22話 食休み
騒々しくて慌ただしい中でゆっくりと食事を楽しむのはなかなかに乙なものだ。しかしたまにはいいものだと思わないでもないけど、やっぱり仲間内でわいわいする方がわたしの性に合っている。
このギルドという施設に訪れる者たちは何を目的としているのだろうか。
わたしは気になって食休み中のヘレナに問う。
「ねぇ冒険者の仕事ってなんなの?」
「あれ? 話していませんでしたか? 彼らの仕事は……依頼によって変わります」
「例えばどんな?」
その説明だけではいささか不明瞭だったので、首を少し傾げて聞く。
するとヘレナはどう言おうかと頭をひねる。
「そうですね、主に戦闘系ですが……採取や護衛、その他諸々。とにかくどんな内容のものでも依頼されることがあるので……冒険者はこう言うと嫌いますけど、いわば何でも屋ですよ」
「何でも屋ね〜。そうだったね、そんな職業でなんでこんなに賑やかになるんだろうね。店で雇われたりとかの方がいいと思うんだけど」
適当にそう言い捨て向かいのカウンターあたりに群れている人種たちを見る。
ここにきている人種たちは誰かの依頼によって仕事を得ている。でもあんな人数分の依頼が果たしてあるのだろうか。もしあったとして、それが毎日ずっと続くのかな? 続かないとすると安定性もないし、何日もの間収入がない状態になりそうだ。
もしわたしが人種で今みたいな力がなかったとしたら、適当に安定できる職を探すんだろうな〜。それか一発当てて遊んで暮らすとかかなあ? そっちの方があってる気がするね。
ぼんやりと考えていると、ヘレナが説明を追加する。
「……確かにそうなのですけれど、仕方ない部分と利があるのですよ」
「ふーん、まぁ需要があるんだしそうなんだろうね。ちょっと考えてみたいから待ってくれる?」
「ええ? いいですけれど」
言うと、ちょっとその事情について考えてみる。なぁにただの暇つぶしだよ。
さて、冒険者になる利は…………身分証獲得以外見当たらない。あれれ? 本当にわからないや。なんでだろ、思考加速して長いこと考えたんだけどなぁ……。
じゃ、じゃあ仕方ない理由だ。仕方ない理由といえば…………身分証がないこと。
う、うぅ……わっかんないよ。だってそれ以外の理由が全く思いつかない。ならばこれが正解なのかな? いやいや、だとしたら身分証ない人種多すぎでしょ。確か身分証がないの珍しいってヘレナ言ってなかった?
うー、と腕を組んで考えていたけど、結局それしか答えが出なかった。もうどうしようもないので、一応その答えをヘレナに言ってみる。
「……身分証獲得のためとか?」
「うふふ、そんなのはアリシアだけですよ。違います」
わたしが間違えたのが嬉しいのかヘレナは機嫌が良さそうだ。たぶんさっきからかったことへの意趣返しみたいなものなのかなぁ? 覚えといてね、わたしは必ず仕返す主義なんだからね!
わたしはくそうと唸りつつ、じゃあ答えは、と拗ねたように言う。
「仕方ない部分はこれしか職がないと言うことですね。特に男性はですね。騎士や職人、学者にはなりにくいですし、傭兵団といっても彼らも冒険者ですしね。下働きも性に合わないって人が多いのです」
「へ〜」
「それで利ですが、一重に名声や力ですね。最上の冒険者クラスになれば貴族になれますし、一攫千金の夢もありますしね。それに魔種と戦うことが主なのでステータスも上がりま……あ、あの……すみません」
つらつらと説明していたヘレナが何故か途中で止まってしまった。そして謝罪の言葉を口にした。それがなぜかちょっとわからない。
「へ? 何が」
わたしが聞くとヘレナは言いづらそうに口を開く。
「あ、いえ……その、冒険者の仕事には魔族を討伐するものもするので……」
「ん? ああそう言うこと。別にいいよ、基本的に君たちが遭遇するのはわたしのところ以外の魔族だからね。あと所詮この世は弱肉強食だよ。それに魔族も君たちを殺している。気に病むことはないよ」
「そうですよね……」
そうだよ。わたしはこうだけど、他の魔族はもっと人種に対して好戦的だし、見下す傾向にある。相対すれば大体は戦闘になる。抵抗するななんていくらなんでも酷すぎる。
しかし驚いたな。冒険者なんて素人の集まりだと思っていたけど、魔族を倒せるまでになるんだね。
名声と力か……。そんなにして貴族になりたいのか、それとも金か。どちらでもいいけどそれで強くなるんだから凄いよね。それに魔種と戦うことが多いから『ステータス』が上が……『ステータス』? なにそれ?
