表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/57

学園入学編Ⅷ

遅くなり申し訳ありません。

8話目になります。

仁は眉間に皺を寄せ言葉を紡ぎ出す。


「【伝承】にも落とし穴があったのだ。一度能力を消すという事はその個人の情報を消すことと同じだ。つまり能力を消された段階で死ぬか、生きてはいるが息をするだけの物になるかという事だ」


でも待て。そしたらおかしいことがあるだろう。ついさっき仁は【伝承】で受け継いだと言っていた。

そのことは仁も知っているのか俺がその疑問を口にするのをわざわざ待ってる様に感じられた。


「だったら燐は何なんだ?普通に生きてるだろうが。伝承じゃなくて遺伝じゃないのか?」

「いや。あれは間違いなく【伝承】で受け継がれた能力だ。【遺伝】と【伝承】で能力の発現力が変わるのは知ってるか?」

「全くわからんな」


やはりなと一言を添えつつ説明は続く。


「両親のどちらか濃い方の能力が子供に発現するのが【遺伝】だ。【遺伝】のもっともメリットとなる部分は命の危険性が無いことだ。普通であればそれで構わないと思うのが一般的だろう」

「【遺伝】についてはわかった。だったら【伝承】はどうなるんだ?おれが知りたいのはそっちだ」

「わかっている。だから先に話したのだ。【伝承】だが、先も言った通り命の危険性を伴う。しかし【遺伝】と違い先代、先々代と現在に至るまでに培ってきた能力の記憶をも受け継ぐことが出来る。簡単に言えば能力の本質・使い方・技・が、今まで伝えた分蓄えられていてそれを始めから理解し発動できるという事だ。すなわち【伝承】された時点でその家系の能力の全てを知り尽くした最強の跡取りが出来るという事だ」


それは確かにデメリットを帳消しにする以上のメリットだろう。

しかしそのメリットは家系や親の自己満足以外の何物でもない。我が子をただの箱か何かにして、壊れてしまえばまた新しい箱を…という考えなんだろう。

そこには【伝承】される側の一切の感情や理屈が含まれていない。


「OK。そこまでは理解した。それで燐のことなんだが、なんであいつは無事なんだ?伝承されれば死ぬか抜け殻になっちまうんだろ?」

「確かにそうだ。だからここからは俺の憶測になるがいいか?」


俺は黙って首を縦に振る。


「いくつか考えられるが有力なのは2つだと考えている。1つ目は、能力の削除時に器となる人物に燐の記憶や人格を写し【伝承】後の本体に戻す。もちろん一時的に燐の記憶の受け皿になった人物は死ぬだろう。2つ目は……今あそこで戦っている人物は燐ではないのかもしれないということだ。」

「……1つ目はわかった。言いたいことはあるが俺の感情論になるから今はやめておく。でも2つ目の意味が分からん。どういう事だ?」

「言ってそのままの意味だ。【伝承】時に抜け殻になった燐の体に、別の人格を入れるということだ。例えばだが伝承しようとする能力者……母親または父親。もしかしたらもっと先の先祖が入っているかもしれんということだ。だが…」


そこまで言うと仁の口の動きが止まる。

言いたいことは俺もおおよそだが理解できる。


(燐が本物かどうか確かめるすべがない…)


そう思っているに違いない。

さっき出会ったばかりの俺達が過去と現在の燐の違いに気が付けるはずもない…

仁は初めからその可能性を知っておきながらボディーガードを請け負ったのだと思う。

理由は仁、本人にしか分からないがそうに違いないという確信はある。なんとなくだが…。

だが今現在どうであれ燐は燐としてここにいる。だから俺も仁も今の燐が本物だと信じて過ごすことにした。これが問題の先送りだと考えない様にしながら。


さて!仁が口を閉ざしたことで燐の試合に集中しようかと思ったがまだ聞かなきゃいけない事があった。


「そういや燐に言われたんだが、東方の事は仁に聞けってことなんだけど…なんか知ってる?」


仁は、「この世間知らずめ!」とは言わずに、顔の表情だけでそう訴えてきた。

無駄に表情筋が負の感情に対して正直な奴め。


「お前の世間知らずもここまで来ると羨ましくなってくるな。悩みなんてないだろ?」

「悩みの幾つかくらいはあるわ!もういいからさっさと教えろ!」


ワザとらしく肩をすくませ語りだす仁。いちいち癪に障るやつだ。


「四方陣家には東西南北の4方角に各家計が立っているというのは言ったと思うが、そもそも自らの名に東西南北が入る家系は数えきれないほどいる。当たり前だが」


当たり前の部分に必要以上に力を入れながらちらりとこちらを見る。


「そうですね!当たり前ですね!!」


この反応に多少満足したのひとつ頷くと続きを語りだす。


「東方というのは数ある【東】をもつ名の家系の一つだが、こと戦闘に置いては他の追随を許さない程の戦力と、唯一東城の下につかない事を公言していることでも有名だ。そして四方陣家の【東】を喉から手が出る程欲しがっていると聞く」

「そうか。それで燐が目の敵にされてる訳ね」

「そうだ。だが日京は律儀な性格な様だな。わざわざ正面切って戦おうと提案してきている。言葉は良くなかったが、あれは戦士の気質をもっているという事だ。他の東方家系の者達はではああはならなかっただろう」


