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灯里の名の元に…  作者: 下田 暗
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再び灯る明かり

悪者のように見つめる多くの視線の中で、たった1人、笑顔で優しくその娘は手を差し伸べた。

北川きたがわ灯里あかりの手を取り立ち上がった。しかし、その北川の行動は、自分なんかに手を差し伸べてくれた彼女にこれ以上、恥をかかせてはいけないという気持ちからの行動だった。

「ありがと。花澤さん。もう、大丈夫だから。2度も情けないよね…。」

北川は優しく微笑みかけ灯里にそう言った。

「いえ、情けなくなんてないですよ!私の背中を押してくれたのは蓮二れんじさんですから!」

灯里は今度は元気いっぱいな笑顔で勇気づけるように力強く言った。

「おい!お前!Mariaまりあれんなんだってなぁ!?覚醒剤使用の犯罪者じゃねぇか!」

周りの野次馬の話が聞こえたらしく、先程まで北川に押され気味だったチャラ男達がここぞとばかりに反撃をしてきた。チャラ男達には先程の北川の弱りようを見て、自信満々の表情で余裕があった。

「ちッ!お前ら…。」

成瀬なるせは悔しそうにチャラ男達を睨みつけた。

そんな成瀬の表情を見てますますチャラ男達はつけあがった。

「いつ出所してたんだよ。あんだけ世間を騒がせたのに謝罪会見も無しか?」

「そうだ。今、ここでやりゃいいんじゃね?動画撮ってやるよ!」

チャラ男達のそんなふざけた言動や行動をみて、いつも温厚な片岡かたおかすらもキレる寸前のようだった。

チャラ男達が騒ぐ度に道行く人達は足をとめ野次馬がどんどん増えては、蓮の存在に気づき、ヒソヒソと感じの悪い話し声が大きくなっていく。そんな状況に、灯里は不安になっていき、また北川が倒れるのでは無いのかと北川の顔色を伺った。

しかし、灯里のそんな心配はスグに吹き飛んだ。北川は何を言われても動じることはなくただ、真顔で全てを受け止めるように黙っていた。中川なかがわもそれに気づき、警察を呼ぼうとしていたがそれを辞めた。

「いいよ。動画を撮っても…。」

北川はチャラ男達そう言い残し灯里達の方を向いた。

「え〜と、君がドラムだよね?ちょっと借りていいかな?」

北川は灯里達のドラムスであろう女子高校生に笑顔で語りかけ、総重量もそんなに無い、電子ドラムとバチを借りた。

「隆!亮!!」

北川は彼らの方を振り返らず、名前を叫んだ。成瀬と片岡は顔を一瞬見合わせ、お互いの考えてる事が一緒だと言う事を確認し、ニヤリと笑った。2人は新しいおもちゃを買ってもらった少年のように心踊らせながら駆け寄った。

「君がギターでしょ?借りてい?大切に扱うからさ!?」

「ベースは君かな?借りても?」

成瀬と片岡は各々がMariaで担当していた役割と同じ娘に話をかけ交渉をした。

「はい。どうぞ…。」

「やったぁ!!ありがと!後、これから先バンドをしていく上で参考にしてくれたら嬉しいかな!?」

成瀬はそう言い残すとギターを背負い、立ち位置に向かった。

VIPPERびっぱーの亮…。」

「ん?そうだけど…。どうかしたか…?」

「いや、あの有名なMariaのnaruなるRENれんと演奏できる機会なんてそうそう無さそうなんで…、ごめんなさい貸せません…。」

そう言うと強気なそのベースの彼女は歩いて立ち位置に向かっていった。まさか、断れるとは思ってなく、更には自分からバンドに参加していくとなんて想像もしていなかったため片岡は数分の間フリーズしていたが、そのベースの娘の堂々とした姿を見て、自分が参加するよりももっと面白い事になりそうだと感じ、思わず笑みがこぼれてきた。

「なんか、面白い娘達といつの間にか知り合いになってたんだな…。蓮…。」

片岡は同じ舞台に立てないことを少し寂しくも思いながらこれから起きることに期待をした。

「花澤さん。とりあえずはさっきみたいな感じで歌ってみていいよ。後、俺たちの演奏をよく聞いていて欲しいんだ。たぶん、歌い方とかがわかってくると思う。後、曲はMariaの「Lifeらいふ」でいいかな?さっきも演奏してたみたいだし大丈夫だよね?」

