見える、聞こえる……
久しぶりの投稿になります!!
宇城嶋の開始の合図と同時に、また天道が仕掛ける。
久人や仁に対してのモノと全く同じ一手目。
秋は、この一撃目を読んでいたかの如く体をひねり躱す。
着ていたジャージの一部が持っていかれるが体に傷は無い。
勢いそのままに天道に肉薄する秋は【破壊】を手首から先に纏い横なぎに一閃するが、腕を上から払われ体勢を崩される。
下がる頭に膝を合わせるが、秋は自身の頭部に【破壊】を纏わせる。
膝の衣服の一部が破壊によって消えるのを一瞬で見抜き、即座に膝を引き横からの蹴りに移行させ秋を蹴り飛ばす。
砂浜にころがりながら足元の地面の広範囲に対し【破壊】を発動させ、天道の足元を瞬時に消し去り自由をうばう。
足場を突然失い宙に投げ出される天道。
自身は足元の砂地を【再正】で再構築して疾走する。
眼前に迫る天道に当たると思われた瞬間、天道は何もない空中に足場を作りそれを蹴って躱す。
秋の一撃から逃れた天道は勢いそのままに上昇して距離を取り、またもや足場を作り出しその上に立ち秋を見下ろす。
「能力を自在に使えるのもまた素晴らしいが、それよりも発動タイミングが良い。相手に攻撃をさせず、自身の攻撃を当てられるように工夫されている」
「お褒めに預かり光栄だね。ってかお前の能力ズルくないか? それって、なんかを作り出す能力だろ?」
「お前の言っていることは間違いではない。俺の能力は【創造・無】。無機物であれば何でも望むものを創造できる。だが、この能力をズルいと言うのならば、黒土秋。お前もだと思うがな。問答無用で全てを消し去る能力など、俺が今まで戦った中でもトップクラスに異常だ」
「そうですか……ならこんなのはどうだ?」
秋は自身を中心に先ほど天道が使った技を発動させる。
驚愕に表情がこわばる天道。
「お前がなぜその技を使える…」
「簡単だろ? 俺を中心に【再正】させただけだよ。えっと、なんだっけ? 極・光神槍だっけ?」
頭をひねりうろ覚えの技名を呟くと、先ほどが放った技と全く同じものが今度は天道自身を襲う。
舌打ちをひとつする間にも迫りくる自身の技。
だが、この光景に天道は楽しさを覚えていた。
知らずにこぼれる笑みに乗せ第二の技を発動させる。
「まったく面白い奴だ……ならば、二章……玉に伝う緩やかなる流れ。その流れを以て我を護れ…極・盾玉陣!!」
空を縦に切る様に腕を振るうと、体を球状の物質が覆い、伸びる槍の枝を球に当たる水の様に受け流していく。
が、一本の小さな槍枝が球状の防壁を貫通して迫ってくる。
「なに! 盾玉陣が破られるはずが……」
「ないって? だろうな、お前の技でお前がやられる訳がないことは百も承知なんだよ。 だからお前の技に【破壊】を乗せてみたんだ。一気に乗せてやれれば一番なんだけどそれやったらこの技が先に壊れちまうからな。結構繊細だろ?」
その問いかけと同時に、天道を守る膜が槍の枝に食い破られる。
風船をつぶすかのように枝葉が蹂躙し、穂先に大輪の華を咲かせ瞬く間に光となって消えていく。
しかし、花咲く光の大樹が消えた先には天道の姿はなかった。
視線を更に上に向けると足から血を流す天道がそこに佇んでいた。
「あれ? いい感じに怪我してるかと思ったけどそうでもなかったな、さすがは三天神?様だな」
「腐っても自分の技だからな。 お前のモノになろうが元は俺の能力から生み出されたモノ……躱せなければ使う資格など無い」
足場を消し、ゆっくりと地に降り立つ。
脚に傷など無いかのように平然と歩いて元居た場所へと戻っていく。
「やはりお前は面白い。これからその能力で更に強くなるだろう。他人を喰ってその身に負を宿しながらな……」
「俺の本当の能力まで知ってるのか。宇城嶋から聞いたんだな? 人の能力をペラペラしゃべりやがって…」
「宇城嶋にも考えがあるのだろう。まぁ今その話はいい……一つ言っておきたいことがある」
「なんだ?」
「この合宿でお前はもう俺と戦う必要はない」
「それまたなんでだ? ちょっと戦った程度だろ、そんなもんでいいのか? 俺だってそこまで自分を強いだなんて思ってねぇよ」
天道は無言のまま能力を発動させ、秋の頭上に巨大な石柱を創造して叩きつける。
秋に当たる直前、石柱は粉々に砕け散り砂浜にパラパラと落ちていく。
「まだ話の途中だったろ、何の真似だよ」
「先ほども言った様に俺と戦うことなどない理由がそれだ。個人としての戦闘力もセンスも素晴らしい、申し分ないと言っておく。だが、その力は別だ」
「この能力も含めて俺だろ?」
「確かにそうだな…だが俺は【人】には勝てても【神】には勝てん。その力は神に愛され過ぎている」
秋は天道の言っている意味が分からなかった。
いきなり神とか、もはや信心深い人じゃない限り訳が分からないのは当然だろう。
