学園入学編Ⅳ
4話目です。
(さっさと決めてしまいたい所だが同じ志を持つ奴と組まなければな!)
そう思いながらその場に胡坐を掻いて目を閉じる。
(まずはさっきの事をねぎらって10分ほど昼寝でもするか)
1分ほどたっただろうか。いい感じに意識を薄めていると頭頂部のあたりを指で突かれる。
(悪戯か…無視に限る…)
無視すること数秒再び突かれる。また数秒後突かれる。また突かれる。突かれる突かれるずっと突かれる。しかも次第に痛くなる。
「なんだこら!!恨みでもあんのか!ガスガスガスガス、馬鹿みたいに突きやがって!長文の打ち間違いを消すときのバックスペースキーか俺は!穴開くわ!」
そんな俺を見下ろす燐と仁。たぶん突いてたのは燐だな。仁だったら俺の頭は中身ごと地面に転がってるはずだ。
「ということで燐!謝れ!」
「まずはごめんなさい。それとグループ決めたの?学食好きのおバカさんは」
「馬鹿とはなんだ。グループはまだだよ。同じ志がある奴と組む」
「志?なんだその志ってのは?」
仁と燐が疑問符を浮かべる。
「もちろん学食に決まってんだろ!何のために学園長に交渉したと思ってるんだよ」
「真正の馬鹿だなこれは」
「そうね。単なる昼寝好きじゃなく昼寝学食馬鹿だったみたいね」
散々な言われ様だ。飯がタダだぞ!これだけで生きていけるんだぞ!
「そこまで言うか。ならお前らは何組に入りたいんだ?」
「私は断然日組よ。専門知識っていうのが魅力的じゃない?」
「俺はCだな。家庭の状況が思わしくない。できるなら学園の援助を貰いたいと考えている」
「いろいろ考えてんだな。俺はデザート付でタダ飯食えればなんでもいいんだけどな」
やはりなんだかんだと人の意見を完全に一致させるのは難しい。
一番初めに仲良くなった奴らと同じグループにはなれそうにないな。
「なんなら他を当たるんだな。俺はD一択だからな」
「…そうするね。余ったら入れてあげるから言いなよね」
「おぅ。仁もすぐに見つかるだろうから頑張れよ」
「お前に励まされるとはな。まぁ適当なところに入るさ」
気恥ずかしいのか少し顔を赤らめながら俺を気遣う燐といつもより幾分小さく見える仁を見送った。
今更だが冷静になって考えてみれば俺はほっとけば勝手にあまりグループに入れるんじゃないか?
Dなんて特権が学食くらいで入りたい奴なんていないだろうし。
でも待てよ、もしAやBに入りたくてもグループ組めなかった奴と組んだらどうするんだ?
その時はグループ内抗争が始まる可能性もあるな。
(まっどうでもいいか。なるようになるだろう。時間が来るまで寝るか)
先ほどの中途半端な眠りの所為か、俺の精神はすぐさま眠りの世界へ落ちていった。
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「残り15分です。決まってない人は急いでください」
宇城嶋の声が真っ白な世界に響く。
その声が聞こえる数分前には目が覚めていた。もともと仮眠程度だったし、がやがやとうるさいくらいの喧騒のおかげで熟睡までは至っていなかったからだ。
大きくアクビをして辺りを見回すとあらかた決まっている様だった。
(余り組が出てるだろうしそろそろ行くか)
立とうとして膝に手をついた時、不意に誰かに肩を掴まれる。
「やぁ秋。一緒に組もう」
「お前が余りなんてありえんな。馬鹿にするなら他所いけ久人」
「いやいや、秋が項垂れてたから可哀想だなと思ってずっと隣に座って立ち直るのを待ってたんだよ?有難がられるならいいんだけど疎まれるような事はしてないつもりだよ?」
「項垂れてたわけじゃねぇ。ただの昼寝タイムだ。んでよ、組むのはいいが俺はDに行くつもりだぞ?お前はAあたりが妥当だろ?だから組めん、じゃあな!」
再度先を行こうとするとまた掴まれる。
「話は終わったろ?今度はなんだ」
「残念だろうけど終わってないよ。僕はAには行かないでDに行くことにしたんだ。秋もDでしょ?なら同じグループでもいいんじゃないかな?」
「お前なぁ…Dなんて学食くらいしかないんだぞ?お前のセンスなら戦闘系で上にいけるだろ」
「そんなことないよ?僕のセンスでどうにかなるのは1年生でいられる間くらいさ。その頃には他の子達はもっと能力も開花するだろうしセンスも磨かれてる。それにDにも面白いことが取り敢えず2つはありそうだし」
「ったく。いつも謙遜しすぎなんだよ。今まで誰かと勝負して負けたことないだろうが」
「秋には負けたことあるでしょ?」
「ああ言えばこうだな。もういい。それで面白いことってなんだ?」
いつものやりとりにうんざりしてきたので先を促す。
すると俺の肩を掴む手をどけて自身の前で人差し指と中指を立てる。
「取り敢えず一つは学食だとしてもう一つはなんだ?」
