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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
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闇堕つ、光絶つ、天還る

「うめぇ! うますぎんぞおまえ! こんなに旨い戦闘(メシ)は始めてだ!! もっとだ、もっと喰わせろ」


「っく……言われずともいくらでも喰わせてやるわ!」


 空が黒く染まるほど膨大な数の闇の剣を出現させ、それを【天】にむかい残らず射出する。

【天】は闇の剣を避けもせずにすべてを()()で叩き落としていく。


(やはり、転生とやらをした後から闇の浸食速度が落ちている…… ヤツめ、耐性を持ったというのか)


 女性の艶かしい肢体を乱暴に扱い、ひとつ残らず闇の剣を叩き落としていく。

 叩き落とされた剣は黒い粒子となりあたりに舞って消える。


 その光景を冷静に、そしてそれ以上に恐怖の目で見つめるザナル。

 そこで気が付く。


 変化が始まったのは、【天】の指先からだった。

 耐性は確かにできているようだったが、闇の剣の影響で少しづつではあるが闇が侵食しているようだった。

 美しく繊細な指が黒く染まり、ボソりと崩れ落ちていく。


「あぁ~。 せっかく転生したのに指が使い物にならなくなったじゃねぇかよ! ……でもまぁ使えないとこが多いほど楽しくなってくからいいんだけど……なっ!」


 最後の闇の剣を叩き折り、【天】は満足げな顔でにやりと笑う。

 と同時に右腕のひじから先が真っ黒に染まり崩れ落ちる。


「強がりも大概にせんとそのまま身を滅ぼすことになるぞ……とは言ってみたのだがおまえはやめんのだろう?」


「あっはっはっはっは! 当たり前だろうが! こんなに楽しくて最高の時間を自分でやめてどうすんだよ! それになぁ、俺は絶対に滅びねぇんだよ」


「滅びぬだと? それはどういう―――」


 言いかけたザナルの背後にはいつの間にか【天】がいた。


「ック!!」


「おまえの技の味も最高だけどなぁ、俺のもイケるんだぜ?」


 そう言った【天】は、振り返ったザナルの瞬間に胸部をそっと人差し指でつつく。

 と、同時に鋭い光の枝がザナルを貫く。


「ぐあっ! 貴様っ……なぜ空に……」


 刺さる枝を【天】の指ごと引き千切り、距離を取る。

 胸に刺さる枝を引き抜き、口から盛大に血を吐きだす。

 魔族とはいえ、すぐには傷は治らない。

 手でしっかりと胸部に空いた穴を塞ぎ、睨むように見るとそこには背中から翼の生えた【天】が獰猛な笑みを湛えて浮かんでいた。


「き、貴様、空は飛べぬはずでは……」


「そんなもの、飛べなくて不便だったら飛べるように()()()()()んだよ。 なんならこんな事だってできるんだが―――」


 そう言ってじわじわと闇が侵食していっている右腕を、残った左腕で無理やり肩からもぎ取り捨てる。

 腕を無理やりもぎ取った肩からはおびただしいほどの血が流れるが、それもすぐに止まる。

【天】がザナルにニヤリと笑いかけると、その肩にむかい光の粒子が収束していき、ものの数秒で元通りの腕が出現する。


「―――なぁ、どうだ? すげぇだろ? これでもっともっと楽しめる。最高だろ?」


「なんという……」


 ザナルは絶句せざるを得なかった。

 今まで与えたダメージもものの数秒で元通りになり、殺してもなお生き返る。


(このバケモノをどう退ければいいのだ……)


 ザナルの思考が一時的に止まっていた。

 その刹那だった。


「どうすればいい……とかくだらねぇこと考えてんじゃねぇだろうな。 なら無駄だからやめろ。そんなこと考えるくらいなら全力で来いよ!」


 気が付いたときには、いつの間にか目の前まで移動してきていた【天】。

 打ち出される右の掌底を避けきれなかった。

 ふわりと触れるように胸部添えられた手のひらから伝わる恐ろしいまでの衝撃。

 体の内側を暴れまわるような衝撃が出口を求め、口や傷のふさがらない胸部から血液とともに外へと暴れ出ていく。


「ぐっ、かはっ!」


 その痛みに耐えられず空中で膝が崩れ落ちるが、それよりも先に【天】は顎を打ち抜き無理やり立たせ首を掴み上げる。


「おいおいおいおいおいおいおいおい! なんだよなんだよ! こっちがちょっと反撃しただけでもう終わりかよ。ここの王様なんだろ? なら立てよ、拳握れよ、楽しめよ! んでさぁ、俺ともっと……………」


 乱暴に放り投げ、【天】は光の枝を五指から生やし、それを落下していくザナルに向ける。


「遊ぼうぜ?」


 両腕、両足。首を貫く光の枝。

 力を失い、ダラリと貼り付けにされたザナル。

【天】は光の枝を消し、ザナルをそのまま地に落とす。


「なぁんだ。おまえも弱い奴(ざこ)といっしょだったのか……」


 つまらないおもちゃには興味はないとばかりに落下していくザナルの姿すら見ない。


「う~ん……戦闘(メシ)も中途半端だし、他にいいもん喰わしてくれる相手って言ってもなぁ…………そうだ!あの姉さんがい―――」


「た?」


【天】の視界が上下逆転する。


 そして逆転した視界に映ったのは、四肢と首から血を流すザナルを抱え、静かに怒りに微笑むラシィルと【天】自身の首から下の体だった。


(おぉっ! やっぱりいいねぇあの姉さんは! いきなり首はねてくるなんて最高だな! 良い戦闘(メシ)はやっぱこうでないとなぁ!)


