20話 魔王様だよん
なんだか身体がいつもよりも軽い……。それに頭もぽわぽわとしていて気持ちがいい。
……だけど何故か目の前には光の杭を掲げているあのアホがいる。確かこれは最後に喧嘩した時だったっけ……。
わたしはあいつが持っている光の杭で胸を貫かれ、そして『心』を教えられた。
なんで攻撃を受けたんだっけ……? あぁ、一発攻撃をさせてやるだなんて言ったんだよ。そのおかげで無様にも敗北したんだよ。
あの頃のわたしは奢り過ぎていたね……。
わたしが負けたのは胸を貫かれたからではない。心を教えらて、ただ虐殺ばかりをしている自分自身がつまらないモノに思えたからだ。そう思ったらその時まで抱いていた快感が全て消え去っていた。
その結果盛大な喧嘩は終わりを迎え、わたしは適当な場所に引きこもるようになった。そしてあのアホはわたしに『心』を教えるために多くの力をつかってしまい、今もまだ神界で回復するのを待っている。
ただ、回復したところで地上に降りてくるかは分からないんだけど……。でもその時になったら一回ボコにしよう。あの時に不意をつかれた腹いせだ。
直接神界に乗り込んで行ってもいいけど、あそこにはたまに怖いのがいるから行きたくない。
まぁ会えるのなら会いたいとは思うよ。だってお礼の一つでも言いたいじゃない。
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「う……くそう、変な夢見ちゃったよ」
朝っぱらから見たくもないものを……。あれは唯一の黒歴史だ。完全敗北の記憶なんて思い出したくなんてない。
あぁ〜と言いながら頭をガシガシとかいて夢で見たことを記憶の彼方に追いやる。
ふと部屋を見渡す。すると隣のベットが膨らんでいるのが視界に入り、つい笑みをこぼしてしまう。
「ヘレナったら……まだいるんだ」
近くに寄って、ヘレナの前髪を払い寝顔を拝む。
幸せそうに眠っている彼女はちゃんと考えたのだろうか。考えた結果の答えだと言いうのなら……ヘレナは余程の常識知らずじゃないかな。
だって、確か人種は魔王が率いる魔族たちから攻められているんじゃなかったっけ? そしてわたしはその魔族だと知って、それてまもなおこうしているなんて……怖いもの知らずというか、アホというか……。
ただまぁ、嫌われなかったのは嬉しいことだよね。嫌われるのって、なんか嫌だからね。
そんなことをたらたらと考えながらヘレナの頭を撫でていると、ようやく彼女は目を覚ましたようだ。
「おはよヘレナ」
「? おはようございます。どうしたのですか?」
ヘレナが戸惑いを浮かべ挨拶を返してきた。
目覚めた時にわたしが頭を撫でていたことで驚いているのだろう。
一応嬉しいってことの表現なんだよ? そんなこと伝わらないだろうけど、そんな意思を乗せてヘレナに微笑む。
するとヘレナは面白いようにあたふたしてくれる。
「な、なんなのですか朝から⁉︎ あ、アリシ――貴女はなんで頭を撫でているのですか⁉︎」
「うふふん。なんでもないよ。あとなんで途中で呼ぶのやめたの?」
言うと、ヘレナは困ったような顔になり言いずらそうにしながらも口を開く。
「え、えっと……。貴女はまだかなり自分のことを隠していますよね?」
「ん? まぁそうだね〜。ヘレナを怖がらせそうだったし、あと説明がとってもめんどくさいからね」
「後者が本音じゃないですか……」
ヘレナはため息を吐き、それでですね、と話を続ける。
「隠し事が多い貴女のことですので、名前も違うのではないかな、と……。間違った名前で呼び続けるのは失礼ですし……」
そう言うヘレナはうつむき、言葉がだんだん弱々しくなっていく。
わたしはちょっとそれが面白くなって笑い声を上げてしまった。真剣なことを言うかと思ったら、何を今更なことを。
ヘレナって深く考えているのか、まったく考えなしなのかわからないよ。
「あはは。心配しなくていいよ。わたしの名前はアリシア。まぁフルではアリシア・ラスフィーナって言うんだけどね」
「ラスフィーナ……もしかして魔族にも『貴族』の概念があるのですか?」
なんでだろ……わたしの名を聞いてすぐさま出てくるのはそんなことなの? もっとこう……なんかないの? ラスフィーナって決めるのすっごく大変だったんだけど。その笑い話を聞かせようと思ったのに……。
はぁ……と息を吐き、めんどくさいなと思いながらヘレナの質問に答える。
「あーまぁ、たしかにあるよ? わたしのところにはないんだけどね。確か人種からパクったらしいよ。あぁわたし以外のとこがね」
「へー魔族にもあるのですか……。あれ? アリシア(わたし)のところ?」
うふふん。やっぱり食いついた! そうだよね、気になるよね! わたしはヘレナの驚く顔がとっても好きなんだよ。だからめいいっぱい驚かさなくっちゃね!
