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65話 お菓子作り (sideヘレナ)

 トーヤとマイらの勇者組を集落に案内し、着いたばかりだと言うこともあり、私が普段使いしている家の客室に通す。

 そして何かお茶受けが何かないかと、箱型の冷蔵用魔道具の中を改める。するとちょうど誰かがとってきたであろう果物がいくつかあり少し心苦しく思いつつ、後でとって来ると謝って拝借する。

 それらを人数分に切り分けお皿に盛る。またお茶もちょうど沸いたようで、7つ湯呑みを用意してお盆に乗せる。



「お待たせしました〜。すみません少々慣れなませんので」



 私は謝罪の言葉を口にしながら、客室で待たせていたトーヤらにお茶と切り分けた果物を配って行く。



「い、いえいえお構いなく」

「な、何もヘレナさんがしなくても」



 そう言いながら苦笑いを浮かべて手を振る。そんな彼らの反応を見て、もしかして間違いがありましたか⁉︎ と驚いて声を上げてしまった。

 でも違ったようだ。何と元の世界の住んでいた国ではこれが普通の反応なのらしい。それとこう言ったもてなしを受けたのもほとんど初めてみたいなものらしく、それで少し戸惑ってしまったらしい。


 私はそっと空いている席に座り、何か他愛もない話をしようとした。だけど、それよりももっと話さなければならないことがあった。

 クッと背筋を伸ばし、机に着きそうになるくらい深く頭を下げる。



「え⁉︎ あ、あの急にどうしたんですか⁉︎」

「そうですよ! 頭を上げてください!」



 私が唐突にそんな行動に出たのでトーヤとマイは驚き戸惑っている。他の四人とりあえずは静観を決めているようだ。

 二人があわあわしているのをよそに、私はしっかりと言葉に出す。



「この度は魔王を倒してくださり、ありがとうございます」

「そ、そんな。俺たちはそうしたかったからそうしただけで……。お礼なんて」

「それでも、です。あなた達のお陰で沢山の命が救われました」



 ここのところ色々あってそれどころじゃなかった。それに自ら進んで魔族を殺しに行こうとは思えなかったのだ。

 アリシアの手前もあるし、もしかしたら分かり合えると思ってしまったからだ。

 たしかに彼らは人種を殺した。でも私だって魔族を殺したのだ。お互い様、と割り切れないのは分かる。でも……それでも希望を持ってしまったのだ。


 だからこそ私は動けなかった。しかし人種側が死んで欲しくないことも事実で……。だから被害を抑えてくれたトーヤらには感謝している。どっちつかずな私に代わり、これ以上争いが大きくなる前にその根元を折ってくれたのだから。


 私はずっと頭を下げ、嫌な役目をさせたと内で謝り続ける。


 するとトーヤが慌てて声をかけてきた。



「わ、分かったから頭を上げてください! い、いたたまれないです!」

「? はい、そうしますね」



 誰かから感謝されることに慣れていないのか、特にトーヤとマイは顔を真っ赤に染めてあわあわとしている。

 それが少しおかしくて、口元に手を当てふふっと笑ってしまう。



「どうかしたの?」



 すると何気ない感じで、白猫の獣人――ミュリアが声をかけてきた。



「いえ、このような方たちが魔王を倒したんだなぁ〜と。どこにでもいるような少年と少女なのに、と」

「それは分かるかも。わたしも初めてあった時はそう思ったの」



 トーヤとマイはそこそこの家柄の末席、ともすればそこら辺にいる平民のように見える。その実魔王を倒せるだけの実欲があるだなんて……いったい誰が思うだろうか?



「でも、いざとなった時のお二人はすっごく頼もしいんですよ」

「そうそうレイリの言う通り。 普段は頼りないけどね〜」



 あはは〜とドワーフのアネスが二人をからかうように言い、エルフのレイリもそれに同じくして微笑んでいる。



「戦っている時のお二人はかっこいいですのにね〜。なぜ普段はダメダメなんでしょう?」



 頰に手を当て首を傾げながら、心底不思議だと龍であるミネアが青い瞳を輝かせる。

 そして彼女から聞かされたのは、どれだけ普段の二人がダメダメなのか、だ。


 曰く、お酒を一緒に飲む機会があったそうで、最初は嫌がっていた二人も彼女たちの押しに負けて飲んだらいいのだ。

 するとどうだ、トーヤはなぜか泣きながら普段の愚痴を言い、あっという間に酒瓶を空にしたそうだ。そしてマイは異常なテンションで誰かと常に絡み、高笑いをしてガンガンとグラスを机に叩きつけていたそうだ。


