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33話 予想外

 予想外なこと、それは良いことだったり悪いことがある。

 例えば、お昼の後でカレンがご褒美です、なんて言ってレンの実のパイを作ってくれることは幸せなことだ。逆に、これは罰です、と言ってお菓子をくれないのは不幸なことだ。


 そんな幸も不幸もある『予想外』だけど、良いことに限って言えば大歓迎だ。

 思いもよらぬところで面白い事実を知れると、風の噂で聞くよりも何十倍も気分が上がる。



 そんな幸せの不意打ちをくらった今のわたしは、ヘレナが引くほどにいい笑顔をしているのだろう。


 トーヤの東の方にある島と聞いて、わたしはすぐに人払いをした。方法としてはただの催眠だ。甘味処は今日休店です、だなんて他の客や外にいる連中を暗示して、店の連中にはそれがおかしいことでないと認識させたのだ。

 また、トーヤとマイを残して、他の3人娘にはちょっと席を立ってもらい、今は三つ隣の机で『わがし』を食べて談笑している。



 さて、なぜわたしがトーヤのとの言葉だけでここまでしたのかだけど……。まぁ単刀直入に言うと、東の方にある島には国なんてものがあるはずない。

 大昔にあの辺りの島をわたし好みに改造してから人がどっかに逃げて行ってしまったのだ。そして現在もそこには人種がほとんどいない。


 だからトーヤの言葉は嘘だと確信した。


 わたしは人気のなくなった店内を少し寂しく思いつつ、笑いを潜めてトーヤたちに聞く。



「ねぇ、トーヤとマイって、この世界の住人じゃないでしょ?」

「な⁉︎」

「どうして⁉︎」



 そう驚く声が静かな店内によく響く。


 彼らのそんな反応を見て確信が……もう確信してたし、それ以上変わることなんてないよね。

 本当にあのアホはこう言う小細工が上手くてムカつくなぁ。トーヤとマイはどこから見ても異世界人だなんてわからないよ。もちろん今でも、だ。


 うふふん。とそうにこにこと笑っていると、ヘレナが混乱した様子で頭を抱えて視線を向けてくる。



「あ、あの、アリシア? か、彼らは……その、異世界人なのですか?」

「まぁこの反応でわかるでしょ? それと、多分――てか絶対にこの子らは勇者召喚できたんだよ」

「え、それって……!」



 口元に手を当てて、ヘレナは後ろに倒れそうになりながらそうこぼす。

 すると、驚きで固まっていた勇者君一行が再起して、焦ったように言葉を出す。



「な、なんでわかったんだ……?」



 そうトーヤに聞かれ、ふふんと自慢げに笑い彼らの方を見る。


 そして、聞きたい? なら教えてあげよう、だなんて言ってからゆっくりと話し出す。



「まず、この『わがし』は今までこの世界にはなかった技術が数多く使われていること。わたしたちの知らない言葉を使ったこと。そして……東には島国なんてないってこと」



 わたしは彼らがしっかりと聞いていることを確かめながら、それにねと続ける。



「前に召喚された子が君達のような黒髪で黒目だったんだよ。だから君達も勇者なんだろうな〜ってさ。まぁでも……」



 言って、わたしは顎に手を当てて少し首を傾ける。


 マイは『くらすめいと』の誰か、とそう言っていた。そのことから、今回召喚された『勇者』はトーヤとマイを除いても、まだ他に複数いるってことになる。

 しかし……勇者召喚とは本来、その素質を持った者が『一人だけ』異世界から召喚されるものだったはずだ。今回のこれもあいつが一枚噛んでいるのだとしたら……なぜそんなことをしたのだろう。複数人も力持つものを異世界呼ぶなんて……その異世界人にこの世界が支配されるかもしれないぞ?


