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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
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欲望は加速する

「麻朝さん、何するんですか? 早く壊してあげないといい音が出なくなっちゃいますよ?」


 と、言いながら七宮へかけている能力による圧力を上げていく。

 肺からどんどん空気が吐き出されていくが吸い込むことが出来ない。

 麻朝は七宮の危機を感じ取り、咄嗟に久人の頬に平手打ちを放つ。

 バシンと乾いた音が響き、それと同時に久人の能力が解除される。

 思わず頬を叩いたことにに麻朝はハッとなり久人を見るが、久人は視線を七宮から一切外さないまま微動だにしない。


「久人くん、いきなりごめんなさい。その人は七宮 夕って言ってちゃんとこの学園の先生だよ」

「そうなんですか。僕はてっきり不審人物が学内に侵入してきたかと思って攻撃しちゃいましたよ。先生方もなにかわかりやすい目印が必要かもしれませんね。それと七宮先生、先ほどはすみませんでした。覚えましたので今後は襲い掛かったりしません。味方でいるうちは・・・・・・・・ですが」

「……わかりました。ッゴホッ」

「二人ともいい? 久人くん、目印の件は学園長に伝えておくわ。それと夕ちゃん、大丈夫?」

「は、はい。ゴホッゴホッ! 何とか無事です。麻朝さんありがとうございます」

「いえいえ。久人くんは少し汚れている程度だけど、夕ちゃんは怪我がひどいわね。ちょうど今、南総なんそう家の方達が来てるわ。校庭に怪我人を集めて治療をしてるからそこにいくといいわ」

「四方陣の南総なんそう家が? そこまでこの学園で怪我人が出たのですか?」


 麻朝は、七宮の問いかけに一つ言頷いた。

 先ほど、宿舎付近で大きな爆発があった時と同時に、学園内で清掃をしていた業者の人たちが一斉に自爆したのだという。

 校舎の中、校庭、体育館、中庭。

 あらゆる場所で作業をしていた清掃業者の人すべてが例外なく爆発を起こした。

 無防備な状態で授業を受けていた生徒のほとんどが、大小に差はあるが怪我をしている。


 その惨事を目の当たりにした、宇城嶋の行動は早かった。

 教職員を招集し、速やかに生徒たちの安否を確認させ、自身は蘇生能力者を有している四方陣家・南総なんそうに呼びかけをして、蘇生のエキスパート集団を学園内に招き入れ看護に当らせた。

 生徒の安否確認をあらかた終わらせると、残存している可能性のある者の索敵を行っているという。


 麻朝からの簡単な報告に七宮は急ぎ南総のところへ向かい、久人は再びの獲物の予感に空へと飛び立ち宇城嶋のところへと向かった。



 **********


「気がついたか? 大丈夫か? 痛みはないか?」

「うん……秋が治してくれたんでしょ?」

「外傷だけだけどな。お前に何されたかまでは分からなかった」

「そう……でも平気。ありがとう」


 お姫様抱っこの状態からゆっくり下ろすと、蓮はその場で軽くピョンピョン飛び跳ねてみせる。

 身体的には無事なようで一先ずはほっとしたが、最後にタヨクがしたことが気になる。


「本当に何ともないのか? 頭とか痛くないか?」

「……全然痛くない。なんで……頭?」


 蓮が秋の下へ駆けつけてくれたあと、背後からの攻撃で気を失たこと、ターゲットは俺ではなく蓮だったこと、そして気を失った蓮に何かをしたことを伝えた。

 そしてどこか異常はないかと出来る限りの措置は施したものの、やはり中身は確認と言うか原因すら掴めなかったこと。

 それらすべてを蓮に話した。

 だが蓮は本当に何もないとそう言っている。

 だが一つ気になっていることがあるというのだ。


「昨日くらいから……燐と話をしようとすると、頭の中がザラザラする」

「ザラザラ? いつもは違うのか?」

「うん……いつもは呼べばすぐ燐の声が聞こえる。でも……ザラザラも聞こえなくなれば、ちゃんと燐の声も聞こえるから大丈夫」

「まぁ平気なら良いんだけど……今度なにかあったら教えてくれ。これでも、その……蓮の彼氏なんだからさ」

「秋……ありがとう」


 蓮は心から嬉しそうに秋の腕にギュッと身を寄せる。

 頭に手を置き、少しの間二人は今の幸せをかみしめる様に笑い合った。

 その幸せも、辺りの喧騒にかき消される。

 宿舎から学園校舎まで続く木々が生い茂る道を抜けると、爆発によって無残になった学園の姿だった。

 怪我人が溢れる校庭に、瓦礫の山で埋め尽くされた生徒玄関。


 たった一日、それも数時間の間にすべてが変わってしまった。

 無事な生徒は教師陣の指示に従い怪我人を運んだり看病したりしている。

 その中で、能力を使い緒方おがたが声を拡声して支持を出していた。

 現状はどうなっているのか、蓮の手を引き緒方に向かい走り出す。

 緒方は目の前に車で秋と蓮の姿に全く気が付いていな様だった。

 それもそうだろう。

 支持を出しつつも、無線から入る情報を逐一周囲の教師に伝えると言う事までやっているのだから。


「緒方先生、大丈夫ですか?今の状況を教えて下さい」

「あぁ、黒土か。すまない今はこちらも手いっぱいでな。状況を伝えようにも逐一入ってくるものだからそれの処理と指示に追われている。すまないが他をあたってもらってもいいか?」

