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64話 地道な作業 (sideヘレナ)

 休憩がてらに木陰に入り、ふぅと息を一つ吐いてみる。すると木々を騒つかせる風にさらわれてしまった。


 私はその風を全身に受けながら、作業をしている者たちをそっと見やる。


 木々や石を運んだり、それら組み立てたり。忙しそうだし汗をダラダラとかいてはいるが、でもみんな楽しそうな笑顔を浮かべている。


 私の選択は……これで良かったんだ。良かったのだと……そう思いたい。


 今でも少し怖いところがある。だけど、それでもみんなには幸せな生活を送ってもらいたいって……そう思うのだ。



「ヘレナも休憩?」



 木にもたれかかって身体を休めていると、胸元をパタパタと手で扇いでいるクレア姉さんが腰を下ろしながら声をかけてきた。



「はい。私はまだいけたんですけど、みんなが休憩を取れって言ってくれたので」

「まぁヘレナって朝からずっと働いてたもんね〜」

「はい……」



 私には文字魔法がある。だからこそ私が一番働かないとダメだと思うのだ。石の切り出しや木材の運搬、組み立てなどなど。私がやれば効率もいいし短時間で済む。

 アリシアからは急ぐ必要はないと言われたけど……。それでも早いことに越したことはない、と思う。


 ぽけ〜と働いている者たちを眺めていると、クレア姉さんが声をひそめて身を寄せてきた。



「ねえねえ、アリシアさんって何者なの?」



 聞かれたとしても私は本当のことを言えるわけがない。いずれ言うことになるのだろうけど、それでも時っていうのがるのだ。


 私は興味津々な姉さんにため息をついて答える。



「……秘密です」

「なんでよ〜。いいじゃない、アリシアさん全然帰ってこないんだし」

「それでも、です」

「ちぇ〜、いいもん。お母様に聞いてくる〜」



 そう言い残し、クレア姉さんはおもむろに立ち上がり、石を積み重ねているお母様の元へタッタとかけて行ってしまった。


 自由人だな〜。そんなことを思いながら、ここにいないアリシアのことをふと考える。


 アリシアはずっと帰ってきていない。集落にペチでやって来た直後に『ちょっと用事〜』と言ってどこかに転移してしまったのだ。そしてルミエとペチという名前の龍はいつのまにかいなくなっていた。



「用事って……また変なことでもするのでしょうか……」



 ペチが現れた時は本当に腰を抜かした。私はそこそこ戦い慣れているので、ある程度の実力差が分かる。で、ペチにはどうあがいても勝てなさそうって思った。戦ったとしてたら、多分王都くらいは消し飛んでいたと思う。


 だからアリシアの『用事』がとても心配になる。でもあの魔族は私にはどうすることもできないので、今は自分の出来ることをやるしかないのだ。



 みんなは自分たちが住む家を作っている。初めは私が住む城から作ろう、みたいな意見がそこらから上がったが、それはなんとか説得した。

 私は遠慮したいが、それでも城なんだから大きいものになるだろう。そんなものを作ろうとすればかなりの時間が必要になる。


 集落に元から住んでいたものたちには各々の家があるがスラムから来た者たちにはない。現在彼らは集落の家を間借りしている状態でかなり手狭な感じになっている。

 だからとりあえずは森を広げ、それで出た木々を使って家を作っている。石で補強もしているが……それでもスラムにあった家と同じような物になるだろう。


 私たちは所詮寄せ集めの集団だ。元カーコフ領の人たちには大工がいなかったし、それはスラムの元住民たちもそうだった。

 だからみんなが曖昧な知識で家を作っている。

 それでもいくつかはちゃんと家と呼べるものが完成しているのはすごい。



「そういえば、もう一月くらい経っているんでしたっけ……」



 ここのところ忙しすぎて、少し時間感覚がおかしくなって来ている。起きたら森を広げ、切り出した木を綺麗にして、それを運んぶ。たまに大きな岩を取って来たり。そんなことを繰り返している内に時がすごい速さで通り過ぎてしまっていた。


