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42話 勇者なんてクソくらえ

ちょくちょくいじっていましたが、あらすじを大きく変えました。長すぎ、そう思ったからですね。短くなったしだいじょうぶですよね〜。ははっ!

「私も詳しいところまでは知らないがいいか?」



 渡すものは渡したし、今度は君の番ね? と返答を待つとそんなことを言ってくる。

 ただ、今までの話しようからそうだろうなと思っていた。全部知っているのならもっとひた隠しにして……それこそ対価を求めてきていただろう。しかし曖昧な情報ゆえに『試す』そんな遊びに興じたのだろう。



「構わないよ。今は少しでもヘレナを安心させたいからね」

「ア、アリシア……」



 男に淡々と返し、膝をつき蹲っていたヘレナの頭を撫でる。この子の『支え』となるべきはわたしじゃないのは確かなことだ。わたしでなく『何か』に……。だからそれを壊させるわけにはいかない。



「そうか……まぁこんな素晴らしいものを頂いたのだしね。いいのなら話すさ」



 言って、飄々としていた顔を引き締め、真剣な眼差しで男は語り出した。


 曰く、一度は領民全てが捕られ、牢に箱詰めにされていたそうだ。しかし、魔物とも人とも取れない透明な何かに襲撃されて警備していた兵士は跡形もなく全滅。それで捕らえられた領民は全員逃げ出し、追手として騎士団も派遣されたが同じく消えるように壊滅してしまったらしい。

 つまりは領民たちは奴隷になどなっていないってことだ。加えて何故か殺されもしなかったらしい。


 だけど、そんな大失態を広めるわけには行かず、王国側は内々だけで真実を押しとどめ、関係していない貴族たちには『成功した』と虚偽の知らせを出したらしい。



「なんでそれを君が知っているの?」



 そうやって嘘を伝えられていたのにこの貴族――たしかヘリックは何故本当のことを把握しているのだろうか?


 するとヘリックは両肩をヒョコッとあげて口を開く。



「あぁ、私は疑い深い性格でね、子飼いの密偵を出していたんだ。それにヘレナ君の家……まぁカーコフ家には裏で支援していたからね。余計に、さ」

「こ、侯爵様? どう言うことですか?」

「はは、やっぱり気づいてすらいなかったのか」



 なんで君の領に商人がきていると思う?おかしく思わないか? とヘリックは苦笑いで付け加える。


 ヘレナ――カーコフ領はとっても貧しい。それこそ明日の飯代も稼げないくらいに。まぁ……そういうことなのだろう。ヘリックもなかなかお人好しな貴族様だ。



「そ、そういえばそうです! 物々交換でもいいって言ってくれて心優しい商人さんだな〜って思ってましたけど……今聞くとおかしいですね!」



 ですね! じゃないよ。めっちゃおかしいじゃん……。そもそも採算も取れないのに金勘定が人生の商人が来てくれるわけがない。しかも物々交換だなんて……それが誰かの手によるものでなかったら、その商人は間違いなく『英雄』って呼んでもバチは当たらない。むしろわたしが祝福をやるよ。まぁ魔王の祝福なんだけどさ。


 さて、しかしこのヘリックは本当に貴族らしい貴族だ。汚れてもいないし、かといってキレイというわけでもない。曖昧で掴み所がなく、それでいてシッカリとした芯が通っている。

 ヘレナとは違った理由でお気に入りに仲間入りだね。ヘリック、君みたいな人種は大好きな部類だ。


 そのヘリックはやれやれ、と手を額に当てて頭を振っている。うん、わたしもそんな気持ちだよ……。君とヘレナって位は違えど貴族だよね? なのになんでこんなにヘレナは考えなしなのかな……。



「君の家には直接援助をすることが出来ないんだ」

「へ? どういうことですか?」

「はぁ……君は貴族という自覚を持ちなさい……」



 そうだそうだ! もっといってやれヘリック! その呆れ顔をするのはいっつもわたしの役目で、その忠告もわたしがしているからね。ヘレナも同じ貴族から言われれば流石に衝撃を受けてくれるだろう。


 ……受けてないか。こやつは隣でボケ〜っと突っ立ってヘリックの答えを待っている。

 ヘレナはもうダメかもね……。いや、ずっと平民みたいに暮らし、貴族社会からもはぶられていたから仕方ないっちゃ仕方ないのか……。それにヘレナは三女って言ってたし、多分そういった教育をする余裕がなかったのだろう。


 まぁいい。ヘリックはそう言って話を続ける。



「自尊心が高い低級貴族の鬱憤を晴らすために、そういった者たちが見下せる『貴族』が必要だったのさ。それがカーコフ家だね。だから君らに私のような侯爵位の家が手を出すわけには行かないんだ……。理解したか」



