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31話 甘味パラダイス

「はむ。はむ。はむ。……ふー、美味しいねこれ」



 わたしはちょっと名残惜しく思いながら串をそっと手元の小皿に戻し、お茶をすすって一息をつく。

 すると正面に座っているヘレナもピンク・白・緑と串に並んで刺さっているモチっとした玉を手にとって見つめる。



「そうですねー。『だんご』って言うんですよね。やさしい甘さで好きです」



 言って、ぱくっとピンクの『だんご』を口に入れ、んん〜と頰に手を当ててヘレナは幸せそうに微笑む。



 わたしたちは今、この街で大人気の甘味処(かんみどころ)と呼ばれる場所に来ていた。

 聞くと数ヶ月前に開店したと言うのに、未だ列が絶えないくらい人気であり、王都に本店を構えているらしい。

 わたしもヘレナも、そんなに美味しいものなの? と興味津々になってわざわざ長いこと並んでまでその甘味処に立ち寄った。


 木組みの店内の様子は、他のどれにも見覚えのないようなものだった。

 まず目についたのが机がとても低いってことだ。その机は地面から少し高いくらいの床に置かれていて、客は靴を脱いでその床にクッションをしき、足をくずして座っている。

 そして、一番驚いたのがドアだ。そのドアは木枠にとっても薄く真っ白な紙を貼ったものだった。そして無性に破きたくなって突こうとしたら、なんとその紙にはご丁寧なことに結界が張ってあったのだ。……わたしが突く前に他の客がしているのを見たんだけどね。


 そうしてほへーと店内を眺めながら、再度運ばれて来た『だんご』をほおばる。



「これ、スゴイね。あのプリススにこんな使い道があっただなんてね」



 そう感嘆するように言って、串に一つだけ残った緑の『だんご』をこともなげに見る。


 この三色並んでいる『だんご』の正式名称は安直なことに『三色だんご』らしい。

 この『だんご』はプリススの特定の種のものを粉にして、それに砂糖とぬるま湯を加えて練り、蒸すだけの簡単な工程らしい。

 しかし……砂糖だなんて人種の国ではまだ高価なものだし、プリススのこの種はそこまで自生していなかったはずだ。それなのに……この『三色だんご』とやらはすっごく安い。どのくらいやすいかと言えば、ヘレナが自腹でふた皿平らげる程だ。あのケチなヘレナが……だ。

 たしかに『だんご』は一つ一つはちっこいから、それなりに安く出来るんだろうけど……。それでももっと高くていいくらいだ。


 わたしはそっと3段目の皿に何もついていない串を置く。

 そしておもむろに床に置いていた品書きを手に取る。



「えぇっと〜。この『だんご』っていっぱい味があるんだね」



 言うと、ヘレナも品書きを取ってさーっと目を通す。



「『みたらし』に『あんこ』、『きなこ』……いろいろあって目が回りそうですね……」

「あはは〜そうだね〜」



 ほんと……この品書きを見ると目が回りそうだよ。

 何せ、そこには『だんご』だけが載っているわけじゃなかったのだ。『だんご』の他に、『ようかん』『もち』『ひがし』『なまがし』などなど……。何十種類もの名前がそこには書いてあった。

 そしてその全部に小さな絵がついていて、それがどんなものなのか分かるようになっている。



「なめていたよ……いやさ、人種……ってかこの国はすっごいね……」

「そんなの……私もですよ……。今でも信じられませんもん」



 2人そろってため息を吐き、ふっと後ろに手をついて体あずけ、店内を見渡す。


 誰もかれもがその顔には笑みを浮かべている。子供から老人まで……男女問わず客層は様々だ。まぁ今は昼時だから女性が多いように見えるが、夜になると男性客の方が多くなるらしい。


 そしてまたカランコロンと入り口の扉が音を鳴らし、客が入ってきた。


 ふとそちらの方を見てみると、若い男のヒューマン一体にその周りを囲むようにしている4体の女。彼女らはヒューマンとネコの獣人、加えてエルフとドワーフとよりどりみどりだった。



