再び灯る明かり
「よぉ、蓮に隆。それに祐二郎さん。」
北川と成瀬、中川が振り返るとそこにはかつて同じように同じ夢を追って切磋琢磨していた仲間の片岡 亮の姿があった。
片岡は高身長で一般的にみても高身長の部類に入る北川に比べてもやはりその身長の高さは一目瞭然と言えるほど高く、髪は肩まで伸びている長髪でしかし、顔にはあまり髪がかかっておらずその綺麗でカッコイイ、大人びた顔が良く見えていた。
「おぉ!!亮!来てくれたか!」
どうやら中川は片岡が来ることが分かっていた、あるいは片岡をここへ呼んだような口ぶりだった。
「お久しぶりです。祐二郎さん。お変わり無いようで嬉しいです。」
「なんだよその言い方。俺が年寄りみてぇじゃねぇか。」
「いや、そうゆう意味じゃなくて…。すんません。」
片岡は申し訳なさそうに片手で頭を抑えながらそういった。
「ひ、久しぶりだな…亮…。」
先に片岡に挨拶をしたのは金城ではなく成瀬だった。成瀬は緊張でカタカタと震えながらも変な笑顔で片手をあげ挨拶をした。
「ん?久しぶりだな。隆…。なに、そんな震えてるんだ?」
片岡は不思議そうに成瀬を見ながら首をかしげそういった。
「い、いやぁ!ひ、久しぶり過ぎてな!ちょっと俺もどうしていいかわからなくて…。」
「いや、普通でいいぞ?普通で…。それに蓮も。さっきから何俺を見たまま固まってんだ?」
「あ、あぁ…。久しぶりだな。亮…。」
片岡は2人の事を親友だと思っていたが、どこかよそよそしい2人を見て悲しい表情を浮かべた。北川も成瀬もMariaが解散してから数年経っていたが、やはり何年経っても舞と片岡への罪の意識は消えなかった。
「ま、まぁまぁとりあえず座れよ亮。」
中川はどうにか重い空気を軽くしようと明るい口調で笑顔を絶やさず片岡に話しかけた。ひとまず、片岡を自分の隣に座らせた。
「VIPPERは増々有名になってくな〜。最近どうよあの気分屋お姫様は…。」
中川はいずらそうな片岡に話を持ちかけた。北川も成瀬も最近の片岡には興味があるのか聞き耳だけは立てている様子だった。
「あ、あぁ。LARAは相変わらず好き勝手やってますよ…。他のメンバーはいつも手を焼いてるけどなんとかやってけてます…。」
片岡は苦笑しながらも現状に満足がいっている様子だった。
そんな片岡を見ながら北川は片岡が今が楽しいいんだなと感じていた。
「アハハ。LARAも相変わらずそうだよな。ライブの時のあの存在感は昔と変わらず凄いけどな…。とゆうか、昔より凄くないか?あの私を見ろ!と言わんばかりの主張は…。」
中川は最近も取材とは別によくVIPPERのライブに行っているような口ぶりだった。LARAは昔から主役気質があり、本人も堂々としていてVIPPERのライブはいつもLARA中心に回っていた。みんながみんな主役の様に輝いていたMariaとは違い、VIPPERの主役はあくまでLARA、VIPPERの他のメンバーは目立ちはしなかったがLARAを輝かせるために全力を注いでいる様なスタンスをとっていた。
「そうですね…。後ろから見ててもあの存在感は凄いです…。」
(LARAの最近のその主張はたぶん自分と同じくらいの輝きを放つ亮が入ったからなんだろうな…。あれでいて恐ろしい程の負けず嫌いだからなLARAは…。)
北川は言いはしなかったがそんな事を考えながら話を黙って聞いていた。
(それに…、たぶん感じてるんだろうな見なくとも…。後ろからものすごい勢いで近づいてくるスターの存在を…。)
北川は舞台を真剣な眼差しで見つめ、開演を知らせるブザーが会場に鳴り響いた。ライブが開始することがわかり周りの人々を固唾を呑んで会場を見つめていた。
そんなたくさんの視線を受け、演出である白い霧の中から舞が姿を現した。その瞬間、会場が揺れる程の歓声が鳴り響いた。物販で売っていたサイリウムが一斉に光だしライブがいよいよ始まった。
「改めてヤバイな…。舞は…。」
思わず北川は歓喜余って声がもれた。北川は不覚にも舞の姿を見て、夢を追っていた、つまりはMaria時代の頃の気持ちを思い出し、憧れ、惹かれてしまった。
「あぁ、ホントにスゲェな。」
片岡は北川や成瀬がこのライブの凄さを感じ、睨みつけているかのようなそんな真剣な眼差しを向けているのを横から見て嬉しく思い笑顔で優しくあいづちをうった。
