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71話 相反する存在は悪なのか? (sideヘレナ)

 決して相容れないものってのは必ずある。どれだけ言葉を重ねても、やはりその事実は覆せないだろう。

 例えば『火と水』であったり、『生と死』であったり……。そう言った決して交ざることのない事柄は世界に数多存在している。

 そしてその中でも顕著なのが『人種と魔種』だろう。


 古来より、私たち『人種』と魔物のなどを主にした『魔種』が争ってきた。またその中には魔族の影もちらほらと見え隠れしていた。

 だから二つの『種』は互いに争い合う関係で、手を取り合うなんて考える者は出てこなかった。

 それはあのアリシアでさえそうだ。彼女はキチンと弁えているのだろう。決して分かり合えない、と。

 私だってアリシアのことを分かっているかと問われれば、その返答としては否としか答えられない。またアリシアの方も私のことを全て分かっているわけではないのだ。


 でも、果たしてそれは悪いことか? 関わってはいけないほどの『悪』なのか? 分かり合えなければ、私とアリシアは関わってはいけないのか?


 ――それは否だ。


 私にとって短くない時間を彼女と過ごした。多分、アリシアから見れば刹那の出来事であったのだろうが、それでも私からすれば一緒に旅をした時間はとても大切なものだ。

 その旅の最中、アリシアから沢山のことを聞かされた。昔なにをしたのかも、まぁ彼女はべろべろに酔っていて記憶がないんだろうが、それでも教えられた。

 それを踏まえて、私はここにいるのだ。


 きっと私は冷たい人間だ……。親しくなってしまった彼女の方が大切なのだから。彼女に殺された者たちよりも……それこそ何倍も……。


 私は『アリシア』と言う少女の恐ろしさを身をもって知っている。でも、彼女の素晴らしさも、どれだけ素敵なのかも知っているのだ。


 それとまだ知っていることがある。

 それはいかに人種が『汚い』か、だ。

 もちろんそうじゃない者たちも知っている。でもあの旅ではそういった『汚れ』を孕んだ者たちを嫌というほど見てきた。

 対して出会った魔族は奢りからくる傲慢さはあったものの、『汚く』はなかった。あれは魔族本来の性質なのだろうと納得できた。


 私は自分の中に巣食う感情も知っている。それは魔種のそれと似ている。アリシアにはそう言われたし、自分でもそうなのだろうと思っている。

 そんな魔種と近い感情を持つ私は、果たして人種と関わってはいけないのか?


 ――答えは否だ。


 アリシアはちゃんとそれに向き合えと言ってくれた。家族にもちゃんと相談して、それで受け入れてくれた。支えるから、そう言ってくれた。

 なら同じような魔族はどうだ? 彼らは私と同じような感情を持ち、人種(私たち)と同じような感情をも持ち得ている。また、彼らは人種(私たち)と同じように街を築き、平和に暮らしているというではないか。

『魔族』だなんて大仰な名称が付いているが、彼らはちょっと力の強い『人種』とどう違う?


 でも人種(私たち)は彼らとは分かり合えないのだろう。『種の違い』がそうさせるのか、それとも過去のいざこざがそうさせるのか……。


 そんな時人種(私たち)は振り返ってみるべきなのだ。自分たちが歩んできた『歴史』を。

 戦争、暗殺、横領、裏切り、迫害、圧政、不正……。ちょっと調べるだけでも『歴史』はこのようなことを語る。

 きっとそれらは『魔族』が起こした被害よりも何十倍も多いはずだ。それなのに人種(私たち)は彼らを『悪』と呼ぶ。


 どうだ? 私からすれば、『人種』の方が分かり合えない。

 確かに『魔族』は恐ろしい。私には超常の『力』があるからこそ、魔族を怖がることはない。でも、アリシアやその側近たちには敵わない。また『人種』の信仰するアレイシア様にも敵わない。