また聞き覚えのない単語だ。『魔道具』と『奴隷』に続いて三つ目の知らないもの。
今度はどちらがもたらしたものなんだろう……。
「ねぇ、『ステータス』ってなに?」
色々あったせいで少し強く言葉が出てしまった。
しかしわたしは気にすることなく、早く話せとヘレナを強く見つめる。
すると視線を受け取ったヘレナはクスッと心底おかしそうに吹き出し、それを睨んだわたしを見て慌てて口で手を抑えた。
「なにがそんなにおかしいの」
「い、いえ。そんなことも知らないのですね、と」
「はぁ? そんなことってなにさ。わたしの周りじゃ『ステータス』なんてなかったんだよよ」
言うとヘレナは訝しげな目を向け、本当ですか? と聞いてきた。
もちろん本当だ。『ステータス』なんて聞いたことがない。食べ物じゃないんだろうなーってことくらいしかわからない。
「なんなのさそれって」
「えーっと、ステータスを見たいと念じて『ステータス』って唱えてください」
「はぁ? バカにしてるの?」
「い、いえ本気ですよ」
当然のように言ったヘレナを目を細めて睨む。
わたしは『ステータス』を教えてと言って、返ってきたのは唱えてくださいだ。そんなのバカにしているとしか思えない。
唱えればなんだと言うのだ。
しかしそこまで考えついたときに、ふと頭をよぎったことがあった。
「ねぇ、それって神様が伝えたものだったりする?」
「そうですよ? それがなにか?」
「あぁ〜、そういうこと。またパクりやがったなあのクソアマ……」
ごごご、と怒りが湧き立つのをどうにか抑え、わたしは『ステータス』について考える。
先立ってはそれが使われているのを見なければならない。ならヘレナに使わせよう。なぜ自分で使わないかって? 気持ち悪いからだよ!
「ヘレナ。ちょっとその『ステータス』とやらを使って見てくれる? 拒否は受け付けてないからね」
「はい? まぁいいですけど。……『ステータス』。……これでいいですか?」
「うんいいよ、どんなものかは分かったから。……しかし無茶苦茶だね、よく実現させたと褒めてやる」
ヘレナが戸惑いの表情を浮かべているが、生憎説明する気は無い。たぶん知らない方が精神安定上いいはずだ。
あのアホはとんでも無いことをしている自覚が果たしてあるのだろか……。一方間違えば人種は魔種になるぞ?
魔種の魔素を取り込んで力に変換だなんて……確かに強くはなれるとは思うけど、わたしじゃこんなことをしたいとは思えない。人種に対してもしもが危険すぎる。
しかし、流石あのアホと言うべきか危険は全くないな。ちょっと嫉妬してしまいそうだ。
『ステータス』はわたしがカレンたちのために考えた『キーワード』をアレンジしたものだ。
そもそもキーワードとは、言葉を唱え、自身の力を乗せ、制御することで魔法を発現させることができるものだ。
しかしあろうことにあのアホは力を乗せることと制御を世界に代行させ、誰かが使う意思を持ちながら唱えるだけで『キーワード』を誰にでも使えるようにしてしまった。
なるほど、それはわたしが考えつかなかったことだ。あの文字の件といい『ステータス』の件といい……いつかあいつボコる……。
まぁそしてそのステータスとは自分の強さがどれくらいか示すものらしく、唱えると頭の中に浮かぶようになっている。
その『強さ』はもちろん魔種の魔素を変換したものだ。その変換も『魔法』で行われていて、『ステータス』とともに世界に刻み付けられている。
だけどそれがあいつの失敗だったのだろう。
世界に刻まれた『魔法』は魔素変換の少しとステータスが魔族にも効果がある。その影響でカレンたちは『スキル』を使えるのだろうね。
だけどカレンたちが『ステータス』なんて使ってるの見たことがないんだけど……。そもそも使ったときの揺らぎが全くないせいでここまで近くないと気づけない……。
あぁ、あいつはいつしか泣かす……絶対に泣かす。
拳をギュッと握りしめ決意をあらわにしていると、ヘレナは戸惑ったような声で話しかけてきた。
「あの……何を考えていたのかは知りませんけれど……納得できたのですか?」
「うん、一応ね。やっぱ力押しが一番だってね」
「はぁ……? よく分かりませんけど、アリシアのステータスを教えてもらってもいいですか? 失礼なことですけど、ちょっと気になるのです」
そう困ったように言う。魔族の頂点に立つ者の強さを知りたいと思うのは仕方ないことだよ。
だけどそれは叶えてあげられないかな。うん、仕方ないよね。
「ごめんね、それは出来ないんだ。あぁ意地悪とかじゃないよ? そもそもそのステータスを見れないんだよ」
「ど、どういうことですか……」
「うーん。その神のかけた魔法の効果は君たちや普通の魔族たちにしか効果がないんだよ。わたしは……ちょっと違うからね」
説明しにくいこともあってボカして伝えると、聞きたそうにしながらもヘレナは止まってくれた。
