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76話 サボリ魔

 あの子を見ていると度々疑問に思うことがある。


 誰にだって当てはまるであろうが、何かをするにははっきりとした『意志』が必要だ。

 冒険をするにも勉強するにも、仕事をするにしても『意志』がないとそう長く続かない。

 確かに『生きるため』ならば必要じゃないのだろう。しかし、彼女はそれをしなければ生きられないのか?

 まぁそんなはずはなく、むしろ自分の命を危険にさらしている。


『みんなを幸せに』なんて子どもの戯言じゃないか? 上辺だけで語る者は沢山いるが、あの子はマジで言っている。

 そして今でもそれを真剣な顔をして語る。


 何があの子をそこまでさせるのだろうか。今でこそ『神の知識』があるため、その戯言を叶えられている。しかし彼女は入手以前からその理想を掲げていたらしい。

 不幸な者たちを間近で見ていたからなのだろうか? 守るべき者たちだと、そう責任を感じているからだろうか?

 わたしにそんなことが分かるわけもない。もっともあの子も分かっていないのだろう。


 あの子が――ヘレナがその力を使う理由。いつか知りたいものだ。



「しっかし、ヘレナも随分と派手にやったなぁ〜」



 全身の骨が粉々の勇者を見やる。このままだとあと数分後くらいには死にそうなので、意識は戻さず体だけ直しておいてやる。


 ヘレナが全員のして、流石に勇者たちが死にそうだったのでわたしの城に転移させてきた。

 本来はあのアホの手が空いてから勇者たちに介入する手はずだった。しかしヘレナがキレちゃったので仕方なく、だ。



「アリシア様、これからどうするのですか?」



 気絶している勇者など視界にないと言わんばかりのカレンは静かにそう聞いてきた。



「そうだぜ〜。まさか勇者の世話か?」

「え〜それはやだ〜。わたし〜子どもには興味はないし〜。あ、ガフスのそれ悪手よ?」

「あ? あぁぁ! ま、待った!」

「やだよ〜。ふふん。これで今回もわたしの勝ちね」



 ガフスとオーリアはボードゲームをしている。いつもいつも勝負事をしているなぁ。


 何をするか、そう聞かれたが勇者の世話なわけがない。これは致し方ない処置だ。キレちゃったヘレナが悪い。


 カレンに入れてもらったお茶を少し飲み、わたしは改めて今後のことを話す。



「えっと、まずはアレイシアを探すことだね」

「? アレイシア様なら神界にいるのでは?」

「まぁ普通はそう思うよね……」



 首をこてっと傾け不思議そうに聞いてくるカレンに少し笑ってしまう。

 別にカレンに落ち度があるわけじゃない。常識人ならそうだねって思っただけだ。でも残念なことにあのアホは常識人じゃない。


 はぁ、とわたしは疲れたようにため息を漏らす。



「いやさ、あのアホは仕事の多さに心が折れて、どこかに隠れやがったんだよ」

「おいおい、それって神としてどうなんだ?」



 ダメに決まってんじゃん。あのアホは世界の管理すらもニートしているんだよ? いまこの世界を管理しているのが誰か知ってる? わたしだよ? わ・た・し。

 多分わたしがいなかったら第二の『わたし』が生まれてたよ……。



「ねぇ〜、アリシア様は神さまがどこにいるか見当ついてるの〜?」

「ついてない。そもそもあいつが本気で隠れたら誰にも見つけられない」

「アリシア様でも?」

「うん無理。世界ごと破壊していいなら別だけどね」

「……絶対にやめて下さいね」



 い、いや、冗談だからそんなに睨まないでさ。わたしだってやっていいこととやっちゃいけないことくらい分かっている。カレンはわたしのことどう思ってるのかな?



