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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
40/57

夜と出会いと

更新遅くなりました。


 宇城嶋と離れた後は、その他の生徒の搬送や瓦礫の撤去などの雑事に追われた。


 久人はその能力の有用性から撤去にあちらこちらへと引っ張りだこ(ついでに女子にもひっぱりだこ)になり、秋は、患者の応急処置や建物の【再正】を行っていた。

 蓮や他のDクラスの面々も同様に手伝いに追われていた。


 ようやく解放されたのは日もすっかり落ち切った夜。

 幸いと言うか秋達が寝泊まりする建屋に被害はなかった。

 昨日初めて寝泊まりした空間なのになぜかほっとする……訳でもない。

 それもそうだ。ここには蓮も居るのだ。

 パジャマ姿で。

 と言ってもこれはパジャマなのかと疑いたくなるような恰好だ。

 かろうじて太腿までが隠れるくらいの大き目の丈のシャツに、たぶん……たぶんだが、下着はパンツのみ。

 普段胸を包んでいるであろうブラジャーと言う名の装備品はたぶんつけていない。

 見れば誰だって気づくシャツの胸のあたりにポチッと二つあのアレが浮き出ているのだから。


 指摘しようにも本人が全く気にも留めていない様子だから言えない。

 部屋に来たときからあの姿で、今ではベットに並んで腰かけ腕に絡み付いてくる始末。

 Tシャツ姿だったため、腕に二つの幸せ感触がダイレクトに伝わる。


「俺はもう、この場で死ぬかもしれない」


 ぽつりと粒呟いた俺の言葉に、蓮はどうしたのと尋ねてくるが上手く答えられずになんでもないよと誤魔化し笑いを浮かべぐりぐりと頭を撫でてやる。

 しばらくすると蓮は今日の出来事で疲れ切ってしまったのかそのまま眠ってしまった。


 俺はこの先もずっと蓮と一緒の部屋で寝泊まりしなくてはいけなくなった。

 嬉しいのだが、毎日これでは、いつ俺の中の狼さんが目を覚ましてもおかしくない。

 只でさえ完璧な二人きりではないのだ。意識を共有している燐もいるのだ。

 そう思うとなかなか寝付けずにいた。

 結局、蓮をベットに横にして自身は部屋から出て夜の校舎に気分転換でもと散歩に出かけるのだった。


 **********


「学園がこのような状況で恐縮ですが、この度は御足労頂きましてありがとうございます」


 宇城嶋は目の前の青いスーツに身を包んだ老人に向かい深々と腰を折る。

 老人はまっすぐに前を見つめて、宇城嶋には目もくれず言い放つ。


「茶番はよろしい。時に凍人よ、今呼び出したのには訳があるのだろう? 学園のとか、お主のことか……それとも孫の……燐の事か?」


 顔は上げずに、うっすら笑みを浮かべた宇城嶋は言う。


「そうです。東城燐さん、東城蓮さんの事についてです」

「昨日に話は聞いておったがやはり蓮は表に出てしまったのだな……それも能力まで発動させてしまった様だったな。して、お前は何が聞きたいのだ?」

「それでは、お言葉を頂戴しましたので甘えさせて頂きますが、一つの器にどうやって二つの精神を入れたのですか?」

「お主はそれを聞いてどうするのだ」

「私の目的の一歩目を踏み出すためです」


 老人はギロリと睨みつける。

 宇城嶋の周囲の空間がチリチリと音を立て、彼の衣服の一部や髪、皮一枚を消し去っていく。

 老人の眼光は更に凄みを増す。


「知らねば死なぬ、だが知ればお主は遅かれ死ぬこととなる……答えよ凍人。それでも知ろうと言うか?」

「だからこそです。知らなければいけないのです」

「……良いであろう。ならばその覚悟をもって儂に何を差し出す。半端なものなどいらぬぞ、もしそのようなことがあれば、今ここでお主は文字通り消えることになろうぞ」


 宇城嶋は下げた頭を上げ、まずは情報を提供しますと告げる。

 老人は眉尻をピクリとさせる。


「ほう、何のかね?」

「はい。いままで情報が一切なく、その名前のみで存在自体が怪しまれていた者……七欲竜の創始者で今現在、生きとし生けるものの中でおそらく最強と言われている者」

「…………」

「名は、黒土くろつち冬夏とうか。現在、お孫様と同じDクラスにいる、黒土くろつちしゅうの実の父親です」

黒土くろつち……冬夏とうか……生きて・・・おったのか……アレの能力はこちらとしても欲するところ。よかろう燐と蓮に施した事について教えてやろう」

「お気に召したようで何よりです。そして、よいお返事を頂けたことに感謝致します」


 再び頭を下げた宇城嶋の顔には満面の笑みが張り付いていた。


 **********


 部屋から一人出た秋はいまだに瓦礫などが散乱している校庭のベンチに腰を下ろして、先ほど間違って買ったブラックの缶コーヒーを渋い顔をしながらチビチビ飲んでいた。

 昼間に起きたことが嘘のように静かだ。

 ただボーっと何を考えるでもなく座っていると後ろから目隠しをされ、「だぁーれだ?」とこれまたベタな問答がやってくる。

 そこは簡単だ。

 手の感触は女性特有の柔らかさ、風呂に入った後であろう石鹸の良い香り、そして何より後頭部に当たる巨大なお山、答えは……


「なんだ、ミスティ。こんな時間に用か?」

「せいかい、せいかーい!よくミスティだってわかったっスね! なんで~?」

「それはだな……」


 おっきい二つのナニか……なんて言えるか!

