表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/82

21話 なんとなく

 何が食べたい? そう聞かれると、美味しいものならなんでもいいよ、わたしはそんな風に答える。

 いつもならそれでヘレナにお任せにするんだけど、今日はわたしが手を引いていくのだ。



「さぁて、どこで食べようかな?」



 ヘレナを引っ張って騒がしい街を見渡しながら歩いていく。


 それにしてもあいも変わらず人種は多いな〜。どこかしこも人種、人種、人種……。うざったらしくてしょうがないよ。


 こうやって人種で溢れている光景を目にすると、末恐ろしいものがある。

 何せ一度人種は滅びかけている。しかし、驚異的な速度で繁殖していったのだ。そして人種の中でもヒューマンは群を抜いてすごかった。年中発情期かな? って思えるくらいどんどん数を増やして行っていた。


 それを羨ましいとも思うし、別に羨ましくないとも思う。


 わたしたち魔族は人種のように交尾をすれば新しい命が生まれるわけではない。魔族は自然発生するか人種を魔種にするか、それともわたしのような上位者が生み出すかしかない。

 しかし、自然発生以外はかなりの力が必要となるため、それができる魔族が少数であり、また出来たとしてそうなんどもできるものではないのだ。


 そんな理由で実は魔族(わたしたち)はかなり数が少ない。魔族の総数は人種の数の一割にも満たない。

 だけど数が多ければいいということではない。統率しにくくなるし、争いも起きる。

 魔族(わたしたち)は同族同士で争ったことがない。たしかにケンカはするし、力比べもする。しかし国同士で戦争をしたことがないのだ。ちなみに人種は戦争を何度もしている。

 まぁ魔族(わたしたち)は数が少ないからこそ、自分たちで数を減らしたくないと思っているだけなんだけどさ。

 でも人種は……中でもヒューマンはちょっとおかしい。何せ嬉々として同族殺しをしているのだからね。目的は知らないけど他国に攻め入っては争うなんてことをしているらしい。

 そんなことを以前にカレンに聞いたことがある。その時はなんでそんなことをしているんだって思ったけど、まぁ今ならなんとなく分かる。

 土地を奪う、力を示すって目的もあったのだろうけど、1番の目的は奴隷確保とかだったのだろう。

 昨日ヘレナは何かぼかしているようだったけど、たぶんそれなんだろう。



「どうかしたのですか?」

「……ううん」



 つい気になってヘレナを見つめてしまい、ヘレナは不安げな視線を向けてきた。

 わたしは頭を振って、なんでもない、とどこで食べようかなとヘレナの手を引っ張って人混みを進んでいく。


 ヘレナは自分たちの汚いところを隠したかったのだろうか。それとも話を膨らましたくなかったのかな。どちらでもいいけど、まぁ彼女の心遣いはご無用だったよ。


 そもそもわたしは奴隷のことについてはもう心が決まっているのだ。

 だから何を聞いたとして、見たとしても心を乱すことはない。


 さぁて、どこがいいのかなぁ?



 ***



「ア、アリシア! ここでいいんじゃないですか」

「ん?」



 ヘレナを引っ張って街をぶらぶらと散策していると、疲れた声とともに手を引っ張られて足を止めてしまった。

 もぉなに〜と思いながらも、ヘレナの指差す方を見れば、盾とその上に交差するようにふた振りの剣が描かれた紋章を掲げている三階建ての大きな建物があった。


 わたしはそれに見覚えがある。



「あぁギルドだったっけ? なんか前のところとおんなじような見た目だね」

「統一した方が何かと都合がいいのですよ」



 言うと、ヘレナはわたしの手を引いてギルドに向かっていく。


 統一した方が便利ね……。まぁ全部共通しているのなら、一目でそれがなんなのか分かりやすいよね。それはわからないでもないね。


 しっかし……内部まで同じにしなくてもいいんじゃないかなぁ……。

 この街のギルドもいたって騒がしい……。人種が多くて、カウンターの方蒸し風呂になりかけてない?


