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60話 選択肢 (sideヘレナ)

上書き保存はこまめに……。全部消えたらやる気ががが……

 ――ヘレナの国を見てみたい。


 ――その国の王様は君がいい。


 ――心の底からそう思っている。



 そう言われたとき、私はとても……とても嬉しくなった。認められている。信頼されている。しかもあのアリシアに言われたのだ……嬉しくないわけが無いじゃないか。


 認められた……信頼された……。しかしそうやって心を躍らせていたが、改めて自分自身を見つめてみればどうだ? 私は貴族相手にはとても気弱で、それに政治なんて全く出来ない。私にできることなんて、精々歴史か魔道具に関してのことだけだ。


 王様の仕事は国政を円滑に進めることと、外国との戦争回避などの交渉だ。そんなことを私が出来るかと問われれば、出来るわけがありません! としか答えようがない。


 だからこそ私はアリシアに無理だと言ったのだが……『出来るやつにやって貰えばいい』そう簡単に言われた。

 でもそれでは私はただのお飾りになってしまうじゃないか……。アリシアはそう言いたいのだろうか……私には人形としての価値しかない……と。


 でも違った。王様って別にそれらだけが仕事じゃないらしい。『民が幸せに暮らせる街にする』確かにこれなら私にも出来そうではある。ようは領地が大きくなっただけで、今までと同じようにやればいいだけなのだ。いや流石に私の器量不足過ぎて、出来るわけがない。でも努力すれば……でも。



 頑張れば、いや無理だ、でも頑張れば、いや無理だ、でも……。そんな堂々巡りをしているとアリシアが暗い顔をして声をかけてきた。


 この国から追い出される。スラムが滅びる。でもそれは知っていたことだ。アレイシアさんにそう教えられ、アリシアのところでお世話になろう。そう言うことになっていた。


 しかしそれは無理だ……と言われた。思い返せば、一度アリシアに却下されていたな。今日は色々あって記憶が混乱している。


 それにアリシアがそういうのも考えれば分かることだ。


 ――彼女には人種を守る理由がない。


 私はアリシアの気まぐれか何かで目をかけてもらっているが、その他については違うのだ。それに私は強制できるほど偉くない。


 押し黙っていると、代わりにとアリシアが三つの道を示してくれた。アリシアの鳥かごに入るか、集落で隠れ住むか、私が王になるか……の三つだ。また、後者の二つに関しては手を貸さない、とも言っていた。でも一番初めのは私が選べないと知っているのだろう。


 アリシアはそう選択肢を出してくれたが、他にもないわけでもない。アリシアもそう言っている。

 私が考えられるのは、見殺しにすること、私が王にならずに国を作ることの二つだけ。でも前者はありえない。そして、アリシアが手を貸してくれない以上、私の『力』が最も重要になるので、私を『王』に据えるのが一番都合がいいのだ。


 よって私が選べるのはアリシアが出した選択肢の中からだけだ。


 そしてその中で一番安定していて安全なのは『集落で隠れ住むこと』だ。あの集落には私が使える最上の結界が張られている。だから決して襲われることはないだろう。それに衣食住も確保できているので、ほとほと最高に近い。

 今の世代は無理だが、事を上手く運べれば次世代のものたちは他の街で暮らせるようになるかもしれない。

 短所を挙げるとするのなら、いささか娯楽がなく、閉鎖的なところくらいだろう。しかしそれ以上に利点が勝っている。


 しかし……でも……‼︎ 私だって分かっているのだ……! 市民にとって一番何がいいのかなんて……分かっているのだ……。


 確かに集落に隠れ住むのはいい案ではある。でも、『見つかるかもしれない』という不安がずっと……ずっと付きまとってしまう。それは利点を凌駕するほどの短所になってしまう。

