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25話 パーティ (sideヘレナ)

 ――やめて……やめてください‼︎


 世界の全てが火の海に包まれていた。


 その中を逃げまどう人々。背筋が凍るような笑みを浮かべてそれを追っているアリシア。

 彼女が一度動くと、まるでそこには何もなかったかのように沢山の人が消えて行く。

 泣こうが喚こうが、命乞いをしようが……何をしようがアリシアは殺戮をやめない。むしろさらに笑みを深めて殺戮を楽しんでいる。


 ――もう……やめてください……‼︎


 私はただ叫ぶことしか出来なかった。


 ――どうして……どうして……‼︎


 息が苦しい、胸も痛い……。人が死んでいくのもそうだけれど……アリシアがあんな顔をして人を殺していることが辛い……!

 彼女は……彼女は私たち人種を……あんなに羨望してくれていたというのに‼︎



 ――何故人はこんなに汚れているのでしょう……。

 ――何故人は自身が汚れていると気づけないのでしょう……。


 私もつい最近までは気づけませんでした……。それはあって当然のことでした……。

 ですがアリシアの話を聞いて、考えて……そして、何故薄汚れていると今まで気づけなかったのか不思議に思いました。



 ――本当にどうして人種(わたしたち)は気づけなかったのでしょう……。



 ***



「はっ⁉︎」



 私は荒い息を吐き、ひたいに汗を浮かべて目を覚ました。


 今見ていたものは夢なのでしょうね……。そしてこの世界がたどる可能性なのでしょう。

 このままアリシアが人種に失望し続ければ……。


 と、そこまで考えたとき、ようやく寝起きの頭が働いてきだし、今自分の置かれている状況が把握できてきた。



「こ、ここは……それにこの鎖……」



 私は冷たい石壁と鉄柵で監禁されていた。そしてご丁寧なことに擦り切れたボロ布のような服が着せられていて、首と手、足に無骨な枷が嵌められ首輪からは鎖が伸びていた。


 それを私は乾ききった表情で見つめる。



「ふふ。……くだらない。アリシアの気持ちがよく分かりましたよ。……私も先日までこちら側だったのですね」



 嵌められた枷を見て、鎖を揺らし、そして檻の向かいを見て、つまらないと……汚いと……そう思った時には嘲るような笑みを吐き出していた。

 そして同時に、その笑みは自分を嘲笑っているようにも思えた。


 宿でアリシアの話を聞くまで、私はこれが普通なことなのだと思っていたのだから。



 檻の向こう側には同じような檻があった。そしてそこにも収監されているものがいた。

 見た目からして成人したてのヒューマンの女性だ。

 彼女は衣服は着ておらず、その無残な身体を晒し出していた。右の腕と脚がなく、身体中には無数の濁った赤の亀裂、顔はボコボコで赤く腫れていて原形が分からなくなっている。その姿で力なく横たわっているので、死んでいるのでは? と思ったが、小さく胸が上下しているので、可哀想なことにまだ生きているのだろう。