 約一ヶ月経って、ようやくスラムの住民たちの家がいくつか完成したってところだ。でも森はまだまだ広げないといけないし、城を作るってなるならなおさらだ。



「うぅ……。これって王になるかならないか以前に、国を作るのが難しいですよ……」



 そもそも素人相手に家や城を作れってのが無理がある。最初なんて柱の立て方すら分からなかった。

 何度も試行錯誤して、みんなでああでもないこうでもないと言い合って、ようやく様になったのだ。そこまで行くのに七日くらい費やした……。

 家――もっと言えば柱の立て方だけでそうなのだ。城を作るだなんて……。


 初めは、なんだかんだ言って出来るだろ〜みたいな感じだったけど、やってみてわかった。絶対に無理だ、と。



「へ、ヘレナ様ぁ〜。ちょ、ちょっとだけ助けて〜!」



 声をかけられた方を見ると、どうやら大きな岩が地面に埋まっていて邪魔になっているようだ。流石にあの大きさの岩は一般の人ではどうにも出来ないだろう。


 分かりました。と声をかけて来た少女に言い、ふっと気合を入れるように立ち上がる。


 そしてその岩に近づき、身体強化を施してからそれを掴んで掘り起こす。



「わぁ〜やっぱりヘレナ様ってすご〜い」

「い、いえ、そうでもないですよ?」

「ううん、すっごいもん!」



 そう少女は無邪気に笑みを見せる。それに私は少し恥ずかしく思い、照れ隠しに頰をかく。



「ありがとう、ございます」



 曖昧に笑ってそう言うと、少女はぺこりとお辞儀をして、まだ休んでいてね〜と自分の作業に戻ってしまった。


 文字魔法で他人を強化することは出来る。すれば今以上に効率は上がるだろうし、私の負担も少なくなるのだろう。

 だけど、強化された側は違うのだ。身体強化をかけるのは私の魔力が使われる。だけどその強化の維持にはされた側の魔力が使われる。

 私みたいに魔力が多ければいいのだが、彼らはそうじゃない。きっと魔力の使いすぎで倒れる者が出るだろうし、最悪死人すらも出るかもしれない。

 だから私は彼らに身体強化をかけないのだ。



「これで本当に大丈夫なんでしょうか……」



 自分のやっていることが少し不安に思い、ふと空を仰ぎ見る。そこには眩しいほどに太陽が燦々と照っていて、雲一つない晴天が広がっていた。

 未だ帰らないアリシアやこの作業に一抹の不安を抱きつつ、私はまた木陰に戻る。



 ***



 カン、カン、カン! と木に釘を打ち付ける音を横目にちょっと遅めの昼食を食べていた。



「はぁ……いくらなんでも遅すぎます」



 私はパンを口に運びながら、拗ねたように呟く。あれからさらに一月が経った。それでもなおアリシアは顔を見せないし、連絡の一つさえよこしやしない。

 別に魔族である彼女が協力してくれないのは……嫌だけど分からなくないのだ。だから、もしそうなのなら一言でいいからそう言って欲しい。


 国作りを始めて二ヶ月が経った。私が変装して釘などを買い出して来ているので、今ではしっかりとした家が何個か建っている。素人が作った掘っ建て小屋なので見てくれはアレだけど、それでも雨風に晒されないだけでましだ。