神がそう言っておられるのだ、とか言われてハイハイと納得なんぞできるか。
そんな秋の事など気にも留めず、天道は続けざまに今のお前にはわかるまいがと続けた。
「なにがどうなって神が出てきてお前と戦わなくていいのかさっぱりだよ。でも一つだけいいか?」
「言ってみろ、黒土 秋」
「今はまだ俺と戦ってる最中ってのはわかってるか?」
その言葉と共に【タイムエクステンド】で接近していた右の拳が天道の脇腹をえぐる。
かと思われたが、拳に当たったのは硬い物質。
その一瞬のスキに腕を払われ体勢を崩された左半身に強い衝撃が走る。
創造によって出現した誇大な拳型の物質によるものだった。
吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、砂浜に跡を残しながら足で踏ん張り勢いを殺す。
すかさず再度【タイムエクステンド】を使い接近するも。
結果はまた似たようなものとなり、強制的に距離をとらされる。
何度かパターンを変えて試みるが一向に当らない。
攻撃を執拗に繰り出しながら秋は天道に語り掛ける。
「なんだよ、急に当たらなくなったじゃねぇかよ。なんかタネでもあんのか?」
「ないな、しいて言えば俺の言葉を聞いてからお前は一度も【破壊】と【再正】を使っていない。それが今の差に繋がっているのではないか? それを知っているのだろう?」
「そうだな……ワザと使わない様にしてみたけど、俺も能力に頼りすぎてるみたいだ。これがお前の言う人の力ってやつだろ? ならこのままじゃ俺はお前に勝てないってことか?」
「そのまま能力を使わないと言うのであればそうだろう」
「そっか……なら、意地でも勝つ!」
右から左から下からと次々に手を出していくが、ことごとく躱されいなされてしまう。
天道も明らかに能力をセーブして戦っているのはわかっていたこと。
こちらも本当の力を使っていないという点では条件は同じはずだが、それにしてもここまでさが出てしまいる。
(このままじゃ一発も当らないまま無駄に時間が過ぎていく……何か手はないか……)
再び体勢を崩されたところに天道の左膝が迫るが何とか身をよじりそれを躱す。
だがそれだけでは終わらない、秋の死角から硬質の球体が迫る。
その時だった。
((右後、来る))
「なんだ、なにが……っがぁ!!」
頭に声が響いたと思った瞬間、右後方側からの衝撃で吹き飛ばされた。
頭に響く声が邪魔をして体が動かなくなった。
「クソっ……何なんだよ」
只でさえ当たらない攻撃に苛立ちはじめた時に、いらないところからの邪魔が入った。
天道の能力ではもちろんあり得ない。
隠し事はしているだろうが、この場面で使う能力にしてはいささか地味ではある。
切り札なのかと言われれば天道にとってそれは無いだろうと予測される。
「なら、なんだ……」
「何を独り言を言っている。来ないならばこちらからいかせてもらう」
訝しむ様子もすぐに消え去り、有無を言わさぬとばかりに槍の雨を降らせる。
(意地でも【破壊】は使わない!こうなったら全部躱すっ!……っ!!なんだ今度は!)
秋の目には槍から光の道筋がぼんやりと自分のいる一帯に伸びてきている様に見えていた。
その筋が指し示す場所に寸分の狂いもなく降りかかる槍が突き立っていく。
そしてまた頭の中にガンガン響く声。
((後、上、右、来る))
大音量で響く声に頭を押さえながらも【タイムエクステンド】を発動して声が言い示す方へと視線を向けると、その言葉通り三本の槍が飛来してきていた。
遅く流れる時間の中で降ってくる槍を叩き落とす。
それと同時にまた声が響き、槍の着弾点に薄く筋が見える。
「なんだか知らんけどこれなら……イケる!!」
数千、数万と降り注ぐ槍の雨を躱しては、叩き落とす。
それをただひたすら繰り返し続けた。
十分、二十分と時間は過ぎていくが一向に止む気配はない。
だが秋にはその無慈悲ともいえる攻撃が今はありがたかった。
感覚が次第に研ぎ澄まされ、頭に響く声も次第に気にならなくなり、光の筋は今やはっきりと視認できるほど明確に視えている。
(見える、聞こえる、感じる……あいつの攻撃の声が、動きが!)
そこから更に数分間攻撃は続いた。
いつしか槍の雨は止み、砂ぼこりに覆われた浜辺がその姿を見せていく。
そこにはジャージのいたるところが破けた状態の、無傷の秋だけが立っていた。
そして、無事だとは思っていたが無傷とまでは考えていなかった天道は、驚きと共に気を引き締め直す。
そんな様子を遠目に見て取った秋はいつものやる気のない顔と、それとは真逆の言葉を発する。
「普通、未成年相手にあそこまでやるか? まぁいいけど。それより、第2ラウンドを始めないか?」
如何でしたでしょうか?
主人公が強くなる瞬間って難しいですね……
上手く書けたかどうか不安です。
次回もお楽しみに!!




