62話 選択
――放っておいてほしい。
今はただただそう思う。
ヘレナが頑張り、彼女の家族のみんなも汗水を流している。スラムの住民たちも集落の人種たちも、『今』を生きるために必死になっている。
そんな努力している者らをなにも苦労していないような奴らが邪魔していいわけがない。
――せめて普通に生きたいと願うのは悪いことか?
――ほんの少しの幸せを望むのはダメなのか?
君たちはここにいるどの者たちよりまともな生活をしているじゃないか。スラムやあの集落に住む者たちはついこないだまで食うにも困っていたのだぞ?
ほんの……ほんの小さな幸せじゃないか……。それなのに何故それを寄ってたかって壊そうとするんだよ……。
***
「な、なんだこれは……」
「ちょ、ちょっと! なんで軍がスラムを襲ってるのよ!」
ヘレナ父やヘレナ次女が外の異変に気付き腰を抜かし、身を震わせている。ヘレナ母や兄、長女も窓の外を見て声も出なくなっているようだ。
この家を国の軍や冒険者が包囲していたのだ。そしてスラムのあちらこちらから何かが壊れるような音もここまで届いてきていた。
「まぁだいじょうぶだよ。分かっていたことだからね」
「ど、どう言うことだ⁉︎」
「あれ? ヘレナ母は話してないんだ」
ボソッと呟くように言うと、ヘレナ父が目をかっ開いてそう尋ねてきた。
しかしヘレナ母はヘレナとの話を聞いていたはずで、スラムが襲われることも知っていたはずだ。
どうなの? と視線で問うと、ヘレナ母はうなだれて、はいと短く答えた。
「ふーん。まぁ話しにくいことだしね。ああそれとスラムの人種たちはわたしが守っているから安心して」
「そ、そうなのか」
「うん。安全な場所に全員転移させた。あぁヘレナ以外だけど」
指をくるくる回し、安心させるようにゆっくりと言う。
するとヘレナ以外と聞いたヘレナ父は勢いよく立ち上がり、突っかかって来る勢いでこちらに詰め寄ってきた。
「ど、どう言うことだ‼︎ な、なぜヘレナだけを‼︎」
「うっさい。あの子にはここが分岐点なんだ。わたしはあの子に選ばせるためにここにいる。ヘレナ母なら知っているよね」
それを魔法で押し返しつつ、軽くそう言って身を強張らせているヘレナ母には目を向ける。
「はい……知って、います……。それが必要……なのですよね」
「うん。あの子は今日選ぶだろうよ」
「そうですか……」
あぁそうともさ。スラムの住民たちは集落に送った。そして彼らはここには戻って来ることは出来ない。
それに最近の彼女は大体の答えを見つけ出したように思える。加えてこの事件だ。それが起爆剤となって彼女の中でどちらかに傾くことになるだろう。
わたしとヘレナ母が話し合っていると、おいてけぼりだったヘレナ父が声をあげる。
「お、おい! もうわけが分からん! 説明してくれ!」
「えーめんどい。……だけど、ヘレナが来るまでなら暇つぶしとして話してあげるよ」
そうして私はバカ勇者と戦おうとしているヘレナを見つつ、ヘレナの家族たちに改めて視線を向け、口を開く。
ことの始まりはカーコフ領に貴重な金属が大量に眠っていると分かったことだった。
勇者の中にどこに鉱脈があるのかわかるものがいて、それで判明したんだ。
そしてそれが分かった国の連中はこう思ったのだ。
――カーコフ家を富ませるわけにはいかない。
ずっと見下していた相手に頭なんか下げたくなかったのだろう。
大量の貴重な金属をがあれば一財産を築ける。そしてそれは度を越すくらいのもので、金銭的に厳しい貴族たちはカーコフ家に援助を求めることもあるかもしれない。
そんな金のなる木を持ったカーコフ領はたちまち発展していくだろう。
