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75話 清算(sideレティノア) / 勇者(sideヘレナ)

 王城に侵入することは出来ました。そして戦時ということもあってか城内は静まり返っています。



「っと。メイドはいるんでした」



 現在、私は王族たちを探すために静かな廊下を歩き回っています。城の周囲や入口はガチガチに警備されていましたが、城内には兵士の姿が見えません。しかしメイドはいるので見つかって騒がれたら面倒です。

 メイドが通り過ぎるのを柱の陰に隠れて待ちます。

 そしてメイドが角を曲がるのを確認してから捜索を再開します。



「……。これは、もしかして食事中でしょうか」



 警戒しながら進んでいると、なにやら香ばしい香りが漂ってきました。

 そしてその匂いはどうやら正面の扉の向こう側からの物のようです。


 細心の注意を払いながら、私はその扉に耳を当てます。


 するとこんな話声が聞こえてきました。



「はっ! 国賊のくせに同盟などっ! 即刻滅ぼしてくれるわ!」

「そうですわ! 裏切った罪はその身をもって償ってもらいますわよ!」

「うむ。まずは張り付けで晒し者とかが良いかの!」



 男と女の声です。少し歳の行った声ですし、多分王と王妃でしょう。それと、二人の言葉に同意する声がいくつかあります。きっと兄たちと姉たちのものでしょう。



「でも〜勇者たちが殺しちゃわないかしら〜?」

「ああそれは大丈夫だ。ちゃんと殺すなと命令しているからな」

「でもそれって生きてれさえいればいいってことだろ?」

「ははっ! まあな!」



 勇者。私は一度も見たことがありませんが、ヘレナには勝てないでしょうね。あのアリシアはヘレナが戦場に一人で行くことを止めなかったのですから。それにヘレナは勇者が来ると知って、それでも怖がる様子を見せず、一目散に向かって行ったのですから。