「でも……」



 これからどうしたらいいのかが分からない。まだ大半の住民達は狭苦しい思いをしているが、それは時間が解決してくれることだろう。

 でもそうすることが『国』を作るってことなのだろうか? そこが甚だ疑問だ。


 そもそも『国を作る』って言えば作ったことになるのだろうか? 私はそこのところをハッキリと分かっていない。お父様やお母様も知らないのだそうだ。



「そこくらいは――」



 アリシアに聞いておきたかったです。そう言おうとした時、集落を包み込むように私が張った結界に大きな魔力を持った者たちが入って来るのを感知した。



「どうやって⁉︎」



 私の結界は破られていない。なのにどう考えても結界を通り抜けて来たようなのだ。ここの結界は私の最大出力なものなのだ。

 でもその結界を抜けられ、そしてその魔力の大きさに似たものを私は知っている。



「勇者か‼︎」



 そう叫びながら、全力でその者らの下まで駆け出す。作業をしている人たちがそんな私の姿をみて驚愕しているが……釈明するのは後だ。


 幸いなことに侵入者の歩む速度は遅い。そして数は6。その中の一つが変な感じだけど、それでも危険なことには違いない。



「『♈︎♐︎♓︎』『♊︎♏︎♎︎』『♒︎』」



 私はそこに向かう最中に次々と文字を展開する。そして私には身体強化や達人の物真似がかかり、水の球が周囲を漂い始めた。

 そして腰にはいつもの短剣があることをシッカリと確認しながら最速で侵入者のところまで走る。



「出来るだけ遠くで……!!!」



 私の結界を抜けて来られるほどの勇者……。勝てるかどうかは分からないけど、その戦闘の余波でみんな一丸となって作った街が壊されては元も子もない。

 だから私は木々の隙間を縫って風をきり、邪魔な枝などは剣で切り落として進む。


 そしてその侵入者の魔力が近くなった瞬間――私はさらに速度を上げ、侵入者どもに奇襲を仕掛ける。



「腕くらいは貰いま……って⁉︎」



 私が奇襲して腕の一本を斬り落とそうと勢いよく飛び出すと、そこには以前に見た顔ぶれが揃っていた。

 それに私は一瞬怯んでしまい、目測が狂って彼らの先にあった木にぶつかってしまった。



「へ、ヘレナさんですよね? だ、大丈夫ですか⁉︎」



 そう言いながら、大きな杖を持ち、肩のあたりで切りそろえられた黒髪の少女が、木にぶつかって地面に倒れている私を心配そうに駆け寄ってくる。


 私はいてて……と痛くもないが、つい癖で言いながら腰のあたりをさすって立ち上がる。そして服に付いた土を払い、いつでも剣を振れるように意識しながら彼女――マイに目を向ける。



「マイさん……ここに何か用ですか?」



 返答次第では切りつけようと力を込めながらマイの返答を待つ。そしてその口から出た言葉は予想外なことだった。



「え? あ、あの、聞いていないんですか? アリシアさんに言われて来たのですけど……」

「ア、アリシアが⁉︎ ほ、本当ですか⁉︎」

「え、ええ……。元の世界に帰りたいなら、そうおど……お願いされて……」



 話を聞くと、どうやら彼らは昨日魔王を倒して来たばかりらしい。そして魔王を倒したはいいものの、その直後にアリシアが現れて帰りたいならここに来いと脅したようだ。そしてアリシアの正体も教えられたらしい……。



「……災難でしたね。あ、あと、魔王の討伐おめでとうございます……」

「えっと……その……はい」

「もっとヤバいのが出て来ちゃったんだけどな……」



 だ、大丈夫なはずです。アリシアに手出ししない限りはなにも害はないはず……多分……きっと……。彼女の気まぐれで迷惑を被るかもしれないけど……大丈夫なはず。



「あの……ずっと気になっていたんですけど、彼女は何者ですか? 人種……ではないですよね?」



 そう言って、私はずっと違和感を感じていた青髪女性を指差す。するとトーヤらは少し曖昧な笑みを浮かべ、言いにくそうに答える。



「あーそのー。名前はミネア。人間に変化出来る龍、です。はい」

「りゅ、龍ですか? ペチみたいなのでしょうか?」



 龍という単語には少しトラウマがある。あのアリシアのペットのペチには散々な目にあわされた……。いや、見た目からして怖いので、出来れば人型のままでいてほしい。


 私が少し後ずさりながら『ペチ』という単語を出すと、その龍であるらしい女性はヒクヒクと口を引きつらせる。



「あ、あなたアレと知り合いなのですか……」

「アレ?」

「い、いえ、なんでもないのですよー」



 おほほ〜とから笑いしてミネアは宙に視線を彷徨わせる。彼女も何かトラウマがあるのかな? と察した私は話を変えるためにトーヤに声をかける。



「あの、トーヤたちは他に何か言われたんですか?」

「あ、あぁ。わたしがそっちに帰るまでヘレナを手伝ってて〜、と」

「? それは助かるんですけど……いいんですか?」



 力の強い彼らが手伝ってくれるのは大いに助かる。たった六人だけど、それでも一人で百人力になると思う。

 だが私としては助かるが、彼らはそれで納得しているのか、と不安に思ってそれを聞く。


 するとトーヤ苦笑いながらにも、もちろんです、と答えてくれた。



「そうですか……。まぁここで話すのもなんですし、とりあえず向かいましょうか」



 そう言って私は警戒を解き、トーヤらを街の予定地まで案内する。



「あの、ヘレナさんのお手伝いって何をすればいいの?」



 森を歩いていると、後ろから細い鈴のような声がかけられた。私は少しだけ視線を向けながら、白猫の獣人であるミュリアに大まかなことを説明する。



「へ、ヘレナさんを王になるんですか⁉︎」

「あはは〜そうなんですよ。確か……レイリさんでしたっけ? 私も今でも信じれませんから」



 ぽりぽりと頰をかき困ったような笑顔を向ける。王になるのが嫌なのではない。ただ……自分がそうなるのだという実感が今でも持てないだけなのだ。現実味がなさすぎて、日常から離れているからこそ、私は戸惑ってしまう。



「でも、やるって決めたんです。家族も住民の方々も、それにアリシアも応援してくれていますから。期待に応えたいんです」



 もう直ぐですよ、そう言って歩く速度を上げる。


 私はまだ自覚とかはない。それにまだどこかで戸惑っているところがある。でも、それでも頑張りたいと思う。

 みんなを幸せにしたいから。自分だって報われたいから……。だからせっせと今を頑張る。いつか来るその日を楽しみにしながら。

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