「忙しいのにすみません。他の教師に聞いてみます、それと、」


 秋は【再正】を緒方に向かい発動する。

 淡い光に包まれて体のあちこちにあった傷を治す。


「すまないな黒土。これでもっと頑張れそうだ」

「なら良かった。でも体力までは戻りませんからそこは注意してくださいね」

「わかったよ黒土。それと東城、お前も昨日から見ていたからわかるだろうが、こいつはいろいろと危なっかしい奴だ。ちゃんとついててやれ」

「……言われなくても」


 緒方は蓮の返事に満足したのかニッと笑い、また呼びかけをする為に声を張り上げた。


 結局、緒方からの情報は何一つなかった。

 ここまで来てしまったら、いっそのこと半壊だがD組の教室へ戻ろうか考えている時、教師陣を引き連れて宇城嶋が体育館の方から現れた。

 秋の姿を見つけると教師の輪から抜け一人でこちらに歩いてくる。


「黒土くん、東城くん、無事でしたか」

「見ればわかるだろ。それはそうと周りはどうなってんだ。なんで俺達が宿舎で戦ってるうちに校舎の方にまで被害が出たんだ」

「その質問には答えますがその前に私から。黒土くん、君は宿舎で誰と戦っていたのですか?」

「それはこっちが聞きてぇよ。 名前だけなら聞いたけどな、ガヨクとタヨクと、たしかゼツヨクとか言ってたな」

「!!……それは本当ですか? 本当にガヨク・タヨク・ゼツヨクと言っていたのですか?」

「秋の言う通りですよ。だって僕もそこに居あわせましたからね、少しの間ですけど」


 話に割って入る様に久人が空から降りてくる。

 こいつはこの登場方法しかないのかと突っ込みたくなるが我慢だ。

 宇城嶋は久人の言葉を聞き、顎に手を当て少しの間考えるような仕草を見せる。

 そして何か考えがまとまったのかゆっくりと顔を上げ今回、学園を襲った奴らが誰なのかを語りだす。


「黒土くん達から聞いた話だけでの推測になってしまいますが、おそらく今回の騒ぎは【七欲竜】ななよくりゅうが絡んでいるとみてもいいかもしれません」

【七欲竜】ななよくりゅう。七欲ってことはそいつらは七人なのか?」

「人数までは断言できませんが、今までの目撃情報だけを信じるならばそう聞いています。我欲がよく他欲たよく絶欲ぜつよく撃欲げきよく知欲ちよく無欲むよく全欲ゼンヨクの七人。それぞれに強力な能力を有し、それを使い、殺し、窃盗などの依頼を受ける裏稼業を引き受ける集団です」

「なんでそんな奴らがこの学園に来たんだよ!」

「私もそれを考えていました。目的が分からない……」


 宇城嶋を始め秋も久人も蓮も黙ってしまう。


(目的……目的……あいつらはなんて言った?………!!)


 秋は思い出す。確かに言っていた。


「目的は……蓮だった」

「蓮さん、東城蓮さんだと言ったんですか?」

「確かにそう言った。蓮を呼び寄せるために俺を使ったとも言っていた。それに、奴らは去り際に蓮の頭に触れてなにかしていきやがった」

「なるほど。それでそのなにか、とは?」

「そこまではわからねぇよ、蓮は何ともないって言うしさっぱりだ」

「蓮さん、一度しっかりと身体検査をしたほうがいいと思うのですがどうしますか?」


 蓮は首を振ると秋の後ろに隠れて拒否をする。

 本人曰く、過去に何かあったのか体をいじくられるのはもう嫌だと言う。

 どうしてもかと秋も問うがやはり嫌だの一点張りで俯きそれを拒む。

 これにはさすがの宇城嶋も秋も困ったという表情を浮かべる。

 だが久人だけは蓮の言う通り、別に何もないのだからいいのではないかと言う。


「だってさ、無理やりやってもわからないものはわからないよ? それに秋がいつも一緒に居ればそれでいいんじゃないの? 何かあれば一時的にだけど【再正】で何とかできるでしょ?」

「それは、そうかもしれないけどなぁ……俺の【再正】万能じゃないんだぞ」


 なんだかんだと四人で問答を続けたが、結局のところ蓮は精密な検査を拒んだ。

 そしてその代りいつでも状態が分かるように秋が一緒にいることを約束として。

 この条件に蓮は大いに喜んだが、秋は喜び半分、男として自制が効くのかと言う心配と不安が半分と何とも言えない感じになっていた。

 そして、蓮の検査を受けなくてもいいと言った久人もまた違う意味で喜びを感じていた。


(これで、何かあればまたあの七欲竜か何かが動いてくれる。そうすればもっと楽しいことになるはずだよ。やっぱり秋と居るといいことばかりだ!)


 旧友を使い、その恋人をだしにしてまでも自身の欲望に忠実に生きる。

 そのことに久人自身は全く罪悪感を覚えてはいない。

 ただ自身の欲が満たされればそれでいいのだ。


 そんなこんながあり、一先ずは宇城嶋もこれからの事を話し合わなければいけないといいこの場を去って行った。

 宇城嶋も己の欲望を満たすためにやらなければならないことをするために。

今回もご一読頂きありがとうございます。

次回もお楽しみに!!

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