 はぁ、とため息を吐きヘレナを見やる。

 しかしヘレナは気にしてない風で、スタスタと比較的空いている食堂の方に向かっていく。


 わたしは手を掴まれている状態なので、ヘレナの後を追わないわけにはいかない。手は簡単に振り払えるけど、まぁする意味もないしついて行こうかな。美味しいものさえあればいいんだよ。あればいいんだよ。



「ふぅ、やはりギルドはどこでも賑やかですね。アリシアは何にしますか?」



 ゆったりと椅子を引いて座り、ヘレナはメニューを机の上に開いて何にするか悩んでいる。

 どうせヘレナのことだ。一番安いものを探しているんだろうね。


 わたしはわたしで机の上に広げられたメニューを覗き込む。



「ん〜名前だけじゃどんなのかわっかんないよ。ヘレナが適当に頼んでよ。あ、美味しくなかったら怒るからね」

「り、理不尽ですよ!」



 どかっと深く椅子に座り込みどうでも良さそうに言うと、ヘレナはむんむんと怒り出す。

 だってしょうがないじゃない。文字だけで見たこともない料理を決めろって、そっちの方が理不尽だよ。もし知らずに頼んだものが何かの目玉焼きだったらどうするんだよう。

 わたしは目玉を食べる趣味はないんだよ。グロいからね……。


 ヘレナは少しの間メニューとにらめっこし、うんうんと悩んでいたがようやく決まったようだ。



「そうですね、ではこの肉の甘辛煮込みにしましょう。少し高いですけど……臨時収入もありましたし、ちょっとの贅沢くらい良いですよね」



 バンッとメニューを置き、明るい顔でそういったヘレナに対し、わたしは言葉も出ないほど驚いてしまった。

 そしてそのことにヘレナは不審に思ったようだ。



「何ですか……そんなに驚いて……」

「え……だって『あの』ヘレナだよ? あのケチなヘレナが贅沢だなんて⁉︎ てっきり貧乏癖が発動して一番安くて微妙なものをたのむのだとばかり思っていたんだよ!」

「し、失礼すぎですよ! なぜ貴女はいつもいつも。確かに節約できるところは節約したい主義ですが、たまには贅沢だってしたいと思うんですよ! あとケチじゃありません!」

「う、嘘だ……。くそう、いつのまにか洗脳されていたのかな? 大丈夫だよヘレナ……元に戻してあげるからね……」



 優しく心配げな声でそう言うと、違いますよー! とヘレナは身を乗り出して詰め寄ってくる。


 なぁにそんなに慌てることないよ。だってヘレナにはわたしと言う護衛がいるんだから。洗脳なんて一発で解いちゃうよ! ……それにしてもわたしに気付かれずに洗脳するだなんて……かなりの凄腕に違いない……。



「アリシア! 聞いているのですか! ちょ、ちょっと……そんな優しげな目で見つめないでください……。って! 痛い痛い! 頭に手を乗せないで! 大丈夫、大丈夫ですから!」



 洗脳を解いてやろうとヘレナの頭をガシッと掴むと、どうにか逃れようと暴れ出したので、いじくるのは一先ず終わりにしようかな。



「冗談だよ冗談」



 あははーと笑いながら手を振っていうと、ヘレナは頭をさすりながらちょっと涙目になって言う。



「うぅ……痛かったです。貴女力強すぎませんか?」

「まぁこんななりだけど魔王だしね。この世界で一番の強者なんだよ? 強くないわけないじゃない」

「た、確かに……」



 そう言うことだよと適当に言葉を投げ、ひと段落したので店員を呼んでヘレナが選んだ料理を頼む。


 注文した料理はそんなにすぐにくるわけもなく、わたしはヘレナと他愛もない雑談をして時間を潰していた。

 そんなとき、ふと朝からずっと気になっていたことを聞きたくなってしまった。


 わたしは少し重たい口をゆっくりと開く。



「ねぇ……聞いて良いかな?」

「なんですか? あらたまって」



 いままでのおちゃらけた態度を崩し、急に真剣になったわたしをヘレナは不安げに見つめる。



「あのさ……なんでヘレナは逃げないの? 起きたときもそうだけど、わたしが魔王だって話したよね。普通は怖くなって逃げない?」

「……」



 言うと、ヘレナは沈黙を守り、視線を下で組んだ手に向けている。



「逃げたら殺すなんてことはしないよ? ……わたしは魔族だ。人種とは分かり合えない。それに君はわたしが盗賊を蹂躙していたとき、恐怖に包まれていたはずだ。そして真実を知って……なぜ離れていかないんだ?」

「…………そうですね」



 紡がれた言葉は重く、沈んだ声だった。


 言いたくないことだったのだろうか? それとも言えないことだったのだろうか? どのみちいつか聞こうと思っていたことだ。それにこういうことは早い内に解消しておく方がいい。