金属厨のドワーフや鍛治師がたくさん訪れるだろうし、その者たちが作ったものを求め冒険者も大勢訪れるだろう。またその集まってきた者たちを目当てに、店を出す者たちがたくさんきて、そうやって街に人種が集まれば商人も進んで来るようになる。
ほら、たった『金属がある』ってだけでこうなるのだ。
「で、ですが! あの時の私たちにはそれを掘り起こすことなんて……」
「はは、こんな状況だからだろうけど、落ち着けばヘレナ母だってわかることだよ」
その掘り出しをドワーフやらせればいいのだ。
たしかに元手は必要だけど、少ない資産でも協力してくれるドワーフは必ずいる。あいつらは重度の金属好きだし、先見の明を持つものも多い。
協力すれば必ず発展すると分かるし、自分たちの地位だって確保できる。それに酒好きでもあるあいつらはそれ目当てで手を貸してくれるはずだ。
元カーコフ領は農業には全く向かない。だけど職人の街、商業の街としては最良に近いのだ。
肥沃な土地なんてのはいくらでもあるが、職人たちが住みやすい土地ってのはなかなかない。それに引きこもりのドワーフが勝手に集まってくるってのも最高な条件なのだ。
だからこそ、国の貴族らはカーコフ家から領地を奪った。そうやって発展するのは目に見えているし、それに合わせて爵位を上げる必要が出て来るからだ。
「だけど一応伯爵になったし同じじゃないの? ……お金は貰えなかったけど……」
「ヘレナ次女もそうだけど、落ち着けば分かるよ。まぁまだヘレナ来ないし話してあげる」
全く違うことだ。例えば『男爵』という地位の家が全部平等ってわけではないはずだ。その『男爵』って位の中でも明確に区分けされている。お金やコネの量とかがそれに影響する。
そして君たちは『伯爵』ではあるが、どの貴族家よりも資産、コネがないって状況だ。今のカーコフ家はただ爵位が高いだけで、発言権なんて欠片もない。たぶん一番下の爵位の貴族よりも弱いだろうね
でも発展していく街を治めているとなれば別だ。懐は富むだろうし、コネを求める者らも現れるだろう。そうしてカーコフ家は見下すことが出来ない家になってしまう。
それを嫌って爵位を上げて領地を奪った。そして嫌がらせのつもりで金を与えようとした。
「で、ですがクレアの言った通りお金は一銭もらえませんでしたよ? たしか事情によりなくなった……とかなんとか」
「…………。そうか、長女に限らずヘレナ以外はこのことを知らないんだっけ……」
「ど、どういうことですか?」
不意にカーコフ領の惨状を思い出したわたしは暗い表情を浮かべてしまう。それに不安になったヘレナ長女は眉を落として不安そうに聞いてくる。
どう答えたものか……と考えたが、大まかなことだけを話した。
「だから今はわたしの側近が作った集落で住んでいるよ。そこにスラムの住民たちも転移させた」
「うっ……奴隷に……ですか。彼らにはなにも非はないですのに……。有難うございます……アリシア様」
話を聞いた彼ら彼女らは泣くように力なく地に伏せ、口々にそんなことを言ってきた。
わたしはそれをどうともおもわずに見やりつつ、別にいいと軽く言葉をかける。
「あれはわたしとあいつの問題だった。本来なら街と村もそっくりそのまま守れるはずだったんだ。それにわたしがヘレナを気に入っていて勝手にしたこと。君たちがそうする必要はない」
はよ頭を上げろと言いながら手を振る。
「で、ですが……」
「ですがもなにもないよ。まぁそう思っておきたいならそう思っていてくれて構わない。あと、様はやめてくれ。さんづけか呼び捨てでいいよ。そっちのが気軽でいいからさ」
少しして落ち着きを取り戻した彼らはそっと立ち上がり、分かったという旨を聞かせてくれた。
なら改めて話しに戻す。そう告げて、カーコフ家にお金が与えられなかった理由を話してやる。
「わたしの側近の一人が奴隷にされそうだった領民たちを救ったのが原因なんだよ」