 ヘリックは確認するように聞く。それにヘレナは理解しました! と言って半分くらいは分かりましたと笑顔を見せ、それにヘリックは深くうな垂れる。

 そいつはアホの子だから気にしたら胃に穴が空くよ? 一回だけなら治してあげる……その苦労は分かるからね。



「いろいろありがとうございます」

「……はぁ。ただの気まぐれだ。礼はいらん。で? どうするんだ? 馬車くらいは出すが……」



 それ以上は流石に手を貸せない、と申し訳なさそうに言ってくる。だけど問題はない。わたしがいる以上移動手段はいくらでもあるし、戦力はヘレナだけでも十分だ。

 だから必要なのは助けでなく情報だ。


 わたしはそっと口を開き、ヘリックの目を見据える。



「ねぇ、君の密偵さんはその『見えないナニカ』をどう感じたか聞いた?」

「うん? あぁ……なんでも恐怖で動けなくなったそうだ。そして『君は別にいいや』と女性の声が耳元でして、それからは何も感じなくなったそうだ」

「そう……」



 軽く頷いて少し考える。そもそもなんで領民たちを助けたのか、だ。その『ナニカ』にどんな利があるのだろうか。

 わたしは一切動いていないし……ならカーコフ家に関係ある強者か? いや、そんなのがいるなら飢えない程度にはなっているだろう。なら誰が……彼女らに関係がないのなら……。そうだね……あの子が見ているんだったよ。



「きっとルミエだね。あの子は直接動くタイプじゃないし……弱みを突っついてシーラかドグラのどっちかだ。それで姿を隠せるってならシーラの方かな」

「アリシア?」

「ん? あぁ気にしないでいい。ルミエが気を利かせてくれたんだよ。大方助けたのはいいものの連絡するのを面倒くさがったんだろうね」



 そう、だから全くの心配は必要ない。それに騎士団もおまけしてくれているんだからいい仕事だよ。ルミエとシーラには後でご褒美をあげないとね。頭撫でとけばいいかな? ふざけんなって怒られそうだけど大丈夫だよきっと。



「知っているのかね?」

「まぁ〜わたしの子どもがやったんだよ。あぁ勘違いしないで欲しいんだけど拾い子だからね」



 失礼なことにすっごく驚いて声を上げていたトーヤらにはメッと叱っておく。わたしはまだ魔族を生み出したことなんてない。やっちゃえばわたし二号が出てきそう……あのアホがすっごく困る顔が思い浮かぶね。


 ヘリックは楽しそうに笑い、ついでに言うが、とその緩んだ顔を引き締め目をスッと細める。



「その子どもさんを討伐するために『勇者』が近々出向くらしい」

「あいつらがか⁉︎」

「うおっと、驚いた。突然の大声はやめてくれ」



 ヘリックはトーヤの突然の大声に狼狽し、息をついて言う。しかしわたしも驚いた。いくら君が他の勇者といざこざがあったとして、それでそんなに心を乱しちゃいけない。冷静に対処しろとは言わないがもう少し落ち着け。


 マイやその他の娘らにも落ち着くように言われたトーヤは何回か深呼吸をし、息を整えて口を開く。



「あいつら……勇者はどれだけ出てくるんですか?」



 そうなにかを押しとどめて聞く様子にヘリックはふむと意味深に頷き、そうだね……と言葉を出す。



「全員……。そう聞いている。君ら二人を除いた38人。お国は大層頭にきたのだろうね……。どれくらいの戦力になるのだろうか……」

「あ、あいつらが全員……」

「……そんなに強いのか?」



 震えるようにそう言うトーヤを見てヘリックは当然の疑問を持ったようだ。ヘリックはトーヤの実力を知っている。それでもなおトーヤが恐れるのなら……果たしてそれはどれだけのものなのだろうか、と。


 トーヤらは震えた口をなんとか動かし言葉を出す。



「お、俺とマイには何故か大した能力が与えられなかったんだ……。今強いのは加護をもらったのとダンジョンをクリアしたからだ……」



 あいつらの上位の数人はあり得ないくらい強いスキルを持っている。そう言うトーヤはマイに寄りかかってなんとか立っている状態だ。

 上位の数人……以前トーヤに逃げ切れるか聞いたとき、複数じゃ辛いと言っていた。しかし、それはその上位者が来ないことを見越しての発言だったのだろう。だからこそ逃げられるなんて言っていたのだ。

 ただ……そこまで強いのなら、すぐさま魔王を倒しにいけばいいじゃないか。流石に今のトーヤやマイ程度では魔王には勝てないが、彼らがこんなにも震えるようなそいつらがいればいけるんじゃないか? 安全に安全を重ねて……と言うことならまだ分かるのだが……。


 しかもさらにおかしいことがある。それは彼らの目の前には『わたし』がいるからだ。世界の邪悪を集めたモノを前にして他のものへ畏怖するなど……ちょっとおかしいではないか。


