お金のない国(偏屈の鏡)
足を進めることで思いが回る。
全てを捨てて、全てを忘れて楽になりたかった。これが自分の望みである。
自分の頭の中には、まだ、稼ぐという概念が有るから。だから。
そうだ、この国はもう昔とは違い、ものを買ったり売ったりできない。
自分の頭がわからない。どうすれば。
たしか家を出るとき天気予報で今日は快晴だと言っていたな。
空が青い……。全く、いつもなら空にあるはずのフワフワした何かが無いせいで躰が冷える。
嗚呼、今、自分が歩いているのは堤防か……。
舗装された道をただ歩くだけだろう。どうしてだ、足元がグラグラして真っ直ぐ進めない。
……一歩、一歩、また一歩、もう一歩、そしてもう一歩出したところで足が止まる。きんちょうした躰がギシギシと音を立てている。
―――ふぅっと、躰が落下するのを感じた。何があった。
ただ後ろを振り返り、今まで歩いてきた道を見る。
道は長く、遠い。道をしゃがんでみるのは初めてだった。
「しまった……。骨盤と背骨のネジが飛んで行ってしまったな、あはは」
悲劇的な言葉を口にして気が付く。
笑っていたのである。
なぜこんな時に笑えるんだ。自分で自分の気が知れなくなっていく。
しゃがむことは冷静さを取戻すきっかけとなった。
今の世の中を一言で表すと混沌である。
何が何やら分かりもしない。理解できそうなことがあればすぐ隣では破たんしているものばかりだ。
規則性がない、法律がない、たったそれだけで、自分は何かがうまれる可能性を期待していた。
今の自分の気持ちをはっきりとは言えないが混沌ではないだろう。
自分は考え、上を見て……。天から言葉が降ってきた。『快晴』だろう。少しだけ違う。『愉快』。そうか、だから自分は笑ったのか。
深呼吸をすると躰にまとわりつくものがなくなり。とても気持ちが悪い。きっと悲劇的であることが自分にとって幸せだと思い込んでいる。
河がある。そう思うだけで足はその方向へ歩くことができた。
足元の水は今日も機械のように循環している。
自分もそんな一部になれればとそう思った。
水を見て――――――――――――――――――――――――――
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何も考えられない、何も思えない。
意識はある、自分の中にある。
自分は自分で名前は確か……中村だった。そんなことはどうでもいい。
嗚呼、そうだ僕は高校受験に受からなかったんだ。
何も考えたくない。何も思いたくない、自分の中の全てを失いたい。
水は自然と僕の記憶を浮かび上がらせた。
顔面に一筋の温もりが垂れる。吐く息には粘り気があり、上手く呼吸ができない。
水面には晴れた空は映らず、反対岸の堤防を映していた。
現在の気持ちを聞かれれば『不安』でしかない。何が起こるか分からない社会で弱者という付箋を貼られたのだから、もう、どうすることも出来ない。
この時の涙は本当に温かかった。
気が付くと僕は病院のベットの上にいた。隣では僕の目が覚めたと母が喜んでいた。
何か欲しい物はあるかと聞かれたが、何もいらないと答えた。