 口が裂けても言えない!俺には蓮が居るんだッ!落ち着けっ!

 いろんなところを落ち着けてからようやく振り返ることが出来た。

 ミスティは薄手のピンクのキャミソールにショートパンツ姿でそこに立っていたのだが、「座っていいっスか?」と言って、俺の返事も聞かずに隣に腰を下ろした。

 特に話をすることもなく流れる時間。

 それが別に不快じゃない。まるで蓮と一緒に居る時と同じような感覚。


「ねぇねぇ、今レンっちの事考えてたッスか?」


 いきなりのミスティのジャブに面喰いうまく返せなかった。

 かろうじて返せたのは、だからなんだよの一言だけ。

 それを聞いたミスティは遠くを見つめながらうっすらと悲しい表情をしたが、それも一瞬の事ですぐに元の笑顔に戻る。

 そしてゆっくりと自身の事を語りだす。


「私ね、よくさ、気持ち悪いって言われるんスよね」

「は?いきなりなんだよ、別に気持ち悪かねぇよ。むしろ見た目はいい方だろ」

「見た目の話じゃないッスよ。さっき気が付かなかった?くろつッチがレンっちのこと考えてるって当てたっしょ?」


 それはそうだが、そんなの言ったら女の勘なんてよく言ったもんだろ。

 言い出したらキリがない。

 だから俺はそんなのよくある事だろと素っ気なく返す。

 ミスティはそうだねと悲しげに俯く。


 そしてまた沈黙。

 さっきとは違い少し重い雰囲気に包まれるが、それを破ったのはやはりまたミスティだった。


「聞こえるし、見えるんスよ。能力の所為で……他人の色々な事とか知らなくていいこととか」

「だから俺がさっき考えてることも分かったのか?」

「そう。私の能力はそこら中に居る霊とかそう言うのが見えたり、話したりするのが聞こえたり会話できたりする能力なんス。もちろん霊とかに命令して攻撃したりもできるんスよ!すごいっしょ!!」


 そう言ってやたらめったら胸を強調する様にフフンと仰け反って見せるが、やはり空元気の様ですぐにまた少しだけ俯く。


「この力に目覚めた時はすっごい嬉しかったんス。でも今となってはもう邪魔なだけ。周りからは気持ち悪がられて、両親には気味悪がられて……」

「でもさ、それって能力を発動させてるからじゃないか?」

「そうなんス。能力を発動してるからってだけなんスけどね」

「なら止めればいいだろ。それともそこまでしても止めない理由でもあんのか?」

「理由なんてないっス……ただ、自分じゃ止められないんス。能力発動に詳しい人にも聞いたことがあるんスけどね、この能力は常時発動タイプで自分の意思では止められないらしいっス」


 それを聞いた途端、思わず絶句してしまう。

 まるでそれじゃ呪いみたいじゃないか。そう思うのと同時にミスティは、


「そうっスよ、まさしく呪いっスよこの能力は……」

「っ、すまん。不謹慎だった」

「大丈夫っス。ね?気持ち悪いっしょ?生きた人の魂みたいなものが話すのも聞こえるんすよ。ホントに、気持ち悪いっスよ……」


 そう言って今度こそ黙った。

 流れる沈黙の中、秋はこの時一つの事を考えていた。


「なぁ、お前の能力ソレこの先ずっと必要か?」


 ミスティは驚きの表情を浮かべじっと俺の顔を見つめる。

 でもそれもすぐに暗い表情へと戻っていった。


「くろつッチが思ってることは全部聞こえたよ……でもそれだけはダメっス。それをやったらくろつッチがくろつッチじゃなくなっちゃうっスよ!」

「えっ?なんで?何とかなんじゃねぇの?それくらい」

「それくらいって………くろつッチは何にもわかってないッス!この力の怖さも私自身の恐怖も!」


 秋は大きく息を吸い込むと胸の内にある全て、すべての想いをため息として吐き出した。

 ミスティにはなにを考えているのかは筒抜け。

 だったらごまかしも何もいらない、だからこその決断。


「知るかそんなもん、お前の恐怖なんぞもっとわからん! だからその能力を俺によこせよ」

「ダメ!絶対ダメっス!そんなことしたらくろつッチはどうなるっスか?きっとこの先ずっと苦しむっスよ!」

「さっきも言ったろ?そんなん知らんし、これからの事なんかわかってたまるか。言っとくけど俺は決して自棄になってる訳じゃないからな。どうにかできる自信もあるからな」


 ミスティは感じ取ったのだろう。

 秋が本当に自棄になった訳ではないという事が。

 だからこそ今の状態に戸惑っているのだ。

 本当にいいのか、自分の所為で誰かを不幸にしてしまわないのかを。


「なんで、なんで今日知り合ったばかりの私にそこまでしてくれるッスか?」

「俺にはその力があるし、お前のその能力ちからがこれから必要になるからだ。俺だけじゃ護れないモノも、その霊かなんかにお願いすれば何とかしてくれたりするんだろ?」

「それはそうかもしれないけど、四六時中休むことなくずっと何かが聞こえる様になるし、必要のないことまで見えちゃうッスよ?それでもッスか?」


 また俺は盛大にため息を漏らす。

 これはもうあれだ、癖になってしまったに違いない。

 もう相棒と化したため息とともに言葉を返す。


「むしろ望むところだな」


 ミスティはまた一人押し黙る。

 しばしの黙考ののち、秋に能力を託すことを決めた。


今回は如何だったでしょうか?

次回もお楽しみに!!

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