 そもそも、そんな複数人も異世界から連れ出して他の神から怒られないものなのか? それに異次元が開いた気配もここ最近全くなかった。


 そう言えば可笑しいと言えばティーちゃんもだ。彼も異世界から来たらしいが、そんなことを感じ取れなかった。このわたしが……だ。

 多分あのアホはわたしに気づかれないように何か細工しているのだろう。本当に忌々しい……。今すぐにでも殴りに行きたい。


 そうやって考えだし、そして少し時間が経ち、しかしわたしが言葉の続きを全く話さないのでマイが顔を上げて聞いてくる。



「あの……でも、何ですか?」



 聞かれて、ハッと頭を上げてマイに視線を向ける。すると彼女はどうしよう……と悩ましげに眉根を下げていた。トーヤもそんな顔だ。

 多分彼らはなんらかの理由で自分たちのことを隠したいのだろう。理由なんて知らないし、別に隠す意味もないと思うんだけど、まぁそこは言っておこう。



「そこまで心配しないでいいよ。わたしもヘレナも君たちをどうこうしようって思っていない。だからそんなに思いつめないでね」

「そ、そうですよ! 予想外すぎてすっごく驚きはしましたけど、何もしませんって」



 言うと、勇者君たちの表情はいくらか安らいだものになり、そうですか……と一様にホッと息を漏らす。


 わたしはふふっと微笑み、いいかな? と真面目顔で話を切り出す。


 すると勇者君も姿勢を正し、しっかしと聞く態勢を取ってくれた。



「ヘレナの旅の目的は勇者召喚の方法を探し出すことなんだよ。それは国に依頼されたことであって、そしてその国からは未だに召喚方法は見つかっていないって報告を受けている」

「え⁉︎ で、でも!」

「ふふ、そうだねマイ……それにトーヤ。君たちは召喚されている。しかもその他もいるんだろう?」



 確定事項を確認するようにそう聞くと、案の上、そうですと静かにマイが答えてくれた。

 隣でヘレナが何か言いたげな表情でわたしの言うことを聞いていたが、口を挟む気はないらしい。本当は疑問を提したいが、それは今聞くべきことではない、そう思ってのことだろう。


 そんなヘレナの気遣いに嬉しく思いながら、わたしはしっかりと二人の目を見つめ、強い口調で言う。



「でもね、それっておかしいんだ。本来の勇者召喚って一人だけしか呼べないんだよ」

「……どう言う……ことだ? 巻き込まれたとかか?」



 トーヤが眉間にしわを寄せ、そう聞いて来た。わたしはそれに首を振って答える。



「違うよ。いやまぁそう言えないわけじゃないんだけどさ」

「……アリシア。ちょっと回りくどいです。もうハッキリと言っちゃってください」



 お、おう。ごめんねヘレナ。そんな面倒くさそうな顔しないでよ。わたしだって彼らの混乱する顔を見たいんだよ? ね?


 そんなことを視線だけで伝えると、あろうことかヘレナは顎をクイっと動かして、さっさと話してください、って言ってきた。


 なんかわたしに対するヘレナの態度がどんどん気安くなって来ている気がする……いやさ、いいんだよ? いいんだけど……なんだか釈然としない。


 ぶーっとうな垂れつつ、わたしはつまらなさそうに話し出す。



「まぁあれだよ。考えられる可能性は二つ。召喚を強引に行って暴走したか、複数召喚出来るように神が人種に知恵を与えたかだね」



 指を二つ立てて、そう簡潔に伝える。そして、まぁ後者はほぼありえないけど、と付け加えると、トーヤがなんでだ? と聞いてきた。説明するのもだるかったので、ちょっと周りを見てみると、どうやらヘレナもマイも聞きたそうにしていたので、仕方なく話してあげる。



「あのアホがそんな危険なことをするはずがない。そもそも一人でも十分なのに複数呼ぶ理由がない」



 すると、しっかりと聞いて、分かったような分かっていないような顔のマイが質問を投げてくる。



「その……アリシアさんは神様を知っているのですか?」

「……まぁね。ここのところ全くあってないけど、知り合いではあるね」



 答えるかどうか迷いはしたが隠す意味もないな、と思い普通に話す。何やらヘレナが慌てているが、別にバレたところでどうにもならないしいいんじゃね? って思う今日このごろ……。


 わたしは『きなこもち』に手を伸ばしながら息を整え、この話は終わりでいいよね? と聞いて、声もあがらなかったのでようやく聞きたいことを聞ける。勇者だと見抜いた理由なんかを話したかったわけじゃない、勇者たちの内情を知りたいのだ。


