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27話 どういうこと?

 雲一つない青い空。今日は月もみえなくなる頃なので、きっと一面の星の海を見ることが出来るだろう。


 そんな素敵な空模様だったが、まだ昼だというのに二つ、赤と青に輝く星が空に瞬いている。

 そしてその星はなんだかわたしたちの方へ向かってきているように思える。


 ヘレナは先ほどまでは目視出来ていなかったが、しばらくするとなんとか視認できる距離になったようだ。そして『文字』を使って視力でも強化したのだろう……横であたふたと喚いてうるさい……。



「な、なにか飛んだ来てますよ⁉︎ 赤い翼生やした人と青い翼を生やした人がすっごい速度で来てますよ⁉︎」



 ヘレナは空の彼方を指差し、謎の飛行物体がきます、とわたしの肩を強く叩く。


 肩痛いな〜と思いつつも、わたしは小さくため息を吐く。



「あの人たち何なのですか⁉︎ こっちに向かって来ますよ⁉︎」



 うん……ヘレナは図太くなったかと思ったけど、どうやら考え違いだったようだ……。

 それに慌てているところ申し訳ないが、あの子達は人じゃなくて魔族だ。

 彼らはわたしが拾った子たちで、多分カレンに言われてわたしを捜索していたんだろうね。


 わたしはもう諦めの境地にいたり、腕の中にいるルミエの頭を撫でながら、いつまでも喚いているヘレナを落ち着かせる。



「ちょっとアリシア! なんとかしてく――」

「いい加減うるさいから黙って……」

「で、ですが……」

「ですがじゃないんだよ……」



 戸惑っているヘレナをよそにションボリしていると、どうやら翼を生やした二人組はようやく真上まで飛んで来たようだ。


 そして彼らは声を上げながら背中の翼を消し、地上に降り立ってくる。



「アリシア様〜さがしたぜ?」



 言うと、真っ赤な髪の男――ガフスはボサボサ気味の頭をガシガシとかきながら近寄ってくる。

 そしてガフスの隣にいる女――オーリアが青みがかった白銀の髪を片手で払いながらわたしに声をかける。



「ほんとに〜探したんだよ〜。なにもしてない〜?」

「してないよ! まったく、失礼な……」



 子供たちにここまで言われてショックすぎたので、わたしはぷいっとそっぽを向いて拗ねたように言う。

 するとガフスが頬をかき、だけどよと苦笑いをあげる。



「アリシア様が家出すると、大抵ろくなことしかしねぇだろ?」

「そんなことしたことないよ!!」



 むんむんと抱いていたルミエを放り出して、ガフスに地団駄を踏んで怒ってみせる。


 すると、後ろの方から時空が歪むのを感じそっと振り返ろうとすると、底冷えのするような声とともにガシッとその頭を掴まれてしまった。



「してますよね……!」

「は、離して……」



 わたしはジタバタともがき、頭を掴んでいる手から逃れようと暴れる。

 しかしその掴んでいる主は許してくれないそうだ。



「前に家出した時は島一つを消し飛ばしました。そしてその前は無人島を異常に改造しました。その前はアレが美味しいと言って絶滅しかけるまで狩り尽くしました」

「……う、うぐぐ……。そ、それは問題じゃないよ! 全部大体は解決してるし!」



 ぴんっと指を立て、どうだと苦し紛れに胸を張る。するとカレンは黄色の瞳にゆらりと炎を灯し、周りで見ていたガフスとオーリアの瞳も揺らぐ……。


 そしてカレンは掴んでいる手にさらに力を入れ、震えながら口を開く。



「そ、それは私たちが解決しているからですよ‼︎ それに島の一件は全然解決していません‼︎」

「そうだぜアリシア様。結構大変なんだぜ?」

「だから〜こうして迎えに来たんだよ〜」



 みんなが口々に叱るように言ってくる。


 これでも一応魔族の長なんだよ? そんなわたしをこんなに怒るなんて酷くない?

