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41話 暗闇の中の光

な、長くなってしまった……

 乗りたくもない馬車に乗せられどこに連れて行かれるのやら……。うな垂れて外を見ていると、街中だというのに大きな門を抜け、とても静かな区画に入ってしまった。

 空気……風格……そのようなものが一転したような……張り詰めたものになった気がする。

 しかし、そんな変な感覚がしてもお構いなしに馬車は進んでいき、やがて大きな屋敷の前で止まった。



「着きましたね……」



 まったく気が進まないとでも言いたげにヘレナがため息を吐く。わたしだって嫌だよ。何せデプオの一件があるし、今度こそ滅ぼしてしまうかもしれないからね。

 そうはならないことを祈りつつ、肩を落としたヘレナに手を引かれて馬車を降り、門をくぐって屋敷に入る。


 そして出迎えは綺麗なヒューマンのメイドだった。



「ようこそお越し下さいました。ヘレナ様、アリシア様こちらでございます」



 深く腰を折って言われ、なぜかヘレナはすっごく変な顔をしていた。むず痒そうな……いごこちの悪そうな……そんな顔だ。



「なんでそんな顔をしてるの?」

「い、いえ。様付けで呼ばれるのは慣れていなくて……」



 気になって聞いてみると、申し訳なるほどに愛想笑いを浮かべてそう答えてくれた。

 そういえばヘレナは最底辺の貴族で、すっごく舐められているんだった……。カレンに様付けされていたときもこんな顔をしていた気がするよ……。


 メイドに案内されて廊下を進んでいると、1つの客間に通され、少々お待ち下さいと言われてしばらくの放置プレイになった。


 わたしとヘレナはなんだかその豪華な作りの部屋に居心地が悪く、なかなか話題を見つけることが出来ずにきょろきょろと客間の中を見ているだけだった。

 しかし……ヘレナがそうなるのは分かるけど、わたしまで落ち着かなくなるとは……。長いこと質素な生活を送っていたから、こんなに高そうなものが詰まった部屋というのは気が詰まってしまう。



「そ、そういえば今回は大丈夫ですよね?」



 そんな居心地の悪い空気を破るようにヘレナが恐る恐る聞いて来た。『今回は大丈夫か』というのはデプオにはされていた盗聴のことだろう。だけど安心していい。今回もバッチリ結界を張ったから聞かれる危険は絶対にない。


 ふふんと笑って、とりあえず安心させるようにそっと言葉を出す。



「結界は張った。人種こそはいないけど、その花瓶が盗聴の魔道具だね」



 言って、机の上に飾られている無地の白い花瓶を指差した。

 するとヘレナはビックっと肩を跳ねあげ、震えた声をだす。



「あ、あるんですか⁉︎ や、やっぱり前みたいに……!」



 そして次第にヘレナは身体を小刻みに震えさせ、え……な、なんで……と自分でもそれが分からずに動揺して声を上げてしまっている。


 きっとヘレナの感じているのは『恐怖』だ。完全に『殺し』を怖がってしまっているのだ。この街を守った代償はそれだった。もうあの快感を覚えたくない……そう身体が拒否反応を起こしてしまっている。


 わたしはそんな身体を抱きしめ震えを抑えようとしているヘレナに抱きつき、優しく語りかける。



「だいじょうぶ。そんなことになりそうなら適当な場所に転移すればいい。それで解決したっていいんだ。前はわたしの憂さ晴らしのはずだったからね……。今回もそうなるようなら逃げよう」



 だいじょうぶ……だいじょうぶ……。と子どもをあやすように腕に抱き、背中を叩いて何度も言って落ち着かせる。そうすると、ヘレナはだんだんと落ち着きを取り戻していき、もう大丈夫ですよ、とわたしの腕をぽんぽんと叩き合図をくれた。



「ありがとうございます。お陰で落ち着きました……」

「あはは、いいんだよ。ヘレナの気持ちは……まぁ痛いほど分かるからね」



 昔のわたしがそうだったように……ヘレナもまた苦しでいる。あいつは消えてしまう直前までわたしの世話をしていてくれた。それをただ真似ているだけだ。こんなことで本当に大丈夫なのか心配にもなるが、わたしは心地よく思えていたし……まぁ正解なんだと思っていたい。