 机に肘をつき、手を組んでそこにそっと顎を乗せて、胡散臭い笑みを浮かべて話を切り出す。



「で? なんで君たちは勇者ってことを隠していたの?」

「っ⁉︎」



 言うと、二人はグッと息を呑みなかなか話だそうとしなかったので、話して、と少し威圧するように言葉を投げる。

 するとトーヤは肩をビクッと跳ね上げ、身を震わしながらも話し出してくれた。



「こ、この国では俺たちは死んだことになっているんだ……。それで生きているって知られたら……連れ戻されるから……」

「ふーん。でも君たちって普通に戦っても逃げきれるでしょ?」



 その実力があれば、追っ手なんてどうにでもなる。だからなぜそんなに追っ手に怯えているんだろう、って思ってそう聞いた。

 すると、まぁそうなんだけどさ、と言ってトーヤは言葉を恐る恐る紡ぐ。



「お、俺はクラスで虐められていて……だからあいつらとは……会いたくない。それに……逃げ続けたとして、そのうちにクラスメイトが出て来て……流石に複数人で来られたら逃げ切れないんだよ……」



 トーヤはそう辛そうに言う。隣のマイもなんだか気が沈んでしまってして暗くなっている。


 しかし、トーヤの言うことが本当なら、この子らくらいの――正確には少し下の実力のある者がたくさんいるってことになる。そうなると、本当に終わった後どうするつもりなのだろう。人種は果たして帰還させる術を持っているのだろうか……。あいつの手助けじゃなくて召喚式の暴走だったら……もう手がつけられなくなるんじゃないか?


 はぁ、どうでもいいか……。その時はその時だ。そもそもその後の勇者の面倒はわたしがみることにしていた。少し数が増えたところで何ら問題はない。帰すもよし、残して生活させるのもよし。彼らの判断に任せよう。まぁ全てが終わったらの話だけどさ。


 そう納得して、そう言えばトーヤに何も言葉を返していないなぁと思い出し、ふーんと適当に相槌を打ってさらに質問を重ねる。



「じゃあそもそもなんで君らは死んだことになってるの? また変なスキル?」



 ぱくぱくと目についた『わがし』を口に運びながらそう聞くと、トーヤとマイは乾いた笑みを浮かべる。



「俺と舞はダンジョンにあった崖から最下層まで落ちたんだよ。それでレベルも低かったし、そもそも高いとこから落ちて無事なわけないだろ〜ってなったらしい」

「あはは、本当はわたしだけが落ちるはずだったんだけどね……。冬夜が手を掴んでくれて……でも落ちちゃったんです」



 ふーん、ダンジョンねぇ。あそこってそこまで危険なんだ……。暇つぶし用の何かとしか思っていなかったよ。

 まぁしかし、トーヤはちゃんと男をしてるんだね〜。冴えないくせにそんなところがあるから4人もついて来てくれるんだろうね〜。



「あの、どうやって落下の衝撃をなくしたのですか? それから低レベルなのに最下層から帰還できたのですか? 失礼ですが、かなり無理のある話だと思います……」



 すると、今まで会話に入っていなかったヘレナが、反応を返さないわたしの代わりにそう聞く。



「まあそうなんですけどね、ちょうど俺たちが落ちたところが謎の柔らかい物質で出来た床だったんです。それで傷一つ負うことなく助かって……。それにその近くにステータスをとても上げる指輪がいくつかあって……本当に運が良かったです」



 それらを使ってダンジョンをクリアして、報酬のスキルももらえたんです。なんて苦笑いで身につけている指輪を見せながらトーヤは話す。

 それをヘレナは、ほへ〜としながら運がいいですね〜なんてアホなことを言っているが、わたしは口元が吊り上がっていくを感じた。


 そ、そんな偶然があるものなのか? と、正直すっごく驚いていた。


 わたしはトーヤの言った『柔らかい物質で出来た床』ってのに聞き覚えがあった。いや……身に覚えがあった。

 そう、あれはもう……どれほど前になるだろうか……。たしかまだルミエだけと旅をしていた頃だった。

 あの時、ふとダンジョンが視界を横切って、ちょっと遊んで行こう〜なんて言って二人して入っていったのだ。

 そして、少し進んで……確か第二階層に最下層まで続く崖があったのだ。それを見たわたしは、この下の床をめっちゃ柔らかくして飛び込んだら気持ち良さそうと思って、その通りめっちゃ柔らかくしてみた。

 結果、試しにルミエと飛び込んでみて……結構気持ちよかったのだ。

 それでしばらく遊んでいたら、今度はこのふよふよを反動にしてどこまで高く飛べるかな〜なんて遊びをし始め……まぁそれも面白かったんだ。

 だから次にここに来る者たちにも楽しんでもらおうと思って柔らかいままで残しておいたのだ。また、疲れるかもしれないなぁ〜だなんて考えて、装着すれば身体能力や魔力がいろいら強化される魔法をかけた指輪を近くに置いた宝箱に入れたのだ。


