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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
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第2ラウンド、終り、そして夜に……

「さあ、はじめるか!」


 掛け声と共に駆け出す秋。

 それを迎え撃つように槍の雨が降り注ぐ。


「まったく! 同じ手を何度も何度も! 芸がないぜ天道!」

「同じ手だからこそだ黒土秋!」


 光の筋は今やはっきりと見えている。

 死角からの攻撃は声が教えてくれる。

 秋は感じていた。この突然芽生えたかのような能力。

 これはきっとミスティから託された力の半分なのだと。

 いままで感じ取れていなかったのはその力に向き合っていなかったこともあるのだろうが、一番は必要としていなかったからだ。

 全てを破壊し、すべてを無かった様に元に戻す。


 その二つさえあれば他に何があろうとおまけ程度にしかならない。

 しかし現実は違った。

 確かに恐ろしいまでに強い能力だが、それはやはりその言葉通り能力が強いのであって、秋自身は強くはないと言っているもの。

 それを今さっき本当の意味で自覚した。

 だからこそ芽生えた能力。

 そして芽生えたからには、この合宿中に使いこなすとそう強く決心する。


 飛来する槍を叩き落とし、足元から突き出る剣を払う。

 その一つ一つを指し示された通りの動きで躱す。


 そしてそんな、異様なスピードで成長を見せ始めた秋の様子に天道は身震いしていた。


(なんというセンスか……この短時間であの数の攻撃をものともせずに立ち向かえるか。ここから先の成長が更に楽しみにはなるが、それ以上に……危険だ)


 槍の数を更に倍に増やしても結果は同じ。すべてを読まれ躱されてしまう。

 そして恐ろしいことに自身に当たりそうなものだけを払い落していたはずが、今ではそのほとんどを躱しきっている。

 手や足で払うのは何百本に2、3本程度。

 それも槍の切っ先に指先で触れる程度の動作でだ。


(なんと……恐ろしいなんてものじゃない。黒土秋、こいつは”人”の枠から足が出始めている。このまま戦い続ければ確実に俺はやられる。今この段階で使う技ではないが……出し惜しみをする気はない!)


 天道は、今まで発生させていた槍を全て消しさる。

 秋は不機嫌そうに顔をゆがませる。


「せっかく調子が上がってきたのに何でやめるんだよ。まさか本当にもう俺とは戦わないなんて言うんじゃないだろうな?」

「そうでは無い、だが次で最後だ」

「最後?」

「これから俺が出す技でお前が立っていようが、死んでいようが終わりだ。勝ち負けなどではない」

「俺が立っていようがどうなろうが終わりってことだな……わかった、ならさっさとやれよ」

「……」


 すると天道は、人差し指を立て口元に添え目を閉じる。

 天道の力は無機物を創造すると言う能力。

 この世に形が存在している物ならばただそれを想像し創造すればいいだけだが、自身が想像しようとしたものがこの世に存在しない物の場合は、言葉に乗せてこの世に語りかけその形を成さなければいけない。

 それが回りくどく章を読むという事に繋がっている。

 今現在、天道が造りだした力は七つ。一から順に力の強さは上がっていく。

 そして天道は唱える。


「七章……生、命、魂、心、体……そのすべてをもって進撃せよ、我が道は覇道…………」


 そこまで唱えるとすべての音がこの空間から消え失せる。

 ゆっくりと口を開く天道の声は小さいものだったが、はっきりとこだまする。


「いくぞ黒土秋………これが、最後だ。………天道あまてらす


 目の前に広がる世界が白と黒の二色になる。

 そしてその境目がズルリと裂けたかと思うとその裂け目にはひびが入り、砕け散る。

 そして元の世界に戻っていた。


 なにが起こったのかわからない。

 白と黒の世界に叩き込まれたかと思うと一瞬でそれも晴れ今は、太陽の照りつける浜辺。

 とそこまではわかった。

 問題はその後だ。


 なぜ俺は、倒れてるんだ?