「面白そうだからとやりそうで怖いのですよ」

「し、しないよ! 流石に失礼すぎるよ!」

「最果ての島のことをお忘れですか?」

「う、うぐ……」



 た、確かに大きな島一個を作り変えたけど、ほとんど直っているんだしいいじゃん。

 そもそも世界なんて壊す気がない。住みやすい世界を探すのはダルいし、家を作るのもめんどい。

 環境の整ったこの世界を壊す利点がない。


 ぶーぶーぎゃーぎゃーと言い合っていると、オーリアにコテンパンにされたガフスが話を戻す。



「あー、で、なんだ? 結局のところ、俺らはどうしたらいいんだ?」

「ん? あぁ神界に行ってあのアホを探してきて欲しいんだよ。神界側には許可もらったし、もちろんわたしもいく」



 最高神とはあのアホの婚約者騒ぎでコネが出来た。あちらもアレイシアが仕事を放棄したのは痛いことなので、思いのほか簡単に許可が取れた。



「それって〜アリシア様とわたし達3人でするの〜? (いち)とかネリアには頼まないの?」

「一? あぁルミエのことか。ルミエはこの頃働いてばかりだったから充電切れ。それで引きこもってる。ネリアは……まぁ寝てるし、起こすのもあれじゃん?」



 オーリアの疑問も当たり前だ。何せ子どもの中で探索に向いているのはルミエとネリアの二人なのだから。またそのほかの5人は探索が苦手なだけだけど。

 そしてここにいないもう二人――シーラとドグラ。彼らは温泉旅行に行っていて城にいない。ルミエに散々こき使われていたあの子たちにも休みが必要だろう。

 ルミエは仕方なしにしても、ネリアは連れて行こうとしたのだが……。もうね、意地でも枕を手放さない彼女には折れたよ……。



「まぁ四人でも大丈夫だよ。いつか見つかるって」

「そうですね。あの方がそこまで愚かだとは思えませんし」



 まぁ奴は最高に愚かなんだけどね。何せ世界の管理を放棄しているんだよ? それだけでアホだってわかるよ。神にとって一番重要な仕事がそれだというのに……。



「あいつは何考えて生きてんだろ……。もうね、頭の中空っぽじゃね? って本気で思い始めたよ」

「そうですか? 私は色々考えてますよ?」

「ねぇよ、絶対ない。あいつの脳内は花畑だろうよ」



 ん? あれ? 今わたしは誰の言葉に返したんだ? 口調からしてカレンか? ふとカレンに視線をやるも首を振られた。

 まぁそうだろう、まず声がカレンと違うし。ならオーリア……なわけないし、ガフスなら普通にキモい。


 なら誰?


 きょろきょろと室内を見渡すも、子どもたちと気絶している勇者たちの姿しかない。


 その時、また先の声が聞こえてきた。今度は背後から視界を塞がれながら。



「だ〜れだ」



 その呑気な声が聞こえた途端――わたしは全力全開の肘打ちを声の主に食らわしてあげる。



「死ねぇぇぇぇぇ‼︎」

「グヒャ⁉︎」



 チッ、吹き飛ばせただけか。結界を張られなかったら即死級だったのに……。ホントあいつムカつく。何がムカつくかって、殴られるって分かっててわたしの後ろに現れたことだ。