「えっと、それってもしかして……」
「ああ、そうだよ。ヘレナ次女が思っている通りのことだ」
ようはカーコフ領の領民たちを奴隷として売ったお金をカーコフ家に与えようって画策していたのだ。
本当に胸糞が悪い……。彼らが命を賭してでも守りたいと願ってた者らを金に変え、あまつさえそれを褒賞として渡そうとしていたのだ。ほら守りやすくなっただろ? とか言いたかったのだろうか……。
ヘレナの家族たちも一様にそのことを理解し、拳を固く握り締め肩を震わしている。
当たり前だ。わたしだって今すぐにこの国を滅ぼしたい。でも彼らはそれができるだけの力はないし、ヘレナにはトラウマがあってそれが出来ない。
「だけどわたしの側近が邪魔したせいでそれが出来なくなった。だから代わりとしてこのスラムの屋敷? を与えられたんだ」
領民たちとも言えるお金を嬉しそうに受け取る彼らを見られなかった貴族たちは、惨めに生きる姿を見ようとここを与えたのだろう。
「でもヘレナはこのスラムを変えてしまった」
「……いけないことですの?」
「いや、素晴らしいことだよ。わたしたちからすれば、だけどね。お国の連中はそうは思えなかったようだけど」
このスラムはいわゆる平民版のカーコフ家みたいなものなのだ。自分よりも下の者がいることで安心出来るのだ。その法則は貴族と平民の間でも違いはない。
しかしその見下しているものたちが、どんどん自分たちの立っているところまで近づいてくればどう思う?
答えは簡単だ。拒絶するに決まっている。貴族たちがカーコフ家にしたことと同じように、平民たちも同じことをしようとする。
そしてスラムを発展させていくカーコフ家をよく思わないのは国も同じだ。
だからこのスラム取り壊しには軍と冒険者たちが関わってきている。
――自分たちよりも惨めに生きろ。
――こっちに来ようとするな。
そんな思いで彼らはつき動いている。
差別するのは楽しいからな。見下せれば気持ちがいいからな。一度それを味わっちゃえばなかなか離れられないよな。
そんな醜い欲望を『汚い』とも感じないなんて……もうどうしようもないんだよ。
「だけどさ、ヘレナは違ったんだよ。あの子は今必死に戦ってる。自分自身と死に物狂いで戦っている」
「ど、どういうことですか?」
「ふふん。彼女は選択しなければならない。どっちを選んでもわたしはそれを尊重する。だけどわたしは……」
あとはヘレナから聞いてよ。そう言って一歩その場から後ろに下がる。
その瞬間――ドガァァァ! という音とともに天井をぶち破り、わたしがさっきまで立っていたところに何かが落ちてきた。
「アリシアはいますか‼︎」
「うんいるよ。攻撃されかかってビックリだよ!」
「うひゃ⁉︎ そ、そんなところにいたんですか⁉︎」
ああ、いるよ。ちょっとは下に誰かがいるかもと考えてよ。わたしじゃなかったら死んでたかもよ? まぁ……君の姿を見ればそんなことすら考える余裕がないんだろうね……。
「へ、ヘレナ……。あなた……そんなに血まみれで……。ど、どう知ったっていうんですか⁉︎」
「お、お母様……これは……」
服を赤に染め、頰にも血の跡が付いている娘の姿を見たヘレナ母は、取り乱したようにヘレンに詰め寄り顔を心配そうに覗き込む。
わたしは母に抱きつかれているヘレナをそっと見つめ、声をかける。
「いっぱい殺したんだね」
「……はい」
そう言ってヘレナは落ち着かせるように大丈夫ですと耳元で囁き、ヘレナ母に腕を解放してもらう。そしてわたしと正面から向き直り、クッと表情を引き締める。
「どうだった?」
わたしとヘレナの会話をヘレナの家族たちは言葉も出せずに、ただ見守っていた。