 だから……王になるならないは置いとくとしても、国を作るのが一番いいってことくらい……分かっている。

 そして国を作れば周辺諸国は黙っていないだろう。もし交渉を上手くしたとしても……この『アレイオス王国』とは戦争になる。この国はそれほどに汚れている。

 しかし、私にはそんな交渉が出来るような知り合いはいないので、周辺諸国を回避するのは不可能に近い。


 そんな中で私には……私の国がどこからも侵略されないようにする方法がある。


 文字魔法って威力調整こそ出来ないが、威力と範囲は最高に近いのだ……。

 たとえ何百、何千……何万の軍が襲ってきたとしても負ける気がしない。勇者は……私が相手にすれば殺してしまうので、流石にアリシアが対処してくれるはずだ。確かアレイシアさんとそう約束していた気がする。


 それなら簡単なことじゃないか――


 殺して殺して殺して殺して……殺し尽くせばいいのだ。襲ってくる軍を全て鮮血の海に沈め、丘の上で嘲笑ってやればいい。それを侵略されなくなるまで続ける。意気を完膚なきまでへし折り、攻めてくれば殺すぞ? そう脅せばいいのだ。


 ――そんな方法を取り続けた私は……いつか……。


 多分、アリシアの言った『危険』はそれだ。私が壊れてしまわないか……ただそれだけが心配なのだろう。


 市民たちにとって一番いい方法なのは分かっている。私だってこの方法を取りたいのだ。


 でも……でも……。『バケモノ』になんてなりたくない……! 私は軍を赤い水たまりに変えていく最中に血に狂うだろう……。もし平和を勝ち取ったとしても……私は誰かを殺さずにはいられなくなる。そして……それは守りたいと願った市民たちをも手にかけてしまうかもしれない……。


 ――わたしは……わたしは……。


 何か選ぼうと混乱しながらも口を開くも、その先を出すことが出来ない。頭もカァーととても熱い。


 恐怖故に……私は『集落で隠れ住むこと』を選んでしまいたい。……だけど、真に住民たちを思うのなら……。


 アリシアは見かねて……いや、猶予を与えてくれた。『自分で選べ』『君の選択を尊重する』そう言ってくれた。きっとそれは本当のことだ。アリシアは私がどんな選択をしたとしても……それを認めてくれるのだろう。


 怖くなって逃げても……立ち向かっても……。


 多分これが一番重要な扉だ。『扉』は二つある。


 しかし私は……私には……決められない……。



 ***



 あの夜から既に二回朝を迎えていた。しかし……私は未だに結論を出せていない。


 今日は珍しく教師としての仕事は休みだ。それにもうじきスラムから出て行かないといけなくなるので、今あるお金を削ることにした。だから今日は学園に行かなくてもいいし、狩に出なくてもよくなったのだ。



「はぁ……」



 一昨日からずっとため息ばかり吐いている気がする……。今、家には家族が勢ぞろいしている。お父様にお母様、兄さんに姉さんが二人。あとアリシアがだんごを食べながらゴロゴロしているくらいだろうか。



「はぁ……」



 膝を抱え、ずっとため息をついているとぽんぽんと肩を叩かれ、心配そうに声をかけられる。



「だいじょうぶか?」

「兄さん……」



 首だけ動かして振り返ると、眉間に少しシワを寄せて私の顔をうかがい見る兄さんがいた。



「心配してくれてありがとうございます。ですが……これは私が決めないといけないことなので……」

「……そう、か。……辛くなったら頼ってくれよ? 兄妹なんだからさ」

「はい……」



 ありがとう……兄さん。目を伏せて私に背を向ける兄さんに礼を言う。



「はぁ……」



 現在、家族とアリシアは居間にいる。対して私は寝室にいる。こうなったのは今日は一人にして欲しいと今朝みんなに言ったからだ。まる一日休みのなのでしっかりと決めたい……そう思ってのことだ。


