますか」

「ホント人種って祭り好きだよね。旅で訪れた街もほとんど祭りとかで騒いでなかったっけ?」

「あはは〜。ま、まぁ平和なんですからいいじゃないですか。それに活気があるのはとっても嬉しいことです」



 平和。確かにな。今までが今までで。終戦記念日。魔王の退治記念。王の戴冠記念。

 人種が騒ぎたくなるのもるよ。


 さて、じゃあ久しぶりの『人種』の街で食べ歩くとしよう! ここがこの子の国ってだけでもう嬉しいんだけどね。

 今日くらいは、まぁ今までの感謝も込めてヘレナはわたしに奢るべきだよね!


 よし行こう! そううきうきるんるんのわたしに後ろからそっと声がかけられる。



「楽しそうですね」

「うふふん。そりゃあ楽しいよ!」



 でもまだまだ始まったばかり。山を一つ登っただけ。

 これからもずっと――この道は続いている。


 だからヘレナはグッとこぶしを作り、街の方を見据える。



「わたし、がんばりますから」

「うん。頑張ってわたしを失望させないようにね。そういう約束だったからね〜」

「ですね。じゃあ行きましょうか」



 わたしたちはそうして新しい街の中を行く。

 人々の笑顔が溢れ、活気のある声がそこらから聞こえてくる。


 夢見た光景。それにはまだ遠いけれど……。それでも、これはわたしやあいつが見たかったもの。

 だからわたしは目一杯楽しもう。仕事で目を回しているあのアホの代わりにね。

えっと、一応これにて最終話となります。


ここに書くと長すぎるなーと思ったので、次話にあとがきを載せます。

そこまで長くはないので、ふらっと立ち寄ってくれれば嬉しいです。

やっぱり、感謝の気持ちってしっかり伝えた方がいいですよね。

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