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55話 昼休み (sideヘレナ)

 王都からずっと東……海すらも超えたその先には超常の島があると言われている。そこでは幾億もの生態系がはびこり、誕生したら絶滅する、を絶えることなく繰り返しているらしい。そして、天候も嵐だったら猛吹雪だったり、そうかと思えば獄炎を思わす日照りであったり……。


 そこは誰も行ったこともないし、見たことすらもない。また、そこを探検したと言う者もいないのに、なぜかそんな島があると人種たちの間では噂されている。

 その島の名は『無限島』あるいは『夢幻島』と呼ばれている。生物、魔物の種類が『無限』だからそう言われているのか、はたまたそんな島は『夢』や『幻』の類だからだろうか……。


 それを知る人種は、果たしていない。いや、いなかったというのが正しいだろう。

 たしかに『ムゲン島』は存在しているし、夢でもなく、幻も見ていないので『無限島』が正解なのだろう。


 さて、私ことヘレナ・カーコフはその『無限島』に来ている。つい最近までこんなとこに来るなんて想像すらしていなかった。

 それに、ここは小耳に挟んだ『噂』以上の場所だ。『神の知識』を持つ私でさえ、この島の中央には近づけない。『近づけば死ぬ』アリシアにそう言われ、一度連れて行ってもらったが……もうあそこは地獄としか表現できなかった。

 中央は溶岩がそこら中から噴き出したり、岩を粉々にするような雨が降ったり……。それでもう終わりかと思えば岩が突然隆起して押しつぶしてこようとしたり、身を斬り刻むような豪風が吹いたりと……もうはちゃめちゃだった。

 しかもその中を平然と歩く魔物や動物を見たときは……心が折れてしまいそうになった。島にいる動物は1匹で偽魔王に匹敵するんじゃないか? ってくらい強そうだったのだ……。


 あれを見せられて、絶対に近づかないと決めた。敵いそうにないし、勝てたとしても追撃が来れば終わりだ……。

 だから私は出来るだけ島の縁で戦うことにした。そこなら魔物は比較的弱いし、群れてもいないので簡単に狩れるからだ。


 しかしなぜ私がそんな危険な島にいるのかというと……ひとえにお金稼ぎのためだ。

 私に与えられた昼間の自由時間はおよそ2時間。王都の周辺の魔物をどれだけ狩っても、その短い時間だけでは必要数を稼げない。

 どうしたらいいですか? とアリシアに尋ねれば『無限島』はどう? と勧められたのだ。転移の文字魔法はなかったので断ろうと思ったが、転移の魔法が付与された道具を渡され……怖かったけど試しに行ってみたのだ。

 するとどうだ? 縁で単独行動している魔物を倒して、その素材を売り払うだけでスラムの4分の1をお腹いっぱいに出来る程のお金が手に入る。

 魔力が切れたら死ぬので、3文字以内でしか戦わないようにしているが、それでも一時間くらいかければ四体は縁の魔物だったら倒せるのだ。



「あとは、これでっ‼︎」



 ズドガンッ! と大地を震わせるような衝撃が辺りそこらを駆け巡る。私の放った炎の球が魔物に当たって弾けた音だ。

 植物のツルが複雑に絡まったような紫の魔物はそれで力なく地に倒れ伏せる。



「はぁ……はぁ……はぁ……」



 近場に他の魔物の気配がないことをいいことに、肩で息をして跳ね上がる動悸どうにか鎮めようとする。

 文字魔法をこれでもかと使って身体を強化して……それでこのザマだ。あの紫のツルの魔物はこの島の中でも最弱の部類に入るそうだ……。ゴブリンレベルぅぅぅ〜とアリシアが笑っていたけど……絶対に違うと物申したい。