「本当に……恐ろしいですね……知りませんでした」



 はぁと重い息を吐き出し呟く。


 私もああなるのかもしれないと言う恐怖ではない。あれが普通――当たり前のことだと思っていた『恐怖』だ。奴隷とはああいう扱いをするのも当たり前だと、そう思っていた。


 あぁ、人種はここまで汚れていたのか……。アリシアが怒るのも納得できる。


 ……でも、アリシアはまだ人種を見放していない。もしそうだとしたらとっくに人種は滅んでいると思う。

 それに彼女は伯爵の件を私に任せてくれた。わたしは抵抗しないからとわざと捕まりもしてくれた。


 アリシアに人殺しをさせたくない! そんな私のわがままを彼女は聞き届けてくれた。お人好し、だなんて笑ってそう言ってくれた。



「そうですね……。これは私のわがままです。まだ人種に呆れて欲しくないんです……。いつもの貴女に戻って欲しいんです」



 首輪をそっと触れ、それをギュッと握りしめて勢いよく立ち上がる。



「こんなもの! 人種に必要ないですよね!」



 首輪を掴んでいない方の手に魔力を流し込んでいき、それを指先に集中させていく。すると指先が白い光を放ち出した。



「ふふ。やはり効率は下がるのですね。ですが‼︎『♈︎』」



 ゆっくり丁寧にそう描き、起動させる。すると赤のオーラが身体を包み、それが中に入り込むと身体能力が大幅に強化されたのが感じられた。


 そして私は首輪を強引に引きちぎり、手首と足首の枷も力ずくで壊した。


 また、これだけで終わるような『神の知識』ではない。



「『♊︎』『♉︎』『♒︎』『♎︎』」



 黄のオーラを取り込むと武術や剣術の知識が身についた。

 紺のオーラを取り込むと身体の周囲に薄い膜が張られたのが感じられた。

 青のオーラはその姿を変えていき、ふわふわぷよぷよと大小いくつもの水の球が現れた。

 桃のオーラは壊した枷と鎖にまとわりついていき、オーラが消えるとそこには一振りの無骨な短剣があった。


 これが12文字あるうちの数個、しかも何も組み合わさずに単体で用いたときの効果だ。


 身体強化に変装、防御結界、水魔法、分解創造……。

 アリシアは言った。一文字でも十分だと。あぁなるほど……確かに十分だ。


 ……しかし、これは人種(わたし)には過ぎたものかもしれませんね。


 そう思ったら少し笑えてきてしまう。



「ふふ、まぁそれも後でですね。……さぁ今すぐ行きますからね」



 私は身体強化された体で枷から作った無骨な短剣を檻に向かって横に二線振り抜く。

 するとつるつるとした断面を残し、鉄の柵が崩れ落ちた。


 それを気にすることもなく、ゆったりとした足取りで檻から出て外を目指す。


 しかし、その前にすることがあったのを思い出し、上に続く階段に背を向け腕をあげる。



「ごめんなさい……終わったら必ず迎えに来ます。『♋︎♈︎』」



 後ろ髪を引かれる思いでそう言い残し、文字を書いて起動させる。

 すると、銀のオーラがきらめく赤の粉が混じったようになり、それが各檻に向う。そしてオーラが収まるのを見届けた後、この後に起こることを思い浮かべ、しっかり覚悟を決め、強く心をもって、私は階段を一歩一歩踏みしめて登って行く。



 ***



 ゆっくりと、慎重に……。


 私は今は伯爵の屋敷を探索していた。しかし檻から出てからもう屋敷内は粗方見たにもかかわらず、アリシアどころか伯爵の姿さえ見つけることが出来ないでいた。


 私たちが伯爵と食事をとっていたのは空が色付いて来た頃だった。そうなると、私は長い時間寝てしまっていたのだろう……。天高く輝く日がそれを示していた。


 そして、私が目を覚ましたとき、身体には何かされた痕跡はなかった。また監視などもなかったことも怪しい……。

 そうなればアリシアが伯爵に何かをされていると考えるのが正解だろう。


 彼女は抵抗をしないと言っていた……。ならばアリシアが今無抵抗で何かをされていると思うと気ばかりがはやってしまう



「一体どこにいるのですか! アリシア‼︎ 」



 屋敷の調度品に水をぶつけて八つ当たりをする。その音で誰かしら来てくれればいいと思ったのだが、少し待っても騒ぎにすらならない。


 もしかして⁉︎ と思ったが、もしアリシアが片付けていたのなら、私があそこにいたのがおかしい。……いや、アリシアが人種を見放していたらそれでも不思議ではないですね。