「珍しいなぁ」



 わたしはそれを見て意外そうに声を上げる。

 すると暇を持て余していたヘレナが視線を上げてわたしをみる。



「何か面白いものでも見つけたのですか〜」

「ん? あぁ……ほらあれ見てみなよ。四つの種族がいっぺんに見れるよ」



 ふふっと笑って店員に案内され、わたしたちのはす向かいに座る彼らを指差す。



「うわぁ、エルフですか。それにドワーフもいますし……仲悪いはずなのに珍しいですね」



 ヘレナも珍しそうにそう言う。


 ヒューマンを基準にすると、獣人とドワーフはさして珍しくない。ちゃんと国交もあるし、旅で人種の国に訪れる者がいる。

 しかしエルフは違う。基本的にエルフは引きこもりな種族であり、生まれた土地から出て行きたがらない習性がある。また、緑の富んでいる場を好むので、なおさら旅に出ようとしない。人種の街で奴隷でないエルフを見かければ、それはハーフかよっぽどのモノ好きだってことだ。

 そしてはす向かいに座る彼女は純正のエルフだ。

 ヘレナもそれに気がついたのだろう。

 また、エルフとドワーフは仲が悪いみたいな風説が流れているようだが、正直そこまで悪くない。一部が過激なだけだ。


 ただしかし……だ。いま気にするべきところはそこじゃないんだよヘレナ……。


 わたしはうふふん、と漏れ出す笑みを潜めながら、ヘレナに告げる。



「違うよ、ヘレナ……。そうじゃないんだよ。わたしが珍しいって言ったのは……黒髪の男の方だよ」



 飛び出して行きたいのを抑えてそう言うと、意外そうな顔をしたヘレナが聞いてくる。



「はい? 男性の方ですか? ……うーん、たしかに黒髪って珍しいですけど……女性も黒髪の方がいますよ?」

「あはは、違う。違うんだってば」



 もう自分でも分かるくらいに口がつり上がっているのだろう。

 それを見たヘレナがヒッと声を上げ、困惑しながら口を開く。



「ア、アリシア。ど、どうしたんですか……そんな顔……」

「ああ? ごめんごめん。つい嬉しくてさぁ」



 言って、顔をゴシゴシとこすって普段通りの表情に戻し、そして言葉をそっと紡ぐ。



「あの黒髪のヒューマン、神からの祝福をもらっているんだよ」



 言って、わたしはニヤッと笑みを浮かべながら、楽しそうに『だんご』を食べようとしている彼を見る。

 すると、どうやら目があってしまったようで、黒髪のヒューマンはポトッと『だんご』を落としてしまった。



「ど、どういうことですか……?」



 目の前ではヘレナが言葉を詰まらせながらそう聞いてくる。

 わたしはそれに彼を見たまま答える。



「あのアホが何故かあのヒューマンに目を付け祝福を与えた。そして……あのアホが人種を祝福出来るってことは……完全復活しかけているってことなんだよ!」



 あははと声を上げて笑い、天井に手をかざす。



「早く! 早く来い! ちゃんと『お礼』しないといけないからさ!」



 言って、わたしはヘレナの皿に残っていた『三色だんご』を食い尽くし、ぽいっと赤い大きな宝石を机に置く。

 そして『だんご』を食べられてブーブー言っているヘレナの手を引いて甘味処を出て行く。また、出口に行くまで途中で黒髪の彼の隣を通りそっと近寄って、よろしくねと囁き、騒がしい街に繰り出して行く。


 あの黒髪君には加護がかかっている。わたしはその加護を通してあのアホに伝えたのだ。

 問いたいことがいっぱいある。それに殴りたいし。


 わたしが神界に行くと、問答無用で神々から攻撃される。そこらの神なら余裕なんだけど、最上級が出てこられたらマジで死んじゃう。二体出きたら逃げることすらかなわないだろう。

 だからわたしからはそっちには行けないのだ。


 早く……早く来てほしいものだ……。



 ***



 甘味処を勢いよく出て来たわたしは、ギルド食堂のカウンター席でうな垂れていた。



「失敗した……」



 ふてくされたように言うと、ヘレナはやれやれと首を振る。



「はぁ……本当ですよ……なんで私の食べちゃったんですか……」



 いや、そうじゃないヘレナ……。ま、まぁその場のノリで食べちゃったのは悪かったけどさ、結局全部わたしが払ったんだからいいんじゃない? ほら、ヘレナの好きな奢りだよ? 奢り。


 わたしははぁと息を吐き、再度言う。



「失敗した……」



 さぁどうだ⁉︎ とヘレナをチラッと見てみると、冷ややかに目を細めている彼女の姿があった。


 あ、あっれ〜? なんでヘレナったらそんな睨んでるんだろ? ほら、何ですかって聞いて来てよ。ほら、ほら。


 しばらくそうしていると、先に根気が尽きたのかヘレナが肩を落として口を開く。



「はぁ……もういいですよ。で? 何ですか?」



 そうそれ! と、バッと身を起こして彼女の顔を真ん中に捉える。

 そして目元に手を当てて、泣いているふりをして言う。



「あ、あんなに並んで入ったのに……結局『だんご』しか食べてなかったんだよー!」

「もう知りませんよ……そんなこと」



 聞くと、ヘレナはグデーっとカウンターにもたれかかり、どうでも良さそうにそう言った。


 だけどヘレナにはそうかもしれないけど、わたしにとってはそうじゃないんだよ!