 そんなことを考えつつ、ふとわたしは机の上の魔道具を見やる。


 そしてなんとなくだが、この家の侯爵とやらはそこまで汚いことを考えているようには思えなかった。まぁ綺麗でもないが……。


 うーん。そうやって首をひねり考えていると、その姿に疑問を持ったヘレナが尋ねてきた。



「何を考えているんですか?」

「ん? いや、この魔道具は何のためにあるのかな? ってね」



 言うと、さー? とあっけらかんとして何も考えていないような声が隣で漏れ出し、もうわたしはそれに呆れてものも言えなくなった。

 だって聞いてきたのはヘレナの方だ。それに応えてあげたらそんなアホ面……ちょっと殴りたくなったよ……。


 そんなアホなヘレナは隅に置いておくとして、だ。この魔道具は一体なぜあるのかだ。そもそも盗み聞きをして相手に何の得があるのだろうか……? デプオのときは怪しまれていないか……? と確認して、逃げ出されそうならばすぐさま襲えるようにしていたからだろう。


 だけど今回はそうじゃない。この街に来るまで、そして来てからも不審なことはなかった。加えてこの屋敷の中には『勇者』がいる。たとえあの二人が死んでいるとされていても、その力は折り紙つきだ。上級魔族さえも屠る彼ら相手に……果たして普通の傭兵が対処出来るだろうか。

 まぁ彼らが敵だったり裏切られたりするのならば前提が崩れるが……それが崩れていないとして、それでわたしらに危害を加えるだろうか……いやしない。何せそうなれば侯爵は勇者一行とヘレナを相手にしなくてはならないのだ。

 トーヤ一行とヘレナには並大抵の人種が勝てるわけもなく、ましてやトーヤたちは少なからずわたしの『力』を知っている。それで裏切って来るなど……絶対にあり得ないことだ。



「ならこれは……ただの趣味かな?」

「へ? 何がですか」



 わたしが言ったことが理解できなかったヘレナは首を傾げ、ポカンとして聞いてきた。もう黙ってて……、そうため息まじりに言って結論をまとめにいく。


 大方この盗聴用の魔道具は悪事のために置かれたものではない。きっと、わたしたちの会話を盗み聞きたかった。それだけのために策を弄したのだろう。

 事前に勇者たちからはわたしとヘレナのことは聞いているのであろうが、貴族社会では嘲られているヘレナのことについて信じられなかったのだろう。


 なぜ侯爵に呼び出されたのかはまだ知らない。しかし、ヘレナのことを、追加でわたしのことも知りたいと言うことだけは何となく推理できる。

 その前情報として、こういった仕掛けを施した。うん……多分これが正解だとは思う。


 わたしはその答えを出すと、ふっと分かりやすいように腕を一振りして結界をとき、横でなんだか騒がしいヘレナをよそに魔道具に向かって声をかける。



「満足した? 今まで聞こえていたのは全部偽りの会話だよ。わたしが結界を張って捻じ曲げていたからね、じゃあさっさと迎えに来てくれるかな? あぁ貴族特有の傲慢はよしてね? 君よりわたしのが『偉い』からさ」



 言って、再び部屋全体に結界を張る。するといい加減うるさくなって来たお隣さんは、ついにわたしの両肩に手をかけ、ブンブン! と激しく揺らしてきた。



「なにを言っているんですか⁉︎ 首! 首とお別れになるかもしれませんよ⁉︎」

「るっさい……! もうちょっとドッシリと構えておきなって。そもそもこっちとら魔王様だよ? あんまし舐められてばっかじゃ気に入らないんだよん!」

「違いますよね⁉︎ 面白そうだったから。そう顔に書いてますよ‼︎」

「な、なぜ分かった⁉︎」



 そうやってアホな言い合いをしていると、コンコンコンとドアを軽く叩く音がして、取っ組み合いを一旦やめ、どうぞとドアの向こうにヘレナが声をかける。

 すると、この部屋に案内してくれたメイドが旦那様がお待ちです、なんて静かに言ってついて来るようにとでも言いたげに背を向けてスタスタと歩いて言ってしまった。


 ヘレナはそれに慌てたようについて行き、わたしもヘレナに急かされるままに早歩きでその背中を追っていった。


 そして少し歩くと、メイドは一つの両開きの扉の前で立ち止まり、そっとその片方の扉を開けてどうぞ、そう言って手のひらをその先をさした。



「い、行きますよ……」

「いいから早く行ってよ……。あと手を握らないで……わたしが子どもっぽく見えるから」



 言うと、ヘレナは不思議そうな顔で繋いだ手とわたしの全身を見比べ、ふすっと小さな息を吹き出してから手を離した。それに抗議の声を上げようとしたが、スタスタと扉の向こうに歩き出してしまって、しぶしぶとわたしも足を動かす。



