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7話 魔道具を探すのは大変

 宿のご飯は美味しい。量がちょっと少ないのが残念だけど、食べすぎると他の人に迷惑になる、そうヘレナに言われてしまったので我慢だ。出禁になってしまうらしいからね……。


 ヘレナよりも先に起きたわたしは一階に下りて女将に軽めのものを持ってくるように言って適当な席に着く。

 ご飯がくるまでの暇つぶしがてら、他の席についている者を片肘をついて眺める。



「剣に弓、盾、槍……質は全然だし、手入れもあまりされていない……」



 きっと彼らは『冒険者』なんだろうね。まぁわたしもだが。

 あんな武器を使っている以上、すぐに冒険者を辞めることになるだろうね。ついでに人生も、ってね。

 耳を澄まして話を聞くと、やれ何を討伐しただの、やれもうすぐランクが上がるだの……若者のたちはそれぞれが武勇伝を語り合っている。

 朝から何を言っているんだろうね、自慢話よりも先にすることがあるだろうに……ご飯が冷める! 口に物を入れて話すな! もうこれだから……。


 どうでもいいような事をつらつらと考えていると、昨日の少女がお盆に料理を乗せて運んで来るのが見えた。



「おまちどう! です」



 その口調は女将の真似かな?微笑ましくながめつつ、少女はスッスッとお皿を並べていく。



「ごゆっくりどうぞ」



 そういうと少女は奥に戻って行く。

 さて、朝のご飯は何かな?お腹が空いたのを我慢しながら机の上に並べられた料理を見てみる。



「昨日もあったパンと何かのスープと、野菜を盛り付けたものだね」



 野菜には酸味のあるソースがかかっている。うん、朝にはちょうどいいね、目が覚める。スープは……よく分からない。まぁ美味しいとは思うけど、何にか物足らない。パンについては……特に言うことはないね。



「うーん……」



 気づくと、お皿が空っぽになっていた。


 いつのまに? まだ食べ足りないんだけどな……。わたしは気付いた時には大きな声で先の少女を呼び寄せ――



「肉持ってきて! 肉!」



 そう言っていた。その時の少女と周りの男たちの顔は驚愕に満ちていた。朝っぱらに突然大声を出されて男たちは不満なのだろうね。でも関係ない、お前らも聞きたくない武勇伝を語っていただろ?

 わたしは気にすることもなく料理を待っていると、誰かが入り口近くの階段を降りて来る音が聞こえた。

 そして、その音の主は髪を手櫛で整えながらわたしに近づいてきた。



「おはようございます。早いですね」

「まぁね」

「まだ食べてないんですか……意外です」



 失礼なだなぁ。まぁもう軽く食べちゃったけど、二杯目はまだだしいいよね?


 そう言うヘレナは髪の毛が気になっている様子で、そわそわと整えていた。仕方ないなぁと思いつつ、わたしはヘレナに向かって手を向ける。



「じっとしてなさい。……はい完了。ヘレナも早く何か頼んだら?」

「え? な、何これ……」



 ヘレナは何が起こったのかわかってない様子だ。いや、何が起こったのかは分かるが、『何故』かが分からないんだろうね。

 わたしは何も変わったことはしていない、魔法でヘレナの髪を整えてあげただけだ。それと、手入れを怠っていたのか結構傷んでいたのがついでに直ってしまった。ただそれだけ。

 スキルだよスキル、と言って落ち着かせ、わたしが頼んだ肉が来た時にヘレナに料理を注文させた。



 そして、ヘレナはしばらく呆然としていたが料理が来て落ち着いたんだろう。スープを一口飲み、視線をこちらに向けた。



「髪を整える? 傷みを直す? とにかくそんなスキルがあるなんて……専門でこそありませんが、きっと貴女が初ですよ……」

「そう? まぁ踏破の報酬だからね。珍しいのは当たり前じゃないかな? ありえなく強いスキルも、さっきみたいな便利なのも……まぁ持っているんだよ」



 そう言うわたしを、ヘレナはまるで幽霊にあった時のような顔をして見つめていた。


 いつもいつも、これはダンジョン踏破の報酬だよ、と言うのはめんどくさい。

 だけどこうして言う事でわたしの使う『ありえない』『珍しい』ものは、全部スキルなんだな、それはダンジョン踏破の報酬なんだな、って勝手に思ってくれるだろう。……と都合よく行ってくれたらいいなぁ。

 まぁ、ヘレナはアホの子だし大丈夫だろうね。

 実際に、目の前のパンを千切って口に放り込んでいる彼女は、そう言うことで納得してしまったようだ。



「アリシア……変なこと考えていませんか」



 そう言って目を細め、わたしを見つめて来る。

 やっぱりこのヒューマン心読めるんじゃないの?