 ぷんぷんと怒りながら、ヘレナをパーで叩く。



「わたしは! あの店の! 材料が! 無くなるまで! 食べようと思っていたんだーよ‼︎」

「いったぁぁぁぁ⁉︎ な、何するんですか⁉︎ 本当に痛かったですよ⁉︎」



 ヘレナは身体を仰け反らせて、叩かれた背中をさすっている。


 だけど……ちゃんと聞いてくれないしヘレナも悪い。……まぁ全然悪くないんだけど。



 はぁ。こんな日は酒を飲むに限るよね。酒精をいれてハイになろう。気分が沈んだ時にはぴったりだね。


 そう思ってわたしは異空間からティーちゃんのとこからパクって来た酒瓶をカウンターにドンッと置く。そして2人分のグラスも取り出し、ヘレナに片方を渡してあげる。

 まぁヘレナの酒癖は酷いものだけど、今回はあらかじめ魔法をかけてある。一定以上は酔わないってものだ。



「さ、飲もうか! おっちゃん、酒に合うもの適当に作っといてね〜」



 言って、二つのグラスに半分くらいお酒を注ぐ。


 今回選んだのは一見透明な水だ。しかし、この酒はちょっとエゲツないものである。ティーちゃんはよっぽどの酒豪だ。

 この酒は全くの無臭なのだ。瓶の栓を抜いても、グラスに注いでも全く匂いがしない。

 だからヘレナはとっても不思議そうな表情を浮かべる。



「あ、あの……お酒は嬉しいのですが……。これ、水ですよね」



 そう言って、ヘレナはグラスを鼻に近づけスンスン息を吸う。そして、首を傾げ聞いてくる。



「またからかっていますか? あの……もう分かりましたので、いいですよ?」



 グラスをカウンターに置き、スーとそれをわたしに差し出してくる。

 しかしわたしはグラスを再びヘレナに持たせ、楽しそうに微笑む。



「いいから飲んでみなって、わたしもすっごくビックリしたんだから」



 言うと、ヘレナは眉を潜め、毒とかじゃ無いですよねぇと疑いながらも、しぶしぶと杯を傾ける。

 そして透明の酒を口に含んだ瞬間――ヘレナの身体が跳ね上がる。



「な、な……!」

「どう? すごいでしょ」



 にやにやと笑い自慢げにそう聞くと、ヘレナは肩を震わして答える。



「す、すごいなんてものじゃ……無いです。何ですか、これ……。口に入った瞬間、様々な果物の香りが弾けましたよ」

「うふふん、このお酒はお気に入りの一つだからね。そりゃ凄いよ」



 わたしも地下室で飲んだとき同じような反応をした。製法がつかめず、また誰が作ったのかさえわからなかったもの。わたしはすぐに複製して大量に作ったが、一から作れとなると出来なくはないが、正直難しいだろう。

 なぜあのティーちゃんが持っていたのか甚だ謎だけど……まぁ美味しいからよしとしよう。


 この酒の名はまだ決めていない。そもそも名前を考えるのがだるい。

 だけど……口に入れた瞬間に広がる香りは本当に素晴らしいものだ。調和がとれていて繊細で……どの香りも、ほんの少しでも強ければ不快になっただろう。


 もはや芸術の域だよ……これは。



「いいでしょ〜。いっぱいあるし、ヘレナにも何本かあげるよ」



 グラスをくるくると回しながら、そっと呟く。

 すると頰を朱に染めたヘレナがしんみり口を開く。



「それは……ありがとうございます。家族に飲ませたいですね」



 言って、彼女は再びグラスを口に近づける。また、カウンターの奥からおつまみを持ったおっちゃんが出てきた。


 ありがとう〜と言ってわたしはそれを受け取って、ぽりぽりとそれを食べながら酒を楽しむ。


 それを何度か繰り返した頃だろうか。ようやく酔えて来たかな? と思い始めたとき、後ろから声がかけられた。



「あ、あの、ちょっと時間いいですか?」

「あぁ?」



 めんどくさかったが、仕方ないなぁとのっさりと振り返ると、そこには甘味処で見たあの黒髪君がいた。それと後ろには4人の女たちも見えた。



「なんだ黒髪君かぁ。なんかよう? 酔ってるし手短にしてね。ヘレナもこんなだし」



 頭をがしがしかいて目を細め、隣でぐーすか寝息を立てているヘレナをチラッと見る。


 すると黒髪君は申し訳なさそうな顔をする。



「あーすみません。ど、どうしようか……。あ、そうだ! それなら明日は時間ありますか?」

「明日ぁ?」



 問われて考える。特に明日予定があるわけではない。しかし、明日の都合なんてヘレナが決めることだ。わたしは護衛だし、遺跡調査に行くって言われたら文句を垂れつつも行くと思う。