 頭を勝手に覗くことも出来るけど、出来ればしたくないのだ。めんどくさいし……。


 ヘレナが答えて少し間が空き、どうしようかなと思っていると、再びヘレナが口を開く。



「そうですね。理由は……理由は……たぶん私にもよく分かっていません」

「はい?」



 ヘレナの口から出てきた言葉は予想外に軽いものだった。そしてそれがなんなのかわたしには分からない。



「分かってないって……君はそんな考えなしでわたしの近くにいるの? やっぱりアホの子なんじゃない?」

「ち、違いますよ!」



 答えも出さずにこうやって魔王(わたし)の正面に座って食事だなんて……。とても正気とは思えない。だって普通は答えが出るまで距離を取らないか? まぁそのままバイバイになるのが常なんだけど。

 ヘレナのことがちょっと分からない。恐怖を抱いていないのだろうか? 生物は強き者に恐怖するはずだ。そしてその脅威から逃れようと必死に背を向ける。立ち向かう者もたまにはいるが、それは今のヘレナのように考えなしではない。



「じゃあなんで?」



 改めてそう問うと、あはは〜と頭をぽりぽりかいてヘレナは困ったような笑みを浮かべる。



「確かにアリシアが盗賊と戦っているときはすっごく怖かったです。……それに魔族だと気づいて身がすくみました。そして貴女の口から真実を聞いて、そして魔王だと知って。心臓が止まるんじゃないかってほど驚きました」

「なら――」



 何故逃げない、と言葉を綴ろうとしたが、ですが、とヘレナの必死に声に遮られてしまった。

 わたしはそれを口元を引き締めて聞く。



「貴女が……アリシアが怖いとは思えなかったのです」

「……どういうこと?」



 言われたことをしっかりと考えたけど、よく意味がわからなかった。

 怖いのに怖くないだなんて矛盾しているじゃない。やっぱりアホの子なんじゃ……。


 そう考えていた私を、ヘレナはジッと目を細めて訝しげに見てくる。



「また失礼なことを考えていますね」

「え! う、ううん。考えてないよ。ヘレナって賢いなーって思ってただけだよ」

「はぁ」



 や、やっぱりヘレナは思考を読むことが出来るんだ! すっごいね。



「アリシア。私は魔族が怖いですし、人と戦っていた貴女は怖く思いました」

「まぁそうだろうね」

「ですが、今のアリシアは怖くありません。魔族だと……そして魔王だと知った上でも、アリシアを怖いとは思えません。ただ……その理由を言葉には出来ないのです。ただなんとなく……としか……」

「ふーん」



 なんとなく、か。分からなくもないね。

 わたし自身ヘレナの護衛をしているのは、表向き色んなとこに行きたいからだけど、本心は『なんとなく面白そう』だからだ。

 何故そう思うのかなんてとても言葉にできない。誰かに聞かれても、よく分からないとヘレナと同じようにしか答えられない。


 だからヘレナが答えた『よく分からない』が多分一番の回答なのだろう。


 なるほど、よく分からないなんて理由でわたしを拒絶しないなんて、ヘレナが初めてだよ。



 わたしは、うつむきモジモジと指を組んでいるヘレナにそっと声をかける。



「そう、ヘレナは本当に不思議だよね。わたしをなんとなくで怖がらないし、神に知識だって……」

「? どうしたのですか?」



 感心したように言っていたわたしの言葉が途中で切れてしまったことで、ヘレナは少し不安に思ってしまったようだ。

 何せ神の知識、のところで止まってしまったからね。何か問題があったのかと思うのも無理はないだろう。


 わたしが話を再開させるため口を開こうとした時、間の悪いことに頼んでいた料理が運ばれてきてしまった。



「あ、ありがとございます」



 まだ不安感が残っているヘレナが料理を机に並べている店員に礼を言っている。わたしはそれを横目に、そっと異空間に手を突っ込んで目当てのものを引っ張り出す。


 そして店員が立ち去るのを見送ってから、わたしはヘレナを改めて正面に見据える。ヘレナもそれに合わせて姿勢を正す。



「これをあげるよ。多分役に立つからさ」

「……何ですか? これ」



 わたしの手のひらの上にあるそれは、見た目は親指の爪程度の大きさで無色透明のまん丸な球だ。

 その透明な球をヘレナに渡し、その使いかたを教える。



「飲み込めば普通に作用するからね。さ、どうぞ」

「……いえいえいえ! どうぞじゃありませんよ⁉︎ 何ですかこれは⁉︎」



 かる〜い声でそういうと、手をブンブンと振ってヘレナはそれを拒否した。


 はぁ……ヘレナは臆病すぎるよ……。お金のことになると別人のように強くなるのに……。


 仕方がないとため息を吐き、ヘレナから透明の球を預かる。



「ねぇヘレナ、『あ』って言ってみて?」

「な、何故ですか……」



 訝しげな視線を向けてくるが、そんなものは無視だ!