「いえ。アリシアはそんな魔族じゃありません。私は信じます」



 ふるふると首を振り嫌な考えを頭から追い払う。


 そして顎に手を当てて少し首を捻る。



「……そうです! 庭園がありましたね。そして貴族には……バカみたいな趣味思考がありました」



 気持ちの悪くなることを思い出してしまい少し気分が悪くなってしまった。

 しかしそれ以上にアリシアがそんな目にあっているかもしれないと思うと怒りが、その気持ち悪さを塗り潰していく……。



「邪魔ね……」



 さっと腕を払い、屋敷の壁に豆ほど小さな水を一つぶつぶつけると、バンッと大きな音がこだまし、両手を広げても通れるくらいの穴が空く。


 私はそこから飛び降りて、すぐさま庭園に向かっていく。


 そして庭園に近づいていくにつれ、複数の男たちの汚い笑い声と『か弱い女』の声が聞こえて来た。

 一瞬私は疑問に思ったが、それがなんなのか思い当たる前に庭園の中心地にたどり着いてしまった。



「ぶふふ! 見たまえ! へそに当たったぞ! 10点だぞ!」

「おお〜見事ですなぁ伯爵殿!」

「ぶはは! 私は弓が得意なのだぞ!」



 そこには脂を滴らせたブタと、このスレクラットの街に着く前に襲って来た盗賊たちがいて、彼らは何かを的にして弓を射って点数を競っているようだった。

 ……そしてその的は……的は地面から生えた杭に固定され、顔には袋を被せられて致命傷になるところだけに鉄板が肉体に打ち付けられ、衣服を取り払われたアリシアだった。

 袋からはみ出している透き通るような黄金の髪は、くすんでヌメッとした液体で濡れていた。


 また、アリシアはまだ意識があるようで矢がお腹に当たるたびに悲鳴をあげている。その叫びは必死なものであり、それを聞いた私はブタの弓から放たれた矢がアリシアの身体に当たるよりも速く、その矢を掴み取っていた。



「あなたたちは……あなたたちはもう、救いようがありません‼︎」



 私は掴み取った矢を握り潰しながら、キッと睨みつけてブタどもに言い放つ。


 すると状況がだんだんわかって来たのか、ブタと盗賊たちは驚きながらも言葉を返してくる。



「お、おやおやこれはこれは。糞食貴族のヘレナ殿。どうされたのですかな? 用意させたお部屋は気に入りませんでしたかね?」

「あなたは……あなたは……」



 私が怒りによって肩を震わしていると、頭の中までブタ脂が満ちているんじゃないかと思えるようなことを上機嫌に言ってくる。



「おやおや? そんなに肩を震わして……勢いよく出てきたにも関わらず怖くなってしまったのですかな? ぶはは! 飼い犬は飼い犬らしく鎖につながれていればいいのですぞ!」

「そうだぜ嬢ちゃん? 何せあの化け物だって今はそのざまだ! さっさと諦めたほうがいいぜ!」



 ぶはは、ぎゃははと目の前の馬鹿どもが汚く高笑いをあげる。


 何が可笑しいのだろうか……何故笑っていられるのだろうか……。何故……何故……。

 アリシア……私が言うのも可笑しいですけれど、こんなモノを生かしておく価値はあるのでしょうか……。人種は生かしておいてもいいのでしょうか……。


 汚い奴らをよそに私は武器の具合を確かめる。


 黒くて、刃だけが薄っすらと白く輝いていて……まるで宵闇に輝く運河のよう……。美しくて綺麗な刃……これが汚れに触れると思うと嫌ですが、あとでしっかり手入れするので許してくださいね。

