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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
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女神の王冠

 試合が始まって数分が経過し、見た目には大きな変化が現れ出していた。

 久人は片肺がつぶれたのに始まり、片腕の脱臼や全身大小の切り傷で埋め尽くされているといった状態になっていた。


 一方、神地はと言うと、服のあちこちがやぶれてはいるものの、体には傷一つ見当たらない。

 自愛の女神セルフクイーンによる自己修復で完全に傷が無くなっている為だ。


 双方を見比べてみれば戦況は明らかだが、久人はこの状況にむしろ満足していた。

 傷つき、傷つけ、互いに互いを削り合うこのピリピリとした状況が楽しくて仕方がないと感じていた。


 迫りくる大太刀を弾き返し久人は肉薄し、片腕と両足を捻じりきりとばす。

 神地は痛みと楽しさに顔を歪ませながらも弾かれる大太刀を口でくわえ久人に叩き込む。

 それを読んで左に躱すが、すでに修復を終えて振りおろされている掌底を躱しきれず、脱臼した肩に再度衝撃を受ける。

 その一撃で完全に肩の骨は砕かれ片腕は完全に機能を失う。


「痛いな~、さすがに何度も受けてたらくだけちゃうよねそりゃ……でもこの感じ、久しぶりだなぁ~。死ぬかもしれないし殺せるかもしれないピリピリした感じが最高ですよ!」


「そうかい。私も今は最高に楽しいよ! だがな、おまえ手ぇ抜いてねぇか?」


「…………ぬいてませんよ? なんでそう思うんですか?」


「おまえのの能力を使えば、本来私は指の一つ触れられないはずなんだ。それがなんだ、その有り様は! 本気で殺し合うんじゃなかったのか? そんなおまえに勝ってもつまんねぇんだよ!」


 神地がそう思うのも無理はないだろう。

 本来の久人の能力を考えれば当然である。


 引力とは、対象を強制的に引き寄せるもの。

 そして斥力は、それとは逆に一度発動してしまえばだれひとり、何一つも寄せ付けない鉄壁に近い防御を可能とするのだが、久人はそれをしない。

 むしろ久人自身それをしたくないのだ。


 答えはいわずもがな。

 本人から言わせればたったの一言でお終いだろう。


「そんなのつまんないじゃないですか」


 そう、久人にしてみれば戦いとは楽しむものであって、優越感に浸る為に行うものではない。

 近づけない相手を一方的に攻め立て勝利の価値を下げてしまうよりだったら、互いに満足するまで傷つけ合い、殺し合い、その先にある満足感を手にしたいのだ。


 たとえそこに死があろうともその緊張感の中で、殺し合う事をやめられない。

 久人は戦闘に対して貪欲で、それを異常なまでに欲して、狂っている。

「戦闘狂」という言葉がこれほどしっくりとはまる人間は他にはいないだろう。


「つまらん……だと? おまえが本来の力を出すことでつまらなくなると……そう言いたいワケだな」


「その通りです。この力をまともに使って立ち向かってこれたのは黒土 秋ただ一人ですからね。 そうなってしまうくらいなら始めから使わない方がいいでしょう? と言うか最後まで使う気なんてさらさらありませんけどね。 ほらっ、今いい感じですから続きを始めましょう?」


