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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
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負の受けいれ

「全てを託す……ってその意味がわかってんのかよ」


 俺の問いに何を今更と笑いで返す二人。


(そんなことわかっておるよ。すべてを託した儂らは潔く消えるまでじゃからのぉ)

(そうねぇ、それでこそ散り甲斐があるってものよん)


「ふざけてんじゃねぇんだぞ! 俺に全部託したら消えちまうんだぞ!それでもいいのかよ!」


 叫び怒鳴る俺の声とは逆に闇爺も光童子もとても澄んだ声でそれに答える。


(儂らが選んだのじゃ、そこになんの後悔があろうか)

(わらわ達は、冗談は言っても嘘だけはつかないわん。それにクロちゃんは何か勘違いしてないかしらん?)


「なにをだよ……」


(クロちゃんが持ってるクロちゃん自身の能力……”託される力”。この力の全てをわらわ達が理解している訳ではないけど、その中の条件には、託す側の負の情報を受け入れると言うのがあるわよね?)


 この二人には自分の能力の事など一つも話していないが、なぜ俺の能力をそこまで知っているのか。

 そこを今問いただしても仕方のないことだから何も言わない。

 どうせ精神体特有の何かで知ったのだろうと思っておくことにする。


「まぁいろいろ言いたいことはあるけど……取り敢えずお前の言ってる通りで間違いない。それがどうしたんだ?」


(そう。その条件の所為であなたは死ぬかもしれないわん)


「…………」


(言うたじゃろ、儂らはかつて存在していた魔族じゃと。魔族とは邪の者のこと。すなわちこの世の”負”そのものじゃ)

(そうよ……そんなもの体の中に取り込むのよん? 一対分でも死ぬかもしれないのに、わらわと闇爺の二体分を入れなくてはならない…)

(もしおまえさんが負に敗し、取り込まれれば魂ごとこの世の負の中にとけてしまうじゃろう。儂らが言うとる意味は分かるじゃろう?)


 二人は俺に選択を迫っている。

 ここで負を受け入れ、死ぬか生きるかの博打をするか。

 受け入れられれば、強大な力を手にできる。

 受け入れられなければ、確実な死が待っている。


 もし仮に、ここで負を受け入れないということを選べば、この場では確実な生が得られる。

 そしてこの場の生の代わりに、その先には敗北の色が濃い戦いをしなければならない。


 秋は考える必要はないとばかりに、ニッと笑うと、


「生きてたら強くなれるって言うならやらない手はないだろ? それに俺はまだまだ死ねないんだよ。 それにこの先、たとえお遊びの試合でも負けられないんだよ、大切な人を護るためにはな」


 闇爺と光童子はやれやれと言いつつも、その言葉のひとつひとつが弾んでいた。


(おまえさんがそう決めたのならばもういう事はあるまいのぉ)

(クロちゃんならやるって言うと思ったわん。それもこれも、愛しのレンちゃんのためかしらん?)


「おい待てっ! さっきから聞かないでおいてやってるのになんだよ! いちいち人の情報どっかから盗み見やがって! どうやってんだよ、今すぐ言え今すぐ!!」


(それは企業秘密よん? 乙女は基本的に謎めいているものという事を知りなさいな)

(ほぅほぅ……黒土坊も隅におけんのぉ。 じゃがこの場で恋人の名前を出してきたら、なんと言ったかのぉ……うむ……そうじゃそうじゃ! 死亡フラグっていうものが立つんじゃなかったかのぉ)

(わらわも聞いたことがあるわん、クロちゃん……死んでもわらわ達の事を忘れないでねん)

(ついででもいいから儂の事も忘れんでおいてくれると嬉しいのぉ。ふぉっふぉっふぉっふぉ)