午後7時 坂木原駅。
すっかり辺りは暗くなり、舞のライブから帰ってきた4人は疲れ疲弊していた。中川はライブが終わると隣に座っていた片岡に一緒に帰らないかと話を持ちかけ、片岡も電車で来たようだったので中川の好意に甘えることとなっていた。舞のライブは誰の目からみても大成功といったようだった。ライブが終わってもなお観客の熱気は収まることはなく興奮気味で会場を後にする人が多くいた。途中、歌を歌う舞と目が合ったような気がしたがおそらく気のせいだろうと金城はそう思っていた。そして、中川の計らいでせっかく集まったのだからということで「舞姫」に行こうという話になり、適当な所に駐車し駐車場から舞姫へ歩いて向かっていた。
北川、成瀬、片岡の間にはいまだに気まずい雰囲気が漂っていた。しかし、最初に会ったときよりかは幾分か会話を交わすようになっていた。
「やっぱり舞は流石だったな!今はまだVIPPERの方が有名だし人気もあるけど舞が同じ舞台に立つのも時間の問題のように思えたぞ!」
中川はいまだに、ライブの熱気がさめていないようすだった。
「それはどうですかね…。VIPPERにはLARAがいるしそうそう負けないですよ…。」
中川の意見にすかさず片岡が否定をした。
「そうかぁ?正直、VIPPERであるお前もあのライブはビビったろ?」
中川の何故か自分のことのように自慢する言葉に片岡はスグに言い返すことが出来なかった。しかし、代わりにMariaが解散して以降、こういうことにはあまり口を出さなくなった北川が反論した。
「いや、亮の言う通りだ。ライブに来てた奴らは喜んでたけど舞は最近悲しい歌をよく歌うようになってる。」
「舞のあの透き通るような声は直接心に響くからあの悲しいラブソングとかがうけるのはわかる…。けど、舞の本領はそうじゃない。Mariaにいた頃はもっと色んなジャンルを歌えてた。」
北川は真剣な眼差しでアゴに手をあてながら下を向き考え込むようにそう答えた。その姿が懐かしく、もう2度と見れない姿だと思っていたため成瀬や片岡は驚いていた。そんな2人の驚く様子を見て北川は我に返ったように熱弁を切り上げた。
「ま、あの方向性でも間違いじゃないし舞のやりたいようにやるのがベストだけどな…。」
「なんか、久しぶりに見たわ…。蓮のその感じ…。」
驚いた表情で片岡に言われ、北川は恥ずかしくなり顔逸らした。
「蓮、昔っから舞とかMariaの事となると真剣だったからな〜。」
「そうだな。舞といつも喧嘩してたな…。」
成瀬と片岡は懐かしそうに楽しく会話をし始めた。その時、途端に片岡が真剣な顔になり北川と成瀬を見つめた。急に黙り真剣な面持ちでこちらを見つめてきたために北川と成瀬は不思議に思いお互い顔を見合わせた後、再び片岡の方へ視線を向けた。
「どうした?」
北川はついに我慢が出来ず片岡に質問をした。
「さっきの2人を見てて思ったんだ…。2人とも、こっちに戻ってくる気は無いのか?」
片岡の質問に北川と成瀬は驚き、黙りこくってしまう。そんな2人に片岡はつづけた。
「隆、今、昔の話をしてる時凄く楽しそうだったな…?。どうしてもう興味が無くなったようなフリをするんだ?蓮も…もういいだろ…その重荷を下ろしても許されるんじゃないか?」
説教のようにも聞こえる片岡の言葉に何も言い返すことが出来ずただ2人は俯いた。
「それに蓮。誰に負い目を感じてる?俺や舞か?それとも世間か?当時のMariaのファンか?正直、その負い目は思い違いだ。世間に負い目を感じることなんかまず無いし、あの時の行動の真意を知ってる俺や舞だってもう何も思ってない。とゆうか、感謝してる…。あの時1人で戦ってくれて…。」
片岡は語るうちにどんどん熱くなり、ダラっとたれた腕が震えるほど強く拳を握りしめ、何かを悔しがるようにも見えた。
「俺も、たぶん舞もお前達を待ってる…。」
そう言って片岡はこの話をするのをやめた。北川や成瀬は何も言わず考え込むように黙っていた。
4人はしばらく話もせず舞姫に向かって歩いていた。舞姫へ向かう通りは坂木原でもっとも無名なバンドが集まり、路上ライブをする通りだった。片岡は特に周りを気にすることなく歩き続け、北川と成瀬はさっきの話もあり、周りを見渡しながら歩いていた。