 でも、私がそんなことを言ったために、みんなにはすごく心配をかけている。


 ――家族に事情を話していいものなのか……。


 そんなことすら私は決めることが出来ないでいた。



「あちらは……アリシアは普通そうですね」



 居間と寝室を区切る布には結構な隙間があって結構向こうが見える。茶色、灰色、金色……その中で鮮やかなのは金色だけだ……。

 アリシアは……今何を考えているのだろう……。早く決めろ! とか思っているのだろうか? はは、それなら本当に……。

 家族のみんなは何を思っているのだろうか……。



「って……そんなことを考える余裕なんてありませんよ……」



 うじうじうじうじ……。ああでもこうでもないと私はずっと選ぶことが出来ないでいた。

 ただの二択だ……。そしてどれが正解なのか……それも分かっているのだ。でも……私には『バケモノ』になる恐怖しかなく、衝動に打ち勝てるようには全く思えないのだ。


 血を流さずに戦勝を集結させるって手も考えはしたのだ。でも……大人数を相手にするにはどうしても文字数が多くなってしまう。そして文字が多くなればなるほど『威力』は大きくなる。

 そして、戦略家な訳がない私にはそれ以外の方法が見つからない。無血で終戦など……出来るわけがないじゃないか……。戦争とは『命』を消費して行われるものだ。



「わたしは……わたしは……」

「ヘレナ、アリシアさんがご飯を用意してくれた。お前も一緒にどうだ?」



 膝を抱え、どんどん身を小さくさせ呼吸すらも忘れていると、背後から静かに声をかけられた。



「お父様……。はい、わかりました」



 振り返って返事をして、ゆっくりと立ち上がる。あまりお腹は空いていなかったが、私を気遣うような声を無下に出来ないので大人しく居間に向かう。


 居間には食卓を囲んでいるみんながいて……そのみんなが私を心配そうに見ていた。いや、アリシアは料理に夢中だ。

 そんないつも通りのアリシアを見て少し疲れが取れたような気がする。



「お? 来た来た〜。ほら、早く席につきなって。これカレンが作ったのだから美味しいよ〜」



 言われて食卓の上を見ると、そこには私たちが食べていいの? ってくらい高級そうな料理が敷き詰められていた。多分一皿で半月は食べていけそう……。内心恐々としつつ、そっとアリシアのとなりに腰を下ろす。



「えっと、その……どうしてですか?」

「ふふん。ヘレナがずっと頭悩ませているようだし、美味しいものでも食べて気分転換に〜ってね。人種の料理も美味しいけど、流石にカレンほどじゃないからね〜。美味しいよ〜」

「そ、そうですか。私のために……ありがとうございます」



 感謝の念でいっぱいの私は戸惑いながらもどうにか礼の言葉を出す。



「ねぇねぇ、アリシアさんって何者なの? 貴族様?」

「え、えっと……それは……」


 すると、私のとなりに座る次女のクレア姉さんが耳に顔を寄せ、声をひそめて聞いて来た。それにどう応えたものか……と返答に窮していると、アリシアがなんでもないような感じで答える。



「わたしはヘレナのことを気に入っている謎の女の子だよ〜。それと貴族でもないからね。放浪人とでも考えてていいよ〜」

「うっそだ〜」

「こら、アリシアさんはとても素晴らしいお方です。そんなお方の詮索はよしなさい」

「は〜い分かりましたよーだ。ちぇ〜ヘレナだけが知ってるのズルいな〜」



 お、お母様、クレア姉さんを止めてくれてありがとうございます。

 私は家族に諸々の事情は隠しているが……その中でもアリシアのことは一番言えない。いや、アレイシアさんも同列か……。原初魔王と神だなんて……きっと容量がパンクしてしまう……。



「まぁいいじゃんわたしの正体なんてさ。それよりも今はご飯を食べようよ。せっかくカレンに作らせたのに、冷めたらもったいないでしょ」

「そ、そうですね」

「そうよね〜」



 言って、改めてこの卓の上を見る。しかし……見た目からでも高いのがありありと分かってしまう。そのせいなのか私たちカーコフ家はなかなか皿に手をつけられないでいた。



「ちょっと、ヘレナ先行きなさいよ……」

「さ、流石にそれは……。お、お父様行ってくださいよ!」

「お、俺か⁉︎ え、えっと……メアリー、長女なんだしお前がいけ」

「娘を生贄にしないで下さい‼︎ ほ、ほら、アンドレ行きなさい!」

「ね、姉さんはいつも理不尽すぎです! お、お母さ――」

「ふふふ……」

「うぅ……」



 よし、兄さんごめんなさい。でも仕方がないのです。これは家族会議で決まったこと……さぁ! 行って下さい!


