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17話 青空の下で盗賊さんと出会った

 今わたしは死の淵に立っている……。


 アーレンキーの街を離れてから、もう何回日が沈んだのだろうか……。

 永遠のようにも感じられるが実際は10といくつか程度だろう。

 しかしわたしには耐え難い退屈さなのだ。いつもいつも退屈しているわたしだけど、これはそれ以上だ。


 わたしたちはグレースからアーレンキーに移動した時のように、途中に点在している村で食料を補給しながら次の街に向かっていた。

 しかし大体は野宿だし、村といっても畑仕事や手仕事が主流であり、宿屋やご飯屋などがないところが殆どだ。旅人が泊まれるように空き家が数軒あったがあまり手入れもされていなかったりと、いろいろ酷い……。

 確かに宿など運営していても、旅人があまり来ないであろう小さな村では利益がほぼ無い。宿を開くより畑を耕していた方がよっぽどいい。

 だからといってわたしがそれで納得するかは別であり、絶対納得しないに決まっているのだ。


 ヘレナのもうすぐですよの言葉を信じ、そして数日経った今でもその言葉が聞こえてくる。

 ここのところ干し肉と塩味のスープ、ときどき野生の獣を狩って焼いて塩をふったもの、木になっている果物。それらしか口にしていない……。

 確かに干し肉は美味しいと思うよ? スープはどうともいえないけど獣の肉も果物も嫌いではない。しかし! しかしだ! 流石に毎日毎日食べていると……飽きる。

 口の中が辛い物とかとにかく違う味のものを求めているのだ。


 きっと今の状態のが続いたらマジで死んじゃうんじゃないかな?


 現在のわたしはヘレナの背中で、はぁ……はぁ……、とちょっと危ない感じで息を吐いている。

 ヘレナはそれにビクビクしながらも必死で馬を走らせている。馬が疲れているから休むと途中言いだしたけど、永遠回復する魔法をかけて無理やりに最高速度で走らせている。


 しかしあれだ、街と街ってなんでこうも離れているんだろうね。遠いなら遠いで転移門の一つでも置いていてくれればいいのに……。



「はぁ、なんでもいいから面白いことが起きればいいのに……」



 馬に合わせて激しく上下する背中に向けてため息を吐く。


 するとわたしのそんな願いが叶ったのか道幅の狭い道に入った時、少し先に馬の足元に合わせてピンと水平に張られた縄が見えた。


 馬がどうなろうと知ったことではないけど、空中に放り出されるのが嫌だったので、ヘレナにそっと忠告する。



「馬止めた方がいいよ。縄が張られているからさ」

「へ⁉︎」



 言うと、驚きながらもちゃんと理解出来たのか、グイッと手綱を引っ張りる。ずずず、と馬が止まるまでに距離を少し要したが、どうにか縄の手前でキチンと停止できたようだ。


 しかし 縄に引っかからなかったことにヘレナが安心しきっていると、乱暴な声がかかってきた。



「おうおう! ちゃんと止まったな! おし、野郎ども出て来い!」



 ハゲ頭の大男が叫ぶと、近くの木の陰からわらわらとヒューマンが現れ、大体数が30になった頃にまた大男が何かを言ってきた。

 ちなみにヘレナは随分とあわあわしていて声にならない声を上げていた。



「おら! お前ら二人、地に頭をつけろ! なぁに命は奪わねぇよ! まぁ死なないだけだがなぁ、今はまだ、な!」



 そう言って笑い声を上げ、周りの男たちもそれに合わせている。



「おおっと。抵抗しようだなんて思うなよ? お前らはもう商品なんだ。こっちも商品は傷つけたくないんでなぁ!」



 大男は威圧するようにそう言うが、正直全く怖くない。……でもヘレナにはちょっと効いているみたい?

 しっかし……『商品』がなんなのかは知らないけど、傷つけたくないって……馬の進行上に縄を張っておいて言っていいセリフじゃないよね? わたしがヘレナに何も言わず、全速で走っていた馬から投げ出されたヘレナを助けなかったら、運次第ではヘレナ死んでたよね? ちょっとバカにも程があるよ。


 まぁそれは置いといて、『商品』ってなんなんだろ? わたしたちのことを指しているんだろうけど、どんな風に売るんだろう?