 それを聞いて、スゥーっとトーヤらの方に視線を向けてみると、二人とも気まずそうに肩を竦めながら目を逸らした。



「だ、大丈夫ですよ! わ、私だって酔っ払ったらアリシアによく絡みますし! アリシアはよくもどしますし! みんなそれぞれですよ!」



 そうあのアリシアだってお酒に弱いんだ。勇者がそうでも恥ずかしい事はない。



「あ、で、でも! トーヤのうっかりはやめた方がいいですね。流石に女の子のお風呂を覗くのは……」

「ち、違うんだ⁉︎ あ、あれはたまたまって言うか……疲れていて気が回らなかったと言うか……」

「ねぇ……冬夜、まだいい分けするの? あの時ちゃんと反省するって言ったよね? 日本じゃ犯罪だよ? ねぇ、ねぇ?」

「うぐっ。ご、ごめん! お、俺が悪かっ……あぁぁああああっ!!!」



 ゴツン! とマイの拳骨がトーヤにお見舞いされ、トーヤは椅子から滑り落ちてピクピクとしている。



「マイ……お強いです」

「あ、いえいえ〜そんな事ないですよ〜。あははは〜」



 そうやって他愛もない話を繰り返していた。なぜかトーヤがその間床に正座をしていたが……マイやみんなが気にしていないから、彼らの中での決まりごとなのだろう。


 そんな平和な空間の中、私が建築について話そうをした時――空間が突然に割れ、そこから金と銀と青の装飾が施され、ゆったりとしたローブを羽織った少女が歩み出てきた。そしてその少女は綿よりも軽そうな髪を宙に流しながら腰に手を当て堂々と声を上げる。



「諸君‼︎ 待たせちゃったけど、わたしは帰ってきた‼︎ 今すっごく疲れてるからお菓子を用意しろい!」

「な、なっ⁉︎」

「うふふん。久々のヘレナの顔はやっぱり面白いね〜。でも早くお菓子が食べたいな!」



 その少女はどんな宝石よりも美しい青い瞳を輝かせ、誰しもを魅了しそうな笑顔を見せる。


 わたしはその少女のことを知っている。誰よりも、何よりも強い。そして私を心から信じてくれている魔族。


 私はおもむろに椅子から立ち上がり、その少女にギュッと抱きつく。



「おっ? どうしたのさ。ちょっと暑苦しいんだけど?」

「アリシア……アリシア……! い、今までどこに行ってたんですか⁉︎ お礼すら言えずに姿を消したんだと思ってたじゃないですか‼︎」

「お、おう。ごめんって。わたしもわたしで動いていてさ〜。なにぶんカレンたちと動いてて、その間はこっちにいて下さいってせっつかれてね〜。ヘレナ頑張っているようだったし、連絡しないでもいいかな〜ってね」



 そんなわけないじゃないですか! アリシアが去ってから、私の心はぽっかりと穴が空いたようだったんです。一ヶ月経っても連絡がこないし……二ヶ月経っても……。もう会えないのかもって……本気で思い始めてたんですから。


 私は今まで寂しかったお返しにアリシアをギュと力いっぱいに抱きしめる。



「う、うぐ……。へ、ヘレナ……わ、分かった……謝る、謝るからぁぁぁっ!!!!」



 小さな彼女の体は私の腕にちょうどよく収まり、とても抱き心地がいいのだ。

 私は懐かしいその感覚に嬉しく思いながら、アリシアが帰ってきたのだと再認識した。



 ***



 客室には少し気不味い雰囲気が流れていた。



「ったく、たった二ヶ月じゃん。捨てられた子犬じゃないのにそんなにならないでよ」

「す、すみません……」

「マイが止めてくれなかったらリバースしてたところだったよ」



 それと言うのも、アリシアの顔が青くなるくらいまで私が強く抱きしめてしまったのが原因だ。

 マイがそんなアリシアの様子に気づいて私を止めてくれた。多分そうしてくれなかったら、今頃客室は吐瀉物にまみれていただろう……。


 件のアリシアはプンプンと頰を膨らまれながら、器用なことに切り分けられた果物をパクパクと口に突っ込んでいる。



「これすっごく甘いね。やっぱり土地なのかなぁ」

「あ、それは思いました。俺も別の街で食べことあるんですけど、ここまで甘くてなかったですよ」

「うんうん。蜜がいっぱいなりんごって日本でも中々ないよね」



 ぷりぷりとすねていたアリシアが果物に関心を移したのを、ここぞとばかりにトーヤとマイが話を膨らませる。



「ん〜でもここまで甘いとパイには向かないかな〜。レンの実を使ったパイ好きなんだけどなぁ〜」



 と言って、アリシアはまたすねた空気を漂わせる。


 そうだった。確かアリシアとあった時、レンの実のパイが食べたい! とかなんとか言ってた気がする……。でもあの旅の間でパイはいくつか食べたがレンの実のものは食べてなかった。