 そんな風に家族内でなすり付け合いをしていると。



「ふふん。やっぱり君らってヘレナの家族だよ」

「うぅ……反論できないのが辛いです……」

「いいじゃん賑やかでさ。じゃあわたしがお先で行くよ」



 アリシアはおもむろに手を伸ばし、脂滴る大きなお肉にナイフを入れ、力を入れずに切られていったそれを自分の皿に乗せ、フォークでさしてパックっと口に放り込んだ。



「ん〜〜! やっぱ久しぶりのカレンの料理は美味しいね〜。ほら、君らってすんごく運がいいんだよ? なくなる前に食べちゃいなって」



 アリシアのいかにもな食べっぷりを見てお腹がならなかった者など……この居間には居ないだろう。

 アリシアにそう言われ、みんなはそろ〜っと手を伸ばし始めた。そしてその中には当然私もいて、さっきまでなかった空腹感に襲われていた。



「じゃ、じゃあ……いただきます……」



 私は目の前に置かれている黄金の鍋に手を伸ばす。お玉ですくって器にその中身を移すと、そこにはキラキラと光を反射する透明なスープが入っていた。見たところ具はない。疑問に思って鍋の中を覗いて見ても、やっぱり具と言えるものがなかった。

 これは……どうなんだろう。少し心配になりながら、でもカレンに限って……そう思いながらそっと器に口をつける。



「っ⁉︎」



 な、なんだこれは……。口に含んだ瞬間には濃厚で香ばしい風味が漂って来た。それが喉を通って行くにつれ、さまざまな野菜の風味が鼻から抜けていった……。

 正直、この表現の仕方はあっていないと思う。もっと何か……複雑で、でも奇跡的なつりあいがとられているような……。

 わ、分からないけど……アリシアの言う通りすっごく美味しい。



「な、なにこれ⁉︎」



 叫ぶような声が上がった隣にふと目をやる。どうやらクレア姉さんはプリススまたは『お米』と勇者がそう言っていたモノを様々な具材で炒めたものを食べていた。

 たしかあれは……『ちゃーはん』と言うものだった気がする。勇者が伝えた料理で、私も旅の途中で食べたことがある。


 ……アリシア。なんていうか、自分が食べたかっただけなんじゃ……。


 そう思っていると、私やクレア姉さんのように目を見開き声を上げている様子がそこら中に見える。



「ね? 美味しいでしょ?」

「お、美味しいなど……。もはやこれはそんな次元の話じゃないですよ……」

「はは、たしかにヘレナ母がそう言うのも無理ないよ。どれだけ頑張っても、人種は時間がないからね。追いつけるわけがない」



 その通りだ。この料理は人種程度じゃ到達できない場所にある。人種の寿命なんて、魔族から見れば毛先ほどもないんじゃなかろうか。これに追いつける人種など……いたらすごいよ。

 それと……何ですか、ヘレナ母って……。



「アリシア……お母様の名前はテレサです」

「えーべつにヘレナ母でいいじゃん……。分かりやすいし」

「……そうですね」

「でしょ」



 うぅ……そんな自信満々に頷かないで……。どれだけ言ってもアリシアが呼び方を直さないだろうと思って引いたんです。



「はぁ……食べましょうか」

「だね〜」



 思い思いの料理に手を伸ばし、私たち家族とアリシアは舌鼓を打つ。美味しい料理のおかげか食卓には明るい雰囲気に満ち、会話も弾む。


 私は選ばなくちゃならないのだろう。そして、心ではもう決まっているようなものだったのだ。


 ――ただ決心がつかない。


 それは今もそうだし、これからつくとも限らない。


 それでも私が選択するのを目前まで迫られている。家族で団欒なんて……本当に珍しいこともあったものだ……。

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