新たな朝
ようやく更新です!
このセリフが定例化してるような気が……
ミスティから能力を託された俺は、すぐにその場で意識を失った。
託された能力に籠められた願いは、俺が死なない事。
そしてその後、襲ってきたミスティが溜めこんでいた負の感情。
周りから疎まれ、憎まれ、知らなくていいことまで知ってしまった事。
見えないモノへの恐怖。
見えてしまう事への嫌悪。
自分自身への絶望。
そのすべてを丸二日間味わい続けた。
そして、3日目の朝。
唐突に目が覚め、意識が覚醒する。
「起きたっスか!!くろつッチ!!」
「秋!!大丈夫……なの?!」
ベットから体を起こすと目の前には蓮とミスティが共に心配そうな顔で俺を見つめていた。
託された瞬間から俺は意識を失ったのか。
「蓮、ミスティ……お前たちが連れてきてくれたのか?」
「違うッス、誰かを呼びに行こうとしたらちょうどそこにレンっちが来たっス」
「そう……目が覚めたら、秋が居なくて……ずっと探してた」
「ご、ごめんごめん。悪かったよ。でもお前たちじゃなかったら誰がここまで運んでくれたんだ?」
「真壁っちっス」
「久人が?なんでだよ。あいつ夜も出歩くほど暇なのかよ」
久人の奇行っぷりは相変わらずだとして、会った時は礼でもいっておくか。
そう思い先ほどから黙っている蓮に視線を向けると、ジト目を向けている。
夜に置き去りにされて、その上自分の知らないところで他の女と会っていたのだ。
それは怒るだろう。
秋は土下座の体勢をとろうとするが、下げようとする頭をそっと止め、抱きついてきた。
「話は全部……そこの無駄乳に聞いた。秋……お疲れ様。それと……おかえりなさい」
「蓮……あぁ、ただいま」
あったかい。
他人の負の感情を浴びた体と心に痛いくらいしみる。
でもそれが心地よかった。
「ちょっとちょっと!私の事忘れてないッスか?」
「あぁ……居たの?無駄乳。帰ったかと思ってた」
「また言ったッスね!これは無駄じゃなくて男の子の夢が詰まったものなんです!ねぇ~、くろつッチ?」
「俺に振るなよ!まぁ、否定はできないが」ボソッ……
「秋……何か言った?」
この後ひたすらにひたすら、蓮に謝ったのは言うまでもない。
まぁともあれいつもの日常に戻った。
と思ったのだが、一つ疑問が浮かぶ。
「そう言えば、ミスティあ能力を失ったんだよな?そうなると学園から出ていくことになるのか……ごめん、そこまで考えてなかった」
「あぁ~、その事なんスけどぉ~なくなってないッスよ?能力……」
疲れている所為なのか、気のせいなのか。
でもたしかの秋は能力を託させるときに感じる他人の負の感情や願い事を受け取ったはずだ。
それに俺の中にもミスティの能力の存在を感じる。
だが、ミスティが感じていたように、勝手に見えたり聞こえたりはしない。
少なくともここに居る、蓮とミスティからは何も聞こえてこない。
「なんでだ……確かに俺の中にはあるんだけど」
「たぶんなんスけど、こういう事っスかね?」
そう言うとミスティは人差し指を指揮者の様に三拍子で振って見せる。
するとその動きに合わせ俺の腕も三拍子を刻む。
おいおいまさか能力を託すのが失敗したってことなのか?