「おい真壁、おまえがそこまで言うなら私はこれまで通りおまえをいたぶり続けるだけだ。でも一つだけ覚えとけよ。大人の世界の死合いをあまり舐めない方がいい」


「……肝に銘じておきますよ。で、来ないんですか?なら、こっちから行きますよ!」


 動く方の腕を軽く振り上げると、神地の足元一帯の広範囲が斥力によって宙に舞い上がる。

 神地も例外なく砂と岩にまみれて吹き飛ばされる。

 足場を失い目を見開く神地と目が合うと、小声で「バイバイ」と呟き、手をひらひらと振り、そのまま一気に鉄槌を下すが如く振り下ろす。


 その場に響き渡る悲鳴。

 力なく砂場に落ちてきた神地の頭部は跡形もなく潰され、赤いしみだけが点々と砂に吸い込まれていっていた。

 ことの重大さに固まる者や、一部の教師は宇城嶋にもう止めるように詰め寄ったりしていた。

 等の宇城嶋はというと、


「神地さんなら大丈夫ですから心配しないで下さい。あれでやられるようでは三天神にはなれませんから」


 と軽い口調で、笑顔すら見せながら取り囲む教師たちに告げていた。

 その言葉通り、むくりと起き上がる頭部のない神地。

 だが、起き上がりざまに先ほどまで振り回していた大太刀が縦に体を両断する。


 左右に分かれた体はバランスを失いまた、ばたりと倒れる。

 が、それも瞬時に復元され、元の美しい女神の姿に戻る。

 この光景にはさすがの久人も苦笑いをしてしまう。


「いったいあなたはどうやれば殺せるんですか? このままじゃ埒があきませんね」


「あぁ~いてぇ。復元できるて言っても痛みはそのままダイレクトに来るんだからちょっとは加減してくれよな。死ぬほどの痛みなんか何度も味わいたくねえんだよ」


「なら、さっさと僕に殺されて下さい」


「そう簡単に死ねるか! 私だって自分の死に方なんかしらねぇんだよ」


 呆れたようにハンズアップしながら、ゆるく鼻から息を漏らす久人。


「じゃあこの先ずーっと時間切れまで僕のターンになっちゃいますよ? 近づけさせない様に斥力を使わなくても神地さんの能力じゃ僕にこの先近づけませんからね」


「それもそうだな……でも、ここから先はさっきまでとはちょっと違うぞ?」


 そう言うと神地は手のひらを上に向け、右腕を前に突き出す。


「そろそろいい頃合いだし、お前がその気にならないならまずは私からその気になっちまおうか……いくぜっ! 見せつける王冠(ヴァニティ・クラウン)!」


 手のひらには、真っ赤な宝石の眼をしたカラスの様な黒鳥が彫り込まれた、黒銀に輝く小さな王冠が出現した。

 神地はその王冠を頭には乗せずに、左の手首に乱暴に嵌める。

 すると、神地の体から天を衝く黒いオーラが噴き出す。

 赤い双眸をギロリと見開くと右の口角を上げ、げらげらと笑いだす。


「あっはっはっはっは!! おい餓鬼ぃ、さっきまでいたぶってくれた分じっくり返してやるからさぁ、すぐにはくたばんなよ!」


「それがあなたの覚醒能力ですか? やっぱり強い人との殺し合いはいつも楽しくてワクワクしますよ!」


「そう言ってくれて光栄だね。じゃあ行くぞ?見失うなよ……」


 という言葉が聞こえたと同時に久人の体は正面からの攻撃に吹き飛ばされる。

 岩場に激突する前に自身に斥力を発生させ砂地を反発させて空へと回避するが、その回避した先からまた背中に衝撃を受け、強制的に岩場に叩きつける。

 崩れる岩場に横たわる久人に向かい、視えない程の速度で接近して拳を打ち下ろすがその拳は届く前に斥力によって阻まれる。


「やっぱり厄介だねぇその力は。でも……」


 斥力場は常に拳を阻む様に発生しているはずなのだが、神地から吹き出す黒いオーラが爆発的に増加すると、拳は少しづつ勢いを増しついにはそれを押し返し、久人の鳩尾にめり込む。

 そこから

 大量の血を吐き出しながらも、満足気に笑う久人に向けで次々と拳が好き刺さる。

 顔・胴・肩余すところなく打撃を加えられ見る見るうちに傷と骨折が増えていく。


 思い切り拳を振り上げた一瞬をとらえると、斥力で弾き飛ばし、近くの岩を中心に引力で無理矢理に神地を引きはがす。

 離れたところで神地の体を丸ごとねじり消す。

 だがそれも一瞬の事で、すぐさま体は修復してしまう。


「そろそろいいんじゃないのか真壁。本気……だせよ」


 ボロボロの体はすでに自力で起き上がる事が出来ないのか、岩場にもたれかかるようにしてようやく立っているような状態だった。

 でも久人は楽しげに顔を歪ませたまま、いたるところから血を流しながらも変わらぬ軽口をたたく。


「僕はいつだって本気で楽しんでますよ?」


「減らない口だな。じゃあおまえにいっこ良いことを教えてやろうか?」


「なんですか?」


「わたしの見せつける王冠(ヴァニティ・クラウン)はさ、自愛の女神セルフクイーンで回復した傷の分だけ身体能力を上げられるんだよ。それも、今まで戦ってきて受けた傷分だけね。この意味は……わかるだろ?」


 すなわち、このまま久人が攻撃を仕掛ければ仕掛ける程、神地はその力を増し、いまでこそ多少は斥力で抑止でいていたものも、遅かれ早かれなんの意味も持たなくなってしまうということだ。

 死なず傷つくことで強くなる、戦闘する為だけに産まれてきたかのような女神。

 元の能力から産まれた覚醒能力との相性も抜群にいい。


 はっきりと言ってしまえば、確実に久人は負ける。

 だがそれを知りながらもなお、余裕のある表情で笑顔を絶やさない。


「そうですか。じゃあ僕はこのままだと殺されてまけてしまうんですね」


「そうなるな」


「そうですよね……楽しいことはずっと続けていたいですけど、やっぱり死んじゃったらそれもできなくなりますからね。せっかくこれからもっと楽しくなりそうのに……」


 少しだけ俯き、眉間を指でトントンと二回軽く叩くと何かがまとまったのか、それもすぐに止めて元の笑顔を見せる。


「せっかくだから僕も少しだけ本気、出そうかと思います。まだまだこの楽しさを続けたいので」


「そうかそうか、私もまだまだ遊び足りないんだ。おまえがリタイアしないならよかった」


 もたれかかる岩からその身を引きはがし、ゆっくりと宙に浮きあがる。

 神地を見下ろす形になり、にんまりと笑う。


「リタイアなんてもったいないことしませんよ。そうだ! そういえばまだこの子達に挨拶をさせてませんでしたね。ほら、神地さんに挨拶しなさい、アトラ、リプル」


 久人の右肩から青い光を纏った幼い少女がひょっこりと顔を出し、左肩には豊満な胸を押し付けながら絡み付く赤い光を纏った女性が現れる。


「初めましてカミカミさん! アトラで~す!よろよろっ!」


「ふんっ、リプルだ」


 片手で交互に頭を撫でながらよくできましたと褒めて、改めて神地に向き直る。


「じゃあ挨拶も済んだし、ちょっとだけ本気タイムを始めましょう」

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