 そもそも家出の原因は大抵がカレンがお菓子を作ってくれないとか、6人のうちの誰かがわたしの食べたかったものを勝手に食べたとかだから……わたしは悪くないよね。

 それに問題を起こしているつもりはない……いつか元に戻そうって思っていたし、どうせほっといてもあのアホがいつのまにか直してくれているのだ。だから別に後始末なんてしなくても大丈夫なのに……。

 それなのにヤイヤイ言ってくるカレンたちはちょっと理不尽だ……。


 ダラ〜っとそんなことを考えていると、ずっと困惑して黙っていたヘレナが声を上げた。



「あ、あの……皆さんはどなたなのでしょう……」



 言うと、カレンたちは一斉にヘレナを見つめる。

 そして肩を竦めているヘレナにはじめに声をかけたのは頭をかいているガフスだ。



「あー、ヒューマンの嬢ちゃんはアリシア様とどんな関係だぁ? もしかして被害者か?」

「ち、違います!」

「あ、じゃあ〜アリシア様の遊び道具〜?」

「違いますよ!」



 ヘレナは乗り出して言うが、オーリアの言ったこと……間違いじゃないよね。

 たしかにわたしがヘレナと一緒にいるのは護衛のためだけど、最近はそんなことよりヘレナをいじくると楽しいからって理由で一緒にいる気がする。いや、多分そうだと思うんだけど……。


 顔を赤くしているヘレナに任せても一向に話が進みそうにないので、わたしがカレンたちにヘレナとの成り行きを説明する。

 すると、カレンはふむふむと頷き、ふっと笑みを浮かべる。



「ヘレナはすごいですね。本当に人種なのですか?」

「じ、人種ですよ⁉︎ な、なんですか急に……」

「いえ、珍しいと思いまして。人種がアリシア様の魔力を受けて、それで恐怖しないなんて、と思ったのですよ」



 カレンは穏やかな表情で語りかけ、ヘレナに優しく微笑む。しかしヘレナはまだ混乱しているせいか、余計に何がなんだかわからなくなってしまったようだ。


 まぁ仕方がない。ヘレナの頭の許容量は多い方だと思うけど、ブタの件やルミエのこと、加えて新たに現れた3人組、そんなのが一斉にこられて頭がパンクしてしまいのも仕方がないってものだ。


 わたしはそんな頭を抱えているヘレナに飲み込みやすく言う。



「ヘレナはちょっとおかしいってことだよ。だってこの場にはヘレナしか人種がいないんだよ? それでも怖がってないなんて……普通は違うはずだよね?」



 言うと、ヘレナはキョロキョロと辺りを見渡し、そしてはぁとため息を吐く。



「そもそも混乱しすぎて怖がるどころじゃありませんよ……。それにこの方達ってアリシアのお仲間なのでしょう? それなら頭の中までアリシア色に染まっていそうですもの……」