そう思って、それを告げようとするより先に、ミスティは頭を下げた。
「くろつッチ、ごめんなさい」
「いまいち謝られてる訳が分からないんだけど、俺の方こそすまない。きちんと受け取れなかったみたいで……俺自身もしっかりこの能力を把握しきれてなかったみたいだ。その所為でお前がこれからも苦しい思いをすることになっちまう」
「えっと、くろつッチには無事に渡せたみたいっスよ……」
「は? でもお前は能力が使えてるじゃないか」
「そうっスね。たぶんっスけど、私が必要無いと思った力……おそらく勝手に見えたり聞こえたりする力のみがくろつッチにいっちゃったんだと思うッス……厄介な力だけ押し付けて私は必要な方だけ残して……もう最低です。卑怯者だと罵ってくれてもいいっス。許されるなら何でもします」
「そう言われても攻めようがないと言うかなんというかだな。別に何も見えないし聞こえもしないからさ」
ミスティは目じりが裂けるんじゃないかと言う程目を見開いて俺を凝視してくる。
その口はなんで?とパクパク動くばかりで声が出ていない。
「俺も不思議なんだけどさ。能力を貰った感覚は確かにあるんだよ。でもそれが上手く機能してないみたいなんだよ。憶測だけど、ミスティが持ってる能力の部分がメインで俺が貰った方はサブ……だからうまく使えないって事かもな。でも残念だわぁ~、せっかくいろんなモンが見えるようになるかと思ったのになぁ……って、おぃミスティ!どうした!?」
ミスティは嗚咽を漏らして静かに泣いていた。
ミスティは純粋に嬉しかったのだ、秋が無事で。
自分が苛まれていた呪いの様な能力で苦しまないということに。
それがたまらなく嬉しかった。
秋が倒れた瞬間、後悔した。また、他人を傷つけてしまったのだと。
それに今回は自分自身の意思によって引き起こした事なのだ。
でも、彼は無事だった。
能力の後遺症も残らず、呪いの効果も受けずに元気に笑って見せたのだ。
だからミスティも泣いてばかりはいられないと、涙もぬぐわずにニッと笑うと、ありがとうと元気な声で答えるのだった。
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ひとしきりミスティが泣いて、それを不本意だと言いながらも蓮が慰めて各自部屋に戻って行った。
ようやく訪れた一人の時間。
あれだけ寝たのにまだベットが恋しいのか、横になって大きく伸びをした。
それと同時に部屋の扉をノックする音が聞こえた。
どうぞと言う言葉も聞かずに蓮……いや、燐が入ってきた。
「おじゃましま~す」
「どうぞ。ってか良いって言ってから入れよ、燐」
「いいじゃない、蓮も私も見た目同じなんだから気にしないの!それでさ、体は大丈夫なの?」
蓮から聞いていないのか、燐は今更な事を聞いてくる。
当然俺は蓮から聞いていないのかと聞き返す。
だが、その質問が今回燐が来た最大の理由だったようだ。
俺の体の心配そっちのけで、今回のことを切り出してくる。
「蓮からは聞いてるわ。でも何かおかしいの……ノイズが混じるような感覚があって、それが邪魔してうまく疎通が出来ないのよ」
「……そういえば蓮もそんなこと言ってたような気がするな。誰かに何かされたか……いや待て、他欲にやられてからか?」
「いや、それも心当たりがないの。あれも何をされたのかわからないわ」
「だよな……知ってたら俺のところに来るわけないもんな」
燐は無言でコクリと首を下げ俺の言葉を肯定した。
その後は互いに他愛のない話をして2人で別のベットに横になる。
今日は燐だからそこは気を使いたいからだ、というか蓮も別々のベットにして欲しいものだ。
俺の中の狼さんが毎晩毎朝、蓮の刺激的な姿に目を覚ましそうになるから勘弁してもらいたい。
とにかく今日は別のベットに寝てお休みと声を掛けあった瞬間だった。
(………て……)
「ん?燐何か言ったか?」
「え?なにも言ってないわよ?あなたも久しぶりに目が覚めて疲れてるのよ」
「そう、かもな。まぁ何かあったらすぐに言えよな」
「わかったわ。おやすみなさい」
目を閉じ、先ほどの声の主の事を考える。
あれは、あの声は確かに、蓮の声だった。
そう、結論が出る前に意識は夢のなかに溶けていった。
如何でしたでしょうか?
ご意見、感想お待ちしております。
次回もお楽しみに!!t