【天】は落下しながら残された体に首を迎えに来いと命じる。

 首を失ったにもかかわらず、まるで生きているがの如く滑らかに身をひるがえし、首を拾いに急降下していく体。


「あれが【天】なの? 初めは男だったのになぜ……まぁいいわん。 それよりも首が飛んでも生きてるなんてね。呆れたわ……さて、よくもザナルをここまでやってくれたわねん……これはほんのお返しよ……もうさっさと死になさい」


 ラシィルは空いた左手を【天】の首に向ける。


光神槍(ライト・ゴル・ランス)……」


 まばゆい光が手のひらに収束していき、その光は次第に小さくなり、一本の針ほど細く小さい槍に変化する。

 ラシィルが指をパチンとはじく。


 光の槍は一瞬で見えなくなり、次の瞬間には【天】の眉間に深々と突き刺さっていた。

 声の出せない【天】は眼を見開き、ぱくぱくと口を動かしニタリと口をゆがませる。


(これだからやめらんねぇんだよなぁ。やっぱり殺し合いは最高だ!)


 と同時に、【天】の頭部は光に包まれて木端微塵に吹き飛ぶ。

 純粋な白い光に、おぞましいほど黒く赤い血が溶け、桜のように美しい飛沫が一体に舞う。

 頭部を失った【天】の体は力を失い、そのまま地に落ちていく。



 が、その体は小さな種に姿を変え吸い込まれるように地の深くに潜り込んでいく。


「種?」


 と、不意にザナルが意識を取り戻し、疑問を漏らすラシィルの服の一部を掴む。


「ぐっがはっ、ラ、ラシィル。すまん、このような惨めな姿をおまえの前に晒すことになろうとは……」


「ザナル! 意識が戻ったのね!よかったわ、今すぐ治してあげるからねん!」


「い、いや待て。ヤツは、【天】はどうしたのだ」


「あぁ、あいつならさっき頭を吹き飛ばしてやったわん。でもなんでか体が小さな種のようなものになって落ちていったわ。小さくなれば逃げれるとでも思ったのかしらねぇん?」


 血を流すザナルが苦しみながらも血相を変え抱えるラシィルを振りほどき、ありったけの闇の剣を【天】だったものが落ちたという場所にところ構わず射出する。


 何を……と続けるラシィルにザナルは半ば怒鳴るように答える。


「ラシィル! 早くあのバケモノが落ちた場所をつぶすのだ!ヤツは死んでもおらんし逃げたのでもない! 今やらねば我らが()られることになるぞ!」


「そんなはずは……なにを慌ててるのザナル、もっと冷静に……」


「冷静に判断してのことだ、早くありったけを放て!さもなくば奴はまた蘇ってしまう!」


 怒鳴り叫ぶザナルとそれに対応しきれないラシィル。

 ラシィルは言われるがままにありったけの技を放とうとする。



 だが、やはりと言うべきかその行為は無駄になってしまった。


 一輪の美しい蕾が大地に現れるとそれは瞬く間に大きく育ち、その大きな蕾が開くとそこには人型ではあるが顔以外の体一面にびっしりと鱗が生えた生物が立っていた。


「あぁ~やっぱり転生すると気持ちいいなぁ。でも今度は【龍人】か。転生すんのは良いんだが転生する生物を選べねぇってのは難点だな」


 呆気にとられるラシィルと、ギリリと奥歯を噛みしめるザナル。


「なに……あれ……まさか【天】なの? 死んだはずじゃ……」


「遅かったか……姿形は違うがアレは紛れもなく【天】だ。ヤツからあふれ出る力の奔流を見ればおまえにもわかるだろう」


「まさか……本当に……」


「あぁ……。そのまさかなのは確かだ。ラシィル、我の傷を早く直してくれんか?奴が動き出す前に」


「……わかったわん。光の繭(ライト・ヴェール)


 ザナルを包み込む青白い光。

 傷は徐々にふさがり、失った血液すらも戻るかのように血相もよくなっていく。


 上空で光に包まれるザナルを地上から見上げる【天】は、それが明らかに回復行為だとわかっていて黙ってみていた。


「回復してるのかぁ。いいねぇ、あの王様の目にまた光が戻ってきたじゃねぇか。やっぱあれが愛のチカラってやつかねぇ。まぁ俺には縁遠い話だけどな。おっと、回復も終わったかな? じゃあそろそろ第3ラウンドでも始められそうかな!」


 大きく息を吸い込み、ゲラゲラと獰猛に笑いながら【天】はザナルとラシィルに向かって突撃していった。


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