 それでも私は『彼女ら』を知っている。全ては知らないが、あの旅でのことを知っている。


 未知とは恐ろしい。でも知れば案外そうでもないってのが大体だ。『人種』は『魔族』について何も知らない。否――知ろうとすらしていない。

 一歩。たったそれだけなのだ。確かに分かり合えないだろうが、握手くらいは出来るはずなのだ。一緒にご飯だって食べられるはずなのだ。


 アリシアが治める国の『魔族』は『人種』を襲ったことのない者たちばかりだそうだ。そういったことをする者たちは自ずと国を出て行くらしい。戦えない者だっているらしい。


 彼女の国のことを聞き、なおさら私の想いは深まった。こんな国にしたいと……。


『人種』と『魔種』は決して交じり合うことはないだろう。でも、『人種』と『魔族』なら――



 ***



 長机が置かれているだけで特に飾りっ気のない一室。現在、その空間では私押しつぶしてしまうかのような圧が、奥に座るご老人から放たれていた。

 私はその中でゴクリ、と喉を鳴らす。

 キレミネルス公爵に『どんな国を作りたいのだ?』と問われ、汗をダラダラとかいていた。

 しかし、いつまでも沈黙しているわけにもいかず、私はグッと息をのんで恐る恐る口を開く。



「スラムも奴隷もない国を……。住民たちがみんな心の底から笑えるような国を……。誰も悲しまないような国を……!」



 貧困は辛いものだ。差別は悲しものだ。

 奴隷は仕方ないものと、当たり前な物だと思っていたが、それは間違いだ。

 権力者に媚びるような、また偽りの笑顔を浮かべることしか出来ない国は嫌だ。

 戦争はしてはいけないことだ。



「私はそんな国を……。でも! でも‼︎ 叶うことなら! 許されることなのなら……!」



 でも、私はそんな『国』ではダメなのだ。住民たちは笑えるだろう。しかし……子どものわがままみたいなことだが、それじゃあ私が『心の底から笑えない』のだ。


 私は拳を強く握りしめ、キッと眼前の4人の貴族を正面に捉え、訴えかける。



「魔族とも交流のある国を作りたい‼︎」



 スラム、奴隷はどこの国にもある。それをなくしたいと宣ったのも愚かなことだが、よりによって私は『魔族』とも友好に接したいと言ったのだ。

『稀代の愚王』と嘲られる彼は、確か奴隷を無くしたいと言っただけでそう言われた。なら私はどうなるのだろうか? 一周回って『賢王』とでも呼ばれるのかも知れない。……ないな。


 私がそう強く言い切ると、部屋の中はシンっと静まり返り、それが少しの間続いた。

 そしてその静謐を破ったのは、やはり公爵様だった。



「ふむ。前述は置いておこう。で、だ。魔族とだと? それは不可能に決まっているであろう?」

「そ、そんなことはありません……!」

「いいや、歴史がそう語っておる。我らと魔族とでは分かり合えん。これは変えようのない事実だ」



 私は唇をグッと噛み悔しさに耐える。だって魔族と人種は手を取り合えるはずなのだ。理解できずとも、それでも――



「魔族は人種を襲う者たちばかりではありません! 人種とほとんど変わらない者もいるのです!」

「それがどうした? そんなことは儂等からは判断がつかん。危険がすぐそばにいるのかもしれないのだぞ? 人種の国に『魔族』はいらん」



 淡々と言われ、さらに私の怒りが募っていく。何故わからないんだ、と。

 私は声を荒げてしまわないように自分を言い聞かせながらキレミネルス公爵に目を向ける。



「それは人種にだって言えることです! 街を行く人々の中には武器を持った冒険者がいます。騎士や衛兵だって素手で誰かを殺すことだって出来ます! スラムの人たちだってナイフを持てば立派な害悪になり得ます!」



 とどのつまり、『危険』なんていたる所にあるのだ。またそれは歴史を見ても、それこそ明らかなのだ。



「昔の王や貴族らは同じ人種に暗殺されたことだってあります」



 その手段は様々であったが、大体が身近な者の犯行であるのだ。危険かも知れない? そんなことを気にし出せば、家族相手にですら懐疑の視線を向け続けなければいけないことになる。