「1匹で……助かり、ました」



 本当に時々だが、二体同時に相手にしないといけない時がある。もうそうなれば『5文字』使って一撃で殺すことになる。二体同時は流石に厳しいからだ。

 そして……それは私にとって……それはあまり取りたくない手段だ。使えば動きが三割強悪くなるのだ。この島でそれはあまりにも致命的だ。


 どうにも『慣れ』がないせいか、『5文字』以上をまだ完全に制御しきれないのだ。アリシアは身体がついて行っていないって笑っていたっけ。

 文字魔法は使う文字数が増えるほど消費魔力が多くなる。そして、魔力を一気に使いすぎることにまだ耐性が出来ていないらしい。使えば使うほど良くなる、とは言うけれど……こんな最弱の魔物にですら苦戦するところで訓練なんて出来るわけがない。



「早いうちに魔石はとらないと……」



 まだ息は整っていないが、待っていられないのでゆったりと紫のツタの塊に近づいていく。

 魔石は早いこと回収するに越したことはないのだ。なぜかこの島では魔物たちの好物が『魔石』らしい。収納ポーチに入れておかないと魔石を狙った魔物が群れて襲ってくる。……そうなれば軽く死ねる。

 だけと私にはアリシアから貸してもらっている『転移具』があるので逃げられるのでそうなっても一応は問題ない。



「いつ見ても……ここのは大きいですね」



 ツタの魔物の足? の付け根に刃を入れ、かっ開くと緑色に染まったこぶし大の魔石が見えてくる。それを手にとってじっくりと検分する。



「それに色もキレイ……今日一番でしょうか?」



 魔石の価値は主に『大きさ』ではなく、『色』で決まる。もちろん大きければ大きいほど価値は高いが、たまに小指大のものの方が高くなったりする。その理由が『色』だ。

 鮮やかで透き通っているほどに価値が高くなり、色も基本色であり、混ざっていないものである方がいいとされている。その例外は光属性とか闇属性とかのものだけだ。


 この紫のツタの魔物は毒の属性を持っているのだとばかり思っていたが、案外コイツは風属性だったりする。

 魔石の色を見ればその魔物の属性が分かる。基本色を例に出すと、赤なら火、黄なら土、青なら水、緑なら風……だ。基本色以外もあるが……まぁ割愛ってことで。



「やっぱり危険に身を投じた甲斐がありますね……ほんとうに」



 王都周辺ではこんなに素晴らしい魔石は取れない。しかもこの魔物……調薬ギルドに大歓迎されるのだ。なんでも高度な解毒薬になるらしい。この紫のモジャモジャは毒なんて持っていないのに……解毒剤になるなんてちょっぴり訳が分からない。滋養強壮にもいいらしいし……見た目毒々しいのにやっぱりおかしいと思う。

 それだとしても、この紫のツタの魔物を四体倒すだけでスラムの皆さんを一日食うに困らなくさせられる。

 休憩を挟んで四体一時間……一体換算だと約二十分……。毎回毎回とても疲れるが……それでも圧倒的に効率はいい。



「えっと……これが解毒薬の材料で……。これが精りょ……元気になる薬のやつですね」



 口に出して確認しながら、頭のてっぺんにひょろっと生えているツタと、足? 根っこ? を全部切り落としてポーチにしまう。

 これで今日の目標量は収穫できた。しかし一体分多く狩ると時間がいつもよりかかってしまう。……だけど、お金はまだまだ必要になるし、ちょっと多いくらいがちょうどいいだろう。


 それに……。



「最近のアリシアは呑んでばかりで元気がなさそうですしね……」



 ここ数日の間、アリシアは全く外出をせずにずっと酒を呷っている。それに眠ってすらいないようだ……。夜中はずっと星を眺めてぼーっとしている。それがなんだか泣いているように見えて……。

 だから元気づけてあげようと思ったのだ。アレイシアお気に入りの甘味処に連れて行って、それでご馳走してあげるのだ。元気づけるってのももちろんあるが、今までの恩返し……ってのも含まれている。そんなことではまだまだ返せないってのは分かってはいるけれど、それでも少しは返しておきたいのだ。



「よし、息も整いましたし帰りましょうか」



 そう言って立ち上がりながら、胸元の布を少し引っ張ってアリシアのくれた転移具を取り出す。

 見かけはただのブローチだ。飾りっ気がないのがなんだかアリシアっぽいが、シルバーに大きな青い魔石って……それはもうまんまじゃないのだろうか? 以前見せてもらった銀髪姿にそっくりだ。