 さて……どうしたものか。



「うーん……ごめんね〜。わたしってヘレナの護衛だからさ、この子に聞いてもらわないと、ってね」

「そ、そうですか……」

「あぁごめんね〜」



 どうしようかと目を彷徨わせている黒髪君に、適当な笑みを浮かべて返す。これで一先ずは良いかなぁだなんて思っていると、話に入ってくるものがいた。


 まぁ黒髪君の後ろの女だけど。


 その女――珍しくも黒髪君と同じく、黒い髪を持っていた。



「あ、あの……失礼ですけど……。その、お連れさんに酔い覚ましの魔法をかけていいですか?」



 ヒューマンの黒髪ちゃんは気弱ながらにも、ハッキリとそう聞いて来た。


 わたしは少し顎に手をおいて首をひねる。そして黒髪君と黒髪ちゃんを俯瞰して聞く。



「君たちのその『話し』とやらはそんなに聞く必要があるの?」



 すると、彼らはグッと息を飲んで恐る恐る口を開く。



「どうしても……お願いします……」



 お願いします、と黒髪君の声に続けて、4人の女の子たちも頭を下げる。


 それをどうでも良いように見つめ、少ししても頭を上げない彼らを見るのが飽きてしまい、クルッとカウンターに向き直る。


 すると後ろから少し声が聞こえたが、まぁ決めるのはわたしじゃないからね:


 とんとん、とわたしは隣で寝ているヘレナの肩を突き、酔いを覚まさせて目覚めさせる。



「ふぁ〜。なんだか、良い気持ちでした〜」



 ん〜と背伸びをしているところ申し訳ないが、わたしは彼らのことを伝える。


 そして聞き終えたヘレナは後ろを振り向いて頭を上げてください、と言って話をする。



「あの、明日ですよね?」

「は、はい。そうです!」



 そうですね、とヘレナは頰をかいてちょっと苦しそうに笑みを浮かべる。



「明日は遺跡に向かおうと思っていたのですが……まぁいいですよ。予定はまだ余裕ありますし」



 固唾を飲んで聞く黒髪君たちを見て、ヘレナは気まずくなってしまったのか予定を譲ることにしたようだ。

 そしてそれを聞いた黒髪君たちは、はぁ〜と緊張の糸が切れたように息を吐き、明日どこで待ち合わせるか決め出した。



「じゃあ、あの甘味処にしませんか? あそこならアリシアの機嫌も良くなりますし、頼みごともしやすくなりますよ」

「そ、そうですか! じゃあそこにしましょう!」



 なんか早々に場所が決まってしまい、そしてなんか黒髪君たちは笑顔で帰って行ってしまった。


 わたしは彼らがギルドから出て行くまでゆっくりと酒を飲み、出て行ったのを感じると、横に腰を落としたヘレナにそっと声をかける。



「……いいの? あれ、どう見ても厄介ごとだよ?」



 言うと、ヘレナは仕方ないですとでも言いたげな笑顔を浮かべる。



「あはは……。まぁそうなんですけどね……。彼らの困った顔を見たら、手を貸さないとって……まぁ私もカーコフ家の人間だったってことですよ」

「そう……ヘレナがいいんならそれでいいよ。……まぁ実際に動かなくちゃいけないのはわたしなんだけどね〜」



 うふふんとそう言うと、ヘレナはとっても曖昧な笑顔を見せ、一緒に笑い合う。


 そっとグラスを傾け、明日のことを考える。


 何せ話を聞いてくれと言ってきたのは例の加護持ちの少年だ。あのアホに何か言われたか、はたまたもっと違う案件か……。そのどちらでも別にいいんだけど、せめて面倒くさくない内容でありますように。


 クイッとグラスを傾け一気に呷る。


 さて、今日はこれくらいにしようか。外もちょうど暗くなり出した頃だ。夕ご飯を食べてさっさと宿に戻ろう。

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