 周囲に浮く水は健在。彼らからは見えていないようだけど、多分そんな効果が何か文字の影響で併発してしまったのだろう。

 身体強化も防護膜も変装もまだまだ効果時間はある。


 掃除をするには十分な時間だ。



「私はあなたたちを警備兵に送るつもりでした」

「はぁ? いっちまったのか?」



 淡々とゆっくり、突き放したように言葉を丁寧に紡ぐ。



「ですがそれはやめました」

「ぶはは! 何を言っているのかサッパリですな! さっさと首輪をつければどうですかな?」



 ブタが鼻息を荒くして何かを話しているが、全く耳に入ってこない。

 私は地面に着くくらい身を伏せ、短剣を後ろに振り絞って構える。



「何をしているのですかな? ぶはは! 何ですかなそのみっともない構えと剣は。あなたみたいな出来損ないの魔術師が剣を使うと言うのですか! ぶふふ!」

「すぅ……すぅ……」

「ぶはは! いいのだぞ。お前たちあの犬を躾けてやるのだ!」

「へへ、分かりやした!」



 盗賊たちが剣を構えて向かって来るが、私は目を瞑り深く呼吸をして、身を伏せたままその時を待つ。


 ……そして盗賊たちが剣の射程に入った瞬間――私の身体は弓に弾かれた矢のように盗賊たちに迫っていき、そして……。



「1匹……です」

「なっ⁉︎」



 短剣によって切り裂かれた男は体をお腹を境に二つに分かれてしまった。


 やはりこの短剣は恐ろしいまでに切れ味がいい。身体強化を発動しているからといって、骨すらも手応えがないほど容易く斬れてしまった。


 盗賊は仲間の成れの果てに声も出なくなってしまっている。



「ねぇ、こないならこっちから行くね?」



 似てないなぁと思いつつ、アリシアがいいそうなことを真似て言い放ち、盗賊たちに迫っていく。


 盗賊たちは取り乱してはいたが、アリシアのこともあったので連携がとれていて、私の攻撃をどうにかそらした瞬間、一斉に攻撃を仕掛けてきた。



「おら! 食らいやがれ!」



 全方位から迫って来る剣……私に周りには防御膜が張られているから受けても大丈夫だとは思うけど……迫って来る剣とはいささか怖いものだ。

 だから私は彼らに向けて腕を振るう。



「ふん!」

「ぐあ⁉︎」



 な、なんだ⁉︎ と余波で弾き飛ばされた男たちが驚愕の表情を浮かべ、直撃を受けた男は……原形すら留めていなかった。


 ちょっと水の球は威力が高過ぎる気がする……。今男たちに打ったのは数ある浮いている水の球の中くらいの大きさものだ。その中くらいの水の球だけで3人ほどがお亡くなりになってしまった。

 そもそも運動音痴の私が体術でまともにやりあえていることからおかしい。


 一文字でこんな凄い効果があるんだ。私がアーレンキーで使おうとしていた10文字のものは果たしてどれだけの威力があったのだろう……。アリシアは使ったらしいけど、聞くのが恐ろし過ぎる……。



 戦闘中にそんなことをつらつらと考えていたが、傷一つ負うことなく盗賊の数を減らしていくことができてしまった。加えて息も乱れたりしていない。明日筋肉痛かなぁ〜と思うようなこともない。