 そうでなきゃ勇者の何人かが巻き込まれていただろうからね。


 わたしは壁に埋もれているアホによって行き、胸ぐらを掴む。



「おい、一度しか聞かないぞ? お前は何をしてたんだ? それとなんで今姿を現した?」

「うぅ……痛いですし、その口調は可愛くな……。わ、分かりましたからのその腕を下ろしてください⁉︎」



 まだ殴られたりないのか、アレイシアはアホなことを言っている。それを拳を振り上げて脅す。

 多分こいつにはこれが一番だと思う。


 アレイシアはわたしに胸ぐらを締め上げられている中、器用に肩を落として話し出す。



「ここに現れた理由はアリシアが勇者を確保したからです。もうちょっとサボれると思っていたのでビックリです」

「いや、お前の言葉にこっちがびっくりだよ」



 もう呆れを通り越し、さらに怒りも通り越して、もう無感情になりつつあった。

 このアホは過去の過ちから何も進歩していない。いくら『わたし』のことを『過ち』と捉えていなくとも、『世界』にとっては害なんだ。だから再発しないように努めるべきだ。



「まぁいい、いや良くはないけど、良いことにしないと先に進まん。で? 今まで何をしていたんだよ」



 厳しく問うと、アレイシアは視線を宙に彷徨わせる。



「え、えっと〜、あ、そうです! そんなことより勇者さんたちの処理をしてしまいましょうよ! 早いことに越したことはないですからね!」

「ああ⁉︎ お前どの口でそんなアホなことを言ってんだ! そもそもな話、お前の仕事が片付かないせいで予定を遅らせていたんだろうが‼︎」



 そうなのだ。わたしとしては38人の勇者どもは早く地球に返したかった。王国の戦力を削ぐって目的があるし、めんどいことは早めにやってしまいたかったからだ。

 それなのにこのアホは仕事を山のように抱え、最高神にはそれらを片付け終えるまで干渉しないでくれ、と泣きつかれた。


 神界の連中とことを構える気は無いので、一応最高神を立ててやった。そしてこのアホがちゃんと仕事をしていたら、今日明日で終わるはずだったのだ……。

 だというのに仕事を放り出し、あまつさえ『そんなこと』と言いやがったのだ……。

 サボるのは、まぁ良く無いけと良いとしよう。わたしだって良くサボるからね。でもさ、説明責任くらい果たそうよ。



「おい、これで最後だぞ? お前は何をしていたんだ?」



 めいっぱいに威圧を放ちながら問いただす。

 するとようやく勘弁したのか、アレイシアはぽつぽつと話し出す。



「日本に行ってました……」

「は? 日本? いや、マジでなんで?」



 その予想外な言葉に素っ頓狂に聞き返してしまった。



「その、アリシアたちが遊びに行っているのを見て羨ましかったんです!」

「え? あ、うん。うん?」



 つまりこいつはこう言いたいのか? 仕事をボイコットして遊びに行ってました、と? お前神だろ? 上位神だろ? いやいや、そのくらいの分別くらいしっかりしろよ!



「え、じゃあ何? 今までずっと遊んでたの?」

「はい、アリシアが勇者を転移させたのを感じて仕方なく戻ってきました」

「え、う、うん。死ねば?」

「なぜですか⁉︎」



 なぜって……分かるよね? ほらカレンたちも呆れ顔でお前を見てるし。ああ、確か日本には『切腹』って文化があるらしいじゃん。トーヤに聞いた。お前もそれをすれば良いよ。


 ガサゴソと異空間を漁り、わたしは取り出したものをアレイシアの前に放ってやる。

 それを心底不思議そうにアレイシアは見つめる。



「えっと、何ですか? これ。刃物なんか出して何を?」

「腹切れ」

「は、はい?」

「だから、腹切れ」



 すれば許してやる。そう淡々というと、アレイシアは勢いよく身を起こし、わたしに詰め寄ってきた。



「は、母に死ねと言うんですか⁉︎ あなたは悪魔ですか⁉︎」

「いや魔族だけど悪魔じゃ無いよ。それにお前腹切ったくらいで死なないじゃん。やれよ」

「うぅ……。親不孝な子どもは嫌いです……」



 そう言ってアレイシアはよろよろと泣く振りをする。チラチラとわたしを見てくるのがたまらなくうざい。

 もうマジで爆発数秒前だ。それこそ世界の半分は吹き飛ばしそうなくらい。

 そんな時、わたしに声がかかった。



「アリシア様、もうそこらで良いのでは無いでしょうか」

「はぁ? 何言ってんのさ! このアホのせいで色々予定が狂ったんだよ⁉︎ せめて責任くらい取らせるべきじゃん!」



 アレイシアがいればヘレンが戦場に立たずに済んだかも知れない。勇者という戦力を失った王国は同盟を受け入れたかも知れない。

 必要なことだったのかも知れないが、不確定要素である勇者は排除した方がいいに決まっている。

 こいつさえしっかりとしていてくれたら、万全を尽くせていたのに……。



「言い合っても時間の無駄です。ここはアリシア様の寛大な心で許してはどうですか?」

「うぅ……。確かに時間の無駄だけどさ〜。はぁ、そうだね、わたしの心は広大だし、許してあげようか」



 そう、わたしは寛大。アレイシアよりも寛大。てかあのアホのすることは大体予想できたはずだ。なのにこうなることを想定していなかったわたしにも落ち度がある……。

 うん、わたしの器は大きいからね。このアホのアホな行道を容認出来なくてどうする。うん、わたしは偉大。


 そう自分に言い聞かせ、なんとか納得する。あのままアレイシアと言い合っても終わりが見えないだろう。わたしは口喧嘩ではめっぽう弱いのだ。しかも相手があのアホだからね……。言い合いでは勝てる気がしない。負けもしないけどね‼︎