それは素直に有難いと思う。何せ説明しろだなんて言われたら、あのアホがいかにアホなのか一からグダグダ教えなくちゃならなくなる。まぁ一言で言えばあいつの自業自得なんだけど、それをいってもヘレナには余計分かりにくくなるだろう。
なに、いずれ分かることだと思うよ? こうやって暇な時間にちょっとずつ適当に話してあげよう。
まぁ今日のところはこれで終わりだね。食休みも済んだことだしね。
「さ、ヘレナ。次は何を食べに行こうか。出来れば甘いものがいいなぁ」
「アリシア……今食べたばかりでしょう……」
わたしたちは椅子を引き混雑しているギルドから出て行く。
さぁ腹ごしらえは終わったよ? 次はデザートを持ってきて欲しいな。
***
ここはどこかの広大な島。ところどころから溶岩が吹き出し、身も削るような突風が吹き、岩をも砕く雨が降るようなそんな島。
そこは人種たちには最果ての島と言われている。そこにはその自然に負けない動植物が生息していて、そしてそれらは全てが至高の美味なるものであった。
それを求めて人種はこの島に訪れようと試みるも、普通の方法では近づくことさえ厳しい。また上陸できたとしても、その厳しすぎる環境で死に至る。
この島は一重に自然の防壁が厚すぎるのだ。
しかしそんな混沌としている島を悠々と歩いている二つの影があった。
「アリシア様! アリシア様! ここにいるのですか! いるのなら返事をしてください!」
そう叫んでいるのは魔王アリシア・ラスフィーナの序列二位の側近であるカレンだ。
彼女は風が吹き荒れる中、その長い碧色の髪を乱れさすことなく叫んでいる。
そしてカレンの横にいる幻想的な少女が半開きの目をこすって、のったりとした口調でつぶやく。
「うるさい……。アリシア様は小ちゃい声で呼んでも気づかれる……。眠いんだから静かに……」
「もう! ネリアはちゃんと起きてアリシア様を探してくださいよ!」
「え〜ダルい……」
ため息をついてガックリとうな垂れている少女の名はネリア。序列は六位であり、常に眠たそうにしていて、ポケ〜としているのが趣味だ。
彼女も彼女でゆったりとした足取りだが、時々飛んでくる山ほどの大岩を一瞬の内に粉々にしている。
この最果ての島。実は元からこんなに厳しい環境ではなかった。こうなったら原因は魔王アリシアのせいであり、彼女が美味しいものが食べたい! とのたまい島全体に魔法をかけたことが所以だ。
そのせいで島はいくら壊れようとすぐに再生するようになるし、厳しい環境下での自己進化の末動植物はより強く、そして美味しくなってしまった。
しかしその結果、この島のは魔王アリシアの魔力がところどころに残ってしまい、カレンの能力では探知が出来ないでいた。
「またそんなことを言って……。ここはアリシア様の魔力がところどころにあるせいで私では探知できません。ですからあなたを連れて来たのです」
「えぇ〜しらない。それと結界はるのメンドイ……」
「そんなことで面倒くさがらないでください! あなたの特技でしょ!」
カレンはネリアの肩を強く揺さぶって目を覚まさせようとしている。
「ここはアリシア様のお気に入りの場所です。ですのでいる可能性があるので早くしてください」
「自分で見つければいいじゃん」
しかしネリアは通常運転だ。寝ぼけ眼のままのったりと答え、揺さぶられる肩に合わせて、あうーと声を出している。
「はぁ……そんなことを言うならもうお菓子を作ってあげませんよ」
カレンが呆れたようにそういうと、ネリアはハッと目を開けて突然に真剣な顔をする。
「仕方がない。やるから作って……」
「はいはい……。あなたといいアリシア様といい……扱いやすくて助かりますよ」
「えっへん」
胸を張るネリアをハシっとはたき、褒めてませんとカレンは言って、早くするように視線を向ける。
するとネリアはのそっと片腕をあげ、面倒くさそうにこう言った。
「アイ」
ネリアがキーワードを唱えると、彼女を中心としてとても薄い膜がドーム状に広がっていき、そしてその薄い膜は最果ての島を全て包み込むまでに至った。
するとネリアはカレンをジト目で睨み、心底疲れた様子で言葉を落とす。
「いない……くたびれ儲け」
「そうですか……いると思ったのですが……いませんか」
はぁとカレンはため息を吐き、何処にいるのですか……と呟く。
「そもそもなんでカレンはアリシア様を探してる? どうせすぐ帰ってくる」
ネリアはグッタリとしながらそう問うと、カレンはさらに疲れたようにため息をついて答える。
「絶対に問題を起こすからですよ……。この島のような場所を何個も作られたらと思いと……」
「そんなの……あるかも」
「でしょ?」
二人揃って息を一つ吐き、次を探しましょうとカレンが言い、キーワードを唱え転移の魔法を起動させた。
「はぁ、ほかの者たちが見つけていればいいのですが……。まさか人種のところに行ってたりはしませんよね……」
「それは……それもありそう」
「そうだったら流石に人種が可哀想ですね」
そんな心配をよそに二人の姿は最果ての島より消え去った。
その島は今日も異常なまでの自然によって防壁がなされている。




