0話 プロローグ
初めまして皆様、私は『カレン』と申します。
魔王様の側近をさせて頂いているものでございます。
「カレン! ちょっとカレン! お菓子はまだなの⁉︎」
「今日の分を我慢する、そういう約束をして昨日二日分のお菓子をお食べになったと記憶しております」
「え、え……し、してないもんそんなの!」
透き通るような青い瞳を泳がせながら答える少女が私の主様――アリシア・ラスフィーナ様です。
アリシア様は非常に幼く見えます。城に子供がいるなどとたまにからかわれていますが、私よりも長く生きておりますし、私が幼い頃に拾ってくださりここまで育ててくださった偉大な方です。
「いいえしました。魔法で記録しております。お見せしましょうか?」
「う、うぅ。いいじゃんちょっとくらい! ごろごろしてるだけじゃ暇なの!」
アリシア様は苛立ちのためか、ドンドンと床を蹴られます。いけませんよ、床に罪はありません。
本来、アリシア様は何も食べずとも生きていけるようになっているのですが……大変大食いであります。少し前には食料庫に忍び込んで中身を空っぽにし、お腹を丸くなさって寝ておりました。
また、アリシア様が食事をなさる理由は『暇だから』だそうです。暇つぶしのモノなど、アリシア様の手にかかればどうとでもなりますのに……。
アリシア様と違い、私達普通の魔族は食事を必要としますのでその『暇つぶし』には困ったものです。
そこでそれを解決しようと、お暇なのでしたらお仕事をしてくださいませんか? と以前提案したところ……何をどうしたのかは分かりませんが、一日で城の半分近くが消し飛んでしまいました。えぇ、一体どうしたらこの何重にも『魔法』によって強化された城の『半分』を破壊できるのでしょうか……。
そんなことを考えつつ、アリシア様が駄々をこねるのを無視していると、私に何を言っても無駄と思われたのかアリシア様はクルッと振り返りました。
「もういい! カレンのことなんてしらない! 部屋に戻るもん! ついて来ないでよね!」
「はい、かしこまりました」
頰を膨らまし、自分のお部屋にお戻られになります。
フン! フン! と不満を表すように乱暴に歩き、長く透き通る黄金の髪も乱れながらその背を追いかけて行く。
ついて来ないでよね! と言われてしまったので、私は深くお辞儀をしてアリシア様をお見送りします。
あぁ、拗ねてるアリシア様も可愛らしい!!
あのお方は表情が非常に豊かであり、その全てが可愛らしいです。
頭を下げながらそんなことを想う。
ただ、アリシア様のそれは大体がその場の気分なので、本心か分からないのですが……それもまた良いものです! おっと、鼻から血が……。
さて、アリシア様の内心はともかくとしまして、お菓子でも作りに行くとしましょう。
お菓子が食べられなかったイライラで城を壊されては困りますからね。
「『テクス』」
キーワードを呟いた瞬間、アリシア様をお見送りした廊下から私専用の厨房に転移しました。
やはり魔法はとても便利ですね、アリシア様に習った甲斐がありました。
ですが、あのお方のようになんでもは出来ず、『空間』系の魔法しか使えません。まだまだ未熟です。
「『シーン』」
キーワードと空を切る動作をともにすると、沢山の食料を保管している空間があき、そこに手を突っ込んで何を作ろうかと物色する。
「そうですね……レンの実のパイにしましょうか。アリシア様の好物ですしね」
異空間の中から食材を厨房の上に取り出し、調理に必要な物を並べて行きます。
喜んでくださるでしょうね。そしてきっと褒めてもらえるかも、うへへ。
レンの実は人種の間でも有名で、そのままでも甘酸っぱくみずみずしくて美味しい果実ですが、実を細かく刻み、パイ生地に包み、かまどでジックリと焼くと実はトロトロに、そして酸味が消えより甘くなります。
私も大好きな物なので少し多めに作りましょうか。そしてアリシア様と一緒に楽しみたいで――
「は‼︎ アリシア様の匂いが消えた⁉︎ ……こ、これは一大事です! 皆に知らせねばなりません‼︎ 『テクス』」
私はレンの実を刻むのをやめ、急いで転移の魔法を使って他の側近たちの元へと急ぎます。
しかし……彼らは何処にいるのでしょうか、自由な方達なので見つけるのに時間が……いいえ泣き言は言ってられませんね。
アリシア様……待っていてくださいね、必ず見つけ出しますので。それまではどうか……どうか暴れないでいただきたいものです。