 恐々としつつ、わたしは手を振り答える。



「ないない」

「それならいいのですけれど……」



 ヘレナは、話は変わりますけれどと言って続ける。



「あの遺跡に行きたいと思いますので、午前はその買い出しをしますよ」

「えぇー、またあそこに行きたいの? 物好きだねぇ……。って! また野宿するの⁉︎」



 考えられない! とわたしはヘレナに詰め寄る。



「えぇそうですね……野宿になります……。で、ですが! 護衛して、くれます……よね……?」



 そう言うセレナはだんだんと弱々しくなっていく。


 野宿なんて勘弁だけど、護衛を途中放棄するのも嫌だ。だって一度受けた依頼を、野宿が嫌だって理由で放棄しただなんて……わたしを慕ってくれてるみんなに呆れられてしまうかもしれない……! そんなことはありえないと分かっているけど、きっと酒のアテとして笑い話にされそうだ。


 そんなわたしのプライドが邪魔して、ヘレナに当たり前だよ! と答えていた……。

 そして、それを聞いたヘレナは嬉しそうに微笑む。



「それを聞いて安心しました。では朝食の後、荷物をまとめてから市場に出ましょうか」

「分かったよ……とほほ」



 うな垂れるわたしと、気分が良さそうなヘレナ。

 やっぱり安請け合いしたのはマズかったかな? と今更思うのであった。



 ***



 二階の部屋に戻ったわたしたちは荷物をまとめていた。



「アレシア、その機械をこの袋に入れてもらえますか」

「分かったー」



 退屈だと伝わるように、出来るだけめんどくさそうに言う。

 しかし、そうしてぶーたれてるわけにはいかないので、手渡された小物入れのような袋に、その袋の入り口よりも大きな機械を入れようとする。



「って! どう考えても入るわけないじゃない! ヘレナってどこまでのアホの子なの⁉︎」



 ヘレナの方に袋と機械を見せつけながらプンスカ怒ってみる。

 するとヘレナはクスッと笑って、優しげな表情を浮かべ普段よりもゆっくりと言葉を出す。



「アリシア、それは収納ポーチと言って、袋口より大きさのものを入れようと近づけると……ほらこの通り。その近づけた物に合わせて袋口が大きくなるんですよ」



 ヘレナはわたしが手に持っていた袋と機械を取り、あたりまえのことのように袋に収納してみせた。

 そして、明らかに袋よりも大きなものを入れたと言うのに、その袋は見た目何も変わっているようには思えない。


 目の前の光景に驚き戸惑っていると、ヘレナはタネを話し出す。



「この袋は魔道具の一種で空間拡張と重量軽減、自動調整の機能があるのです。アリシアは魔道具を知らないのですね。ダンジョンでも見つかることもあるのですけれど……知りませんか?」



 魔道具。そんなものがあったのか……と。そしてダンジョンでも見つかると言われて、必死に記憶を遡って行き、同時に異空間に手を突っ込んでそれらしいものがないか真剣に……それはもう真剣に探す。


 先ほどまでは楽しむようにわたしを見ていたヘレナは、顔を強張らせほおに一筋の汗をかいていた。



「…………」



 自慢じゃないが、わたしは興味のある事しかキチンとしていない。だから異空間の中は嵐が何回も通り過ぎたような有様で、見つけたいものがなかなか見つからない。

 探しているものが『お金の代わりになるもの』や『宝石』とハッキリの方がいいけど、曖昧にでも思い浮かべられるのならすぐに見つけられる。そう言う風になっている。

 ただ、わたしには『魔道具』と言うものが全く分からない。『お金の代わりになるもの』と思い浮かべて『宝石』を取り出したのは、宝石に価値があることを知っていたからだ。

 だから形も効果も、全てを知らないわたしには思い浮かべて見つけることが出来ない。ヘレナみ見せられた『収納ポーチ』がないことは一番初めに確認した。



「………………」

「っ!」



 ヘレナの心臓の音がまた大きく早くなった。

 きっとわたしが本気で異空間を探っているからだろう。少しだけ魔力が漏れ出してしまっているようだ。

 だけど大丈夫。これくらいでは人種は死なない。ちょっと威圧される程度だ。それと、セレナたちにも感知されないだろう。だから大丈夫だ。


 それに、これで終わり……。



「見つけた――」

「っ! は、は! はぁ、はぁ、はぁ……」



 わたしは一本の棒を異空間の中から取り出し、漏れている魔力を体内に抑え込む。

 するとわたしから発せられていた威圧が消え、セレナは落ち着こうと深く息を吸い深く深く息を吐く。それをセレナは何度か繰り返し落ち付きを取り戻し、しかし途切れ途切れに言葉を紡いだ。



「い、いまの、は……。それ、に……あなたの持っている……ものは、何ですか……」



 そんなヘレナの様子を見て申し訳なくなる。流石に戦闘を主にしているわけじゃないからね。ヘレナには酷なことだっただろう。魔族でもダメだったのは多いからね。


 魔道具って、わたしの使う『魔法』と違う『魔法』――簡単に言うと人種の使うもの――の理屈で出来ているものだから、わたしには全く見分けがつかなかった。

 だから、この短く細い棒を見つけるために異空間に魔力を満たしていき、その魔力に反応させると言う方法で見つけた。


 うふふん。威圧しちゃったお詫びとして、この棒――魔道具を進呈しようじゃないか。ヘレナは泣いて喜ぶかもね。どんな魔道具かしらないけどね!



「はいあげる。一応コレでも悪かったなって思ってるんだよ? そのお詫びってことであげる」

「え、ええ……」



 戸惑いつつも、わたしの言ったことをちゃんと理解したのかヘレナは魔道具を受け取った。

 わたしもそれに満足して荷造りを再開しよう、とヘレナに告げ、ヘレナの足元に落ちていた収納ポーチを拾い上げ、机の上の魔道具を片付けていった。

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