 気になったので、緊張したこの状況を考えず垢抜けた声でヘレナに尋ねる。



「ねぇヘレナ、あのハゲが言ってる『商品』ってなんのこと?」

「はっ! 恐怖のあまりアホになちまったかぁ! 『奴隷』だよ奴隷! テメェらは家畜以下の存在になるんだよ!」



 ヘレナに聞いたつもりがハゲが答えた。ヘレナったら顔を青くしてすっごく怯えている。そんなに怖いかな? アーレンキーの時の方がもっと怖かった気がするけど。


 考えていると、『奴隷』とやらの説明を聞いて恐怖で声も出ないと思ったのか、嘲笑って舌なめずりをし、まるで売れた後の金勘定をしているように続ける。



「奴隷はご主人様の命令には逆らえないんだ。犯されようが拷問されようがなぁ! そっちの美人の方は良い値で売れるだろうし、小ちゃい方は変態貴族にはめっぽう好かれそうだなぁ!」

「あ゛あ゛⁉︎」


 そしてそれを聞いた途端、わたしの堪忍袋の尾が切れる音がした。


 奴隷が家畜以下の存在だと知り、それにするために襲ってきたと聞いて、正直わたしは頭には来なかった。まず負けるわけがないし、そんなバカなことを人種はしているのかと思ったら笑えてきたからだ。

 聞いて、ただ単に『汚い』と感じただけだ。魔族には遊びほうけている者、働かない者がわたし筆頭にいるけど、誰かを家畜以下に扱うことなんてない。もちろん人種をもだ。


 魔族(わたしたち)は人種を殺戮することはあるけどね。ただそれは種の違いなので仕方がない。魔種と人種は対立するものだからだ。


 と、奴隷にすると言われても、しょうもないとしか思わないわたしだが……。

 突然に襲ってきたハゲに……それと有象無象に『小ちゃい』と笑われたことだけはプチンときた。

 身長のことを気にしてるって言っているのになんで分かってくれないのかなぁ!


 苛立ちを隠せず、ついつい残酷な方法でヤってやろうと、男たちに手を向けようとすると……。



「ま、待ってください!」



 今まで青ざめていたヘレンがわたしの腕を掴み、グッと力を入れ下げようする。

 その行動に一瞬イラっとしたが、奴隷にすると言われヘレナも報復したいのだろうと考え、掴んでいる手に従い、そっと腕を下ろしヘレナの顔を見つめる。



「なに?」

「どうか殺さないでください!」



 必死な形相でそう良い、わたしの腕を引っ張る。男たちは馬鹿みたいに声を出して笑っているが、わたしもちょっと笑いたい気分になった。というか笑ったよ。


 だって自分でなく襲ってきた者たちを助けろって……頭がどうにかしたとしか思えない。


 わたしはクスクスと堪えようとして漏れてしまった笑みのまま、ヘレナにチョップをかます。



「何言ってんのさ。そこまでヘレナってアホだったっけ?」



 言うと、唸りながら頭をさすり、ヘレナは違います! と言って拳をグッと握り、興奮を抑えつけるようにわたしだけに聞こえるような小声で言う。



「あの方たちはいわゆる盗賊というものです。首だけでも良いんですが生きたまま街に連れて行けばお金になります!」

「…………」



 わたしはもう我慢などせず、口の端をヒクヒクさせながら乾いた笑みを浮かべる。


 こんな状況下でそんなことを真っ先に考えていたヘレナはもう流石としか言いようがない。ケチのヘレナは自分の命の心配など『わたし』の存在ゆえにしていなかった。そして彼らを捉えた後の金勘定をずっとしていたんだ。男たちも男たちだけど、ヘレナはヘレナで汚い……。『汚い』と言っても『意地』が汚い……。

 って、ヘレナはさっきまで青い顔をしていた。てっきり襲われて怖がっていたと思っていたが、わたしが金になる存在を消し飛ばしてしまわないか心配してたのか。やっぱヘレナっておかしい!