 こ、こいつらは……

 頭に響く声には慣れてきたが、この何とも言えないイライラにはどうしても怒りを禁じえない。

 ちょっとでも気を抜けばこれだよ、まったく

 でもまぁ、こいつらなりに気を遣ってくれてるんだろうという事が伝わってきた。


 魔族が危険だという橋を渡ろうとしてるのだから当たり前だとは思う。

 でも、だからと、逃げてはいられない。

 いつか必ず、どこかでこの時を後悔する日が来る。

 そうならない様に、そうさせない様に、そうしない様に……

 そして……この先からは絶対誰にも負けられない。

 俺の決意が固まるまで馬鹿話をいまだに続けて騒いでいる二人に、しっかりとした口調で告げる。


「二人ともありがとな。そんじゃまぁ始めるか!」


(思いのほか肝が据わるのが早かったのぉ。じゃがそれでこそここまで呼んだ甲斐があるというものよのぉ)

(感慨深くなるのもいいけどぉ、クロちゃんがうまく言ったらわらわ達はきえるのよん?)

(なぁに消えはせぬよ。黒土坊の中に違った形で儂たちが残るんじゃからな)

(それも……そうねぇ。まぁ闇爺とクロちゃんと3人でお話しできなくなるのは残念だけどねん)


「お前ら……」


 爺さんとか親戚の姉さんが居たらこんな感じの気持ちを懐かしいとか思ったりするんだろうか。

 実際いない物をどう懐かしむのかもわからないが、たぶんそうだろうと思う事にする。

 この二人が俺に与えてくれるのは何も力だけじゃない。

 そう思える気がした。


(と、まぁここまで言ってからアレなんじゃが……)

(そうねぇん……)


((ま、結局は全部うまくいったらの話じゃがのぉ!(だけどねん!)))


 前言撤回!

 こいつらマジでうぜぇぇぇ!





 **********


「と、まぁ気を取り直してさっさと始めるか」


(いつまでもじゃれとるわけにもいかんからな)

(ホントにねぇ、わらわと戯れたい気持ちもわかるけどほどほどにねんっ!)


「お前らがな!」


 と、また同じペースでおちゃらけムードに引き戻されそうになるが、ここはもう強行する。

 手をパンパンと打ち鳴らし、開始を急かす。

 闇爺も光童子も観念したようにその音でふざけるのをやめる。


(さっそく始めるかのぉ……簡単じゃよ。ソコに横たわってる儂と光童子の骸の頭蓋に触れるのじゃ)

(そうすれば、わらわ達の負と力があなたの中に流れ込むわん)

(そこから先は何度も経験しとるからわかるじゃろう……)

(けど忘れないでね。わらわ達の負は人間たちのものとは大きく違うと言うのをねん)


「……わかった」


(ここにまた、無事におまえさんが立っていることを願っとるよ)

(わらわも待ってるわん)


「まかせとけっ! じゃあサクッと終わらせてくるわ!」


 そして骸の横に膝をつき、年月の割には風化の進んでいない二体の頭蓋に両手を乗せる。

 すると、ドス黒いほどの負が、小さな水滴の糸が流れ込んでくる様にゆっくりと…ゆっくりと…入り込んでくる。

 そしてその負は精神を蝕み、肉体をも痛みと苦しみで覆ってく。


「なん、だっ…… !!―――っがぁぁぁぁぁ!!」


 腕から血管へ、血管から心臓へ、心臓から全身へ……

 そして痛みと苦しみと気が狂う程の精神への負担が襲う。

 気を失いそうになれば痛みが襲い掛かり、狂いそうになれば負が精神に覆いかぶさり苦しみの現実へと引き戻される。

 始まってまだ1分にも満たない時間しか経過していない。


(やはり黒土坊には早すぎたかもしれんのぉ……儂らは後世に名を残すやもしれぬ若者の芽を摘み取ろうとしてしまっとるのかのぉ…)

(そうかもしれないわねん…でもこれはクロちゃんが決めたこと。だからわらわは見守るしかないのよ)

(ならば、おまえさんの言う通り終わるのをまつかのぉ)