「はい!大丈夫です!頑張ります!」

灯里は目の前にいるのがプロだと自覚し緊張しガチガチになりながらも精一杯答えた。

「大丈夫。大丈夫。そんなに緊張しなくても。本番じゃないしさっきの練習みたいな感じだと思えば…。」

北川は緊張している灯里を見て笑いながら、落ち着かせようとしたが、灯里は一向に緊張していた。

北川は灯里の緊張を解すことをとりあえずは諦め、演奏が始まればイヤでも集中して緊張も無くなると考え、他のことに目をやった。

「隆、亮。準備できた?」

そういって、成瀬と片岡が立つであろう場所を見た。しかし、そこには片岡の立つ位置で何故か堂々としている先程の女子高校生とその女子高校生を見て不安そうに北川と同じく視線をやる成瀬の姿があった。

「えっと〜。大丈夫?」

成瀬は心配そうに気遣うように聞いた。

「何がですか?大丈夫です。灯里が出るくらいなんだから余裕です…。よろしくお願いします。」

成瀬の質問に堂々と答え、そのベース担当の女子高校生は頭を下げた。

北川はその女子高校生から視線を外し、片岡の方を見ると、片岡も両手を上げ降参といったような合図をおくってきた。

「亮が降参ならしょうが無いか…。」

「それじゃあ、君もLifeを演奏するから頼むね?」

ベースの彼女は返事はしなかったが、決意に満ちた表情で頷いた。北川はその娘の決意を受け取り、今は一緒に演奏する仲間だと割り切った。

北川と成瀬が女子高校生から楽器を借り、チューニングやセッティングをしていく様を見て、周りにいた野次馬の声は更に大きくいろいろな意見が聞こえてきた。

「え!?嘘!naruとRENの演奏とか何年ぶり!?」

「ね!!私、Mariaの全盛期にこっち来たから、こっち来た時はホント凄かったよね!!」

「えぇ?でも、RENとnaruだけでしょ?しかも、2人とも相当なブランクあるだろうし。ベースの娘としかもよりにもよってボーカルの娘は経験浅そうだし、たいした演奏にならないよ〜。」

これから起こる演奏に期待する声や片岡が演奏しない事がわかりガッカリする声、先程のような北川を見て犯罪者だと罵るような声など様々な声がこだました。しかし、北川や成瀬、片岡達は先程の雰囲気よりは良くなっている事を感じていた。

チャラ男達は女子高校生達(灯里達)の演奏を聞いていたため、彼女達のド素人具合がわかっていたため、このライブは必ず失敗すると確信していたため、ケータイで動画を先程から撮り始めていた。おそらく、後々、胸糞の悪いタイトルなんかをつけてネットにでも挙げるのだろうと北川は思ったが、今はどうでも良かった。こんな形でも久しぶりに演奏出来ることに少しワクワクしていた。

(よし…。みんな準備良さそうだな、約1名を除いて。)

北川は周りを見渡し、準備ができた事を確認した。灯里は依然として緊張でガチガチになり、先程から歌詞を口ずさんで間違い無いかと確認していた。そんな、灯里を見て北川は一瞬、クスッと笑った。

「それじゃあ!始めようか!!」

北川は元気よく、みんなに聞こえるように大声でそう言った。

灯里達がこちらに振り返り頷くのを確認し、北川はドラムのフチを叩き、カウントをとった…。


同時期、舞のライブ会場、スタッフルーム。

西尾にしお まいは今日のライブを数時間前に終え、スタッフ、キャストと共に打ち上げのような小パーティーを終えた所だった。用意された楽屋へ行き、帰りの支度をしている所にノックと共に入ってきたのは舞のマネージャーでもある高塚たかつか 沙里さりだった。

「舞さん。とりあえず、今日はお疲れ様でした。ホテルを予約しているので今日、明日はゆっくり休んでください。」

沙里は淡々と業務連絡を舞に話した。

「はい。了解です。沙里、結構打ち上げで飲んでたよね?お酒。全然いつもと変わんないね〜。」

舞はお酒を飲んでもいつも通りに仕事をこなす沙里をおかしく面白い、少し笑いながらそう言った。

「当たり前です。社会人ですので…。とゆうより、舞さんは大分飲んでいらっしゃいましたけど、大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。もう落ち着いた。」