 わたし笑みを消し、トーヤに冷たく声をかける。



「ねぇ……この世でわたしより怖いものがあるの? ねぇ?」



 すると、トーヤはピックっと震えを止め、恐る恐るわたしの顔を見て口を開く。



「た、たしかにアリシアさんは強いですけど……勇者たちの方が……その、強そ――」

「はぁ⁉︎ あのアホにわたしがまたしても負けると? 戦わないようにしてたのにそれはあんまりだよ! そもそも戦闘に関してはわたしのが強いに決まってんじゃん!」



 ほんっと失礼にも程がある。女神は知能、技巧に関しては優っている。だけど力全般ではわたしのが強い。専門分野では負けるわけがないじゃないか。総合では負けても、流石にその負けだけは認めたくない。……アイデンティティがクライシスだよ。何語だそれ……。


 そんな意味不明なことを考えていると、トーヤは戸惑ったような顔を見せる。



「だ、だけど……アリシアさんが戦っているのを見たのは宿の時だけですし……。凄いモノを作れるって言っても、マイの杖のようなものは勇者も作ってましたし……」

「……そういえばそうだったね。あの時はヘレナにしか魔力はぶつけていなかったし、その杖も急ごしらえ。しかも元々はわたしの魔法をカレンが練習するためのものだったから能力も低いか……」



 たしかにトーヤたちにわたしの力を見せたことはなかった。そもそもヘレナにすら見せていない気がする……。所詮は便利魔法しか使っていないし、魔力の放出も生きていられるギリギリにしか当てていない。それならわたしが侮られるのも……まぁ分からなくはない。



「でもアリシアが負けるとは思えませんね。……神様以外には、ですが」

「ヘレナ……。最後のは言わぬが花ってやつだよ」



 だけどちゃんとヘレナは分かってくれていてよかったよ。そもそも人種なんかに負けたら……あのアホの立場がなくなってしまうじゃないか。あのアホは何回やってもわたしに勝てず、『心』を武器にしてやっと圧倒して見せたのだから。

 わたしは彼女には負けることはあっても、その他には負けるつもりなどさらさらない。



「でもまぁそう言うことだよ。トーヤが何を心配しているのかは知らないけど、わたしが負けるわけがない」

「でも――」

「でもじゃない、これは決まりきったことなんだよ」



 トーヤの声を遮るように言って、この場にいる全員に圧倒的な魔力を放出する。それを受けた皆は声すらも出すことができなくなり、ヘリックは卓に突っ伏し、勇者ら一行は床に倒れ伏せた。ただヘレナはわたしの魔力が体内に混じっているので耐性があり、少しキツそうだが顔は平然として立っている。


 全く……こんなことにはカッコつけちゃって……もっと別でしないといけないのにね。


 しばらくそうして、そろそろヘリックが気絶しそうだったので魔力の放出を止め、頭をクラクラとさせている彼らに言葉をかける。



「今のはほんの少し魔力を出しただけ……。これ以上になれば君らは死んでいたよ」



 そこまで言って一息吐き、たっぷりを間をとってこう言う。



「さて、その勇者とやらは……果たしてこれ以上なのかな?」

「……い、いえ……違い、ます……」



 よろしい。そうニッコリと笑って頷く。トーヤらの顔は先ほどのように怯えた様子はない。しかし、それは心のそこまで響くような恐怖に対し体や脳が反応出来ていないからだ。それくらいのモノを受けたことがないなら……たかが知れていると言うものだ。



「あ、貴女は一体……何なんだ」



 トーヤがそう声を震わして聞いてくる。『何だ』それは前にも聞かれたけど……答えるつもりはない。少なくともヘレナくらい仲良しにならないとね。



「教えない。謎の女の子ってことで」



 はてさて……その勇者君たちの実力を測ってみたい気もするけど……正直言ってガフスにすら勝てないんじゃなかろうか。あの子は拾った子の中では一番弱い。まぁ他のみんなの魔法と相性最悪だし、一番最後に拾った子だから仕方がないんだけどね。でもそんなガフスすらに勝てるとは思えない。炎に焼かれて終わり、そんな結末しか見えない。また、補助をすればヘレナでも大丈夫なんじゃなかろうか。

 それならわたしが出向く理由がさしてない。勇者を見てみたいっていう目的は果たしたし、もう興味もほとんどない。回収するときに会えばいいだろう。


 そうなればすることは決まったようなものだ。シーラだけに子守をさせるわけにはいかないだろう。それにヘレナも早く安心させてあげたいからね。

 ここ屋敷に来てまだそこまで時間は経っていないけど、そろそろお暇しないと。

最近書きたいものが出て来てしまった……。我慢……我慢ですよね。

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