「ようこそ! ヘレナ君にアリシア嬢、歓迎するよ!」



 部屋に入ると長机がすぐに目につき、その上座には手を大きく横に広げたやたら上機嫌なスラットした男。また、上座に近い左に三人、右に二人……そうやってトーヤら一行が座っていた。もちろんトーヤとマイが一番奥にいる。



「まぁ好きなところに座ってくれたまえ。すぐに料理を持って来させる」



 言って、わたしたちにその貴族であろう男はニコッと柔らかく胡散臭い笑みを向けて来る。

 わたしはそれにさしたる反応をすることもなく、目の前で固まっているヘレナの背を押し、右側にあった椅子を取ってその男の正面に座り、近い方が安心出来るだろうと一番近い左の席に座らせた。


 するとまだ上辺だけの笑みを保ったままのその男が声をかけて来る。



「もっと近くに座ったらどうかな? そこじゃ話しづらくないかい?」

「わざわざそのために歩くのがめんどくてね。それにこうして話せているしいいでしょ?」



 はは、と軽い声を交わし、料理が運ばれて来るまではしばらくの沈黙がおりた。また、トーヤたちもわたしの不機嫌さを悟ってか、今まで楽しくお喋りしていただろうにそれをやめて、ピシッと背筋を伸ばしていた。


 しかし……しかしだ。わたしはそこまで不機嫌ではない。いや、不機嫌じゃ無くなった。

 理由はあの男。ヘレナはポンコツ貴族で、デプオはただのゴミだった。だけどあの男は違う。

 正真正銘、わたしが思っていた通りの『貴族』なのだ。ヘレナと出会ってから、会いたいな〜と思っていたから案外わたしは上機嫌だったりする。


 さて……ヘレナ、舐められたらそこで終わりだよ? 何が終わるわけでもないけど、気持ち的に負けた気分になりそうだから頑張ってね?



 そんなことをふつふつと思っていると、メイドが料理を持ってきてくれて卓に並べてくれた。



「さぁ、どうぞ召し上がってくれたまえ! 我が家の料理長が腕によりをかけた肉料理だ」



 そうやって男が腕を振って大声で言う中、ヘレナが小声でこんなことを囁いてきた。



「あ、あの……お腹いっぱいです……」



 その言葉にガクッと肩を落としそうになるのを必死にこらえ、今すぐ殴ってやりたいのを我慢しながらヘレナのお腹の中身をすぐに消化させてやる。すると、あ、なんだか大丈夫そうです、となんともアホなことを言ってナイフを握った。


 しかしなかなか手を進めようとしやがらない。もう仕方ないので頭の中を覗いてみると、今度は毒が入っていないか警戒しているらしい。

 もし入っているのなら今回はちゃんと警告するに決まっているだろ……。バカバカしく思いながらも、一口ヘレナの肉を食ってやると安心したように手を進めるようになった。



「はぁ……なんで起きた早々から……しかもよりによって肉だし……。はぁ……」



 ヘレナのアホさ加減でもうどうでもいいやと思いつつ、厚く切られた肉を口に運ぶ。美味しいことには美味しいんだ……。しかし昨日の酒が残っている中、こうも脂っこいものは遠慮したい気分だよ……。まぁあくまでも気分だけの問題なんだけどさ。


 そうやって不満げに料理を片していると、正面の貴族から声がかかる。



「どうかね? 我が家きっての自信作だ! 是非とも感想をくれたまえ!」

「た、大変美味しく思います、アドルフィン侯爵様」

「そうかそうか! アリシア嬢はどうかね?」



 問われて、そっと手に持っていたナイフとフォークをおき、ヘレナが余計なことを言わないで下さい! とでも言いたげに見つめてくるのにニコッといい笑顔で返して、心底めんどくさそうな顔を男に向ける。



「まず、その嬢呼びは呼び捨てよりも腹が立つ。あとそんなに声を張らないでいいよ。普段通りにさ、舞い上がっちゃうのは仕方ないけど落ち着こうね? あぁ料理だったね、まぁおいしいと思うよ? 脂っこくて胃もたれしそうなすばらしいものだよ」



 そう言って、オマケと言わんばかりにぴかぁっととってもいい笑顔を向けてやる。するとヘレナが時と場を弁えずにわたしを揺さぶってきたが、はははは! と男の大きな笑い声によってヘレナは手を止めることになった。