 それにパイに適しているのは酸っぱいレンの実だと言われている。じゅくじゅくになるくらい蜜の詰まったこのレンの実はそれこそパイに向いていないだろう。


 またさっきみたいな重い空気になる……そう危惧しだした時、マイが躊躇しながら声を上げた。



「あ、あのヘレナさん! まだ完熟していないりんごってここら辺にありますか?」

「え、えっと……」



 突然に話を振られ、少し混乱しつつもどこかにあるだろうか……と頭を悩ませる。しかし行ってみないと分からないとしか言えなかった。



「それがどうかしたの?」

「え、えっとはい。熟しきっていないならりんごはまだ酸味があるだろうし、蜜入っていないのでパイに出来るかなぁと」

「ん〜。あったとしてもわたし作れないし、ヘレナだって作れないでしょ?」



 う……そもそもからしてパイ生地の作り方すら知らない……。どうやったらあんなものを作れると言うのか……。

 私ががっくりと項垂れていると、マイがグッと拳を握っていた。



「だ、大丈夫です! わ、わたしが作れます! お母さんと何回か作ったことあります! ざ、材料があれば……ですけど……」

「ほんと⁉︎ え? ならめっちゃ食べたいんだけど! ねぇヘレナ! 器具とかかまどとかある?」

「え、は、はい! 調理器具は台所にありますし、かまども村の方に行けばあります!」

「よし! 日本風のパイを食べさせてもらおうじゃないか!」



 レンの実のパイを食べられると知ってか、アリシアは気分が良くなったようだ。今までのすねた態度を一変させ、うきうきるんるんとスキップをしている。



「ほら早くぅぅぅ。ヘレナたち遅すぎだよ〜」



 まぁ……彼女らしくていいと思う。これはこれで彼女が帰ってきたんだと、しっかりと実感できるから。


 それから果物が自生しているところまで行き、そこにはちゃんと目的のものがあった。そしてパイを作るために必要な黄色くて酸っぱい実もいくつかとった。

 また『レーズン』『ラム酒』と呼ばれるものも必要らいしのだが……。それはアリシアがマイの記憶を除いて何もないところから作り出してしまった……。



「アリシアさんってなんでもありなんですね……」

「私もあの能力は初めて知りました……」



 厨房でパイの生地をコネコネと練っているマイの背中を眺めながら、私はトーヤと話している。

 他の人たちはみんなマイを手伝っているのだけど……。私たち二人は手伝わなくていいそうだ。……マイに曖昧に微笑まれながらそう言われた……。


 マイはせっせと生地を捏ねていたが、どうやらそれが終わったようでアリシアに声をかけた。



「あ、あの〜。ここから二時間くらい寝かせないといけないんですけど〜。大丈夫ですか」



 待ってくれますか? と聞いているのだろう。でも『寝かせる』ってなんなのだろう? 生地って睡眠が必要なのだろうか?


 私が疑問に思っていると、アリシアはくるっと指を振って、『はい、これで寝かせたことになったよ〜』と言ってたまた座布団の上でゴロゴロとしだした。



「え? あ、本当にそれっぽくなってる! すごく便利……」



 マイは感激している様子で、その生地を棒を使って薄く伸ばし始めた。そして伸ばされたそれを三つ折りにしてまたアリシアに寝かせてもらっていた。

 それを何度か繰り返したかと思えば、それを形成してそこにしっかりとフォークで穴を開けていった。

 その形成されたパイ生地かまどに入れ、生地のそこに重しを乗せて焼く。


 その間にマイはレンの実を炒め、実が透き通ってきたら砂糖とリムの汁、『レーズン』を入れた。そして次第にとろみがつきだし、そこでマイは火を消してラム酒をふりかけた。


 そして焼きあがったパイ生地に冷めたそれらを敷き詰め、その上を余っていた生地で蓋をして再度かまどに入れた。



「おし、多分これで完成!」



 待つこと少し、マイのやりきったような声とともにアリシアは飛び起きてかけて行った。



「やっとできたんだね〜! 早く! 早く食べたい!」

「あわわ、わ、わかったので揺らさないで……! お、落としちゃう」

「おおう、それは危ないところだった」



 アリシアに揺さぶられていたマイはなんとか彼女を引き剥がし、パイを切り分けてお皿に乗せていく。

 そしてそれをアリシアがだした机に並べて、私たちは仲良く席に座った。


 もちろんアリシアの幸せそうな声が響き渡ったのだが……。そういえばアリシアが何をしていたのか聞いていない、と今更ながら思い出したのだ。

 でも嬉しそうにパイを食べている彼女の邪魔をすれば……。だからそれを聞くのは後にしよう。そう私は決めた。

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