 そう思いだすと少し笑みがこぼれてしまう。だけど、そんな呑気にしていられるほどこの『無限島』は安全じゃない。紫のツタの残骸が放つ香りにつられ、他の魔物がちらほらとすぐそこまで来ている。

 倒せはするが、それをしていれば換金などの時間がなくなるため、さっさと転移してしまおう。



「テクス」



 王都の城門から少し離れたところを思い浮かべつつ、教えられた『キーワード』? なるものを唱える。

 するとたちまち視界が揺らぎ、転移魔法が起動したことが分かった。



 ***



 転移魔法で着いた先は、王都の門から少し離れたところにある森の中だ。ここは弱い魔物しかおらず、そして奥地には全然人は入ってこないので、転移してくるのを見られたくない私からすればちょうどいい場所なのだ。

 問題点をあげるとすれば徒歩では王都まで少し遠いことくらい。

 しかし、そんなものは私にとっては何ら問題はなかった。



「『♈︎』」



 ふわっと赤のオーラが身を包み身体能力が強化される。


 まぁ文字魔法を使ったのだが、なんと指を動かして文字を書かないでも発動させることが出来るようになったのだ!

 消費魔力がちょっと多くなるが、描きたい文字を思い浮かべるだけで空中にかけるよう……すっごく練習したのだ。

 方法としては『魔力でその文字をかたどる』って言葉では簡単なことだけど……むちゃくちゃ難しかった。それに……練習中、横でずっと『不器用すぎぃぃぃ!!!』と笑われて……ろくに集中出来なかった。

 だけどこれを習得した甲斐はあった。何せ一瞬で文字魔法を展開させられるのだ。戦闘中の隙がなくなったのだから、とってもすっごいことだ。



「よし、あとは走るだけですね」



 くいっくいっ、と屈伸して、その場から飛び上がるように駆け出す。

 木々の間を縫って走るのは気を使うものだったが、ここのところずっとだったのでもう慣れた。

 するすると木々が避けていき、森を抜けれると誰かに当たらないように街道から少し外れて走る。

 春特有の優しい空気をこの身一つで纏うのはとても心地の良いものだ。今私はとても早い速度で走っているので、柔らかい風が頰を撫でるようである。魔物との激しい戦闘で疲れた身体を癒してくれるようだ。


 そうこうしながらも、ほんの五分程度で王都についた。王都では商人用と一般用、貴族用と受付があるので、『貴族』……それも『伯爵』家に属する私は並ばずに門に入ることが出来る。


 並んでいる人たちには悪いなぁ……と思いつつ、さっさと門をくぐって目的の施設に向かう。



「まだお祭り騒ぎなんですんね」



 換金所に向かう途中途中にはたくさんの屋台や露店があった。露店がまだこんなにもあるってことは……まだ春の歓迎祭が続いているのだろう。期間はとっくに過ぎたというのに……一年に一回だし仕方ないとは思うけど……。スラムの人たちは参加すらしていないのだ。



「はぁ……来年は参加出来るようになればいいですね」



 そんなことをボソッと呟いていると換金所……じゃなくて、冒険者ギルドについた。交差した剣と盾の紋章……それにバカみたいに大きい佇まいは見紛うことがない。


 ……それに、いつもいつもギルドの中は騒がしい。


 扉を開けて足を一歩踏み入れると、いやでもそのむわっとした空気に当てられる。



「さっさと終わらせましょう」



 言って、つかつかとカウンター前まで歩いていく。すると、掲示板や受付嬢を眺めていた者たちの群れが割れていき、私の歩く先にはいつしか『道』が出来ていた。


 えぇ、なんだか私は冒険者たちの間で恐れられているらしいのです。毎日毎日強大な魔物の素材を持ってきているからなのか、それとも絡んできた冒険者たちをぶっ飛ばしまくったからか……。

 い、いえ! 私は全く悪くないんですよ? あの時は無限島に挑んだ初日でとっても疲れていたんです。そんな時に絡まれてしまって……。ウザかったんですもん、仕方がないです!