つまりは他の東方の奴らだったら、闇討ちや毒殺など隙を突く方法で狙ってきているということか。

そして燐はそのことを理解していて、かつ学園内に東方の者達がいることもわかっていたから仁に護衛を依頼したのか。ようやくいろいろ繋がってきたぞ。

幾分スッキリしてきた頭の中のモヤモヤも、先ほどから続く爆発音で吹き飛ばされていった。


「燐も派手にやってるなぁ。それに東城家の【撃鉄】の意味も何となくわかる気がするな」


始めの合図直後の初撃で何となく戦闘スタイルが読めていたが、ここまで接近戦にこだわるところを見ると【撃鉄】の二つ名も頷けるというものだ。

始めの一撃時、まずは自らの足元を爆破し地面と自らを吹き飛ばす。その直後後方に爆発を起こし前方への加速エネルギーに変える。

懐に飛び込む瞬間に打ち込む腕の肘部に爆発を起こし腕力と加速度に更にエネルギーを加え一撃を打ち込む。

最後に接触した部分もろとも相手を吹き飛ばし、自らの腕を次の攻撃をする為のポジションに戻す。

あとはこの高速動作の繰り返し。

学生レベルでこれほど自分の能力を自在に使える者はなかなかいないだろう。

やはり【伝承】によるものなのだろうか。

そんな考えに意識を持っていかれそうになる思考を仁の声が引き戻す。


「確かに派手にやっているみたいだが、燐と日京では相性が良くないみたいだな…」

「そうだね。パッと見は燐さんの方が手数で押している感じではあるけど決定打にはなっていないみたいだね。日京くんの能力は体の硬質化…いや、金属化みたいな感じかな」

「うぉ!!いきなり話に入ってくるなよ!しかも上から。毎度お前は飛びながら上から来ないと登場もできんのか!しかも今までどこいたんだよ!」


久人はにっこり笑って上を指さす。

あぁ…はいはい。上空から見てましたと言いたい訳ね。

わかったからまた上にでも行ってろと手で追い払うような仕草をする。


「秋もひどいなぁ。せっかく降りてきたのにすぐ帰しちゃうなんてあんまりだよ?」

「やかましい!上で黙って見てろ!」

「酷いなぁ。仁くんはどうかな?僕もここで一緒に見ても大丈夫かな?」

「どこで見ようが個人の勝手だと思うが、久人がここで見たいのならいればいいのではないか?」


仁は燐の試合に集中したいのだろう。久人と俺を軽くあしらう。

俺もそっちが気になるので、隣を指さし降りて来いと合図する。

特に何も言わずに音もなく隣に降り立ち黙って観戦に参加する。久人のこういう何気ない気遣いが出来るとこは結構好きだったりする。でも勘違いはしないで欲しい。

俺は女の子が好きなノーマルです。

俺の性癖は置いておいて、久人も人前でよく能力なんかポンポン使えるな。

でもまぁ久人の場合は知られても汎用性がありすぎるから戦う相手は苦労させられるし、使い方がトリッキーだから対策の取りようもないからな。

燐の試合を観戦することに集中するはずが隣のイケメンの事を考えてしまった。

再度言っておくが、俺はノーマルです。


「なんかさっきから僕に失礼なこと考えてない?燐さんの試合もちゃんと見なよ?」


考えていたことが見透かされ、ただ黙って久人の言葉を無視し、試合に意識を向け直す。

良く見てなかった所為か今見てみると燐は結構ヤバいかもしれん…


~燐サイド~


(初撃で終わると思ってたんだけど…。面倒になってきたわね)


始めの一撃。

日京は私を見失っていた。どこからやってくるのか分からない攻撃に身構えると言うよりは硬直しているような感じだった。

私を見失い無防備になった胴体に拳を突き刺す。

これで終わったと確信するほど完璧にヒットした攻撃。だがしかし、感じたのは悪寒。

手を止めたらやられる。半ば本能が腕を動かし相手に攻撃させまいと連撃を繰り出す。ようやく体の思わぬ反応に思考が付いてきたところで距離を取る。

ここまで爆発を受けて立っていられるだろうかと思ったのも束の間、煙の中には胴にいくつか火傷を負った日京が立っていた。


「東城の【撃鉄】か。俗世間の過大な評価だと思っていたが、そうでもないみたいだな」

「あら。ありがとう。負け犬東方様のお褒めを頂き有難くは思いますが、犬に評価されているのか思うと素直に喜べませんね」

「減らず口を…まぁいい。ところで一つ聞きたいのだが、あの程度の攻撃が全力か?初撃のスピードは見事なものだったと褒めてやろう。現に俺の体に傷を付けたんだからな。だが次からは傷すら付かないぞ。俺の力は肉体金属化アルメタル・マテリアルだ」

日京の言った通り実際この状態はまずい。



「減らず口を…まぁいい。ところで一つ聞きたいのだが、あの程度の攻撃が全力か?初撃のスピードは見事なものだったと褒めてやろう。現に俺の体に傷を付けたんだからな。だが次からは傷すら付かないぞ。俺の力は肉体金属化アルメタル・マテリアルだ」


日京の言った通り実際この状態はまずい。

マテリアル系のメタルでしかも上級を指すアルが付いた能力。この世に存在する金属の特性に肉体を変質させることが出来る能力のうりょく


ちなみに、マテリアル系や他の能力にも下級から上級までのランク付けがされている。上級ならばその能力の頭に【アル】が付きその属性のすべての特性を、中級は【インテ】で複数の特性を、下級は【ノブ】で一つの特性を使用できる。

例に挙げると【アルメタル】が上級、【インテメタル】が中級、【ノブメタル】が下級といった様な分けられ方をしている。


たぶん奴は皮膚の表面部分を材質の柔い金属物質に変え衝撃を緩和し、体内を硬質化させることで爆発その物の威力を弾いたと考えられる。

どう考えても相性が悪すぎる。表面をいくら叩いたところで軽い火傷程度の傷しか負わせられない。


(さぁどうしようかな…)

いつも読んで頂きありがとうございます。

配信ペース落ちてますが頑張って続けていける様にと思っています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