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11話 退屈

 ――巨大な力を持つ者。

 ――永遠の寿命を持つ者。


 そういった者たちにも必ず『終わり』がくる。

 より強き者に倒される、そんなこともあるだろう。

 しかし、『彼ら』の最もな死因はその力故の……永遠さ故の……退屈から生まれる破滅願望だ。


 何もかもがつまらなくなって、生きることに興味が持てなくなってしまう。


 超越者の一番天敵は『退屈』という空虚さなのだ。



 そう、退屈なのは本当に恐ろしい……。暇で暇で暇で仕方なくて、自分でもどうしようもなくなってくる。



 わたしは今、退屈で爆発寸前だった。



 ――ことの始まりは遺跡から脱出してからのことだ。



 ***



「ふぅ……無事に出てこれましたね」



 そう言うヘレナはすごく疲れている様子だ。


 ギルドのことと、遺跡でのこと……それが積み重なった結果なんだろうね。いささか人種にはハードすぎたかもしれない。


 そんなヘレナを元気づけようと明るい声で言う。



「へーレナ。元気だしなって! 神の知識なんて早々手に入るもんじゃないんだよ? もっと喜ばなくっちゃ!」



 しかしヘレナがわたしの言葉にガクッと肩を落とした。



「それが一番の悩みですよ……。何ですか神の知識って……もう訳がわかりません……」

「深く考えすぎと思うけどな〜」



 珍しい物を手に入れられて運が良かった。それでいいと思うんだけどなー。

 あぁでもヘレナって小心者なところがあるし、怖くなっちゃってるのかな?


 そう思ってヘレナを見てみると、小さく震えているのがわかる。

 自分なんかがーみたいなことを考えてるんだろうね。

 うふふん、ならそんな考えは取っ払ってあげよう!



「神の知識を得られたのはヘレナがここを調査しに来たからだよ?」

「で、ですが……隠し通路を見つけたのはアリシアです。それにこの指輪に加工したのも貴女ではないですか……。私なんかよりアリシアが持つべきです」



 ヘレナは青い宝石がついただけの簡素な指輪を差し出してくる。

 それをわたしは手で押し返しながら優しく微笑む。



「わたしを護衛にしたのはヘレナだよ。そうじゃなかったらこれは手に入っていなかった。……それに、これはわたしが持っていてはダメなんだよ」

「どういう、ことですか……?」



 わたしは顔を伏し、重く暗い声で紡ぐ。



「……わたしは『不死の祝い』のせいで不死者なんだって話したよね。わたしはそうなった時に人種の域から外れてしまって……。その『神の知識』は神から人種に送られたものなんだよ。……だから人種じゃないわたしが持ってちゃいけない」

「そんな⁉︎ ……っで、では貴女は……アリシアは魔種……ということですの?」



 戸惑いの表情を浮かべ、そうであって欲しくないと、そう言いたげな表情を浮かべる。

 人種じゃないと聞いて、人種の対極に位置する魔種を思い浮かべたんだろう。


 しかしわたしは、大丈夫だよ、そう苦しそうに口にし、曖昧な笑顔を浮かべ言葉を継ぐ。



「域から外れた、ただそれだけ……不死というのはそれだけ異常で非常なんだよ。今のわたしは人種でも魔種でもない。きっと別の何かなんだと思う……こんなの望んでないのに」

「そんな……」

「だからね……わたしにはそれを持つ資格がない。わたしと違って人種であるヘレナに持っていて欲しいんだよ……」

「アリシア……」



 ぽろっと一筋の涙を流すわたしに、沈鬱な表情で答えるヘレナ。


 ヘレナはうつむき、少しの沈黙の後……ばっと顔を上げ決心したようにいう。



「わかりました! 私がこれを預かっておきます! それでいつか……いつか貴女を人種に戻して見ます!」

「ヘレナ…………うん、期待しておくね」



 わたしクスッと笑みを浮かべ、明るい声でそう言う。



「任せておきなさい! これでも王都ではそこそこ有名なんだから!」



 胸をドーンと叩いてそう宣言するヘレナ。


 わたしはその姿を見て、とうとう崩れ落ちてしまう。それを見たヘレナは心配そうに駆け寄ってきて肩をだかれた。

 そして、



「美味しいものでも食べに行きましょうね……次に向かう街は美味しいものがいっぱいらしいですよ」



 と言ったヘレナはわたしを抱き上げ馬に乗せて、目的地に向けて出発した。



 そんな中、わたしはと言うとヘレナの腰に手を回し、ピッタリと張り付き肩を震わしていた。


 あぁ、もうダメだ……もう我慢の限界だ……。

 もう笑いが溢れ出そうでちょーヤバイよ!