 私は冷静に男を見つめそっと口を開く。



「もう死んでいいですよ? いい加減目障りです」



 地を滑るように最後の盗賊に迫り、短剣をすくい上げるようにして男を両断する。



「う、うぅ……血がちょっと付いていまいました……。汚いです……」



 元から薄汚れていた服がもっと汚れてしまった……。


 まぁいいでしょう。あとはブタを焼けばおしまいですからね。


 そう思って短剣を片手で遊ばせながら、尻餅を付いて後ずさるブタに近寄っていく。



「く、くるんじゃないぞ⁉︎ 私は伯爵だ! その私を殺せばどうなるのか分かっているのか⁉︎」



 みっともなく喚いているブタに私はうふふと笑みを向ける。



「いいのですよ。どうせアリシアの便利なスキル……スキルなんでしょうか? まぁいいです。彼女が後始末をしてくれるでしょう」

「な⁉︎ ま、待て⁉︎ 金だ! 金をやる! 糞食には欲しいものだろ!」

「お金なんていりませんよ。必要なら魔物でも倒しますよ」



 もう終わりですか? とごく普通の会話をしているようにブタに語りかける。

 それが余計に怖かったのだろう。ブタはみっともない鳴き声をあげ、這うようにして私から遠ざかろうとする。


 私はそれを侮蔑するように見下し、呆れたように言う。



「はっ、まるでブタそのもののようですね! 家畜は家畜小屋に帰ったらどうですかぁ?」

「な、なんだと⁉︎」

「唾を飛ばさないでくださいませ!」



 すふとブタが振り返り、その醜く脂まみれの顔を歪ませながら乱暴に言葉を投げてきた。


 そのことにイラっときた私は一番威力の低い水の球をブタにぶつける。



「ぶふぇ⁉︎」



 水の球に当たったブタは見事なまでに吹き飛び、手足があらぬ方向に向いてしまっていた。

 その姿は本当に醜く、そして汚い……。


 そういえばあのブタはよく脂が乗っていそうですね。


 骨が折れたせいでその痛みに呻いているブタに言葉をかける。



「そういえば伯爵様はステーキが好きでしたよね? それもよく脂の乗った」

「な、何を言っているのだ!」

「ん? あぁいえいえ。それならばご馳走してあげようと思った次第です」



 演技くさい大仰な身振り手振りで言い、指に魔力を集めそれをブタに見せつける。



「……ですが先ほど伯爵様が言われた通り糞食と嘲笑われるほど貧乏でして。残念ながらステーキ用のお肉は自分で調達しなければいけないのですよ……。ですが! とっても脂の乗ったお肉がそこにあったのですよ!」

「お、お前何をするつもりだ⁉︎ その腕を下ろせ‼︎」

「上手に出来ればいいのですが……なにぶん初めてなもので……出来なくても怒らないでくださいね?」



 にこっと私にできる最大の嘲笑いをブタにさしあげて、ゆっくりを指を動かしていく。



「『♌︎』」



 描き終わり発動させると、アリシアの髪のような黄金のオーラが溢れ出し、だんだんとそれが炎に姿を変えていった。

 そして黄金のオーラが全て炎に変換されると、ぶわっと凄い熱量が感じられ、その炎の中にはキラキラと輝く金の粉が舞っていた。



「綺麗……」



 それを見た私はブタのことなど頭からすっかりと消え去り、顔を朱に染めながらうっとりとしていた。

 しかしブタの鳴き声によってハッとし、ブタを見据えてその綺麗な炎を向ける。



「ではいきますね? こんな綺麗なもので料理されるのです。光栄に思ってくださいね」

「や、やめろぉぉぉぉ!!!!」



 放たれた炎はゆっくりとした動きでブタに近づいていき、そしてブタと接触するやいなや……そこには小さな太陽が出来ていた。



「す、凄いです……」



 その太陽がなくなるまで茫然とその光景見つめ、ようやくおさまった後、未だに柱に縛られているアリシアの元へ向かう。



「アリシア……ごめんなさい……。私のわがままでこんな目に……」

「ん? 別に気にしてないよん? それよりすごかったねヘレナ」

「そういってくれるとうれし……い……です?」



 私が縛られているアリシアを柱から解きながら懺悔していると、後ろからしてやったみたいな声が聞こえた。


 嫌な予感を抱きながら、恐る恐る後ろを振り返ってみると……。



「なにかな? ヘレナったらすっごくアホみたいな顔になってるよ? うふふん。おっかしい〜の〜」



 どこも異常がなく、得意げに笑っているアリシアの姿がそこあった。柱に括り付けられていたアリシアにそっと視線を向ければ、煙のように消えていくところだった。


 多分本物のアリシアを見ている私の顔はとても間抜けなものになっているに違いない。



「あ、え……。ど、どうなっているんですか? あれ?」

「ヘレナったら。抵抗しないとは言ったけど、何もわたし自身がこんな仕打ちをされるわけないじゃない」



 あっけらかんと言うアリシアに、私は心底ホッとした。

 アリシアが何もされていなかった。それだけで良かったのだ。


 そして落としていた肩をあげ、私はいつものようにむんむんと怒って抗議の声を上げる。



「もう本当に心配したんですよ!」

「あはは〜わたしはヘレナの驚く顔好きなんだよ!」



 無邪気に笑っている彼女の姿。

 私はこれがずっと見ていければいいとそう思う。あんなしかめっ面の彼女なんかより、今の方が何十倍も素敵なんだ。


 アリシアはまだ私に笑顔を見せてくれている。それはまだ人種に呆れてはいないという証拠なのだろう。


 本当に……醜いものはもう見たくないものですね。

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