「はぁ……。なら早速やってくれる? 魂に干渉するのはお前に任せたいんだよ。流石に術式が複雑すぎるからね……。わたしがやるとうっかり殺しちゃいそうだし」

「分かってくれて母は嬉しいです。はい、それなら任せなさ〜い。大船に乗った気でいて下さいね〜」



 ホント、いちいちこいつはムカつかせてくる。なんというか、こいつと話していると頭が痛くなってくるんだよ……。


 アレイシアはそっと勇者たちに近づいていき、そして光の玉で一人一人包み込んで行く。



「す、すごいですね」

「あぁ、やっぱり神なんだよな。あんなでも……」

「考えられないよね〜」



 カレンたちは魔法を使うアレイシアを見て感嘆の声を上げる。あいつのやっていることは『魔法』の知識がある程度ある者にしか分からない。

 正確には違うが、分かりやすくあいつがしていることを説明すると、右手で絵を描きながら左手で楽器を演奏する。加えて右足で裁縫をし、左足で折り紙、口では笛を吹き、頭の上に何十もの皿を乗せてバランスを取とる、という難易度を何十倍にもした行為だ。



「あれくらい出来ないとあそこには干渉できないんだろうさ」



 不完全にでも出来きはする。しかし、やったとしても壊してしまうだろう。

 あいつがやっているのは一寸のズレすら許されないほどのことだ。大雑把なわたしには出来るわけもない。


 そうして室内が静けさに包まれて数十分後、アレイシアはやり切った、と息をつく。



「ふぅ〜、流石に人数が多いので時間がかかりましたね」

「よく言うよ。わたしなら年単位でかかるってのにさ」

「あれれ〜? 負けを認めちゃうんですか? 良いんですかぁ? また負けるんですかぁ」

「あぁ⁉︎ なんだ⁉︎ 今からガチで殺しあってみるか⁉︎ 一瞬で片付けんぞ?」

「や、やめてください〜! ま、まさか母に手なんてあげないですよね?」



 調子に乗ってたらマジでボコボコにしてやろう。積年の恨みってのもあるし、なんといっても負け越しってのが気に入らない。

 こんなアホに負けてるってのがなおさら悔しい。こいつと正面からやりあうことさえ出来るのなら勝てるのに……。



「ヘレナもヘレナだけど、お前もお前で何考えて生きてんのか分からないよ……」

「はい? 私は子どもたちのことを考えて生きてますよ? そんなことも分からないのですか」



 それなら働けと声を大にして言いたい。

 まぁいいや、さっさと自分の役目を果たそう。


 そう考え、わたしは勇者たちに手を向ける。そして魔法を使って、彼らのいるべき世界に転移させる。



「私にはあなたのそれの方がびっくりなんですけどね〜」



 アレイシアは飄々とそう言う。彼女がいっているのは世界の壁を38人分破り、それを速やかに修復したことだろう。

 わたしはいわゆる『世界』なのでこう言ったことは朝飯前だ。一方のアレイシアが今のようなことをしようとすれば、術式を編むだけで一月はかかるんじゃなかろうか。


 でもそれは魔力量の差なだけであって、手先はアレイシアの方が器用だ。


 だからもし同じ魔力量ならばアレイシアの方が異次元なくらいで凄い。何せ、彼女は本来中位神であるはずなのに、最高神に届きうる力を持っているのだから。



「よく言うよ」



 だからこうとしか返せない。


 まぁさておき、だ。わたしの仕事はこれで大方終わってしまった。アレイシア探しにもっと時間がとられるものとばかり思っていたが、まぁ良かった良かった。

 時間がかかるだろうからヘレナのとこには然るべき時まで帰らないつもりだったけど……。うーん、どうしよう。

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