「学食も魅力的だけど今回は違うかな。一つ目は学園長が最後に言っていた言葉だよ。いいことを思いついたって言ってたね。あれは間違いなくD組に関する何かを思いついたってことだと思う。2つ目は君、秋がいるから面白くなるって確信があるからだよ」
そういうといつも以上に楽しそうな笑顔を見せる。
「まぁいい。そうしたいならそうすればいい。ならあと二人はどうするかだな」
当てがありそうな人を探すために当たりを見回す。
そこで久人が今更な質問をぶつけてくる。
「あれ?燐さんと仁くんじゃないの?」
大げさに肩をすくめながら答えてやる。
「残念ながらあいつらは他に入りたいクラスがあるんだと。燐は専門がなんとかって言ってBで、仁は親孝行のためにCだと」
「そうなの?なら今、秋の後ろにいる2人は?」
「おっ!早くももう二人がそろっ……」
そこまで言い後ろを振り向くと見覚えありすぎる2人が立っていた。
嬉しさより先に呆れが先に出てきてしまう。
「お前らなぁ。まさかとは思うが同じグループにしてくれなんて言わないよな」
「うっ、そっそのまさかをお願いしにきたの!」
半ば自棄になる燐。
燐を慰めつつ今の現状を俺に伝える仁。忙しい奴だ。
「そう言わんで組ませてくれ。というか周りを見てみろ。もう残ってるのは俺達4人だけなんだぞ。ー」
「いやいやそんなことはないだろう。みんなまだうろついいてるじゃないか」
「あれはうろついてるんじゃなくて、プレートのトレードが出来ないかを交渉してる人達よ」
「マジかよ…もう俺達だけ?ってかなんでお前らが弾かれてんの?かの東城家とガタイが良くて戦力になりそうな仁だろ?みんな欲しがると思ってたんだが。」
俺のもっともな言い分に燐と仁がそれはもう深いため息を吐き出す。
「ダメね。【四方陣家の東城】ってういうのがみんなお気に召さないみたいよ。戦力にはなるし家の事も気にしなくていいって言っても愛想笑い浮かべてもう組む人がいるからって…立て続けに断られていつの間にかココよ。」
「世辞ではないが俺も戦力になれることを期待し、いろいろと回ってみたのだが誰も相手にしてくれなった。それで一人の男子生徒を追いかけ話を聞いてみたんだが、デカくて見た目も怖いし何より仲良くなれる気がしないらしい。普通に接したつもりだったが相手は威嚇されたように受けると言っていた。」
燐は心底失望したという顔で答え、仁のデカい体が今は小さく見える。
さすがの2人ともショックを隠し切れない様子だった。
「二人とも気にすんな。俺は平気だから。」
「秋だけじゃなくて僕もだよ。」
俺たちのストレートな物言いに、燐は上目づかいで顔を赤らめ、仁は照れているのか頬を指で掻くきながら答える。
「なんだ、えと、まぁ同じグループで頼む。」
「私も私として精一杯頑張るから、その、えっと、よ、よろしくね。」
「おぅ!もちろんだ。よろしくな!…っといいたところだが二人とも」
「なんだ?やはり入れることは出来ないと言う気か?」
「いや。入れる気が無い訳じゃないが、仁の金の話はいいのか?家の方が大変なんだろ?燐はどうすんだ?折角の権利が使えなくなっちまうんだぞ?」
せっかく今一番気にしなくてはいけない事が解決するかもしれないのだ。
仁や燐したにしたらこれほど嬉しい条件はないはずなのだから。
だが二人は、
「Dで問題ない。どうせこんな特権初めから知っていてここに入った訳ではない。それに入れてくれたお前のグループだ。俺はそれに従う」
「私も同感。使いたくはないけど東城家の名前さえ使えばBどころかAくらいまでなら覗けるし」
と言ってDのままでいいと言う。
しかし俺は納得できない。
人の人生、家の事情まで潰すほどの理由じゃない。学食なんぞ取るに足らない事|(俺にとっては重要ではあるが)に付き合わせる訳にはいかない。
「燐も仁もいいのか?お前らは家の事とか今後の事がかかってるんだろ?俺の目的なんてそんなに重要じゃない」
「いや。それでは俺が納得できん。同情ならやめてくれ。そんなことになるくらいなら俺は学園をやめ…」
「ちょーっと待って!仁くんそれ以上言ったら怒るよ!秋くんも。仁くんも私も良いって言いてるんだからそれでいいじゃない」
「それでいいならそうしてる。でもこいつの家はどうなる?お前の望みはどうなる?」
俺の疑問や仁の家の事を全く気にしていないとばかりにニコニコ笑っている。
「仁くんも秋くんも忘れてない?初めにあった時に私が言ったこと」
「初めにあった時?今その話をする時か?」
「そうよ。だから聞いてるの。それで覚えてるのどうなの?」
「俺が有名人って話だろ?姉貴を売って仁を他のグループに入れさせろってことか?それならら断る!ってか燐の人間性を疑うわ」
心底人間性を疑い軽蔑した白い眼を燐に向ける俺。いくらなんでも身内を売ることは俺にはできん!