すると、北川は足を止め驚いた表情で1点を見つめた。そんな北川に気づき成瀬と片岡、中川はゆっくりと北川が見つめる先に視線を合わせた。そこには、女子高校生と思われる4人組が一生懸命曲の練習をしている姿があった。何度も失敗しては最初からやり直し、ライブというにはあまりにもお粗末な演奏をしていた。
北川以外には特には何も感じなく、そんなに真剣に集中して見るものには思えなかった。そんな中、成瀬が女子高校生を見ていて思い出したように大声をあげた。
「あ!あぁ!!あの娘!!朝の電車の娘でしょ?」
成瀬は北川の様子を伺いながらそう訪ねた。成瀬の声に驚き、中川と片岡は成瀬の方を向いた。北川が見ていた女子高校生は花澤 灯里と灯里が集めたであろうバンドのメンバーだった。
「あ、あぁ。」
北川はいまだに目線を逸らさず灯里達を見ていた。北川がなぜそのまで灯里達に興味を示しているのかわからず片岡と中川は顔を見合わせ不思議そうにしていた。そして、ついに片岡は北川の方を向き訪ねた。
「あの娘達がどうかしたの?蓮が他人の路上ライブに興味示すのも珍しいし…。なに?あの娘にホの時なの?」
「え?あぁ、いや。何でもないよ…。ただ知った顔だったからちょっと気になっただけ…。」
北川は目線を逸らし、舞姫の方へ歩き出そうとした。その時、演奏の練習をしている灯里達にいかにもライブの観客とは言い難い、チャラチャラした男4人組が絡んできた。その光景が逸らし際に北川の視界に入っていたため、北川は気になりもう一度、灯里達の方へ視線を向けた。すると、やはり灯里達は男数人に囲まれ困った表情をし、必死に何かを拒絶するような態度をとっていた。その光景を見て北川は何故かとてもむしゃくしゃして頭に血が登った。
「隆…。行くぞ…。」
北川は声の音量こそはあまりなかったがよく通る声で力強くいった。
「おぅ…。」
その声に真剣さと北川の憤りを感じ、成瀬も返事を返し、そんな2人が気になり片岡と中川も後ろからついていった。
「祐二郎さん。あの基本他人に興味が無さそうな蓮がどうしたんですか?」
片岡は最近の北川を知らなかったため、自分よりも北川と接点のある中川に聞いた。片岡の知る北川は、とゆうかMaria時代の北川はMaria以外に興味をあまり示さず、先ほどのように街中で演奏していたりするバンドに目を向けることもあまりなかった。そのため、さっきの辺りの無名のバンドに目をやったり、必要以上に他人のバンドに干渉したりするような行動をとる北川はまるで以前とは別人のように片岡にはそう写っていた。
「ん?あぁ、俺も舞姫でしかあいつと会わねぇからな〜。隆もあの女子高校生と知り合いそうだし何がどうなってるやら…。」
「蓮ってあんなに他人に肩入れする奴でした?」
「いや、俺もついこないだあった時には蓮はいつまでも変わってなくて相変わらずだなとか思ってた側だからな。正直、俺も今のあいつの行動には驚いてる。」
片岡と中川が話している間にも北川はどんどん灯里達に近ずいていった。その姿をみて片岡は絡んでいるチャラ男達に殴り掛かるのでは無いかと心配になってきた。万が一、億が一でも北川がそんな事をするとは思えなかったが片岡にとって北川の行動は珍しいものだったので何をするかまるで予想がつかなかった。
「おい…。」
ついに、北川はチャラ男達の前に立ち声をかけた。始まりは静かなものだった。北川は声の音量こそ小さかったが、なんとも言えない迫力があった。北川は睨みつけるような視線でチャラ男達を見渡し、チャラ男達はいきなり話しかけられたのと北川の迫力に少しビビりながらも北川から視線を逸らさなかった。
「な、なんだよお前…。」
チャラ男の中の1人が警戒しながらもいきなりふっかけてきた北川を威嚇した。
「この娘達のバンドのファンだ…。演奏途中で途切れただろ…どうしてくれんだ?」
北川はあくまでも怒鳴らず声のトーンは変えずに低くどっしりとした声で答えた。成瀬、片岡、中川もやっと現場に到着し現状を伺っている様子だった。
「し、知らねぇよ。それに曲もさっきから途切れ途切れでライブというよりは練習みたいな雰囲気だったろ。」
「関係ねぇよ。失せろ…。」