「あ! ヘレナさん! 今日もなんですね!」

「ええ、すみません。今日もお願いします」

「いえいえ! ギルド側も貴重な素材が手に入ってバンザイなんです!」



 元気いっぱいで小柄なヒューマンのゼタはそう言って私を別室に案内してくれる。それは無限島に行って以来の光景なので今更戸惑ったりしない。

 私が別室に移動するのは、持ってきた素材をあまり冒険者たちに見せないためだ。またいらない騒ぎを起こして欲しくないっていうギルド側の配慮だろう。


 私が案内されたのは一階の奥にある応接室だ。二階、三階にも同じような部屋はあるのだが、いちいち階段を上るのが面倒なので一階にしてもらっている。


 部屋に案内されて、ふかふかな椅子に腰かけた私はさっさと今回の収穫物を出す。



「ダイリーオの甲羅2組にバイサレーヤの根3組、天ツタが三つ。それとそれらの魔石……ですね」



 ダイリーオってのは……まぁでっかいピンクの亀だ。その大きな甲羅に籠られると厄介だが、隙間から炎を何度か投げ入れてやれば簡単に倒せる。時々泡をいっぱい出してきて攻撃してくるけど……全力で避けてれば問題はない。……当たったら腕がもげちゃうけどね……。

 それとバイサレーヤってのがさっきの紫のツタの魔物だ。全身にあるツタを伸ばして鞭のように攻撃してくる。これも避けてればなんてことないんだけど、正直泡よりも避けやすいから、亀よりもこの紫モジャモジャを相手にすることが多い。



「甲羅はいい剣になりますし、べっ甲にしたいって言う人もいて取り合いが起きているので高く買い取ります。それとバイサレーヤの素材は需要がありすぎるのでこないだと同じ値段で。魔石は基準通りに」



 どうですか? と一応訪ねてきてくれるが、アリシアが信用してもいいんじゃない? とか言っていたしお任せにする。

 ようは、騙されれば二度と売りに来なければいい。あちこちから需要がある今、冒険者ギルドに売らなくても別にいいのだ。

 それはギルド側も理解しているからこそ、公平な取引が出来る。


 そもそも、私に取引させようものなら、高すぎるか安すぎるかのどちらかになるに決まっている。それはどちらにせよ市場を荒らすので、やっぱり私は口出ししないほうがいい。



「ではこれを」

「はい」



 受付嬢のゼタからお金の入った小袋が三つ渡される。ずっしりと重いのを満足に思い、三つのうちの一つをスラムの人々用に、一つを集落に置いてきた領民たち用に、残りの軽いやつは私の取り分だ。



「ありがとうございます」



 言って、即座にギルドを後にしてスラムの実家に向かう。お母様に今日の分を渡すためだ。一体狩ればスラムの四分の一と言っていたけど、それは集落の領民たちに渡すために報酬を半分こにしての換算だからだ。あの集落は来たる時まで蓄えていて欲しい……そう思ってのことだ。


 ギルドを出た私は裏道に入って、人目がないことを確認してから実家に転移する。そしてお母様にお金の入った包みを渡して家を出る。


 スラムのひび割れた道を進み、表街のキレイな道を歩く。途中のパン屋でいくつかパンを買ってそれを昼食にする。

 どこで食べようかと悩んだが、結局学園の自室にすることにした。


 私に与えられた『2時間』の昼休みがもう少しで終わる。きっとパンを食べ終えて、ほっと息をついている間に1時の鐘がなるだろう。

 そうなれば『勇者』たちへの講義だ。今日は国の歴史を教えることになっている。しかし『勇者』にそんなことを教える必要があるのだろうか?

 


「アリシアを甘味処に連れて行ったときにでも聞いてみましょうか」



 ふっとその光景を思い浮かべつつ、私は学園の門をくぐる。


 魔法、体術の訓練は朝、知識などを昼に……。果たしてそんなことになんの意味があるのかと首をひねりつつ。後半戦を始める前に食料を補給しよう。

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