 改めて見渡し、トーヤやマイ、ついでにミュリアやレイリ、アネスはみんなその指輪をつけているではないか……。たしかにお揃いだなぁなんて思いもしたが、まさかわたしの作ったものだとは思いもしなかったよ……。

 あの時のわたしは結構完璧主義だったから、あの指輪から魔力が一切漏れ出ていないのだ。だから気がつかなかった。


 わたしはそんな時代を超えた巡り合わせに肩を震わせ、必死に笑いをこらえていた。



「そ、そうだね。う、運が、いいね」

「どうしたのですか? なぜそんなに可笑しそうに……」



 と、ヘレナやトーヤ、マイも疑問に思って聞いてくるも、まぁ話さないでいいよね。

 この話は帰ったらルミエと一緒に酒でも飲んで話のネタにするのだ。たまには二人だけで懐かしく昔話をするのも一興だ。


 わたしは気にしないでと言って、じゃあなんで、と話を変える。



「なんでマイは戻らないの? トーヤはヘタレだからだけど、マイはそうじゃないんだよね?」

「へ、ヘタレって……いや、そうかもしれないけどさ……」



 なんだかぶつぶつ言っていじけているトーヤを余所に、わたしはマイを見る。

 すると、マイはいじけるトーヤにそっと優しい笑みを向けて答える。



「わたしは……冬夜に助けられました。だから一緒にいます。それが一番の理由なんですけど……あの王城は居心地が悪いんです」



 ふーんと、言葉を濁すマイに、何があったの? と言外に伝える。

 マイは少しためらいを見せはしたが、ゆっくりと話し出す。



「わたしたちは召喚時にユニークスキルって言うのがもらえるらしいんです。クラスのみんなはそのスキルの強さで優劣をつけて、下位の人を見下す……そんなことをしていたんです」



 それが嫌でした……と沈鬱に語るマイ。


 偶然にもらった力で優劣をつけ、下の者を見下す。どこの世界でもそんなものなのだろうか……。そうだったら少し嫌だなぁ。


 そもそも、その『ユニークスキル』なるものは所詮貰い物の力だ。決して自分が努力して得たものではない。なのにそれを誇るってのはちゃんちゃらおかしい。

 そんな奴らから『ユニークスキル』とやらを消し去ってみたとしたらどうなるだろうか。


 出来なくはないだろうからやってみようかなぁなんて思いもしたが、めんどっちいのでしないことにした。


 そんなことをつらつら考えていると、ふっと楽しそうに笑みを浮かべ、マイは三つ隣で『わがし』を食べながら談笑する彼女らに目を向ける。



「それに、ミュリアやレイリ、アネスとも会えましたしね。この旅、結構気に入っているんです」



 言うと、隣でうじうじしていたトーヤが身を起こし、ぐっと真剣な目つきになる。



「舞……そう思ってくれていたんだ。……ありがとう」

「ふふ、成り行きで付いて行っているわけじゃないんだよ? 冬夜」



 はぁ……何を見せられているんだか……。わたしやヘレナの目があるところでそんなに幸せにしないでほしいよ。見ているこっちがお腹いっぱいになるよ。


 そんなことをため息をつきながら思い、ぱくっといっぱいある『わがし』を少し減らす。


 全部持ってこい! だなんて威勢よく言ったはいいものの……食べ切れそうにないよ。カレンたちのお土産にでもしようかな、それでカレンに作ってもらおう。うんそれがいい。


 そう考え、異空間にぽいっぽいっと次々に放り込んでいく。


 そんな光景を見ていた三人は口をぽかんと開けていて間抜けで面白い。



「あ、アイテムボックスってマジであるんだ……」

「本当にアリシアさんて何者……」

「な! わ、私の分も取って置いてくださいね!」



 うん、トーヤの言ったそれは知らないし、マイの問いには是非自力で解いてみてと言いたい。で、ヘレナ……初対面のこの子たちにケチな部分を見せないでよ……。こっちが恥ずかしくなる。でも……もったいないからって、こうやって異空間に『わがし』を放り込んでいるわたしが一番ケチなんじゃないかなぁ。


 うふふんとそんなこと思い、二人を改めて見る。だけど何か言いたいこともさしてないので黙って手を進める。


 はてさて……これからどうしようかなぁ。

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