 酒が進んでいるのか、中から聞こえる声も上機嫌なものになる。



「おお、そうだ。あの女の家族を捉え、それであの女の前で殺してやろう。いや、あやつが守ろうとしていた者たちを処刑しよう!」



 あぁ、あいつらは昔からなにも変わっていない。なにも……。お母さんを殺したあの時から、なにも……。



「もう、いいや……。もう……いいです……」



 カチャッと軽い音を鳴らしながら腰に差した細剣を抜く。

 刀身を見るのはこれで二度目です。それだと言うのに感嘆の息が漏れてしまいます。幻想的な青の刃に一筋の赤。美しく掘られた花の彫刻。

 これが人を殺すための武器とは思えません。芸術品と言われたら信じてしまいそうです。

 ですが鞘から抜いて、しっかりと握る、そうすれば自然にこの細剣に込められた力が分かってしまいます。



「さっさと終わらせましょうか」



 言って、私は細剣を一振りします。すると剣の後を追うように炎が現れ、それが扉に向かって行き、激しい音とともにぶつかった物を漏らし尽くします。



「な、なんだ⁉︎」

「て、敵襲か⁉︎ 外の兵はなにをしていたんだ⁉︎」



 中では慌てふためいてそんなことを言っていますが、私は気にせず炭になった扉を跨いで彼らの前に姿を現します。

 私の存在に気づいた兵士が襲って来ましたが、氷を出現させて串刺しにしました。


 そしてスカートは履いていませんが、スカートの裾を持ち上げる仕草をし、丁寧な挨拶をしてあげます。



「お久しぶりですね、お父様にお兄様方、お姉様方も。この度は復讐に来ました。抵抗するのは自由ですが、意味がないとだけど言っておきますね」

「お、お前は⁉︎」



 お父様――王は私に向かって指を向けて来ます。人に指を指すなんて失礼ですね……。ですが指を震わせ、椅子から転げ落ちている姿を見せてもらったので帳消しでいいです。


 王はなおも震える指で私を指す。そして声までも震わせ、しかしながら顔を真っ赤にして叫ぶ。



「お、お前はぁ‼︎ 我が王と知っての所業か‼︎ ゴミ以下の分際で! 許されると思っているのか‼︎」

「知りませんよそんなこと。私はあなたたちに復讐がしたい。それには誰かの許可なんて必要ないですよね?」

「ふざけるな‼︎ おい、レノス! あいつはお前が飼っているのではなかったのか‼︎」



 王は近くで腰を抜かしている男に激しく問いただす。

 その男の名はレノス。母を殺された後、私を飼っていた奴だ。身分はこの国の第一王子らしい。


 レノスは頭をガシガシとかいて必死に現実逃避をしている。



「知らない、知らないぞ僕は‼︎ アイツは僕の人形なんだ、僕に逆らうはずないじゃないか‼︎」

「はあ、まぁほとんど記憶もありませんし、あなたは楽に殺してあげますよ」

「な、なにを――」



 レノスが言葉を言い終える暇も与えず、私は彼に向かって細剣を振るいます。



「え?」



 するとレノスは目を丸くして、そして自分の視線が落ちていくのを惚けて感じることしか出来まかった。

 その光景を見ていた者たちは悲鳴をあげ、床にポトリと落ちたレノスの首を目を見開いて眺めている。



「なにを驚いているのですか? どうせあなたたちもこうなるのです。潔く受け入れてくれませんか?」

「な、なにを、した……」

「? 説明をする義務はないですよね?」



 といっても、勘の良い者ならわかりそうですね。レノスの首とそれと繋がっていたところは凍っている。そのため血も溢れ出ていない。


 私は剣を振るうのと合わせて極薄の氷の刃をレノス放っただけです。

 その氷の刃を持ってレノスの首を討ち、傷口を凍らせて臭いも防いだのです。



「くっ……! 衛兵! 衛兵はおらぬのか⁉︎」



 王は狂ったように叫ぶ。


 でも残念です。近くには衛兵はおらず、騒ぎは聞きつけたがここに来るのに時間がかかっている模様。

 奇襲されないとたかを括っていたツケが回って来たのです。戦時中なのですから城内にも兵を置くべきでしたね。差別意識が高い彼らには到底無理な芸当でしょうけどね。



「さて、まずは腕を潰させてもらいますね?」

「なに⁉︎」



 そう言って、私は王や王妃、兄や姉たちに向かって大きな氷の塊を落としていく。



「アガァァァ!」



 あぁ、お母様もこんな風に苦しんだのでしょうか……。いえ、最後に見た母の姿はこんなじゃありませんでした。耳も目も……彼らは残っています。残っているのなら取ってあげないとダメですよね?



「めんどくさいですけど……これもお母さんのためです」

「く、来るなァァァ‼︎」

「今行きますから静かにしてくださいよ、もう。私が悪いことしているみたいじゃないですか」

「お、お前はなにを言って……」

「はいはい、黙っていてくださいね〜」

「グァァァァ!」



 よしよし、王はキチンと両耳と片目は潰せました。腕とか脚はまだ骨が残っていたようなので、粉々になるまで潰しておきます。うぅ……これを何人もしないといけないなんて……。ほかの方たちは作戦を終えていることでしょうし、私が最後になっちゃいます。早く終わらせないとヘレナさんに迷惑がかかりますのに……。


