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2話 街までの道のり

 あぁ……あれからどれだけ時間が経ったのだろうか……。

 わたしは座り心地の悪い馬の上でがっくりとうな垂れる。二人乗りのためなのか、それとも乗ったことがないからなのか……余計に気分が悪くなる。


 景色は変わりなく森か草原……ただひたすらにそれをヒューマンと眺めているだけ。

 話しかけても、後にしてください、と言われ完全放置……退屈すぎて軽く死ねそうだよ。とほほ……。



 しばらくそうやってヒューマンの後ろでぐったりしていると、遺跡のような場所から出た時はまだ日は高くなかったけど、気づけば日が暮れだし、すでに辺りが暗くなってきていた。


 そんなとき、ヒューマンは突然馬を止め、森の方へ視線を向けてそっと口を開く。



「今日はここで野宿ですね、準備しないと」

「えぇ! 野宿⁉︎ 街は⁉︎ なんでこんなに遠いの!」

「し、仕方ないですよ……今回調査しに来たところは街から離れたところですし、途中に村もないので……」


 淡々と子供に言い聞かせるように言うが、わたしは首を振って、ヒューマンの肩を揺さぶりながらいーやーだー! と講義の声を上げる。


 野宿なんて昔はよくしていたけど、そもそも昔は街とか村とか無かったからだ。昔と違って今は沢山あるんじゃないの?


 美味しいものが食べたい! 甘いものが特に! カレン〜迎えに来てよー!


 そうやってムンムンと怒っていると、ヒュマーンが肩にかけているカバンをガサゴソとあさり、白い小包を取り出してわたしに差し出して来た。



「しょうがないですね……はい、これを。パイの代わりに差し上げます」



 パイの代わりと聞いて、何が入ってるのかな〜、と興味津々にわたしはその包みを開ける。



「 何かなー何かなー……。何これ……何かしらの汚物?」



 ヒューマンが差し出して来た小包の中には、ドロッとした茶色い液体が入っていた。

 これって嫌がらせなのかな? それはそれで面白いんだけど、わたしが求めてたものと違う……。


 わたしは小包を目を細めて眺め、グゥゥゥ……とふつふつと怒りを表していると、ヒューマンは慌てて声を出す。



「ち、違います! それは『レムス』っていうもので、甘くて美味しいのですよ! 今向かっている街で買ったものです」

「へー、斬新な嫌がらせかと思った」



 言って、あむ、と指ですくって口に入れてみる。



「んー! あっまーい! うん、これなら野宿でも我慢してあげる!」



 すごく甘いってわけじゃなくて、ほのかに広がる甘さ……まぁそんな感じかな。ちょっと指がベタベタしてウザったいけど、そこは洗えばいいしね。


 わたしがレムスを気に入ったことでホッとしたのか女は小さく息を吐く。



「……ありがとうございます。貴女には治療と……それに護衛もしてもらっていますからね。遺跡でも助けられましたし……なんとお礼を申したらいいか」



 最初こそわがままを言うわたしに不承不承としていたヒューマンだが、そっと視線を足元に向け手を下三角形に組み弱々しく言う。


 そういえば遺跡から出た際、ヒューマンの身体はあちこちが傷だらけで血の匂いも酷かった。短い髪もボサボサになっていて服もグチャグチャ……。わたしはそれを見ているのが不快だったので回復させただけだ。

 それと馬に乗って移動している時、魔物がチラホラと現れてわたし達を襲って来ていた。はじめの頃は馬をいちいち止めてヒューマンが魔物を倒していたんだけど、魔物が出るたびに馬を止めるのが煩わしくなって、それからはわたしが倒すようになった。


 魔力を放出して魔物を近づかせないようにしても良かったかな? と今になって思ったけど、もしそうしていたら馬まで死んじゃってたかもしれなかったし、結果オーライだね。


 そんなことを考えつつ、ヒューマンが野宿の準備をしているのを、レムスを口に入れながら見ていると探るように声がかけられた。



「あの、貴女は……その、何者ですか? 魔物を倒すのを見ていましたけれど……アレは何ですか?」



 言われて戸惑う。


 何と答えたものかな……? と。正直に、魔法だよ! と言ったところでこのヒューマンは納得してくれないと思う。


 道中で見た彼女の使う『魔法』はなんだか変だった。変というよりも別のなにかって感じだ。 わたしの使う『魔法』とは違ったし、カレンたち側近が使っている『魔法』一歩手前のものでもなかった。

 わたしの『常識』と彼女の『常識』、その『違い』のせいできちんと納得できるような説明を彼女にできる自信がない。そもそもする気がない。


 あぁ……難しいことを考えたから糖分が……甘味甘味っと、はぁー甘いのっていいなー。



「あの、聞いてますか? レムスを気に入ってくれたのはいいのですけれど、話を聞いて欲しいのですが……」



 質問に答えずにレムスを食べていたが、肩をとんとんと叩かれたことで女のことを思い出した。


 わたしはハッとした表情を浮かべ、レムスを膝に乗せる。

 そして忘れていたことを誤魔化すように、にこりと笑いとっさに考えた設定を話す。



「ん? ああ、ごめんね! 確か魔物を倒した方法だったよね? アレは『スキル』だよ。『魔眼』系のもので視界内の任意のものを潰すって言う能力。制御はちゃんと出来るから安心してね」