 わたしは乾ききった笑みを抑えることなく、ヘレナの頭を再度チョップする。



「う、うぅ……。何ですかまた……。痛いんですよ? それ」

「知らないよ! ヘレナがそんなバカなことを考えててビックリなんだよ!」

「仕方ないじゃないですか。もうすぐ街でアリシアもいるのです運ぶのは楽ですし……30人以上となるとそれなりのお金になりますし……」



 肩を落とし、男たちに聞こえないようにそう言い訳をする。

 ヘレナは相変わらずで、魔物の襲撃の際なにかを決意していたようだけど、ケチなのは全く変わらないんだね……。それはそれでいいんだけど……何て言うか気分が削がれる。今まで小ちゃいって笑われてすっごく怒っていたんだけど、その怒りを超えるくらい『呆れ』がすごい。


 はぁ、と大きくため息を吐き、わたしはもうどうでもよくなってヘレナに任せることにした。



「じゃあどうしたらいい? 殺すのはなしなんだよね?」

「ええ、そして出来れば欠損部位を出さないで欲しいです。貧血で酔わられるのも嫌ですね」

「切り刻むなってこと? なら『スキル』で眠らせればいい?」



 言うとヘレナは少しうつむき、そして答える。



「出来れば貴女のスキルは使わないでいただけますか?」

「……何で」



 わたしは訝しむ視線をヘレナに向ける。



「ア、アリシアのはあまりにも非常識なものなので、人に知られない方がいいと思ったので……。役人に引き渡したときに変なことを言われて質問ぜめをされたくないでしょ?」

「……たしかに」

「ですからスキルは使わない方向で……。出来るのでしょう? 」



 疑問形だけど、出来ると確信しているんだろうね。まぁ全速の馬に乗っていても息一つ乱れさせなかったからね。姿勢も崩さなかったし。そこから想像していって、動けると考えるのも分からなくはないよね。