 そんなことを考えていると、王妃らしき女が扉から這いずって出ていこうとする姿が見えました。



「あぁ、皆殺しは作戦上絶対なので逃げないで下さい」



 そう言いながら氷の壁を出して扉を塞ぐ。


 そして兄や姉もうるさいですが、あの王妃が一番うるさいので、次はあの女を片します。



「ねぇ、覚えていますか?」

「な、なんですの⁉︎」

「ああいえ、あの日、母を殺したあの日です。私はやめてやめて、と必死に叫びましたよね」



 まずは片目をえぐり取る。



「ギャァァァァァ!」

「うるさいです! あぁ腕が取れてしまいました……。話を戻しますが、あの時私は母を殺さないでと頼みました。でもあなたたちは母を殺しましたよね?」



 聞くも、なぜか王妃は答えてくれません。そして代わりになのだろうか、股の辺りから異臭が漂ってきました。

 私はそれから顔を背けつつ、興味も無くなったので王妃の四肢を砕き、耳も落としておく。



「次はお兄様とお姉様方ですね」

「ヒッ⁉︎」

「く、来るな⁉︎」

「ん? 拒否権なんてないに決まってますよね? 当たり前のことを言わせないで下さいよ」



 時間もないんですから。いえ、ヘレナなら多少時間がかかっても許してくれそうですが、アリシアさんは起こりそうですしね……。

 耳や目をいちいち潰して回るのも手間ですし、それほど兄姉たちに関心もないです。なので適当に凍らせればいいでしょう。



「あ、手元が狂って鼻と口も塞いでしまいました。でもいいです。どうせ焼くので問題はないでしょう」



 そう言って、私は彼ら彼女らの足を掴み、王のところまで運びます。何往復かしましたが……。うん、やっと準備が出来ましたね。


 私は家族仲良くひと塊りになっているそれを蹴りながら、冷めた目で見下し言う。



「ずっとこの瞬間を夢見ていました。やっと……やっと叶うんですね……」



 地獄。そうとしか呼べない日々も今日で終わる。母を殺したこいつらを殺して……それで……。

 あとは最後の仕上げをするだけです。



「さようなら、遺体とかの確認のため原型は残してあげますね。せめてもの親孝行って思って下さいな」



 そう言って片目でこちらを睨んでくる者たちに火の球を差し上げる。娘からの贈り物です。親なら、家族ならこれほど嬉しいものはないですよね? 証拠にこんなにも嬉しそうな呻き声を上げてくれて私は嬉しいです。



「ふう。確かこれで王族は全員ですよね? えーっと、はい全員ですね。運がいいですね、私」



 運良く食事中を狙えてよかったです。一人一人違うとこに居られると探すのが手間でしたからね。

 目撃者も全員潰しましたし、これで帝国に擦りつけるのも問題なく出来るでしょう。


 私はそっと懐に手を入れ、小型の魔道具を取り出します。



『どうですか? 私の方は今終わりましたが』

『ええ、我々も無事終了しました。現在は王都郊外の森にて潜伏しています』

『そうですか、ならヘレナの国に向けて転移するので混乱しないように気をつけてくださいね』

『了解しました』



 さすが辺境伯の選んだ精鋭たちです。私は通信用の魔道具を懐にしまい、入れ替えるように青い転移結晶を取り出します。



「うーん。今頃になって衛兵ですか。流石に遅すぎますよ」



 ふふ、と遠くから聞こえてくる沢山の足音を笑ってやる。そして私は手に持った転移結晶に魔力を流す。



 ***sideヘレナ***



「なぜ⁉︎ なぜあなたたちは戦争を仕掛けてくるんですか‼︎」



 ガキィンッと勇者の振るう剣をアリシアにもらった短剣で弾きながら叫ぶ。

 周りには沢山の勇者、彼ら彼女らは様々なスキルでもって攻撃を仕掛けてくる。さして痛くもないが、いかんせん数が多い……。

 近接攻撃を仕掛けてくるのは勇者の約半数。ただそれに限って言えば何も問題はない。近接攻撃はそう何人も同時に仕掛けてこれない。だからいなせる。

 しかし遠距離は少し厳しい。



「そんなの、邪魔だからに決まってるでしょ!」

「っ⁉︎」



 剣を合わせていた勇者に気をとられ過ぎて、死角から攻撃を仕掛けてきた者に気づけなかった。受けた感じでは小さな石が当たった感じだが、それでも少し痛い。



「邪魔……。邪魔だから人を殺すんですか‼︎」

「そう言ってんのよ‼︎」



 間違ってる。そんなのは間違ってる。間違っています……。


 数々の閃光。剣撃。大きな泥人形。ドラゴン。魔物の大群。視界の端には大きな魔力の塊。


 私は文字魔法を駆使してなんとかそれらを排除していく。街には結界が張ってあるからいいが、その他の土地はそうじゃない。穴ぼこだらけ、最悪は呪いが撒き散らされる……。


 だから私はそれを防がなくちゃならない。



「あなたたちは何がしたいんですか⁉︎ あなたたちは勇者なのですよ!」



 訴えかけるように叫ぶ。彼らにほんの少しでも良心が残っているのなら……。そう思って。


 しかし、私のそんな思いは届かないらしい。



「あぁ? それがどうしたんだ? 俺らは世界を救ってやるんだ。ならそんな救世主にはひれ伏すのが常識だろ?」

「そんなことはありません‼︎」

「はっ、勝手に呼び出しておいて。言うことも立派だな!」



 迫り来る剣を迎え撃つ。そして弾き返すと素早く彼の後ろに回り込み、背中を強く蹴る。



「ガッ⁉︎」

「だから元の世界に返しますって何度も言ってるじゃないですか‼︎」



 そう、私は彼らと交戦してから何度も何度もそう言っている。アリシアが返してくれると、今すぐは無理だがじきに返してくれると。

 それでも彼らは聞いてくれない。



「チッ、いてぇなぁ……。あとなぁ、なんども言うが俺たちは帰りたいなんて思ってねぇんだよ‼︎」

「グッ‼︎ な、なぜですか⁉︎ あなたたちの世界はここよりも平和なのでしょう⁉︎ ならそちらの方がいいじゃないですか⁉︎ クッ……。チマチマと邪魔です!!!!!」



