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灯里の名の元に…  作者: 下田 暗
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再び灯る明かり

坂木原市 坂木原駅。

休日には若者が集まり朝から夜まで賑わいを見せている大きな都市で平日にはスーツを着たサラリーマンや学生服を着た学生が降りる所でもあった。

「一番線…ドアが閉まります。ご注意ください。」

駅のホームでアナウンスが響く。一番線に駆け込む人や間に合わないのを察し諦め歩きどこか座れる場所を探す者、様々な人達の中、北川きたがわ れんは駅員の服装で駅の構内の見回りをしていた。

北川 蓮、駅員の帽子を深く被りわざと周りからあまり顔が見えないようにしていた、顔はとても美形で異性からかなりモテたりしていた。身長は177cmあり、歳は今年で22になっていた。

北川は今日もダルそうに見回りをしていた。朝7時の木曜日。サラリーマンや学生が多く皆出勤や登校で忙しなく人が多く動いていた。朝のこの時間はみんな忙しそうにしているため特に問題が起こることはないが一応見回りをしなくてはいけなかった。最近はホームから飛び降りての自殺などそんな事件も多々あるためこういった見回りを多くするような方針を取っていたりしていた。

(はぁ…。眠い。泊まり込みの仕事はやっぱりキツイな…。でも祐二郎ゆうじろうさんの紹介で入った仕事だしこれしかねぇからな…辞めさせられないよう気をつけないと。)

北川はある事が原因で就職が困難になり中川なかがわ 祐二郎ゆうじろうという知り合いの紹介でやっとの思いで働く場所を見つけることができていた。

(木曜か…、早苗さなえさんの所でラーメンでも食うか。どうせみんなもいるだろう…。)

北川は知り合いがよく集まるたちばな 早苗さなえのラーメン屋に行くことを少しの楽しみにして仕事に気合を入れた。

「あのぉ〜…。すいません…。」

「ん?」

北川は心細そうな女の子の声がした方に振り向くとそこには学生服に身を包み、北川を見上げる女子高生の姿があった。身長150くらいの小柄で可愛らしい感じの子だった。

「はい。どうされましたか?」

北川は仕事用の優しい声で話しかけた。

「あの…、凄く申し上げにくい事なんですが…。」

その子はモジモジしながら言いにくそうにしていた。北川はそんな子を見てお手洗いの場所でも探しているのかと考えた。

「はい。私に答えられることならなんでも大丈夫ですよ?もしかして、お手洗いか何かですか?」

北川は失礼に値しないようその子が恥ずかしいと感じないようあくまで真面目な表情で真剣に聞いた。

そんな真剣さが通じたのかその子は息を決し北川を見つめ返し答えた。

MariaマリアのドラムのRENれんさんですか…?」

「・・・は?」

北川は予期していない質問に驚きを隠せず仕事だということを忘れ思わずタメ語で答えてしまった。そんな蓮を気にせず言ってしまったことに恥ずかしさを覚えたのかその女の子は顔を赤らめ両手で顔をおおっていた。でも北川の反応が気になるのだろうか指の隙間から目を煌めかせながら北川を見ていた。

「え〜と。すいません…ひとちが…。」

「あぁ!!わかってます!わかってます!内緒にしなきゃマズイですよね?お忍びですよね!!そ〜ですよね!」

北川は否定しようとしたが途中で遮られしかも誤解は解けずにいた。

「あれから何してたんですか?もうmaiマイさんとは連絡とったりしてないんですか?」

「ちょっと待って…人違いだって。」

「え?」

北川の伝えたい事がやっと伝わりその子は驚いた表情を浮かべた。

「え?なんでだって。どう見たってRENさんじゃ…。」

「違うし俺あんなイケメンじゃないよ。それにRENって派手なメイクに銀髪の長いウィッグ付けてたじゃん。素顔なんて出してなかったしわからないと思うんだけど。」

北川はMariaのドラマー、RENの風貌を思い出しながらそう答えた。

北川の言ったことは事実でRENの方は派手なメイクと銀髪の長いウィッグをライブの時は付けていてカラコンなんかも付けて元の素材(顔が)良いため人間離れした顔つきになったりしてファンの中では神格化するものまでいたりしていた。

「すいません…。私、つい興奮しちゃって…。ごめんなさい。」

その子は予想が外れとてもガッカリしていた。

「え〜と。RENじゃなくてごめんね?それとRENって数年前に麻薬かなんかで捕まってたよね?伸び上がってたMariaの人気を落としたりしてたのにまだ好きだったりするのかな?」