 肩を落としそう言う。すると聞いたカレンたちは口元を隠しながら肩を震わせる。



「っく、あ、アリシア様色って……。くっ、言えてすぎてヤバイぜっ……」

「ふ、ふふ……そ、そだし〜。そ、染まってるよね〜ぷぷ、わたしたち〜」

「アリシア様は普段はちゃらんぽらんですから……そればかり見られたのでしょう………ふふっ」

「もー! なにそれ⁉︎ そんなに笑わなくたっていいじゃん!」



 くすくすと笑いを堪えていったカレンたちはまだ笑いが止まらないようだ。


 そんなに彼らにわたしはプンプンと怒る。

 だってわたしはそんなに笑われるようなことをした覚えがない。何故かかさらっとヘレナも笑っているけど、覚えがないったらないのだ。

 わたしはこの理不尽にプンスカする。


 そしてひとしきりカレンたちが笑い終えると、今までの表情をスッと潜めたカレンが話しかけてきた。



「それでアリシア様」

「なに?」



 呼ばれたけど、今まで笑われて不機嫌だったので突き放したように返す。

 しかしカレンは淡々と話を続ける。



「それでは城に帰りましょう。お菓子も用意いたします」



 そういってヘレナは深くお辞儀をする。ふとガフスとオーリアを見ると、彼らも頭を下げていた。

 そのことで……まぁマジで帰ってきて欲しいんだなぁってわかる。

 わたしは近くに突っ立っていたルミエと抱き寄せ、ほっぺを引っ張ったりしながらどうするかを考える。


 するとその思考を遮るようにヘレナが声をあげる。



「あ、あの! あ、アリシアを連れて帰ってしまうのですか……?」



 たじろぎ、気後れしながらも言うと、カレンはそっと言葉を紡ぐ。



「はい。この方は人種に……それも貴女に悪影響がありすので」

「そ、そんなこと――」

「いえ、このままアリシア様と行動をともにすれば、貴女は確実に普通の人生を送れないでしょう」



 カレンは真っ直ぐにヘレナの目を見つめ、忠告するように強い口調でそう言う。

 ヘレナはそれを受け少し後ずさる。しかしそれでもなんとか口を開く。



「……それでもいいです。それに、 ア、アリシアは護衛をしてくださると約束してくださいました! 遺跡調査を一緒にしてくれると……!」



 言うと、ふむとカレンは少し首をひねり、それではとはじめる。



「私がその人種を襲っている魔王とやらを殺してきましょう。以前から魔王を語って目障りだったのでちょうどいいですね。……それでいいですよね?」



 いいと言え、とカレンは無言の圧をかける。


 たしかにヘレナが遺跡調査をしている目的は勇者召喚の方法を見つけるためだ。そして何故見つけたいかなんて、一重に魔王を倒したいからだ。

 その魔王をカレンは倒すと言った。それをヘレナは拒否する理由なんてないし、勇者召喚だなんて無責任な方法に頼らないで済むのならそれが一番なはずなのだ。


 しかしカレンの言葉を受けたヘレナの表情はそう思えなかったらしい。



「いや……です」

「……今なんと?」



 ヘレナは小声で呟いたがカレンには聞こえていたはずだ。しかし聞き返したということは何かの間違えだと思ったのだろう。


 ヘレナは再度、次ははっきりと皆に聞こえるように、しどろもどろながらにも言葉を紡ぐ。



「いや、です……! 私はアリシアと……旅がしたい、です……。そ、それに……この問題は人種がどうにかするべきものです……」

「……そうですか」



 言ってカレンは顎に手を当て首をひねる。

 わたしたちはカレンが答えを出すまでは静かに待っていようと目で確認しあい、場には沈黙が降り立った。


 少し時が経ち、しかし未だカレンは首を捻っていた。

 まだかなぁとルミエの髪をわちゃわちゃとしていると、突然にルミエは身を捩りわたしの腕の中からスルリと抜け出してしまった。

 そして抜け出したルミエはのっそりとした足取りでカレンに向かっていき、力ずくで自分の口元にカレンの耳を持ってきて、わたしに聞こえないようご丁寧に結界を作ってこっそり耳打ちをした。

 するとカレンはヘレンを見てクスッと笑みを浮かべ、そして今度はわたしに顔を向けてくる。



「アリシア様。現在持つ最大の力を発揮したヘレナはどのくらい強いのですか?」

「ん? まぁバカな魔王くらいなら殺せるよ。まぁヘレナも数日から数ヶ月動けなくなるけど」



 なんでそんなこと聞くのかな? なんて思いながら正直に答える。それを聞いたヘレナはもう言葉も出ない、と頭を抱えてうずくまっている。一方のカレンはそうですか、とうなづいて面白そうに笑みを深める。



「ならアリシア様はまだヘレナと行動してくださって構いません」

「へ? なんで急に……。ルミエはなに言ったの?」



 言ってヘレナの隣でぼーっと空を見上げているルミエに視線を向ける。するとカレンからは内緒です、ルミエからは秘密〜と返ってきた。


 なんなのだろう……。ヘレナを見て笑ってたし、ヘレナが何か関係あるんだろうけどさっぱりわからない。ヘレナに特に変わったところはない。強いて言えば魔族といて怖がらないとか、魂の器が人種にしては大きいってことくらいだ。

 しかしどちらも膨大な数いる人種の中から探せば何体か見つかるだろう……。


 さっぱりわからない、と眉間にしわを寄せていると、カレンたちが行動を始める。



「ではガフス、オーリア、城へ帰りましょうか。あとすみませんがルミエは城からでいいのでアリシア様を見ていてください。もしも問題を起こしそうになれば止めて下さい」

「あぁ? なんだ帰るのかぁ? いいのかよ」

「そうそう〜、わたしたちってアリシア様を連れ戻しに来たんでしょ〜?」

「いいのです。ここでアリシア様を連れ帰って、その後もし真実を知ったらずっと拗ねられそうですので……」

「お、おう……」



 カレンたちはわたしとヘレナを置いてきぼりにした会話を交わし、それでは失礼します、とカレンは言い残し、4人はあっさりと魔王城に転移して行ってしまった。


 そしてわたしたちは呆然と口をぱっくりと開け言葉をこぼす。



「なに……あの子たち……。なんかカレン1人しか納得してなかったけど……」

「あ、嵐のような方たちでしたね……。わたしに何かあったのでしょうか……」

「知らないよ……。いや本当に知らないからね」



 本当はしっているんじゃないですか? みたいにヘレナが目を細めて見てきた。

 いつもはなんだかんだ言ってはぐらかしてはいるけど、今回に限っては本当に分からない……。

 そもそもわたしが知らなくてルミエが知っていることなんて……正直予想がつかない。あの子は異世界にしょっちゅう行っているから、そこでの出来事が関係あるとかだったらもはや予測すらつかない。


