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学園入学編Ⅸ

遅くなりすみません。9話目になります。

今回は少し長めです。

体は小さいが、その肉体から溢れ出るプレッシャーに再度の突撃が阻まれる。


「ほぅ。今の一瞬で返り討ちにされるのがわかったのか。言っておくが先の攻撃パターンはもう効かぬぞ。俺の反応速度では目で捕らえることはでき無いが、能力が発現している今では毛ほどのダメージしか与えられんよ。それに俺に近づけば反撃をもらうぞ?」


そう言い日京はあえて動くことを捨て、動かずに迎え撃つことを選択する。

只でさえ溢れていたプレッシャーが動かぬことでその範囲を増し、範囲内に入るなと体が警告を発する程重苦しいものとなっていた。

燐はプレッシャーをあえて受けようと歩を進める。

久しぶりに感じる実践でのプレッシャー。ビリビリと手足が痺れる痛み。

そして研ぎ澄まされていく感覚。大きく深呼吸し息を吐くと同時に突撃する。


(それじゃあまずは……手数でいく!)


一瞬で日京の正面に間合いを詰め、右腕を下から胴に打ち込む。

打ち込まれた瞬間、打撃に反応するように日京の腕が左から迫る。


(遅い!)


軽く頭を下げることで回避し、続けざまに日京の足元の地面を吹き飛ばす。

バランスを崩し方膝をつく顔めがけ蹴りを放つ。しかしそこは日京も予測がついたのだろうがっちりと両腕で防いでいた。

腕を上げ視界を塞ぎ、両の脇腹が露出する。そこに燐の拳が刺さり爆発する。

不意の攻撃の所為か、ギリっと歯を食いしばる音が聞こえてくる。

少なからずダメージはある様だが決定打にはなっていない。

決定打ではないという事は今手を止める訳にはいかないと打ち続ける。

だがその打撃と爆発は強制終了させられる。あの爆発の中。日京が燐の腕をがっちりと掴んでいた。


「あまり調子に乗るなよ【撃鉄】!!見えんとは言ったが予測できんとは言っていない!」


そう言うと腕を掴んだまま後方の地面に叩きつける。

肺から空気を無理やり押し出される苦しみ、叩きつけられた背中と遠心力により付加が掛かった腕に激痛が走る。

痛みに呻くとその効果音が気に入ったのかニヤニヤとしながら日京は2度、3度と同じことを繰り返す。

その度に燐の体のあちこちは赤く腫れあがり細かい切り傷が増えていく。

意識も朦朧としてきている。

日京は掴んだ腕を高々と上げ、燐のグループに向け言葉を放つ。


「おやおや。俺の手に今掴んでいるのは東城家特産の雑巾だったかな?赤い水が飛び散って汚いから一回絞っておこうかと思うんだが…どうかな?」


その言葉に仁は激昂するでもなく冷静に答える。


「やれるものならな。だが少しいいか?」


そう言うと意識があるのか無いのかはっきりしない燐に向かって叫ぶ。


「燐!今から日京はお前に止めを刺す。もう駄目なら俺がガードの役割を行使して止めてやろう。しかし……」


そこまで言うと仁の口から続きの言葉が出て来なくなる。

「もしまだ戦えるならば、すべてを出し切ってみろ。」そう言いたかったに違いない。

だが仁は言えなかった。

本来ならばすぐにでも割って入らなければいけない状況、そしてガードする相手なのに自分は何を言っているのか。彼女の意思を大事にする前に彼女自身を大切にする場面ではないのか。そんな葛藤の所為で。

しかし燐は違った。仁の紡ぐことが出来なかった言葉を正確に読み取っていた。


(わかってるよ仁くん。全部出せってことでしょ?…そうだね。いつまでも隠しておけないか。秋くんや久人くん。それに仁くんに秘密は無しだよね。余計な人も周りにいるけどもういいよね)


するとゆっくりと仁の方に顔を向け痛々しい体のままニッと笑う。


「仁くん、秋くん、久人くんごめんね。隠してたけどこいつ倒すために使うね。でも…ただ…約束して欲しいの。この子・・・も私だから。仲良くしてあげてね。お願い…」


そう言ってこちらの返答も聞かずに、燐は意識を手放した………

………

……

意識の中、心の奥底に手をかざしそこに居る相手を呼ぶ。


(ねぇれん!見てたでしょう?私に初めての友達が出来たの!それも3人!みんな男の子だけどみんないい人達だよ)

《………》

(そうだよ。だかられんにも会わせたいんだ)

《………》

(うん…だからまずは目の前にいる奴らを二人・・で倒そう。だから今度はれんが前に出てもいいよ。私はここから力を貸すからね!)

《………》

(わかった。でもほどほどにね。それじゃあよろしくね!れん!)