「わかったよ……スキル使わない。あと骨も砕くなって言うんでしょ?」

「はい。お願いします」

「はいはい」



 言って、ヘレナよりも前に歩み出てハゲを見つめる。


 するとようやくか、とでも言いたげにハゲは口を開く。



「相談は終わったか? 命乞いでも抵抗でもいいが、逃げられるだなんて思うなよ!」

「ん? ああ分かってるって。てか待っててくれてたんだ」

「あぁ、そりゃ『人間』として最後の会話だからなぁ!」



 そうやって周りの汚い笑い声がより多くなる。

 あぁ、ヘレナがアホなこと言って来なかったら血祭りにあげてやったんだけどなー。

 仕方がないからそうはしないし、スキルも使わないで物理で殺さずに勘弁してやろう。……でも直接触るのなんかやだなぁ。


 そう思って武器になるものがないかと周りを見渡す。しかし武器は男たちが腰につけているものしかなく、どのみち汚いので嫌だ。


 仕方ないと息を吐き、男たちに声をかける。



「ねぇ、その最後に免じて木の棒を自分でとっていいかな? ほら、武器もない状態でこんな数をどうしても相手出来そうにないでしょ?」



 言うと男たちは我慢ならねぇ、と腹を抱えて笑いだす。



「く、くはははは! あ、あぁいいぜ! 木の棒が欲しけりゃ勝手に取れよ!」

「うん、最期だからね。楽しんでよ」



 近くの木に寄って、ぴょんとその場でちょっと飛んで細い枝を折る。

 そして男たちの正面に戻って、手に持った細い枝を適当に構えて言う。



「じゃあ……やろうか」



 瞬間――わたしはその場から砂煙だけ残し音も無く消える。

 男たちは目の前で起こったことが理解出来ないのか、すっかりと笑い声が消えてしまっていた。


 わたしはハゲの大男は最後にしようと、まずは周りを片付けことにする。



「はい、一人目ね」



 細い枝をしならせハゲの隣にいた男の腹を薙ぐ。

 男は突然目の前に現れたわたしに驚愕し、しかしそれ以上は何も出来ず、鈍い音を発しながらぶっ飛び、何人かを巻き込みながら木にぶつかって気絶した。



「ほらほら〜、戦闘中に茫然と立ち止まるのは良くないよ〜」



 間延びした声でそういい、近くにいる男たちをどんどんと小枝を振って吹き飛ばしていく。



「あぁ……久々だからかなぁ……もう、最高だよ……もっと……もっと聞かせろ!」



 ヒューマンを飛ばす度に大きくなる悲鳴……わたしはそれに快感を覚え、ニヤリと笑みをこぼす。


 ヒューマンを襲ったのはもう何千年以来だろうか……。かつてはアホらしくなってしまったが、こんなにも気持ちよかったものだろうか……!



「あは! あははははは! さぁ鳴け! うふふん。あははん。1匹たりとも逃すわけないよん!」



 狂ったように艶かしい声を上げて、逃げ惑うヒューマンどもをぶち殺していく。……いや本当には殺してないよ? 快楽に溺れているけどそれだけはちゃんと守っている。魔法を一切使っていないのが証拠だよ。


 そうやってヒューマンたちをボコっていると、とうとう1匹になってしまった。


 わたしはそのヒューマン――ズボンを濡らしているハゲに、その悲しさが伝わるように話しかける。



「あなたが最後だよ? んんー! 本当に残念だよね! 久しぶりに気持ちよかったよ? ありがとね」



 言って、コテンと首を傾け笑う。


 あぁ、わたしって今どんな顔をして笑っているのかな? まぁヒューマンの顔で一目瞭然か。……狂気そのものなんだろうね。

 わたしだって一応は『魔種』だからね。やっぱり気持ちいいものは気持ちがいいんだよ。



 男は怯えのせいで動くことすら出来ないようだ。

 わたしはそんな男にゆっくり近ずいていくと、無理やり逃げ出そうとして男はその場で転倒してしまった。


 そんな行動を、うふふんと笑って見る。



「逃がさないって言ったよね?」

「く、来るな! こ、この化け物!」



 ぶんぶんと手を振ってわたしを拒絶している。だけどわたしはそれを聞くほど優しくない。



「化け物って……酷いなぁ。まぁどうでもいいけどさ。でも君たちが最初なんだよ? 仕掛けたのはそっち。予想外にわたしは強いんだよ」



 快感を抑えようとしながら冷静に男にそう言う。

 男はもう半狂乱で這ってわたしから遠ざかろうとしている。



「しらねぇ……こんなのがいるなんて聞いてねぇ!」

「ん? まぁいいや。バイバイ。なぁに命は奪わねぇ!」



 男の口調を真似て言い、ブン! と枝を振って叩きつける。男はその衝撃で跳ね上がり、そして地面に激突し白目を向く。


 ふぅ、とわたしは額を拭って一息吐き、ヘレナの方にとことこと戻っていき話しかける。



「終わったよ〜。ちゃんと殺してないし、欠損もしていない。折れてた骨も治しておいたよー」

「…………え、ええ。ありがとうございました」



 先程よりも青い顔をしながら途切れ途切れにそう言って、肩に下げたカバンから縄を取り出しながら逃げるように盗賊たちを拘束しに行った。



 遠ざかるヘレナを眺めながら、わたしは先程までの快感がスッと霧散していきのを感じる。それはさっきのヘレナの目には怯えの感情がありありと見えたからだ。


 あぁ、失敗した。……失敗だ。長年生きてるのに感情抑制が出来ないなんてね……。久しぶりの快感には勝てなかったよ……。

 だって、本当に気持ちがいいからね……。人種が性行為を好むのと同じように、魔種(わたしたち)は人種の殺戮を好むんだよ……。人種のようにそれが必須というわけではないし、しなくても悶々としない……。

 ……ただ『気持ちがいい』それだけなんだよ……。なにせ、わたしの国の子たちは人種を襲ってないし、したことのない子だっているのだ。



「はぁ……」



 深い深いため息を吐き空を見上げる。


 鮮やかに青く澄んだ色……それはわたしの瞳の色と同じと言われても今は信じられないな……。


 あぁ……いつからわたしの瞳は、どうしようもない程に濁ってしまったんだろう……。

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