相変わらずニコニコしながら帰り支度をしている舞を見て、沙里は不思議に思った。

「何かいい事でもありました?」

沙里のその言葉を聞き、舞は先程のニコニコの笑顔が一瞬で真顔に変わり、ビクッと体が跳ねた。

「あったんですね…。わかりやすすぎですよ…。」

「もう…。うるさいな〜。」

舞は不貞腐れたように頬を膨らませた。

「何があったんです?」

「ん?蓮と隆が見に来てくれてたんだ…ライブ…。」

舞は、嬉しそうに微笑みながらそう答えた。沙里はその言葉を聞きくといつもの冷静さは無くなり驚きで一瞬何も言うことができなかった。

「やっと…、やっと見に来てくれた…。あのバカ共め…。」

俯きながらも、楽しそうに、嬉しさを隠しきれず微笑みながら話す舞を見て沙里はいてもたってもいられなくなり舞を抱きしめた。

「ど、どうしたの?沙里?」

いきなり抱きつかれ舞は驚きあたふいた。

「良かったね…舞…。」

沙里はいつものマネージャーという立場からではなく高校からの友人として舞にそう言った。舞は自分が撫でられながらそう言われた事に一瞬驚いた。

「なになに?どうしたの?沙里!?」

「ううん、何でもないよ…。良かったね…ホントに…。」

沙里の言っている事がよく分かってなく、首をかしげている舞を沙里はより強く抱きしめた。


坂木原駅周辺。

小さな人溜まりは大きなどよめきと歓声に包まれていた。

北川と成瀬、片岡、中川は演奏を終えると驚きの表情で灯里を見ていた。

灯里は知らない人から受ける歓声を感じて戸惑ってあたふたしていた。灯里の仲間であったベースの彼女も目を見開き灯里を見つめていた。

「蓮!ちょっと、どうゆう事!?蓮は知ってたわけ!?」

成瀬は興奮気味に北川の方を振り向き、そう聞いた。

「いや、知らない…。知らなかった…。」

北川は未だに灯里から目が離せず、驚いていた。

「上手い、確かに上手いけど…これって完全に…。」

「あぁ、舞だ…。」

成瀬は灯里の方を再び振り向き、北川はそのまま灯里を見つめそう呟いた。

「亮…。俺は、一瞬でもMariaの演奏に見えたんだが、お前はどう思うよ…。」

中川は驚きの表情で舞台を見つめる片岡にそう問いかけた。

「そこまでは言いませんけど…、確かに舞そっくりの歌い方でした。」

片岡はMariaに見えたという事は否定したが、それにとても近い演奏だったと伝えた。

(亮はちょっと意地張ってMariaとは認めねぇだろうけど、正直これは…。なんか、こういう形で見たくはなかったな…。Maria…。)

中川は少し寂しそうに舞台を見つめた。

「蓮二さん!やりました!やりましたよ!!」

灯里は嬉しそうに微笑みながらこちらに振りかけりそう答えた。

「え〜と…、そうだね…。大成功だ…。」

「えへへ〜。」

あまりの嬉しさに笑顔がこぼれる灯里を尻目に北川は考えていた。

(いったいどうゆう事なんだ…。声が似てるとモノマネが上手いとかそうゆう次元の問題じゃない…。息遣いとかクセまでもが全部そっくりなんだ…。)

北川は灯里の歌い方があまりにも舞と一致していた事に驚き、呆然としていた。最初こそ、灯里は緊張でガチガチになっていて歌も上手く歌えていなかったが、北川と成瀬、そしてベースの女子高校生が精一杯演奏し、主役であるボーカルを喰う勢いで演奏し、灯里が最初よりはプレッシャーを感じなくなったその時、灯里の本領が発揮された。

灯里が伸び伸びと歌えば歌うほどそれは本物に近づきそして灯里はどんどん集中していき、最後には観客からものすごい視線を浴び、プレッシャーも相当なものだったがそれすらもまるで感じないほどだった。

「花澤さん…。ちょっといい?」

北川は歓声を浴びて感激している灯里を手招きし、自分の元へ呼んだ。

「どうしたんですか?」

灯里はここまでの歓声を浴び、喜ぶ事がなく、真面目に冷静に話しかけてきた北川は、元々有名なMariaだったためこうゆう歓声には慣れているのだなと思いながらそう聞いた。