……

………

…………


意識を失い、脱力した燐を日京は放り投げた。


「つまらんな。所詮は東城も名ばかり。お飾りの一人娘すらも大したことはなかったな。ところで黒土秋だったか、俺の勝利宣言をしろ。そしてプレートと学園長に東城は東方に敗れ、四方陣家の【東】を譲ったと伝えろ。ここの学園長くらいならば四方陣家とも繋がりがあるはずだ」


そう言うと秋の方に歩いてくる。


「いやいや日京。まだ終わってねぇよ。燐はまだやる気みたいだぜ?」


秋は日京が歩み寄る方とは逆に指をさす。

秋の言葉に反応し、先ほど投げ捨てた燐の方に眼だけを向ける。

すると燐は立ち上がっていた。そう、立ち上がっているだけ。一撫でするだけで倒れてしまいそうな状態だった。だがそんな燐に日京は興味を示さなかった。


「全く以てしらける演出だ。友情ごっこで立ち上がったのならやめておけ。そこから先は何もできんだろう。だがもしやると言うのなら息の根を止める。それでお友達もお前も満足だろう」


首を垂れ立ち尽くす燐に、日京は能力を発動し突進していく。


「やるなら行くぞ!その気があるなら、何かやってみるがいい!」


もう数メートルというところまで日京が迫る。

だが動きが突然停止する日京。


「なんだ…足がっ…!!」


日京の足首は凍りつき・・・・地面に貼り付けられていた。


「誰だ!試合の邪魔をする奴は!!出て来い!!」


周囲を見回しこの試合の最高の見せ場を邪魔した者を探す。


「出て来い!今なら気分がいいからこれをやった者に死を与える程度で許してやろう」


この問いかけに誰も声を上げる者はいなかった。

だが日京の足の凍結は膝まで侵食していき、少しずつ上に上ってきている。

そしてそこに一人の少女が歩み寄ってくる。


「東城燐か。これを好機ととり俺にとどめでもさしに来たか。だが貴様の能力では俺の肉体を超えてダメージを与えることはできん。まだ理解できないのか?」


日京の挑発とも取れるこの言葉に眉尻一つ動かさずに前進してくる。

そして歩みを止めることなく日京に向け手をかざす。

すると地面から氷の柱が伸び、日京の両腕をその場に凍りつける。

この場に居るこれを見るすべての人が呆気にとられる。


【一人の人間が2つの能力を使った】


あり得ないという思い、事実が常識という名の縛りで凝り固まった思考を停止させる。

だが少女はその能力の行使を止めない。

三度振りかざすと日京の胴回りまでを凍りつかせた。

体を覆う氷の侵食に、意識が今起こっている状況はまずいと反射的に体を動かそうとする。

その反射行動にようやく頭の回転が始まり現状を理解する。


(馬鹿な…東城燐が2つの能力を使っているだと?あり得ん!なにかしら協力者がいるはずだ。おのれこの卑怯者め!)


日京の心中は今起きていることを、この状況を受け入れられずにいた。


(現状を打開するにはまず東城燐が使っていると見せかけている第三者の能力を解除させねば…)

「東城燐!この卑怯者め!どんなトリックを使ったかはわからんが第三者の介入でしかこの状況はあり得ん。今すぐこれをやった者に止めさせるように言うのだ。そうすれば違反したことは水に流してやろう」


だが歩み寄る少女の歩調は変わらず。しかしここでようやく少女が口を開く。


「私は…燐…じゃない…」

「貴様!言うに事欠いて東城燐ではないというのか!しらばっくれるのもいい加減にしろ!さっさとこれを解除させろ!」


怒鳴り散らす日京に向けただひたすらに冷たい視線を向ける少女。


「だから…私は…燐じゃない…燐はココ」


日京の目の前まできて立ち止まると、自らの胸の上に手を置き燐はココにいると言う。

この様子に一層腹を立てる日京。


「馬鹿にするなよ!口調が変わっただけで別人だと言い張るのかこのクズめ!貴様が東城燐ではなくなんだと言うのだ!」


節操のない問いにただ黙って答える。


「私は…東城…れん…。あなたはうるさいから……すこし黙ってって」


日京の背にぞくりと悪寒が走る。決して氷の冷たさの所為ではない。

蓮と名乗る燐の顔を持つ少女の瞳の奥に自らのこれからたどる運命を見てしまったからだ。

凍りつき動かなくなったはずの足がガクガクと小刻みに揺れている錯覚を感じる。

体はわかっているのだ。死が近づいていることに…


「待て待て待てっ!今俺をると東方家が黙ってないぞ!いいのか!楽しい学園生活が仲間と送れなくなるぞ。どんなトリックか分からんが卑怯な真似をしたことは水に流してやろう。それで今回の件は終わりだ。どうだ。悪くないだろう。なんならプレートも受け取らなくてもいいぞ」