 ヘレナったらこんな与太話を本気にして、あんな決意を決めるだなんて……おっかしいーの!


 笑いをこらえるのに必死で肩を震わしていた。


 わたしは何も、あんなよく分からないシリアスを演じたかったわけじゃない。なんか適当に話を盛っていったらあんな風になってしまったんだよ。

 神の知識なんて、持っているだけであのアホの祟りが来そうでヘレナに渡しておきたかった。


 だからだろうか、嫌で嫌で仕方なかった気持ちが、ついつい演技に影響したのかな?


 しっかし何が人種の域から〜って、わたしは正真正銘の魔種なんだよね。そもそも不死になったからって人種じゃなくなるわけないのに。

 それに最後の涙ぽろって……あれってほとんど意味のわからない突然の感動シーンだよね! いやー、よくヘレナが信じてくれたもんだよ!


 本当にヘレナっていじられる天才だよね! うぷ、まったく退屈しないよー!



 ――そう、わたしはこの時までは全く退屈してなかった……。しかしこの後が問題だったのだよ!



 ***



 ヘレナが次の街に向かうと言い遺跡から出発してから、果たしてどれだけの時間が過ぎたのだろうか……。


 はじめの一日二日はまだ良かった。野宿になったけど、森の中には果物があったしレムスもあったからまだ我慢が出来た。

 しかし野宿している時、解析です、とか言ってヘレナが神の知識やわたしが前にあげた魔道具の解析を始めてしまった。


 それは今現在まで続いていて、街に向かう途中で村を中継したが、ヘレナは解析に夢中になっていて全く話し相手になってくれない。

 たしかにわたしは美味しい食べ物さえあれば暇じゃなくなるんだけど、馬での移動中や寝る前などはお話ししていたい気分になるのだ。

 だけどヘレナはずっと知識と魔道具のことばかり考えていて、話し相手になってくれない。


 わたしは移動中はただでさえ長くて暇なのに、おしゃべりができなくてだんだんと悶々として来た。



「ヘレナーいつ着くの!」

「……あ、すみません。えぇっと……もうすぐですね。あと数時間のうちに着きます」

「ほんと!」



 やったー、とバンザイして喜んだのもつかの間……。


 ヘレナの言った数時間を待っても、街の『ま』すら見えてくる気配がしない。


 わたしは退屈からくるイライラをそこら辺にいた魔物にぶつけていく。なんだか魔物が目についてイラっとしてしまったのもあった。あと魔族も巻き込んでやっちゃった気がするけど、わたしの国の魔族たちはあまり国外に出ようとしないから、どうせ巻き込んだやつは別のところのだろうし気にしなくていいや。


 そうして魔物の集団を適当に捻り潰していると、前から声がかかった。



「見てください! ようやく見えて来ましたよ!」



 魔物をいじめるのをやめ、ヘレナが指差す方を見ると、



「うわーお、おっきくない?」



 前のグレースの街と比べて外壁が大きいように感じられた。だいたいでいうと1.5倍くらいかな? ともかく以前よりは大きな街なんだろうね。



「あそこはアーレンキーの街って言ってね、食文化が盛んな街なんです」

「ふぇー」

「わたしはまだ魔道具と知識の解析をつづけたいので、遺跡の調査は延期です。ですからアリシアは存分に楽しんでもらって構いませんよ?」

「ほんとに!」

「えぇ……最近うるさかったですし……」



 ぼそっと小声でそう続けるヘレナ。

 ねぇねぇ? 聞こえてるんだけど? あん? ……まぁいいや、食の街だなんて面白そうな名称じゃない! 存分に楽しんでやる!



 ――そう、わたしは退屈な長旅の解放感から全力で楽しみまくろうと、そう考えていた……。



 ***



 わたしとヘレナが初めに違和感を持ったのは街が――詳しく言えば門前の状況がハッキリと分かったときであった。


 グレースの街では行列に並び、長い時間をかけて街の中に入れたのに対し、アーレンキーの街では並ぶことなく入ることが出来そうだ。

 だって、そもそも中に入る手続き街の待機列がなかったのだ。そして門番も居なかった……。


 しかし門が閉まっていたため、門番も居なくて仕方なしにわたしが蹴って門を開けた。


 ヘレナが何か焦ったように言っていたが、門前から街中の様子を見たときわたしたちはどうしようもなく不気味に思ったのだ。


 何故か?