「それに魔族ならそんな隠れるようなことをせず、堂々と正面から襲ってきます。彼らにはそれだけの力があります。街に入れたところで、さほどその危険度は変わりません」



 これでどうだ? と視線で公爵様に問うてみる。しかしキレミネルス公爵様は頷きことなく、再び声をかけてきた。



「それでも、なのだ。確かに冒険者や騎士、暗殺者などは危険だ。しかし彼らは人種で、意味もなく殺しをしないと皆が知っている。だが、『魔族』はそれ以前に『怖い』のだ。非力な者たちからすれば『魔族』というだけで恐ろしいのだ」



 もちろん儂もだ。そう肩を落とし公爵は語る。

 彼の言うことは徹頭徹尾正しい。『魔族を知らなければ』と注意書きをする必要があるけれど。

 人種は噂話のことでしか『魔族』を知らない。例え知っている者がいても、それは『アリシア』のような『魔族』じゃない。

 伝聞や歴史に乗っているような『魔族』はアリシアの元を離れた者たちだ。だから『人種』は正しく『魔族』を知っているわけじゃないのだ。多分、私と私の家族、そしてトーヤたちしか知らないんじゃないだろうか。


 私はそう思って、そっと公爵様に返す。



「公爵様の意見はわかりました」

「ふむ。そうか」

「ですが、そうですね……。ヘリック様、少しいいですか?」



 言って、私はヘリック様に顔を向ける。私から声をかけられたのが意外なのか、ヘリック様は少し驚きつつも何かな? と笑みを向けてくれた。


 それにありがとうございますと言いながら、聞きたいことを聞く。



「ヘリック様はアリシアを見てどう思いました? 『彼女』はそんなに恐ろしいですか?」

「アリシアさんがかい? いや、あの人は凄まじい力を持っているが、そこまで……。あぁそうなのか? ここでその話題を出すってことは」



 アリシアの正体にたどり着いたであろうヘリック様に、はいとだけ返す。

 するとヘリック様はあ〜と合点がいったみたいな感嘆をあげながら、背もたれにもたれかかり、手をおでこに当てて天井を仰ぎ見る。



「あぁそうか。いや、薄々彼女は人間じゃないとは感じていた。でも、てっきり君と契約している精霊かなにかと思っていたんだが。そうか、アリシアさんは魔族だったのか」

「な⁉︎ 魔族だと⁉︎」

「はい。彼女は正真正銘の魔族です。加えて、アリシアこそが真の魔王です」



 そう簡単そうに言うと、ヘリック様は乾いた笑みを垂れ流し、他の三名は驚愕で顔を染め固まっている。私もあんな風だったのかなぁと懐かしく思う。


 固まっているお三方はそっとしておくことに決め、私はヘリック様に改めて質問をぶつける。



「アリシアは『魔族』です。ですがそんなに危険に見えましたか? 力さえ知らなければ『人種』とどのような違いがありましたか?」



 アリシアの外見はただの子どもだ。初対面の相手なら彼女に対して何の危機感も持たないだろう。そしてアリシアに害を与えない限り、彼女はその力を使うことはない。


 ヘリック様は疲れたような笑みを止め、私と目を合わせる。



「……そうだな。私たちは何も知らないのだな。はは、偏見でモノを見ないようにしていたのだが……。まだまだ私も甘いってことなんだろう」



 そう言って、ヘリック様はキレミネルス公爵とカラフィン侯爵、ゼレアフィル辺境伯に視線を向ける。



「皆さん、私は魔族と友好を築くことに賛成します。魔族相手に尊敬の念を抱いてしまいましたからね」

「そ、そこまでなのかの? そのアリシアとやらは」

「はい。彼女は……なんでしょうか? 言葉には出来ませんが、勝てないって感じてしまうんです。力とかではなく、人として」



 あぁ……そうなのだ。アリシアにはそんな力がある。人を惹きつけるような、そんな力が。彼女は強い。心が強い。眩しいくらいに綺麗で、敵わないくらいに透き通っている。

 だから私も彼も、あの少女のことが好きなのだ。きっと、彼女に会って話をすれば誰しもがそんな感情を抱くだろう。