(待つのはもう、うんざりだけどこれくらいの時間待てないようじゃ、こんな姿になってまで生きてきた意味がないものねん。だから待ちましょう……黒土 秋を)


 苦しみにのたうち回る秋を待つ。

 それだけの為に二人はただじっと言葉も発せず、目に焼き付ける。

 まだまだ終わらない、地獄以上の苦しみの先を待つ。



 **********



 その頃、合宿先の宿舎では夜も空け、朝食も済ませたDクラスの面々が昨日同様の強化訓練に勤しんでいた。

 ただ一人、東城 蓮を除いて……


(やっぱり…おかしい……昨日の夜中からずっと秋が……居ない)


 蓮は昨晩、天道に敗北を喫した秋の下を訪れていた。

 もちろん慰めや励ましの為に行ったのだが、本来の目的は浜辺でイチャイチャしたかったからだ。


 秋が割り当てられている部屋の前まで来て、深呼吸し、少し小さ目にノックをしてみたが返事が無い。

 寝ているのだろうかとも思って、引き返そうかと考えたが、どうしても秋に会いたいという欲求に勝てずにゆっくりと扉を開けてみると、そこに少し前まで寝ていたであろう皺だらけになったベットと投げ出す様に置かれた秋の荷物だけがそこにあった。

 外に出たのだと確信して、近くの浜辺をくまなく探してみるも結局見つからず。


 教師陣に相談しに行くも、昨日の敗戦のショックでどこかに行っているのだろうとあしらわてしまった。

 一緒に実習をしていた、久人や仁にも聞いてみたがやはり、二人も行方が分からないと言っていた。

 もし仮にこのまま2・3日戻らない場合は、教師陣が捜索を開始するのであろうが、なぜかそれまで待つわけにはいかないような、何とも言えない不安が胸の中を埋め尽くしていった。


「どこ……どこにいるの……秋」


 砂浜を駆け巡り、宿舎から離れた岩場や林の中も探しているが一向に見つからない。

 苛立ちと不安が募り、それが空回り、呆然と空を見上げて立ち尽くす。


「秋の……バカ。どこ行ったの……」


 するとそのつぶやきに答えるように、不意に肩を叩かれる。

 突然の驚きと、まさかという期待を持ち思いっきり振り返る。


「秋!!」

「ぅわっ! す、すみません! 私です、七宮ですっ!驚かせてすみません」

「七宮……先生……」


(あれ? 先生は確かここにきてなかった気が……)


 七宮は手をパタパタさせて慌てて説明をし始める。


「実は、宇城嶋学園長に言われて、東城さんが一人で黒土くんを探し回ってる様だと聞きまして……それで、合宿の強化プロセスも受けて貰いたいものですから、もし見つけたら連れてくるように言われたんですよ」

「学園長が……でも、まだ戻れない。秋がいないから」


 七宮は困りましたねとウンウン言って、頭を抱えるが、何かを閃いたのかパッと顔を上げると蓮に詰め寄ってくる。


「ではでは、こうするのはどうでしょうか? 私と東城さんの二人でまずは探す、夜までに見つからなければいったん戻る。それで、明日は強化プロセスを受ける。それでも戻らない様なら教師全員とクラスみんなで探すと言うのはいかがですか?」


 しばしの黙考の末、蓮は渋々ながら首を縦に振った。


「ありがとうございます東城さん! それでは時間も惜しいので早速探しに行きましょうか」

「……わかった」


 こうして、思いもよらない形で協力者を得た蓮は、人出が増えたと少しだけ喜び、先に走り出す。

 その背を見ながら、七宮は口の端を釣り上げるが、慌ててそれを手で覆い隠す。


(ありがとうございますマスター、これで計画は更に先に進みます。そして……ありがとうございます……東城さん……あなたは言い材料になりますからね……)


 醜悪な表情は一瞬で消え、いつもの七宮に戻ると、蓮の後を追って行った。

如何でしたでしょうか?

是非、感想やコメントお待ちしております!!


では、次回もお楽しみに!!

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