何か言いたい、駆け寄って大丈夫か聞きたい。そんなことが彼らを見れば伝わってくるけど、今だけは何もしないでもらいたい。
いつまでも待つよ。そういう意思を込めて、そっと目を瞑りヘレナが口を開くのを待つ。
そしてどれだけの時間が経ったか分からないが、ヘレナはそっと言葉を紡いだ。
「とても……とても気持ちが良かったです」
そう言葉にする彼女の笑顔は酷く歪んでいた。この時に限っては外の慌ただしい騒ぎもシンっと静まり返ったかのような錯覚すら覚えてしまう。
ヘレナの家族が表情を驚愕に染めている中、ヘレナはただただ笑顔のままで語り続ける。
「血が、血がですね。こう、ブシャ〜って飛び散るんですよ! それがとっても気持ちいんです! なんて言えばいいんでしょうね……。えぇっと、命が飛び散る? みたいな感じですっごいんです!」
「……知ってる。完全に同意見だよ」
人種にとっての血液ってのは『命』の流れみたいなものだ。それが体から吹き出る様と言ったら……。特に首を切り落としたりとかした時は最高に美しいんだ。
「それでですね! みんな逃げていくんですよ! 何人か殺しただけなのに、みんな恐怖に染まって、果てには命乞いなんてし出すんですよ? そっちから攻めてきたっていうのにですよ?」
「人種はバカばっかりだからね。自分の欲を満たすだけに攻めてきて、無理だったから助けてくれる〜ってね。そっちは謝ったってやめないくせにね」
その醜くささを見るのが最高に愉しいのだ。普通の命乞いもいいが、それだとなおいいのだ。
ヘレナは狂ったように笑みを浮かべながら、ガシガシと頭をかいて涙を流す。
「それでですね。ずっと追いかけてきてウザかった勇者がいたんですよ。そ、その勇者をこ、殺しかけたんですよ」
ああ、それも見ていた。確かヘレナは5文字の文字魔法を使ったのだ。それによって生み出された風によってレンヤとかいった勇者は体の殆どを切り刻まれた。
「そ、それでですね。物陰からこそこそと別の勇者が出てきて言ったんです。謝るから殺さないでくださいって。ははっ、もうそれでひとしきり笑って、哀れすぎて見逃しちゃいましたよ」
あのレンヤって勇者はヘレナを殺す気で不意打ちしてきたんだよ? 殺す気なら殺される覚悟もしておけよ。
危なくなったから許せ、殺す気だったけど殺されたくない。そんなのは通用するわけがないじゃないか。この世界はそんなに甘くない。ただヘレナが甘いから殺されずに済んだのだ。
ヘレナはボロボロとただひたすらに涙を流し、怖いからなのか肩を抱いき、唇を噛んでぶるぶると震えている。
「それで……それでですね」
ついに立っているのも辛くなったのか、ヘレナはガクッと膝から床に落ちてしまう。
それを見ていた家族たちは反射的になんだろうがみんなが駆け寄り、縮こまってわなわなと泣いているヘレナに声をかける。
「お、おい大丈夫か⁉︎」
「ヘレナ、落ち着いて下さい‼︎」
「そ、そんなに辛いならもう話すな!」
「な、何がどうして……」
「だ、だいじょうぶ。わたしたちがいるから……」
そんな彼らをよそにわたしはつかつかと割り入り、蹲っているヘレナの顔を掴んでこちらを向かせる。
「な⁉︎ ア、アリシアさん⁉︎ 何をするんですか⁉︎ へ、ヘレナはいま――」
「黙れ。これはこの子の問題だ。君らが立ち入っていいことじゃない」
「そんな‼︎ 私たちは家族です‼︎」
「だからだよ。テレサ。ヘレナは君らには遠慮するだろうし、迷惑なんかもかけたくないって思っているんだよ」
ヘレナは本当にお人好しなアホだ。誰かに迷惑がかかるくらいなら自分一人で抱え込むような、どうしようもないアホだ。
だけどわたしだってそうだ。だからヘレナの気持ちが痛いほどわかる。重荷を背負わせたくないんだろ? 重さを知っているからこそ、共倒れしてしまいそうで話せないんだろ?