 そう思っていた時、部屋の奥にあった扉がそっと開かれた。

 私はそこから出てきた者を見て、目を限界まで見開いてしまった。

 私より少し年下の彼女は当然のように私の正面に座る。

 そして私を見据えて言葉を紡いだ。



「そなたは必ず出来る、そう断言できるか?」



 その少女の名はレティノア・アレイオス。アレイオス王国の第三王女。確か来年に成人を迎え、滅多に民衆に顔を出さないことで知られている。昔開かれた彼女の誕生祭で見た限りだが、顔立ちがその時の面影があってハッキリと分かった。それに、金の髪に一筋黒髪が入っている者など……。少なくとも彼女以外は私の記憶にはない。


 思わぬ者の登場で混乱しつつも、私は聞かれたことに恐々と答える。



「は、はい! 全ての魔族となればダメですが、それでも一部の魔族たちとは必ず! 特にアリシアのところの者たちなら絶対に!」

「そうか……」



 そう言ってレティノア様は考えるように俯く。それを私はただ静かに見守っていた。またそうしていたのは4人のも同じようだった。

 それに王女様が出てきたことに困惑の色がないことを見るに、彼らは知っていたのだろう。だからキレミネルス公爵様は私の正面に座らず、上座の一つ手前に座っていたのだ。自分よりも位の高い者が来ると把握していたから。


 しばらくピンっと糸を張ったような静けさが部屋を包み、そしてレティノア様は口を開いた。



「なら私たちは君の下に入ろう。なに、そんなに驚くことはない。魔族云々は予想外で戸惑ったが、それ以前のことは概ね私たちの信念と同じだ」

「い、いいのですか⁉︎」



 身を乗り出して聞くと、王女様なふふっと楽しそうな笑みを浮かべ、可笑しいか? と聞いてきた。



「い、いえ。可笑しくはないんですけど……。王女様が私の下に入るのですか? いいんですか?」



 そう、そこが驚いたのだ。いや、協力してくれるってこともびっくりだけど、私なんかの下に王女様がつくなんて……。正直胃がキュウキュウと悲鳴をあげている……。



「そうだ。私は確かに『王女』だ。だが所詮は三女で継承権はほとんどない。それにまだ成人前の娘。さして権力もない。国の御旗になれる程の器でもないからな」

「そ、それでも王女様なんて……」

「なに、そなたは『貴族』すらもなくそうとしているのであろ? 私の位など関係ないではないか」



 な、何故それを⁉︎ いや、アリシアか……。ヘリック様とかについ言っちゃったのだろう……。確かに無くしたいとは言ったが、それは勢いってやつなので……はぁ。


 肩を落とし、めいっぱいため息をついている私をよそに、レティノア様は他のお歴々に声をかける。



「この決定に意見のある者はいるか?」



 そう聞くも、みんなが目を瞑ることで、ないことを示す。それに満足げに頷いたレティノア様は私にいい笑顔を向けて来る。



「ならこれで会議を閉じることにする。そしてこの瞬間、この私レティノアとキレミネルス公爵領、アドルフィン侯爵領、カラフィン侯爵領、ゼレアフィル辺境伯領はヘレナが作る国に所属したことになった!」



 そして何故か私の意見を聞かず次々と物事が決まっていく。



「領地に関してはアリシア殿がどうにかすると聞いている。なら私たちはヘレナ国王と共同で国の体制を決め、それと並行してアレイオス王国を吸収する計画も立て始めようか!」

「「「「はっ!」」」」



 結局、私はアリシアが迎えにきてくれるまで、ただ唖然と彼らの話している姿を見ていることしかできなかった。

 もしかして私って無能? と思ったがそれは今更だった。もしかしてレティノア様が王になった方がいいのでは? そう思って言ったが、めんどくさいと一蹴された……。


 私はちょろちょろと意見を言いつつ、アリシアに笑われながら国政体系を決めていった。


 もうホント……。私は必要だったのかなぁ……。

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