 四方八方から迫る剣をいなし、魔法、魔物、その全てを撃ち落とす。

 勇者らを無効化すればいいのだけど……。これ以上文字数を増やせば殺してしまいそうだし、かといってこのままでいけば攻めきれない……。


 何かないか……。そう考えていると勇者がまた深く切り込んできた。



「はっ! だからだよ! あっちの世界は全く面白くねぇ。ルールでガチガチ縛られて自由がねぇんだ! 片やこっちはどうだ? 力がものをいう世界。力があればなんでもしていい世界。ぜってぇこっちのがいいだろォォォォォ‼︎」

「クッ⁉︎ そんなこと……そんなことは絶対にありません‼︎」

「はっ」



 自分さえ良ければ他はどうでもいい。そんな考えが彼らからジンジンと伝わってきます。自分本位な考え、それを完全否定はしない。でも、私はそれをするものを受け入れることは出来ない。

 みんなで笑った方が楽しいじゃないか。誰かが泣いていて、苦しんでいて……。その上で成り立っている世界なんて私は嫌だ!


 力が全て? それならば弱い者たちは泣くことしかできないのか? 強者は弱者に何をしてもいいと言うのか?


 ――違うでしょ‼︎


 強者は弱者を助けるべきだ、支えになるべきだ。それを出来るだけの力があるのに……。なのに彼らはそうしようとは思えないらしい。



「あなたたちは……力に溺れた弱者です。決して強者なんかじゃありません」

「はっ、そんなボロボロになって言われてもなぁ。説得力ないぜ?」

「……そうですか。私はそうならないように気をつけないとですね」

「戯言はもういいかぁ? なら俺たちは全力を出させてもらうぜ」



 はぁアリシアに怒られてしまいそうです。



「『♈︎♉︎♎︎♌︎♏︎♐︎♓︎』」



 私を殺さんと襲いかかってくる猛威を私は短剣一つで消しとばす。



「なっ⁉︎」

「何を勘違いしているのかは知りませんが……。私はもうカンカンです。死なないように頑張ってくださいね?」

「は、はぁ? 何を言って――」



 その言葉を言い終える前に私の姿はかき消える。


 そして勇者が惚けた次の瞬間――



「ガァァァアアアアアアア⁉︎」



 ズドン、と重く鈍い音とともに勇者は吹き飛ぶ。

 そして次の勇者、次の勇者、次の勇者、と私は同じ調子で吹き飛ばしていく。どうやら吹き飛んで行った勇者たちは息があるらしく、精々全身の骨が折れた程度で済んでいるようだ。


 また前衛を片付け終えると、今度は後衛だ。



「み、みんな‼︎ くそ、最大火力を叩き込め‼︎」



 その声でハッとした後衛の勇者たちは自分の持っている最大の技を私にぶつけてくる。


 しかし『7文字』使って身体強化した今の私に通用するわけもない。私は剣圧で一切合切を吹き飛ばし、呆気にとられている勇者たちを殴っていく。



「な、何なのよ⁉︎ あんなの化け物じゃない‼︎」

「『バケモノ』で結構ですよ」

「ヒィィィィ⁉︎」

「それでみんなの幸せを守れるのなら、私はバケモノでもいいです」



 立っている最後の勇者を吹き飛ばし、ふぅと一息つく。

 まだ勇者たちは死んではいない。でも放っておけば何人か死ぬだろう。しかし回復させるにしても、文字魔法は強力すぎて使えない……。



「うぅ……どうしましょう」



 私は死んでしまいそうな勇者たちをどうしようかと必死に頭を悩ませる。

 そして視線を上にあげ、倒れている勇者たちから目を離したのがいけなかったのだろう。



「へ⁉︎ あ、あれ⁉︎ 勇者たちはどこ行ったんですか⁉︎」



 周りから勇者の魔力が一瞬にして消え去るのを感じ、慌てて視線を戻すとそこには誰もいなかった。

 人っ子ひとり見当たらず、勇者たちはそこから全員消えていた……。



「え、えぇぇぇぇ⁉︎ ど、どこ行ったんですかぁぁぁ⁉︎」



 しばらくあたりを探し回ったが見つけることは叶わなかった。


 そしてとぼとぼと町に帰っている途中、ふと考えついてしまった。


 あ、これってアリシアが何かしたんじゃ……。

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