「この曲、よく歌ったりするの?カラオケとか…。とゆうか、Mariaの曲って歌ってたりする?」

「え?え〜と。カラオケにはMariaの曲はLifeとneverねばーしか無いので、Lifeとneverはよく歌ってますよ?」

「他の曲は!?」

北川は食いつくように続けて質問をした。

「え、えぇ!?え〜と。笑わないでくださいね…?」

「ん?別に笑わないけど…。」

何故か灯里は恥ずかしそうに身をよじり、頬を赤らめた。

「え…え〜とですね…。お、お風呂とかで機嫌がいい時とかに…1人でちょっと歌ったりぃ……。」

「他には?」

北川は別に笑ったりはせず、真剣な眼差しで質問を続けた。そんなふうに簡単にスルーされたので、北川に灯里は驚いた。

「え!?ほ、他!?う〜んと…。もう無いです…。」

(やっぱり、趣味程度にしか歌ってないよな…。Mariaの事は大好きだって言ってたけどホントにそれだけでここまで似るものなのか…?正直言って、あの歌い方はプロ顔負けだ…。)

「そ…そうか…。」

北川は腑に落ちない様子だったが、灯里が嘘を言っているとは思えず、とりあえず納得することにした。

「灯里ちゃん!凄いね!!完コピじゃん!!」

成瀬は興奮気味で灯里を褒めた。北川は何故か成瀬の完コピという言葉に引っかかっていた。

「そうでしたか?嬉しいです!!舞さんのようなボーカルになるのが夢なので!」

「いや!灯里ちゃんならなれるよ!とっても上手かった。」

北川はそんな2人の会話が少し気に食わなかったが、何故気に食わないのか自分にもよく分からなかったので特に口には出さなかった。

「とりあえず、今日はこの辺にしよう。花澤さん、ごめんね?急にこんな事頼んで…。それと、さっきはありがとう。この前もだけど花澤さんには助けられてばっかりだね。」

北川は感謝を伝えながら灯里に微笑んだ。灯里はその北川の顔を見て、あまりにもカッコよく、恥ずかしくなり顔を逸らした。

「い、いや、私も蓮二さんにたくさん勇気を貰っていたので…。少しでも力になれたらなって、必死で…。」

北川はそんな灯里が可愛く思え、思わず小動物を愛でるように頭に手を置いた。灯里はヒャっと高く短い変な声をあげて驚いた。

「隆じゃないけど、花澤さんは舞みたいな歌手になれると思うよ。じゃあ、また、朝のホームでね。」

北川は最後にもう1度微笑み、まだ話したりなさそうな成瀬と顎に手をあて考え込んでいる片岡と中川を連れその場を離れようとした。チャラ男達はもう絡んでくることはなく、野次馬もその姿を目では追っていたが話しかけてきたり絡んだりしてきたりすることはなかった。おそらく、まだ舞台で呆然としている女子高校生達にも絡むことは無いと北川は思った。

「蓮…。いろいろと聞かせて貰うぞ…。」

片岡は真剣な表情で北川に小声で告げた。北川はこの後向かう舞姫まいひめで質問責めにあうかと思うと少し思いやられた。

「まぁ、答えられることなんてあんま無いけどな…。」


4人はあの一件の後、予定通り舞姫に立ち寄っていた。早苗さなえは時間帯が混む時間なのであまり北川達と話している余裕は無さそうだったが、来店すると少しの間手を止め、久しぶりにMariaの3人が揃って入店したことに喜んでいた。早苗も話したいことがいるようで、お客をさばいて余裕ができたら後で合流するとの事だった。

北川達はカウンターは埋まっていたので、とりあえず奥の個室を借りることにし、空いてきたらカウンターに移動することにした。

「蓮。早速だが、話の続きをしよう。」

片岡は自分が後で聞かせて貰うなどと言っていたのだが、我慢が出来なくなりここに来る途中にいくつか質問をしていた。

「続きも何ももう俺が答えられる事なんてないよ。」

北川はもう灯里の出会いから何まで全てを話していた。

「彼女の親は音楽関係の仕事をしているのか?」

「知らん。」

「なんで知らん?」

片岡にはことこの分野に関して、1度火がつくと周りが見えなくなる悪い癖が少々あった。

「知らないものは知らん。」

「なるほど…、秘密兵器か…。」

「はぁ!?」

中川はそんな2人を尻目にケータイを操作していた。そして、中川はケータイの画面を見て暗い表情になった。

「おい蓮。まぁ、こうなることはだいたい予想できてたが、彼女の進む道は茨の道になりそうだな。」

北川は悪癖を発揮している片岡をいったん放って、中川の方を振り返った。

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