次から次へと戯言を並び立て遠回しな命乞いをしてくる日京。

しかし目の前の蓮は、その表情を変えず日京の目だけをじっと見つめ続ける。

その無言のプレッシャーに日京はいよいよもって恐怖に駆られる。


「許してくれ!頼む!俺の負けだ!早くここから自由にしてくれ!おい黒土秋!いや黒土様!こやつを止めてください!早く!誰でもいいから助けてくれ!」


だが日京の乞いもむなしく、蓮は無慈悲な言葉を発する。


「あなたは…燐を痛くした。だから許さない……私は…許さない」

「あ、あぁ。だ、誰かっ、たすけ……」


最後の言葉も口にする事すらできずに氷の中に閉ざされる。

静寂に包まれる空間。

凍った日京をじっと見つめ続ける蓮。不意に後から声が掛かる。


「おめでとさん!勝ってくれるとは思ってたけど中身が入れ替わんのにはちょびっとびっくりしたぞ!蓮…でいいんだよな!初めまして黒土 秋だ。よろしくな。それと詳しい話は後で教えろよな!」

「秋…知ってる…燐の中で見てた…詳しいことは…燐に聞いて」

「そうか。わかった。ところでいいか蓮。変な事聞くけど今まで人を殺した事はあるか?」


唐突に聞かれたことに目を見開く蓮。

おそらくこんなこと聞かれるとは思ってもみなかったのだろう。


そして蓮は短く、

「……ない」

と答えた。


「そっか。じゃああいつ殺した後の事は考えてるか?」


氷漬けの日京を指さして尋ねる。

やはりこの質問に対しても蓮は短く「ない」と答えた。

そしてそれを聞いた秋は日京を覆う氷に触れる。


「ならまだ背負わなくていい。殺すことの意味とかその後とか、うまく説明できないけど大変だからさ。だだからまぁ今はこんな奴でも許してやろうぜ。そのあとなんかあったら俺が蓮を護るから。いいな?」


蓮は感じる。

今まで燐と叔父様・・・以外に優しくしてくれる人はいなかった。

でもこんなに近くにとても優しくしてくれる人が居てくれる。

今まで感じた事のない感情。嬉しさ、楽しさ、幸せ、苦しさ、辛さ、切なさ、すべてが交じり合う感情。

【俺が蓮を護るから。】

秋のさっきの言葉を考える程に顔も体も熱くなる。

そしてふと心の奥から燐の声が聞こえる。


(蓮、ありがとう勝ってくれて。ようやく人を好きになるって事が分かったね!おめでとう!)

《……コイってこと?》

(そう。相手の事を考えると幸せになれるでしょう?もっと一緒にって思うでしょう?)

《……うん》

(それはね。蓮が秋の事を好きってことだよ)

《好き…でも燐も好き。叔父様も好き》

(私と叔父様の好きは違うよ。秋に向ける好きは特別なもの。)

《特別…》

(だからその特別な人にいつかちゃんと好きって言わなきゃね!そうしないと誰かに秋を取られちゃうよ?)

《……それは嫌!》

(そうだよね。だからその時が来たらちゃんと伝えないとね!)

《うん!》


心の中での決意を胸に頭を上げると、水色の雪が空から降り注いでいた。

その雪の一粒と共にゆっくりと視線を落としていくと、氷の中に居たはずの日京は地面に横たわり氷は消えていた。

秋が氷を消してくれたのだ。ついさっき彼が背負うものは今は無くていいと言ってくれたことを思い出す。

そんな彼はこっちを見てニッと笑う。無邪気で優しくて安心できる。


「ねぇ…秋」

「ん?なんだ?礼なんかいらねぇぞ。これは蓮だけの為じゃなく俺自身の為にもやったことだ」

「違うの…ただ…」


言おうと思っていた次の言葉が出てこない。

かつてこれ程何かに躊躇ったことはあるだろうか。何度も口を開いては閉じる。

そんな姿を見た秋から声が掛かる。


「もしかして入れ替わった反動?かどうかは分からないけど疲れたのか?なんならガード役の仁に運んでもらおうか。その方が安心できるだろう」


待って違うの私は…あなたに…

想いだけが喉の奥に使えて声が出ない。でも体は咄嗟に動き秋の腕を掴む。

いきなりの行動に驚く秋。だがそれも一瞬で、すぐに心配そうな顔に変わる。


「立つのも辛いのか。ならそこで座ってろすぐ仁が来るから」

「だから…違うの!」


ようやく出た声は勢いに任せた、半ば怒っている様な声色に聞こえたかもしれない。

でもそれを聞いた秋は再度驚きの顔でこちらを見ている。

今しかない。自らを叱咤し口を開く。


「好き…」

「ん?なにがだ?」

「秋が…好き…」

「は?いや、なにを…」

「だから…秋が好き!大好き!」


ようやく言えた!

達成感よりあまりの恥ずかしさに思わず秋の腕を引き寄せ胸に埋まる。


事が呑み込めない秋はその言葉の意味を理解しながらも動けずにいた。


そして蓮の中の燐は、

(伝えろとは言ったけど早過ぎよ…)

と、先の自らの言葉を後悔した。

どうでしたでしょうか。

自分でもなんかムズムズしてます。

今回もご一読頂きありがとうございました。

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