北川の迫力に負け、更に成瀬や片岡、中川の登場により四対一の構図では無くなり、チャラ男達は先程よりも威勢がなくなってきていた。女子高校生を挟み男達が四対四でいる光景は嫌でも他人の目を引き、行き交う人達の中で足を止め野次馬のように、事の行く末を見守る人達が出てきた。
「ちッ!何なんだよこいつら…。」
チャラ男達はどんどん居ずらくなりソワソワと周りを伺う奴が数人出てきた。灯里はまさかここで北川が助けに来てくれるとは思ってもみなかったため驚き、ただ北川を見つめていた。他の女子メンバー達も絡まれた最初よりは落ち着きを取り戻し、チャラ男達の対処を完全に北川達に一任している様子だった。
その時、この問題を野次馬していたと思っていた人達がヒソヒソと小声で話す声が北川達の耳に入った。
「ねぇねぇ、あの後ろにいる身長高いイケメンってRYOじゃない?」
その声に片岡は一瞬、ビクッとなったが、スグに素に戻りやれやれといったようにため息をついていた。
「え?RYOってあのVIPPERの?」
「そうだよ!絶対!あんなイケメンそうそういないしメッチャ似てるじゃん。」
「じゃあ、あの今チャラ男に突っかかってる人ともう1人後ろにいるイケメンもなんか有名人だったりするのかな?」
「RYOと一緒にいるんだもん!絶対そうだよ!!」
野次馬のヒソヒソ話はどんどん大きくなり、今度はハッキリと女子高校生達やチャラ男、北川の耳に届いてきた。
「てゆうか、ちょっと待って…。RYOの前にいる2人ってもしかして…。」
その瞬間、北川と成瀬に衝撃が走り、冷や汗が流れ、体を強ばらせ、緊張を強く感じた。北川は周りにバレることよりも、灯里にバレる事の方が、何故か恐ろしく感じていた。
「だよね。アタシも思ってたんだけど。たぶん、MariaのRENとnaruだよね…。」
北川と成瀬は外れてくれと心の中で念じていたが、思惑とは外れもろに当てられた。北川はとにかく、灯里にどう誤魔化すかをスグさま考え、成瀬は黙りを決め込み野次馬には一切反応しない体制をとった。
(最悪だ…。よりにもよって、この娘の前で…。)
灯里にも先程の野次馬の声が聞こえたのだろうか、何を言わずとも表情だけで北川は分かってしまった。灯里はとても驚き、目を見開き、その両目でしっかりと北川を捉えていた。
「でも、RENってあの薬物やってた人だよね?いつ出てきたの?てゆうか、RYOと一緒にいるってどうゆう事?あんだけ迷惑かけといて…。」
北川はそんな心のない野次馬の声を聞き、一気に顔が青ざめ思考が停止した。それはまるで、あの働いている時にふと聞いた会話の時の、灯里に手を差し伸べられ助けられたあの時のようだった。北川はあの時のように再び動悸が早くなり、呼吸が乱れ、冷や汗がどんどん出てきて傍から見ても具合が悪いとわかる状況に陥っていた。数分前までは、灯里にどう誤魔化そうか、それだけを考えていた北川だったが、今はとにかくこの場から離れたい一心だった。
(ヤバイな…。またあの時みたいに、地面に膝をつきそう…。そうだよな…、簡単に許されるはずねぇよな…。亮はああ言ってくれたけど俺は多くの人達を裏切ってきたわけだから…。なんで帰れないあの舞台を見に行ったんだろ…。帰れもしないのに…。)
北川は舞のライブに行ったこと、舞のライブを見て夢見ていた昔のようにまたあの舞台に憧れてしまっていたことを激しく後悔し、そんな自分に呆れ、気分が悪いのにまるで自分を自虐するように乾いた笑みすらこぼれた。
そんな北川を見て、いつも強気で周りを気にしない姿は見る影も無く、そこまでトラウマになっていたとは知らず片岡と成瀬は驚き、何も声をかけることすら出来なかった。
その時、どんどん視界が狭ばっていき、暗くなっていく北川の視野に小さい女性の手が差し伸べられた。
北川はその差し伸べられた手に気づき顔を上げると、こちらまで安心し落ち着くような優しく笑みを浮かべた灯里の姿があった。
「大丈夫ですよ。私は蓮二さんが優しい人だってことを知ってます。周りがなんと言おうとも私は蓮二さんの味方です。」
その言葉に、救われたように北川が感じていた重苦しい空気が無くなった。
(あぁ、そうか…。俺はこの娘のこの優しい笑顔に惹かれて気になっていたのか…。)
北川はその時、初めて灯里に興味を持った理由を知った。