 まったくわからない。

 起き上がろうと手をつこうとするも、起き上がる気配はない。

 転がった状態から首だけを起こしてみると、そこには肩から先と膝から下を失って転がされている自身の体が目に映った。

 そしてそれを認識した途端、今までに感じたことのない痛みが全身を襲う。


「っがぁぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁ!!」


 咄嗟に【再正】を発動させ四肢を元通りに戻すが、荒い息遣いと残る痛みが体を起き上がらせようとはしてくれない。

 そこに砂浜をザクザクいわせて天道がゆっくりと歩みよってきて、秋の横で立ち止まる。


「黒土秋、この試合はお前の勝ちだ」

「っぐ……なん、でだよ。こんなに無様な姿で倒れてるのに俺の勝ちって、意味が分からねぇだろ」

「俺はお前を消す気で技を放った。だが結果は腕二本と脚二本のみ……相手がお前以外ならそこで決していただろう。誇っていい。あの技を使ったのはお前を含めて3人だけだ。そして生き残ったのはお前が初めてだ」

「ッハ! それはどうもありがとさん。これで稽古がお終いとはいえ収穫もあったし……まぁいっか。でもな天道……このカリはいづれ返すからな」

「いらん。俺は二度とお前とは係わり合いになりたくはない」


 そう言って天道は踵を返すと宇井島の下へと戻って行った。

 起こした上半身をまた砂浜に横たえると青空を眺める。


 最後に天道が放った技。あの技が発動した瞬間聞こえた声……あの時、危機を教えてくれる声が言った言葉は、「わからない」だった。

 呆気にとられた瞬間、目に映ったのは白と黒の境界線がズレるところだった。

 その後は、天地の感覚もなくなり、いつの間にか倒れていた……手足を失って。

 考えれば考える程、不気味で意味のわからない技だ。

 だったらなぜ、自分は腕と脚だけで済んだのか。

 分からない事が多すぎる。だが、今更何をどうこう考えても仕方ない。

 結果は同じ。俺は倒れて天道は立っていたという事。


(あの力を手に入れたのに俺はまだ弱かった。もっと強くならなきゃな……この先、蓮を護れない)


 そう心の中で呟くと、俺に寄ってきた仁と久人に大丈夫だと言って起き上がって見せた。


 **********


 俺達3人は結局、各1試合をしただけで解散となった。

 天道が、最後の俺との試合で想定以上の力を使った為お開きとなったからだ。

 その話を聞いて真っ先に愚痴をこぼしたのはやはりと言うかお約束と言うか久人だった。

 やれ初めの試合は手加減したのにズルいだとか、今はもうピンピンしてるから試合をしようだとか、天道が出来ないなら宇城嶋でもいいからとか、それはもう盛大にダダをこねまくっていた。

 面倒になったのか、いたたまれなくなったのか、俺が相手をしてやると仁が名乗り出た時は水を得た魚のごとく喜び、殺し合おうなどと、おおよそ世間一般の言う合宿とはかけ離れたセリフを吐いて宇城嶋に嗜められたりもしていたようだった。


 俺はと言うと、天道との戦い後から力を使い過ぎたせいか少し体がだるくなっていたので早めに戻って自室で寝ていた。

 十分な睡眠を取り体を休ませることが出来たと身を起こした時には、すでに深夜を過ぎてしまっていた。

 寝すぎてしまったせいで、素晴らしいまでの爽快な気分なのだが今は真夜中。

 当然誰も起きている訳もなく、飯の用意なんぞされている訳もない。

 ひもじい思いをして朝まで部屋に引きこもっているなんて無理だった。


 という事で浜辺に出て波打ち際を散歩でもしてみる。

 麻朝の様に火を出すの能力だったら魚でも捕まえて食ってやるのに、俺の能力じゃ消し炭どころか跡形も残らない。

 今ほどこの力を呪った事はない。

 はぁと癖になってしまったため息を吐きながら当てもなくダラダラと歩き彷徨うと、いつしか鋭利な岩がゴロゴロと転がる岩場にたどり着いていた。

 と同時に、


「道に迷った……」


 まっすぐ来ていたはずななのに何故……

 悩んでも仕方ない。

 こういう時は、岩に座って海を眺めるに限る。現実逃避では無い、現状整理と言ってもらいたいね!