 はぁと深くため息をつき、とぼとぼとわたしはヘレナに近寄っていく。



「もう、ちょっと疲れちゃったよ……今日は何も考えずに宿に行こうよ……。それとご飯食べようよ……」

「……そうですね。私も驚きすぎて疲れました」



 2人して肩を落として庭園を歩き出す。


 考えればヘレナは今日すっごい大変だったなぁ。檻から抜け出し――



「あ、忘れてた!」

「な、何ですか⁉︎」



 わたしはルミエやカレンたちの登場でスッカリ頭からすっぽ抜けていたことを思い出し声を上げる。それにヘレナはビクッと体を跳ねさせ、胸を押さえている。



「いやほら、檻の中にいた人種たちとか、ヘレナは見てないけど庭園に飾られている人種の奴隷たちをどうにかしないと」

「は⁉︎ そ、そうでした! スッカリ忘れてました……」

「わたしもだよ……それにヘレナの服もどうにかしないと……」



 そう、ずっと気にしていなかったけど、ヘレナの服装は所々赤く染まっている粗末なボロ切れだ。



「はっ! そ、そういえばそうでした!」



 わたしたちは相当混乱していたようだ。ヘレナは自分の服装すら気づいていなかったし、あれほど気持ち悪いと思っていた奴隷のことを忘れてしまっていた……。



「はぁ……どうしましょうか……」

「……そうだね……。どうせ人種に引き渡しても奴隷の扱いなんて同じなんだよね?」

「はい……」



 ふと思ったことを聞くと、ヘレナは暗い顔をしてそう答える。

 自分もそんな人種だったということが後ろめたいのだろうか……。

 わたしはヘレナが少し変わったと思っている。少なくとも汚いなんて思っていない。だから胸を張っていればいいんだ。……まぁお金に対しては意地汚いと思うけどね。


 ヘレナは肩を落とし、ポツリと話す。



「実家も奴隷の人たちを養うことなんて出来ませんし……。そもそも住む部屋もないですし……というか食うに困る状態ですし……ふふっ」

「へ、ヘレナ⁉︎」



 だ、だめだ……。ヘレナが暗黒面に落ち出している……。だからそんなにこもっているんなら言ってくれればいいのに……。ちゃんと利子なしで貸すよ? いっそのことあげるよ?


 そんなことを考えながら、仕方がない、と空を見上げる。



「あの人種たちはひとまずわたしの城に送るよ。それで使用人にしておく」

「そうですね……ひとまず?」

「ああうん。あの子たちを治せる奴がそろそろ出てこれるようになるからね。そうなったらそいつに放り投げる」

「そ、そんな人物がいるのですね……」



 うんいるよ〜。まあ人物じゃなくて神なんだけどね〜、なんてヘレナにはまず言えない。言っちゃったら失神してそのまま死にそうだからね。



「まぁそういうことで、あとヘレナはこれを着ればいいよ」



 そう言ってわたしは異空間の中ら適当に女物の服を取り出す。サイズは自動調節されるだろうしヘレナが来ても大丈夫だ。そんなことをヘレナに説明し、ヘレナは木陰に入ってその服に着替える。

 その間わたしは奴隷となった人種たちを城に送る。彼らを送ったのはルミエの部屋の前だ。ルミエはカレンに言われてわたしを見ているはずだし、何故かあの子考えていること読めるし、まぁ任せておけば何とかしてくれるだろう。


 少ししてヘレナが木陰から出てきた。

 うん、花のレリーフが施された白いシャツに深い青のロングスカート。


 ……似合ってないな。



「ぷっ。さ、行こうか」

「はい、って! 今笑いませんでしたか⁉︎」



 笑ってない笑ってないと口に手を当てて先を目指して歩いていく。ヘレナはちょっと! と抗議の声を上げながらわたしの後をついてくる。



 わたしはふと雲一つない青い空を見上げ思う。

 ヘレナは人種では珍しい部類なのだろうかと……。魔族を怖がらない、魂の許容量が多い人……そんなことはどうでもいい。ヘレナのように汚くない人種……ヘレナのように考えを改められる人種は果たしてどれくらいの比率でいるのだろうか……。


 多ければいい……わたしはそう思う。だってそっちの方がいいじゃないか。あのアホがくれたモノは持つものを汚くするモノだと思いたくないのだ。


 もう起きる時間が迫っているぞ? 寝坊助め。

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