そんな表情やらなにやらを感じてか真っ赤な顔で反論してくる。
「馬鹿じゃないの!そんなことする訳ないでしょ!信じらんない!」
これはさすがに無かったらしい。でもそれくらいしか心当たりがな…
「はぁ…もういいわ。私がどこの家の誰だかはわかってる?」
「そりゃもちろん。四方陣家、東城の一人娘様だろ?」
「言い方が気になるし棘があるような感じがするけど、そうよ。自分であまり言いたくはないけど、初めに言ったでしょ?東城家のコネの話」
「…もしかしてそのコネで仁の家の話を解決してくれんのか?」
「正解!なんでも言ってくれてОKよ!もちろん金銭的な話も。」
「よかったな仁!これで安心だな!」
勝手に話が進んでいく様をただ黙って聞いていた仁は口を開くとその案には乗らず反対の意見を語った。
「その心遣いには感謝する。しかし再度言わせてもらうが俺に同情などいらんと言っている」
語気を強め表情も徐々に固くなっていく。
だが提案した本人は歯牙にもかけぬ勢いでこう告げた。
「同情じゃないよ?誰もタダとは言ってないもの。だから私からもお願いがあるの」
だがとなおも食って掛かる仁を久人がやんわりと止める。
「仁くん。取り敢えず話くらいは聞こうよ。ね?それから決めてもいいんじゃないかな?
「そうだな仁。まず聞こうか。それからなんか言いたきゃ言えばいいだろ?」
久人と俺の言葉を聞き再度の反論を一応は飲み込んだ仁は地面にどかりと腰を下ろした。岩の様にどっしりとした体から異様なまでの拒否のオーラが滲み出ている。
よほど同情されることが気に障るらしい。
「じゃあ時間も無いしさっくり言うけど、私のボディーガードをお願いしたわ」
「…なに?」
「だからボディーガードをお願いしたいの。」
「いきなりだな。ボディーガード役ならいくらでもいるだろ。それこそ一塊の学園生より余程優秀な者達がな。それにいつも狙われる訳ではないだろう」
確かに仁の言う通り未熟で経験値の少ない奴がわざわざボディーガードなんてする必要はない。
だがその言葉は予測済みだと言わんばかりに更に口角を上げ笑顔を作る。
「そんなの分かりきってるよ。だけど学園では誰が護ってくれるの?東城のものでもこの学園に入る為には容易でない手続きと時間を要するの。出来ないわけではないけどね。それにボディーガードって言うのは依頼者を護るために命を盾にするってことなのよ?だから報酬として安いくらいだと思ってるわ」
そう言って今日一番であろう笑顔にウインクを決めてきた。
仁も納得しかけているのか次第に切り返すスピードが落ちてきていた。
「そうか。ならいくつか質問だが、学園内にいて命の危険性があるとは思えん。なにか狙われるようなことはあるのか?それと実力がある奴を護る必要性があるのか?」
「それはもっともな質問だな。俺も気になってたところだ。東城の一人娘で強いんだろ?【撃鉄】なんて二つ名がつくくらいなんだしよ」
「それはもっともなんだけど学園内が安全って保障もないの。それはこれから始まるクラス決めでわかるわ。実力に関して言えばそれなりにあると思ってる。でもまだ全然。どうみても仁くんの方が強いのわかるし」
クラス決めで分かるって…どんだけ恨み買ってんだよ。でもそんなことは口が裂けても言えないので脳内に留めておくことにする。
ってか仁って結構強いのか。俺は他人のそういったものに鈍感だから分からんが、機会があったら一試合やらせてもらおう。
とか考えている間に、デカい体の同級生はようやく納得したようだった。
「うむ。考える時間が欲しいが今は無い。強いかどうかは分からんがこの命に代えてもお前を護ることを誓おう」
「交渉成立ね!でも約束して。命に代えなくても護れるくらいになって。自分を粗末にだけはしないでね。お願い」
切実なお願いとともにようやく交渉がまとまりうまいこと俺たちのグループ方針が決まった。
そしてこの話が終わるのを待っていたかのように学園長から終了の合図がかかる。
これから簡単にルール説明があるらしい。
さぁて、ようやく楽しいことが始まる!
目指せD組!俺の学園生活に怠惰と安寧とタダ飯の加護が舞い降りますように!
いつも読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いしたします!!