RENはMariaの人気が出てきた時に覚醒剤所持、使用の疑いで捕まりその後証拠が見つかり逮捕されニュースで大々的に取り上げられていた。MariaのREN以外のメンバーにも疑いがかけられ調査が行われ、Mariaのメンバーにも大きな迷惑をかけていた。その後行われたMariaのリーダーでもありメインボーカルのmaiの涙を流しながらの記者会見は大きな反響を呼び、maiは悲劇のヒロインのように取り上げられMariaに興味が無かった人にまで曲が知れ渡り結局はMariaの大きな宣伝のようになりその事件は幕を下ろしていた。

RENはその頃に多くのファンを失望させ、Mariaのファンからは悪者扱いされていたりしていた。

「確かにRENさんは許されないことをしました…。ですが、私は彼に救われたのです。どうしてもお礼を言いたくってそれと私もMariaの様なバンドを作ると宣言したくて。」

その子は俯き暗い表情になりながら語り始めた。

「へぇ〜、珍しいね。RENのファンなんて…。もう1年か2年くらい前に釈放されたらしいからもしかしたらどこか出会えるかもね!」

北川は優しくその子に微笑みかけいった。

「はい!必ず伝えます!お仕事中なのにホントにすいませんでした!私、花澤はなざわ 灯里あかりって言います!お兄さんMariaのファンでしょ?結構詳しいし…。私よくこの電車使うんで暇だったはMariaについて語り合いましょ!!」

「はい!それではお気を付けて…。」

灯里は北川に笑顔で大きく手を振り、北川が軽く手を挙げたことを確認すると振り返り階段を駆け上がっていった。その名のようにとても明るくて元気な娘だった。

「Mariaに詳しいか…。そりゃ当然だろ…俺がMariaだったんだから……。」

北川は昔のことを少し思い出し浮かない気分になりながらそう呟いた。


坂木原駅周辺。駅から歩いて徒歩五分の近場にあるラーメン屋「舞姫まいひめ」に北川は来ていた。

「うーす。」

北川は舞姫の引き戸を開け軽く挨拶をしながら暖簾を潜った。

「お!?来たね!蓮!」

北川をカウンターから笑顔で歓迎するのはこの店の店主のたちばな 早苗さなえだった。早苗は髪を束ね、お姉さんの様な風貌で、早苗さん目当てで通いつめる客も多くいるほどの美人だった。早苗さんのお父さんがまだ生きていた頃からお店に出ていたのでお玉を持つその姿はとても板についていた。これほどお玉を持っても違和感のない美人は宇宙広しと言えど早苗さん以上に似合う女性はいないと心から思えるほどだった。

早苗とはMariaが無かった頃以前からの付き合いで中学の悪ガキだった頃から通いつめていた。

「よ!犯罪者!」

カウンターに座る金髪で北川と同い年のまだイタズラしていた中学の頃の悪ガキっぽさが残る幼なじみの成瀬なるせ たかしの姿があった。身長は北川よりも小柄でおそらく日本男児の平均身長よりも10cmくらい低かった。低いことを本人は気にしていたが顔といいその幼さが実は女子にはかなりウケていた。

「やめろよその呼び方…。つか、そのテンション、もう飲んでんな?」

蓮は明らかに嫌な顔をしながらそう言った。

「ごめんごめん。怒んなよ〜蓮!!俺とお前の仲じゃんか〜。」

「そうだよな。だからお前のファン取っちゃってたあの頃のこと許してよ。」

「はぁ!?それはそれこれはこれ。あの頃のお前サイテーだっからな!!」

実は成瀬もMariaのベース担当でメンバーの一人だったりした。naruナルの愛称で呼ばれていた。

「いや、サイテーも何も俺は何もしてねぇよ。気づいたらお前のファンだった子が俺にプレゼントを贈るようになってただけで。」

「もう!モテる自慢は辞めなさいよアンタら。ホントにモテる男はそんなこと言わないの!ほれ!蓮、いつもの!!」

早苗は北川と成瀬の会話に呆れながら北川のいつも頼む長ネギラーメンをカウンターに置いた。

「ありがと。早苗さんはどっちの方がいい?付き合うとしたら。」

りょうがいいね!断然亮!アンタらと違って成功してるし。」

「いや、早苗さん、そりゃ無いわ。」

成瀬は明らかにガッカリしながらそう言った。

亮というのは片岡かたおか りょうのことで北川と成瀬と同じでMariaのメンバーの一人だった。ギターを務めていてクールで北川と2位3位を争う程の人気だった。髪は長くロンゲででも鬱陶しくなくそのクールな顔と凄くあっていた。RYOリョウの愛称で呼ばれていた。Mariaが解散した今はVIPPERビッパーという人気バンドのギターとして所属している。舞と同じくらいの知名度のバンドだった。