 わたしは躊躇しているヘレナに有無を言わせないように一言。



「いいからしろ」

「は、はい。『あ』」

「よし! いまだ!」



 ヘレナの口がポッカリと開けられたところを狙って透明な球を投げ込む。


 ヘレナは異物が喉を通っていく不快感から咳き込んでいるが、大丈夫わたしが魔法で操っているから吐き出せないよん。



「よし、これでひとまずはいいね」



 うんうんと満足に頷いていると、何がいいんですか⁉︎ とヘレナが恨めがましい顔でわたしを睨んでいた。



「な、何を飲ませたのですか⁉︎」

「ん? 何ってさっきの球だよ?」

「な⁉︎ あ、あれは一体何のですか⁉︎」

「まぁまぁ落ち着きなよ。あれは今ヘレナに最も必要なものなんだよ」

「……」



 ヘレナはまだ訝しんでいるけど、不承不承と席に座り話を聞く体勢を取ってくれた。


 ゴホン、とわざとらしく咳を吐き、わたしは話し出す。



「あの透明の球は魔力容量を増やしてくれるものだよ。それも最上級なんだから感謝してよね」



 ぷいっとそっぽを向いてそういうと、ヘレナは何故か惚けた顔をする。それが不思議だったので、どうしたの? と尋ねると、ヘレナは突然にあたふたしだした。



「へ⁉︎ ま、魔力容量を増やす⁉︎ そ、そんなものがあるのですか⁉︎」

「ん? 不思議なことを言うね。確かにヘレナにあげたものみたいな上等なものは見つかりにくいけど、低級のものはよく見つかるよ? 人種のとこはそうじゃないの?」

「そんなものがあれば苦労はしませんよ! この世にあるだなんて……信じられません」



 いや、そんな悲壮に言われても……何があったのさ。ちょっと怖いよ。まぁでも増えたんだしいいよね。



「いいじゃんラッキーだったってことで。多分まだ魔力が満ちていないから分からないだろうけど、その内びっくりすると思うよ? 2、3倍なんてものじゃないからね!」

「……な、何でそんなことを。い、いえ、嬉しいのですよ? ですが何故? 貴女に利があるのですか?」



 どやぁと手を大きく広げて言うと、ヘレナは手をわなわなと震わせて疑問を浮かべる。


 ただその疑問はおかしなものだ。何せわたしは護衛だ。ヘレナを守るのが仕事であり、そして側にいなくても守るためだ。と言っても自衛してもらうだけなんだけどね。



「わたしの利は、人種が神の知識を使ってどこまで出来るか見てみたいと思ったからだよ。ヘレナは魔力不足であのときは戦えなかった。でも拡張した今なら、多分1、2文字程度ならかなりの長時間戦えると思う」

「えっとそれが貴女の利なるのですか?」

「うん。ヘレナが使える文字って、魔種を基準にしてもかなり強力なものなんだよ。まあ文字が多くなればなるほどだけどね〜」



 指をくるくると回し、得意げにそう言う。

 何せわたしの案が元になった技術だ。わたしは文字を書くのがダルいという理由でボツにしたが、あのアホが何故かパクってやがった。

 だからわたしはそこそこあの文字に関しては詳しい。それに、やっぱり使われているところを見てみたいってのもある。


 わたしはそれでもね、と言葉を継ぐ。



「1文字でも十分に強力なんだよ。ヘレナが自分で脅威に立ち向かえるのなら、わたしはぐーたら出来るでしょ? それがわたしの利だよ」

「あ、貴女って人は……あぁ魔族は……」



 ヘレナは眉間をぐりぐりして一つ息を吐いてそう言う。



「まぁそう言うことでしたらいいですけど、次からは事前に言ってください! 本当にビックリしたんですよ!」

「うふふん。ヘレナの驚く顔は好きだからどうしようかな〜」

「もう! 本当にお願いしますよ!」



 そうやって軽く言葉を交わしたあと、まだ手のつけていなかった料理に向かう。


 まぁ美味しいよ。よく煮込まれた肉は柔らかくて美味しいし、甘辛いタレもよく染み込んでいて美味しい。

 あのケチなヘレナもこれを食べたら、もっと美味しいものをいっぱい食べたいって思うんじゃかいかな。


 あぁ、でもヘレナって貴族なんだよね。じゃあ悪いことしちゃったかな? でも仕方がないよね。

 あの心の広いヘレナのことだ。きっと許してくれるよ、たぶん……きっと……必ず……。

 ……ダメだったときのために金銀財宝を用意しておこうかなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