わたしは『支えあう』っていうのが理解出来た。だけど、それでも誰かに話すってのはまだ少し難しい。だけど聞くくらいは出来る。それにヘレナが通っている道はわたしの通ってきた道なのだ。
わたしには彼女は重荷にならないし、潰れるなんてこともない。
ヘレナ母をそっとどかしつつ、赤く腫れた彼女の瞳をじっと見つめる。
「君はここにいる家族を殺したいかい?」
ヘレナの顔を彼女の家族たちに向けさせそう問う。
「いえ……思い、ません」
ボロボロなヘレナはえずきそうになりながらも、どうにかそう言葉にする。
わたしはそれに嬉しそうに深く頷き、同じような質問をそっと投げかける。
「じゃあ君は集落やスラムに住む者たちを殺したいかい?」
「したく、ありません……!」
力強く拳を地に打ち付けてヘレナはむせび泣く。
そんな彼女にだいじょうぶだよ。そう顔を近づけて耳元で囁き、ギュッと彼女の体を抱きしめる。
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」
「でも……!」
「だいじょうぶ。そう思えるってことは、まだバケモノなんかじゃない」
ぽんぽんと子どもをあやすように彼女の背を叩き、さらに腕に力を込める。
「バケモノってね、大切な人さえも殺したくてたまらなくなるんだよ。それで、そうなるには何か一線を超えなくちゃいけない。だからヘレナはだいじょうぶ」
わたしみたいにはならない。そう確信を持ってヘレナに告げる。
あの時のわたしならルミエやカレンですら殺していただろう。なぜなのかは、それはわたしが『悪』の塊だからだ。
ヘレナはわたしの過去を知っているからこそこんなに怖がっているのだろう。多分、アレイシアは意図的にこうなるように仕組みやがったのだ。
自分の求めていた存在になるかもしれない、と。随分とあいつもダメなやつだ。わたしに偉そうによく言えたものだよ。
ヘレナは大切なもの――家族や領民たちまでも手をかけることを怖がっているのだ。それと血の欲に埋もれてしまうこともだろう。
でもそれはだいじょうぶだ。だって君にはこんなにも支えてくれる者たちがいる。
だからヘレナは大丈夫なのだ。
「ヘレナはバケモノになんかならないよ」
「ですが……‼︎ 殺すのが気持ちいのも事実なんです‼︎」
懺悔するようにそう叫ぶ。
そんなヘレナを髪を撫でて落ち着かせる。
「大丈夫。普段は我慢できるでしょ? 今はそうでも、昨日とかは殺したくて殺したくてたまらなかったってわけじゃないでしょ?」
「そ、それは……はい」
「あれだよ。ヘレナはちょっと殺しが好きなだけ。別の好きなことがあれば無視できるものなんだよ」
わたしみいに常に誰かを殺したいって思っているわけじゃないんだろ? なら君はまだまだ大丈夫だ。わたしみたいになるのは……それこそ君の寿命程度では無理だよ。といっても抵抗しなければなのだけどね。
「ヘレナは大丈夫。今は興奮が冷めてないだけですぐに落ち着くよ」
「そう、でしょうか……」
「うん。きっとすっごく落ち込むんだろうけどね」
ふふっと軽く笑ってやり、もういいねと腕を解く。
「あちゃー鼻水が……どうするのさ……」
「うひゃ⁉︎ べ、弁償……できません」
「うふふん。なら君の答えを聞かせてくれればいいよ」
お金がないなら別のものってね。
ヘレナは深く呼吸をし、跳ね上がる胸の鼓動を落ち着かせている。涙でグチャグチャな顔も服の袖で拭い、シッカリと言葉にしようと身を整える。
そうしてヘレナはわたしの目を真っ直ぐに見つめ、決意したように固く閉ざされた口を開く。
「わたしは――」
はは、君はそんな選択をするのか。
あぁだからこそヘレナを見るのは楽しいのだ。
多分君が初めてなのかもしれない。いや、あのアホはこれを真に望んでいたのかもな。
人種は本当にどうしようもなく汚れている。だけどそんな汚れのせいで見にくいが、確かにヘレナのようなキレイな者がいるのだ。
わたしはそんな面白い者にはとっても興味がひかれるのだ。
ならもう少しだけ力を貸してあげようじゃないか。