 朝になれば視界も良くなって帰り道も何となくわかる様になるだろう。

 それまでは現状持つ力を今後どうやって活かしていくかでも考えてみるか……


 岩場から少し戻り、波打ち際に打ち上げられていた木の枝を使い砂浜に整理する様に書き込んでいく。

 まずは【破壊】、俺の攻撃の要。

 この力は見方が居る時は使い勝手が悪い。敵味方関係なく問答無用で消し飛ばしてしまうからだ。


「やっぱり、他の奴らと戦う用に何か考えなきゃダメだな……」

(そうかのぉ……これほどの能力を持っているんじゃから共闘なぞせずともやっていけるじゃろう?)

「それがそうでもないんだよなぁ。俺のクラスってまとまって何人かと行動するわけよ、その時にこの能力は危険すぎんだ」

(あらぁん、そうでしたの。でもあらかじめ味方に言っておけばいいのではなくて? 俺が一人で相手する、とかなんとか)

「いやいや、それを聞いてくれるような奴らと組んでたら悩まないだろ」

(そういうもんかのぉ?)

(そういうものですのん?)

「そういう奴らなんだよ…………って誰だよ!! 俺の脳内にナチュラルに話しかけてくる奴は!!」


 辺りを見回しても自分以外は誰も居ない。

 下も上も確認するが久人みたいに上に居る訳でも無し。

 だが頭の中のはひっきりなしにこえが響いてくる。


(これはたまげたのぉ、儂らの声が聞こえとったとはのぉ)

(あらぁん、初めからずっとお話してたからそれくらいわかってたでしょうに。爺さんになると頭もおかしくなってくるのねぇ)

(あたまがおかしくなるとは心外じゃのぉ。じゃがまぁおまえさんも大概いい年のババ……)

(それ以上言ったらこの世から消すわよぉん?)

(ほっほっほ。まだ長生きしたいからやめとくかのぉ)


「さっきからうるせぇよ! 人の頭の中でおしゃべりしてんじゃねぇよ!! どこいんだよお前ら!」


 頭に声だけが響いてくるのも姿が見えないのも変わらず。

 いいかげんイライラしてきたので、


「今から五つ数えるからその間に出て来なきゃここら一帯を破壊しま~す。はーい、はじめ!」

「い~ち、に~い、さ~ん、よ~…」


(ストップじゃ、ストップ!)

(お姉さん達が悪かったわん。言うからやめてちょうだい!あなたの能力受けたら本当に消えちゃうからん!)


「……だったら初めに言った時言えっての。それで? どこにいるんだ?」


 そう言うと爺さんの声の方が岩場の奥にある小さな穴の方まで誘導する。

 その穴は半分海水に浸っており這いつくばって進むしかない程狭く細い穴だった。

 正直言って怖すぎる。

 奥に行くのはいいが帰るときはどうやって帰るんだとか、そのまま行くだけ行ってぴったり穴に嵌ってしまうとかないわけではないし、そもそも顎のあたりまで海水が来ていてそれだけで溺れたような感覚に陥りそうになる。


 それから数分間ひたすら這っているのだがもう少しもう少しと言うだけで声ははっきりとどこまでとは言わない。

 だがそれから1分程進んだときだった、唐突に爺さんがもうすぐそこじゃと言いだしたかと思うと、立つくらいには開けた狭い場所に出た。

 光も差さない場所なのにその場所だけは壁面がキラキラと輝きぼんやりと辺りを見て取れた。

 そして目の前には……


(お疲れ様ぁ。ここよん!)

(うむ、いま目の前におるのが儂とこやつじゃ。初めましてと言わなければならぬな)

(そうねぇん。それじゃあ、わらわから……そうねぇ、光童子こうどうじとでもいっておくわん。よろしくね)

(そして儂じゃが……ぅうむ、闇爺やみじいといったとこかの。よろしくのぉ黒土坊)


 地面に横たわる、二体の骸だった。

如何でしたでしょうか?

最近、キャラクターが増殖気味でヤバい事に……

真面目に整理しなくてはいけない時期が来てしまいました……

さて、そっちも頑張りますか!


という事で次回もお楽しみに!!


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