 そして状況について行っていないヘレナをよそにその男は言葉を出す。



「あぁ悪かったね。いやなに、少し試させてもらったのだよ。勇者たちにアリシアさんのことを聞いてね、それでね。ヘレナ君は……まぁ変わっていないようだったけどね」



 男は降参、とやれやれといった風に手を振って微笑を浮かべる。



「あぁそれとその料理はただ単純に私の方の失敗だね。試すことばかり考えていてそこまで気が回っていなかったようだ」

「いいよ別に。さっきは皮肉で感想を言ったけど、味はたしかに良かったよ。もしわたしが二日酔いじゃなかったら良かったのにね」



 うふふん、まぁこの貴族は嫌いな方じゃない。むしろヘレナよりもその部分においては好きなまであるね。『らしい』それが今のヘレナには欠けている。たしかにヘレナはいい子ではあるけど、上に立つ者の風格ではないのだ。あ、そこ! わたしは体格がそうじゃないねって言うのは禁止だぞ? 魔王様との約束だぞ?


 そんなアホなことを考えてはいたが、そろそろ本題に入ってもらおう。



「で? 呼んだ理由は何? あいにく依頼とかは受け付けていないよ? 今依頼を遂行しているところだからね」



 言うと、それは大丈夫です、と男はニコッと笑う。その顔に胡散臭さが抜けているし、もう試しは終わったんだろうね。



「お礼をしたいと思いましてね。今回ヘレナ君と勇者一行がこの街を救ってくれましたから。こうしてお二人を後日に呼んだのはヘレナ君がお疲れと聞いてね。色々大変でしたでしょうし、ぐっすり休んでもらってから……そう思ったのです」



 ふーんと軽い声で返し、なかなか返事をしないヘレナをガシガシ殴る。するとおずおずとヘレナは言葉を紡ぐ。



「お、お気遣いに感謝いたします。……それに、当然のことをしたまでです。侯爵様から礼など……」

「いや、受け取ってくれたまえ。……といっても出せるものは金しかないんだがね……」



 頰をかいて申し訳なさそうに言った男は、今の君には必要ないですし、と小さく付け加えた。その小さな言葉が聞こえたのはわたしだけじゃなかったようで、ヘレナは不思議そうな顔を浮かべる。



「あ、あの、侯爵様? 私に必要ないとは……いったい? 侯爵様もご存知のように、カーコフ家は常に金欠状態ですよ?」



 うんヘレナ。君のその堂々たる言葉は評価に値するよ? でも……でも……あんなにおどおどしていたくせに……なんでそんなみっともないことだけは格好良く言えるんだよ……!

 いや、バカにしたいわけじゃないよ? でもさ……もっと他のところで胸を張ってよ……。


 そんな思いも虚しく、胸を張ったままのヘレナに男は少し怪訝な顔を見せる。



「ヘレナ君……。もしかしてだが、君は知らないのかい?」

「な、何がですか?」



 男のその知っていて当然のことのように確認した。それにヘレナはすっごく不安そうになる。だけどわたしも男が何を言っているのかさっぱり分からない。だってヘレナの家ってすっごくヤバイ状況なはずだ。宿で見せた涙でその程度がありありとわかる。


 だからわたしも話して、と男に向かって声をかけていた。


 男はわたしの言葉を受け、しっかりとヘレナを見据えれ口を開く。



「カーコフ家は少し日が遡るが――伯爵の位を王より与えられた」



 その堂々たる物言いは嘘ではないと分かる。嘘ではない……と言うことは真実ということだ。なに言ってんだわたし。

 隣にいるヘレナは自分の頰をつねっているが……残念、これは夢なんかじゃない。そう分かるや否や、ヘレナは動揺を隠せないでいた。



「へ⁉︎ あ、ああ? な、なんとおっしゃいました? 最近耳が遠くなりまして。あはは、カーコフ家が伯爵位だなんて空耳しましたよ〜」



 おいヘレナ……君ってまだ若いよね。その年で老いているのならわたしはどうなるんだよ……ちょっとは落ち着けよ。



「ヘレナ、あの男はそう言ったんだよ。現実を見なさい」



 言うと、さらにヘレナは取り乱し、何を思ったかは知らないがわたしを抱きかかえて、胸のあたりで締め付けながら男に詰問する。



「こ、侯爵様! じ、自慢ではありませんが、カーコフ家はとっても貧しいです。それなのに……伯爵位になるまでの『何か』を成せるわけがないじゃありませんか⁉︎」

「うぐ、へ、ヘレナ……し、死ぬ……」

「……まぁ落ち着きたまえ」



 目を見開いて責めるように男に言葉を投げているヘレナを、男はどうにか落ち着かせようとして失敗し、仕方ないとそばにいたマイに頼んで精神を落ち着かせる魔法を使わせた。


 すると、わたしがその効果を聞きやすいようにヘレナに細工して、ようやくヘレナは落ち着きを取り戻し、わたしを解放して、すみませんと粛々と誤った。


 気にしていない、そう男は手を振って応え、少しどころではない衝撃を受けるがいいか? となぜか覚悟を聞いてきた。しかし聞かないわけにはいかないので、わたしはともかくヘレナはグッと深くうなづき、言葉の先を待った。