「アイツますます人気になってくよな。VIPPERビッパーの勢いが凄いっていうか。まぁ俺らと対バンしてたころからその風格はあったけどな。」

成瀬は友人の活躍を嬉しく思いながらそう呟いた。

対バンライブ。いくつもの色々なバンドが集まりそれぞれ順番に演奏していくライブ。ファンの変動が一番あるライブで最初は自分の好きなバンドが演奏するからという理由で、来たお客さんがせっかく来たついでにと、他のバンドの演奏も聞いていったりするためそこで変動があったりしたりする。ファンが増えるバンドもあれば逆に客を取られるバンドもありいろいろなバンドがそこで凌ぎを削っているとても熱い場所だった。

VIPPERは今の有名になる前、よくMariaと対バンライブをして凌ぎを削ってお互いに技術を高めていた、いいライバルのような関係を築いていた。

「でも、VIPPERっていやあのお転婆姫がいるからな…。亮も大変なんじゃないか?」

北川はVIPPERのメインボーカルで女性のLARAと呼ばれている人を思い出しながらそう言った。

「あぁ、LARAらら姫ね…。でも、あの包容力の塊みたいな亮だからなぁ〜。大丈夫じゃね?つか、思ったんだけどMaria時代から亮を引き抜こうとしてたからな?LARAのヤツ。亮は鈍いから気づいてなかったけどありゃ惚れてたね。」

成瀬は割り箸を空中でクルクル回しながら自信有り気にそう答えた。

「確かに…。ツンツンしながらも亮と話す時は女出てたしな…。」

「へぇ〜、LARAちゃんが亮をねぇ〜。やっぱりこんな所で油売ってるアンタらとは違うね亮は。」

「って!こんな所ってなんだよ!!」

早苗は持っていたお玉で成瀬をはたいた。

「いて!早苗さん…俺何も言ってないっす。」

成瀬は少し涙目になりながらはたかれたところを抑え訴えた。

そんな成瀬を無視し北川の方を向き早苗は話した。

「でぇ、蓮はあれから舞にあったのかい?」

早苗はそのキレイな顔をキリッとさせ、キレ目で少し睨むようにしながは北川にそう聞いた。

西尾にしお まい。Mariaのメインボーカルでmaiマイの愛称で呼ばれていた。舞はメンバー唯一の女性でとても澄んだ声をしていて、女性からも男性からも支持を得ていて蓮や亮をさしぬき堂々の1位の人気だった。とても清楚な感じなのに歌う時は誰よりもカッコよく北川や成瀬、片岡までもがその姿をカッコよく思い憧れたりしていた。

北川はその表情を見て誤魔化しは出来ないと思い汲んだ水を飲み一息ついた。

「舞にだけホントのこと言ってないんだろ?そろそろ潮時じゃないのかい?」

「実は、出所前に俺に面会に来た。」

北川は今まで誰にも言っていなかったことを告白した。

「え!?」

「マジ?」

早苗と成瀬は北川から会いに行くことはあっても舞から会いに来ることなんて考えてもなかったのでとても驚いた。

「え!?どうゆうこと?なんで舞が?あんな事があったのに…。」

早苗はカウンターから身を乗り出す勢いで北川に聞いた。

「それがあの事件があって数年後、亮からホントの事聞いたらしい。亮も優しいから教えちゃったんだと思う。それが丁度俺が釈放される数日前、ホントの事知ったその日に来たよ面会に。」

それを聞いて早苗はなにも言うことは出来なかった。

「それで?舞はなんて?」

早苗の代わりに成瀬がその後のことを聞いた。

「泣いてた…。何も言わずにただ俺の顔を見るなり泣いてた。」

北川はその時の舞のことを思い出しながら暗い表情で言った。

「そっかぁ…。」

成瀬もこれ以上は何も言わずに黙った。

「だからさ、これ以上俺はアイツにかかわっちゃいけないんだと思う。俺も辛いしアイツも辛いだろし…。」

北川は悲しい表情をしていたがどこか吹っ切れたようなそんな清々しさもあった。

「ねぇえ?蓮。アタシはさぁ、よくこの店にくる客にさぁ、昔Mariaのメンバーがこの店に来てたんだって自慢するんだよ。たまにVIPPERの連中まで連れてさぁとか言って…。私はさぁ蓮と隆にもまたあの頃のように戻って欲しかったりするんだよ?」