問うてきたヘレナにえっへんと偉そうに胸を張り、両手で横腹を掴んみドヤ顔で言う。
「わたしはね魔王様なんだよ! 一つの国を治めているんだ! ……実務はさせてもらえないけど」
ドヤぁ〜としていると、想像したような声が聞こえてこない。いつもなら、魔王ってどういうことですか⁉︎ みたいにすっごく驚くはずなのに……あれ? あれ?
不思議に思って、変化のないヘレナをよく見てみると、聞いていた表情で固まり思考停止状態になっていた。
「驚き過ぎだよ! わたしそんなの望んでない! もっとわーってしてよ!」
ヘレナのほおをペチペチとはたき、耳のもとで大きな声でそう言う。
すると、その衝撃のおかげかヘレナはハッとした表情を浮かべ、次第にわなわなと震えだした。
「え、え? アリシアが魔王? 魔族の王様? 人種を攻めている張本人⁉︎ ななな、なんでこんなとこにいるんですか⁉︎」
大声で叫ぶヘレナは驚愕の表情を浮かべている。
うん、わたしはそれが見たかった! ちょっと予定とは違うけど、結果が同じなら問題なし。しかし、やはり勘違いしてしまうのは仕方ないが、それは早めに訂正しておこう。
わたしは驚きで取り乱しているヘレナを深呼吸させ、落ち着いたのを見計らって彼女の間違いを正す。
「ヘレナ、わたしは魔王だけど、君たちに侵略している魔王じゃないよ」
「え……ど、どう言うことですか?」
「君たちにも王様が複数いるように、魔族にも複数いるんだよ。もっとも……わたしの国から離れた者達が王を名乗っているだけなんだけどね」
いくらわたしが絶対の魔王として頂点に君臨していようと、離反するものは出てくる。何せ国の頂点にいるわたしと側近達は滅多に人目につくことがない。わたし含めみんな引きこもって好きなことをしているからね。加えて、わたしと側近達は魔力を一切身体の外に出さないから、一見虫同然の強さに見えてしまうのだ。
また、魔族は性格をいくつかに分けられる。一番多いのは『力』を絶対なものとする性格の魔族だ。
わたしの国で常識が通じない強さの魔族は側近達くらいなのだが、昔馴染み以外その強さを知らない。
わたしたちが一見虫以下ということで、国で一番強くなってしまったら仲間を連れて外に出ていってしまうことがある。そういった者達が他の地に国を作って魔王を名乗っているのだ。
わたしは来るものを拒まず去る者は追わずを方針にしている。だから彼らがどこに行こうが止めないし、関与しない。魔王を勝手に名乗っても、魔族の国の王なのでそれが当たり前だ。
人種を襲うのも、それが本能の一部だから仕方がない、そう思っているよ。だからわたしは今の魔王たちに何も言わないんだよね。
そういった魔族の事情をわかりやすくヘレナに説明してあげる。
たぶん分かってくれるはずだ。たぶん、きっと……うん。
説明を聞き終えたヘレナは考えをまとめるため、顎に手を当て少しうつむきボソボソしている。
そして、しばらくしてその考えを自分なりにまとめれたのか、顔上げて真剣な表情でわたしを見つめる。
「要するに……と言うかざっくり言うと、アリシアが魔族の頂点で、その下に側近たちがいて、その下の方に今暴れている魔王がいるってことですか?」
「まぁそうだね〜。たしかに強さ的にはそうだよ? でも実務担当は側近だし、国を運営しているのは事実上その側近たちだからね。仕事させてくれないんだよみんな……ヒドイよね?」
ね? ね? とちらちらとヘレナを見て、何か言ってよ、と言外にほのめかす。
すると、ヘレナは仕方ないなですねとでも言いたげに肩を落とし口を開く。
「そうですね、かわいそうですねー」