 そして――



「カーコフ家の治める領地には貴重な金属が大量にあることが分かった……。だからカーコフ家の爵位を上げることで領地を取り上げ、そして莫大な金を押し付け……今、君の家族は与えられた王都の屋敷にいる」

「そ、それって……どういう……」



 ヘレナが膝をつく音が聞こえた。……そして、わたしも男が言わんとしていることは分かってしまった……。


 男は唇を噛み締め、苦々しく言葉を出す。



「知らなかったのか……! なぜ、なぜ⁉︎ なぜ……わたしが伝えなければならない!」



 顔を辛く歪ませて男は膝を打ち、しかし話してください‼︎ とヘレナの叫び声にふっと顔を上げ、重々しく……ことの末を話す。



「カーコフ家の領民たちは……。領民たちは……様々な理由をつけられ、全てが奴隷になったらしい」

「…………」



 声も出ない。この場にいる全員がそうだった。ヘレナもトーヤもマイもミュリアもレイリもアネスも……皆が皆時が止まってしまったようだった。

 やがて力なく崩れ落ちてしまったヘレナがよろよろとゾンビのように立ち上がり、錯乱しかけながら嘘だと言ってください⁉︎ と叫んだ。


 しかし……現実は彼女には非情だった。



「これは本当のことだ。奴隷にされた、そう聞かされている」



 その言葉がとどめだったのだろう。ヘレナはもう気をどうにか保っているのがやっとになってしまっている。


 ならここからはわたしが引き継がねばならないだろう。いやさ、あの男は……決定的な何かを隠しているからね……。



「ねぇ? 何が欲しい? 何を与えれば追加の情報をくれるのかな?」



 言うと、男はことさら面白そうに笑みを浮かべた。



「はは、結構真剣に演じたつもりだったんですがね〜。そんなにダメでしたか?」

「誰を相手にしていると思っているんだよ。わたしは最強なんだぜ? さっさと望みを言えよ」

「いや〜参りました参りました。ですが、からかうつもりでしたので対価は求めるつもりはないんですが……」



 そう言って、ぽりぽりと頰をかく。

 しかし、わたしはにやりと口元を引き上げ、面白そうに男を見る。



「初対面でいきなりそんな大ボラを吹いて見せたんだからね。楽しませてもらった礼として褒美を上げるよ」

「そうですかそうですか〜。んー、ならばこの街を守る結界……そんなものを出す魔道具をもらえませんか?」

「……君も大概にヘレナと同じような貴族なんだね。まぁあっちは残念貴族だけど」



 ははは、と軽く笑いあって、わたしは手を胸の高さまで上げ、周りに気を使いながら魔力出して編んでいく。



「美しい――」



 さて、その声の主は誰だろうか。わたしの手の先でいくつもの青い光が瞬き、それを包むようの銀の光の線が渦巻く。わたしを象徴する『色』。本気で作ってやるんだ……感謝しやがれ。



「うん。上出来だ。効果だけを見るならあのアホよりも断然上だね」



 言って、手の中で完成した拳大の透き通るような青い珠、その中には銀の閃光がほとばしっている。魔法――それを体現した一品だ。この世に二つとないから大切にして欲しい。



「じゃあこれをあげるね。持てば使い方は分かるようになっている。悪事に使わないように祈っておくよ」



 わたしは手に持ったそれをポイッと男に放り投げ、どうにか受け取った男は目をかっぴらいてわたしを見る。



「あ、貴女は一体……なんなのですか?」

「ん? 美味しいものを求めるただの幼女だよ。うふふん……小さくないし……」



 さぁ話してね、そう動揺おさまらない男に言う。


 ヘレナ、そろそろ気をしっかりと持ちなさい。まだ希望はあるかもしれないよ?

トーヤたち勇者を出す必要性……。話に入れようとすると無駄に長くなってしまうし……かと言って同席させないわけにもいかないしで……。

もう少し上手く文字数を減らして、登場させる隙間を作らないとダメですね、はい。

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