早苗は優しく北川と成瀬に話かけていった。

そんな早苗を見て北川と成瀬は顔を見合わせ頷くと早苗の方に向いた。

「俺らはいいんすよ。」

「俺らはいいんだよ。」

成瀬と北川は同じ答えを早苗に向け言った。

あくまであの頃に後悔はないと言わんばかりに笑顔でそう答えた。

「っていうか、なんでお前はバンド続けなかったんだよ。隆。」

「いや、俺まで有名になったらお前泣くだろ?」

「うっせぇよ。」

早苗は言い争う2人をみて自分の願いとは違う方向に進むことを決めていることを察し、この関係がこれから先も続いていけばいいとそう心から思った。

(でもね…。いつか…また舞や亮と蓮と隆、4人で笑い合いながらウチに来て欲しいな…。)


(はぁ〜やっべぇ〜眠い)

昨日の楽しい時間から日付が変わり、朝7時を迎えていた。

平日金曜日の坂木原はいつものように人がごった返し通勤ラッシュとやらが続いていた。

(昨日楽しみ過ぎた…。眠い…。)

舞姫まいひめたかし早苗さなえとあの後夜の1時まで語り尽くし、そのまま家に帰り風呂などに入り結局寝たのは深夜2時だった。

いつものようにこの時間は構内の見回りをしなくてならないため北川きたがわ れんは構内の見回りをしていた。

忘れ物や不審物がないかとかも確認するためくまなく構内を見渡していた北川の耳に電車を待つ女子高校生であろう2人組の話し声が聞こえてきた。

「ねぇねぇ、舞の新曲聞いた?」

「聞いたよ!セカンドライフでしょ?今夜の歌番組出るらしいよ!」

「え?マジ?録画もんじゃん!!」

(あぁ、もう出たのか新曲…。相変わらず歌詞書くの早ぇな。)

女子高校生から聞いた情報を元にそんな事を思いながら仕事をしていた。

「でもさぁ、最近舞、シンガーソングライターになってから勢い凄いよね!何かに取り憑かれたように歌詞書きまくって新曲バンバン出して…ちょっと過労で倒れたりしそうで心配になるよねこっちが…。」

「だよね!アタシMariaの頃から舞を知ってるけど最近笑わないしね…。笑うんだけどなんか元気ないって言うか…。やっぱ引きずってんのかな…あの頃のこと。」

その話を聞き北川は思わず仕事を辞め聞き耳を立てその話を聞くことに集中した。

「いやだってもう何年も前の話でしょ?流石にもう吹っ切ってそうだけど…。」

「それがさ!噂で聞いたんだけどRENがここ数年の内に出所したらしいんだよね…。それを聞いて思い出しちゃったんじゃないかな舞。」

「えぇ〜。だとしたらRENってホント酷いよね…。あれだけ問題起こしてまた舞に迷惑かけようとしてるなんて。」

北川はその話をきき心臓の鼓動が加速していった。

「まぁ、RENは罪作りだよね!右肩上がりだったMariaを解散させちゃったんだから…。」

北川はもうその話を聞きたく無かったが自分の罪をあらためて認識するのと自分の犯した罪のせめてもの罪滅ぼしの為最後まで聞くことにした。脈は早くなり息が上がり苦しくなったがこれは受けなくてはならない罰だと思っていた。

「なんであの時期に覚醒剤なんてしたんだろ…。ホントサイテー。」

とうとう苦しくなり、北川は膝をついてしまった。それほどまでにその話を最後まで聞くことは北川にとって辛く、激しく消耗することだった。

そんな北川の肩に誰かの手が乗せられた。

北川はその乗せられた手が誰のものかを見るため顔を上げた。そこには心配そうな表情をした昨日この駅であった女子高校生、西尾にしお 灯里あかりの姿がそこにあった。

「大丈夫ですか?どこかに座って休んだ方がいいんじゃないですか?」

心配する彼女の姿は北川にとって天使とは違いまた女神や神とも違う明るいものに見えた。それは暗い海のなか見えた一筋の灯台の明かりのように不安の中で見えた安心する光のような存在だった。

これは、Mariaに引かれMariaのようなバンドを作りたいと願った女の子とある理由でMariaを解散させ、メンバーを散り散りにまでさせてしまった男性の物語。もう二度とあの輝かしい頃には戻れないと思っていた彼は何故かまたあの頃と同じ光を彼女に感じた。

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