 すると、とっさながらに出した言い訳は納得出来るようなものだったらしく、ヒューマンはなんだかブツブツ言いながら野宿の準備に戻った。



「そ、そうですか……制御ができているのなら安心です。……しかしそんなスキルが……」



 わたしはそんなヒューマンを眺めながら思う。


 『スキル』……本当に便利な言葉だよね。


 実はわたしにはスキルなんてものは無いから、どんなものなのか分からない。カレンが小さい頃に、アリシア様はどんなスキルを持っているんですか? と訪ねて来た時に逆に質問し返しちゃったからね。

 そしてその後いろいろ調べてみると、わたしでも把握できないほどスキルの種類が多いことを知った。

 それ以来、力の説明に困った時にはこれスキルなんだよ、といえばどうにかなると学んだのさ。


 うふふん、わたしは賢いからね、そんな事だって思いついちゃうんだよ!


 **


 野宿を開始して少し時間が経った。パチパチと焚き火のたてる音をじっと聞いていると、だんだんと暇になってくる。

 なので、焚き火を挟んで向かいの何か書き物をしているヒューマンに間延びした声で話しかける。



「ねぇお姉さん、わたし暇なんだけど〜。何か面白い話しして〜」

「貴女ね……そういえば、貴女のお名前はなんて言うのですか? わたしの名前はヘレナ・カーコフです。男爵家の三女で、王都の学園で学者をしています。今回は長年夢だった遺跡の調査に来ていたのですけれど……」



 書き物を止め、話をそらすように言ったヒューマンの顔は少し曇っていた。


 しかしそんなことを気にするわたしはわたしじゃない。ただ、思うこともあるにはあった。


 そういえばこのヒューマンと会ってからしばらく時間が経っているのに、お互いの名前すら知らなかった。まぁ別に知りたいと思わないけど、されたら仕返してあげるのが礼儀かな?


 そう思い、首を傾げてとぼけたように言う。



「あぁまだ言ってなかったっけ? わたしはアリシア、絶賛迷子の旅人をしているよ」

「そ、そうですか……」



 言うとなんだかヒューマンは引きつった笑みを浮かべ、書き物に戻ろうとする。


 ありゃ? なんだか引かれたかな? でも、わたしは魔王をしているんだよ! なんて言うより何倍もマシだと思うよ。

 だって魔種と人種は敵対しているからね。まぁわたしたちのところは彼らとは無関係なんだけどさ。


 ヒューマンは手元に視線を戻しているが、わたしはそんなのはおかまいなしに話しかける。だって暇だからね。



「ヘレナは一人で遺跡の調査なんてしてるの? 護衛とか雇った方がいいと思うよ? わたしがいなかったら遺跡では逃げきれずに死んでいただろうし、もし無事でも街に帰るまでに魔物に襲われてどのみち危険だったよ?」



 早口にそう聞くと、ヒューマンは一度わたしの顔を見たがすぐに視線を手元に戻し、なんだかきょろきょろとしている。



「そ、それは、その……護衛は雇っていたのですが……あの遺跡で石のオオカミと相対してしまった時に護衛が我先にと逃げ出してしまって……」



 そんなためらうように言った馬鹿みたいな話を聞いて、わたしはお腹を抱えて笑い声を上げる。



「うーわ、護衛が主人より先に逃げるなんて滑稽ね! うんうん面白い話だから野宿でもいいわん! うふふん」



 ずっと視線を落として、言い訳するようにキョロキョロするヒューマン――ヘレナの話をもう少し詳しく聞くと、人種には何でも屋のような『冒険者』なる者たちがいて、そいつらを雇っていたそうだ。

 実力もそこそこあるパーティだったのでいいお値段で、道中は弱い敵を蹴散らして得意げになっていたと言う。しかし強い敵が現れた途端にヘレナを放り出して逃げたそうだ。それも見事な逃げっぷりだったらしい。


 人種は昔からこう言うところがあって、今も昔も変わらないんだなーって思うと、笑いが止まらない。



「これに懲りたら次はキチンとした護衛を雇うことだね、せめて自分が逃げるまでの盾になれるくらいの、ね」

「……ええそうします。助けてもらえなければ私はここにはいなかったと思います。……ですからアリシア、貴女には改めて感謝をします」



 言って、火を挟んだ向かいのヘレナは座ったまま深く礼をする。

 それをわたしは笑いながら手を振って返す。



「いいよいいよ助けたのは偶然だし、わたしも迷子だからね、ヘレナがいなかったら街に行けないし何よりレムスってお菓子を知らないままだったかもしれないからね」

「そですか……それならよかったです」



 言うと少し間があき、そろそろ寝ましょうか、とヘレナが言葉を続ける。


 見張りはどうしましょうかと尋ねられたが、わたしのスキル (物理)で魔物は近づかない、と説明して二人仲良く睡眠をとる。

 まぁ、正確には『近づかない』ではなく『近づいてきた瞬間に自動的に魔法で捻り潰される』が正解だなんだけど、誤差だよ誤差。

 それにわたしは睡眠をとる必要はないんだけど、趣味なんだよ。食事もそうだけど、そう言うことがわたしは好きなんだよ。

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