「もう! なんでそんな適当なの! ったく、まぁ手伝えって言われたときにちょっと失敗して城の半分消しとばしちゃったんだけどね」
「あ、あなたは自分の国を崩壊させるので実務をしない方がいいです!」
あははー。カレンにもそう言われたよ。何がダメだったのかな? 掃除してくれますかって言われて、汚いなら一から作り直したらいいよねと思って壊したんだけど……なぜか怒られた。そのあとちゃんと直したんだしあんなに怒らなくていいと思うんだけどなぁ。
「ってそうじゃないですよ!」
「どうしたの?」
わたしが心の中でカレンに文句を垂れていると、ヘレナがハッとした表情になり、わたしに詰め寄ってきた。
「アリシアが魔族の長なのだとしたら止めてくださいよ! 暴れている魔王を!」
「えぇ〜やだよめんどくさい」
「そんな嫌そうな顔で言わないでください! その気になればすぐに終わるでしょうに。それなら人種は勇者召喚だなんて見つかるわけないものを探さなくていいじゃないですか!」
あらら〜、必死になっちゃってまぁ。やだよ、めんどくさい。そもそも昔も見ているだけだったんだよ? 前は人種滅亡の危機だったのに手を出していないんだよ? 人種には人種の理由があるし、魔族には魔族の理由がある。
生まれが特殊なわたしは一応魔族に分類されてはいるが、決定的に違う。わたしは人種でも魔種でもない。どちらでもないわたしは一方に手を出し過ぎるのはあまりしたくないのだ。
気に入らないが、勇者召喚をすれば人種は魔族より優位に立てる。結局、人種には魔王に対し非常に有効な手札を持っているのだ。
「わたしはどちらにもつくつもりはないよ」
「で、ですが……!」
「ヘレナさ、忘れてないよね? わたし、ヘレナは許したけど他の人種はまだ見下したままなんだよ?」
そう冷酷にいうと、ヘレナはがっくりと肩を落とし、バタンとベットの座ってしまった。
わたしはヘレナを許した。だけどその他まで許した覚えはない。
たしかに生まれた時から当然にあったものを拒絶しろだなんていささか理不尽な話だ。だから変われるのであれば許す。
わたしの話を聞いたヘレナは、それが汚いことだと認識したようだった。流石に今すぐにそれを認めろとは言わないので、だんだんとしていけばいい。
ヘレナは変わり出した。汚くてもちゃんと綺麗にできる。もう壊れてしまったのはどうしようもないが、これからどうするかで許すかどうか考えよう。
わたしはベットに座り込みうな垂れているヘレナに顔を近づけ、耳元でそっとささやく。
「安心しなよ。人種は心強いお人好しが見守っているからさ。たぶんそろそろ力が戻るだろうし、きっと助けてもらえるからさ」
「え……? それってどういう……」
「うふふん、ひみつだよん」
顔を上げ、ヘレナは疑問で満ちた視線を向けてきた。しかしわたしはそれをひょいと避け、ヘレナの手を引っ張って立ち上がらせる。
「気にしたら負けだよ。その時が来れば分かることだし、知ったところでどうにもならないからさ」
「え、えっと……」
「ほら、気晴らしに外に行こうよ! ゴミ掃除が出来ればいいんだけど……美味しいものを食べるのもいいよね」
ヘレナが戸惑っているのを意に介せず手を引いて外に連れ出していく。
今日は雲一つないいい青空だ。お掃除日和だし、青空の下での食事もいいものだよね。
さんさんとふりそそぐ暖かい日に包まれ、わたしたちは街を歩く。目の端にその光が差さない場所がよぎったが……わたしは何もしない。手を出せばどうしても荒事になるからね。
さぁ、とりあえずはどこに行こうかな? まぁ美味しいものがあればどこでもいいんだけどさ。