 それは――



「なぜ……人が一人もいないのですか!」

「……いやヘレナ、いるにはいるよ。でもみんな家の中に引きこもってるね」

「ここはもっと活気があったはずです! それにまだ日が高いのに門が開いていなかったのも異常です! 」

「そんなに焦っても仕方がないよ。今はもっと他に考えるべきことがあるでしょ……」

「な、なんだというんですか……?」

「な……何ってそんなの」



 わなわなと身体を震わしているわたしに、ヘレナは訝しげな眼差しを向けてくる。

 わたしはそれを堂々と見返し、ごく当たり前かのように言う。



「出店の一つもないことだよ! それに気配からして料理屋もほとんど機能してないっぽいんだよ! あるとしたら酒場くらいなんだよ!」



 よー、よー、よー、と閑散とした街にわたしの声がこだまし、ヘレナは予想できていたのか肩を落として口を開く。



「アリシアはいつだって同じなのですね……そんなことよりも大事なことがあるでしょうに……」

「んあ⁉︎ そんなことよりもだって⁉︎ わたしはそれだけを楽しみに退屈な長旅を我慢してたんだよ! 不満に決まってるじゃない!」



 そんなわたしの宣言に、はぁと深いため息をつくヘレナ。


 ため息をつきたいのはわたしだよ、まったくもう……。

 なーにが悲しくてこんなことになってるのか……。アーレンキーの人種たちは仕事しないヒッキーなのかな? お仕置きしちゃうぞ?


 わたしがうな垂れていると、ヘレナがいきましょ、と言って街の中に入って行った。それは意外な行動だったので、わたしはその後を慌てて追う。



「ヘレナ! なんで行くの⁉︎ こんな街は放っておいて違うとこ行こうよ! と言うか王都行こうよ王都!」

「行きません! 王都に帰るにはまだまだ早すぎます! それに……なぜ活気のある街がこうなってしまったのか知りたいのです」



 ふんす、と拳を作って言うヘレナ。彼女の中でどんな会議が行われたのか知らないが、この街に滞在することが決定してしまったようだ。


 わたしは、しょうがないなぁーと言いつつ、彼女の背中を追って横に並んで歩き、わたしよりも背の高いヘレナを見上げる。



「ヘレナ、どうなろうとわたしはあなたの護衛だよ」

「そうですね。それがどうかしましたか?」

「より詳しく言えば『ヘレナだけを護衛する』そう言っているんだよ。この街がどんな事態に見舞われようと、わたしはヘレナだけしか守らないよ」



 真剣な顔でわたしは言う。

 この街が何故こうなのか大体の予想はついている。

 そしてそれはこの街の人種ではどうにもできない事態だと言うことも知っている。

 いざという時、わたしが守るのはヘレナだけだ。護衛すると約束したのはヘレナだけだけだからだ。

 わたしは例外を除き中立の立場でいるつもりだ。どちらかに肩入れするつもりはない。

 わたしは魔種だが、魔種ではないのだから……それこそ域を外れてしまったからなんだろう。


 有無を言わせないわたしの表情を見て、ヘレナは固唾を飲んで口を開く。



「原因は分かっているのですね……それも命の危険があることだと」

「そうだよ。現状ではヘレナだけしか守らない。……理由は自分で考えてね」



 ヘレナはうつむき、あごに手を当て深く考える仕草をする。


 そして、顔を上げたヘレナはなにかを思いついたようだ。



「現状……ということは現状が変われば街の人たちを救ってくれるのですか?」

「うーん……まぁそうだね。わたしの気が変わるかでもしたらそうなるだろうね……」

「だったら――」



 わたしはヘレナが言い出そうとするのを遮って言葉を投げかける。



「でもヘレナにあげたものを使えればどうにか出来るかもね」

「へ?」

「それだけ。じゃぁねーわたしは酒場に行ってくるよ! あそこはまだやってるようだしね! あと、使ってもどうにもならなかったときは手を貸してあげるからね!」



 頑張って〜と手を振り、呆然と立ち尽くしているヘレナを背にして悠々と閑散とした街道を進んで行く。


 さてと、あと一日二日ってところなんだけどヘレナは間に合うのかな?

 ふふん。わたしとしては期待してるんだから。知ってる? わたしの泣き顔を見たのってヘレナが初めてだったりするんだよん。



 ……それはそうとして、わたしのこの退屈はどうしようかな? そろそろ美味しいものの一つでも食べないと限界なんだよ! 一日二日待たずして、わたしのせいでこの街が滅んじゃうよ!


 なんでもいいから暇を潰せるものないかな〜。

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