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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
35/57

事件と謎の推薦生

 秋がチンピラ連中を連れて、宿舎内の院長の総回診じみたことをしている一方、案の定と言うべきか阿國グループでは問題が起こっていた。


「今・・・なんて・・・言った!!」

「聞こえなかったッスか?なら良い耳鼻科紹介するっスよ?私もよく行くんスよ」

「そんなことが言いたいんじゃ・・・ない!」


 眼前に前髪を掠る様に氷柱が地面から突き出してくる。

 それを微動だにせず眺め、金髪の女の子は氷の柱の裏からひょこっと出てきてにっこりと笑う。


「取り締まる側がいきなりぶっ放すとか反則っスよ。愛しのくろつッチに言いつけちゃうぞ。でもまぁこの先あの子が無事に生きていられれば、だけどね」



 *********


 事の始まりはグループに分かれ、各自で巡回箇所に向かった後の話。

 阿國達のグループは教室周辺だったため、特に時間も掛からずに一次巡回を終えていた。

 一次巡回が終わった後、じゃんけんで負けた阿國と真理が残り現状の監視をすることになった。

 ミスティと蓮はというと、次の巡回まで教室で自由に過ごすことになっていた。


 教室に戻り、蓮は読みかけの本を開き、手持ち無沙汰なミスティは室内をうろうろしていた。

 そう、その時の事だ。

 ミスティは椅子に座り本を読んでいる蓮の目の前に立ちこう言う。


「あれれ?いいんスか?くろつッチのとこに行かなくても?」

「・・・・・」


 授業は無いとはいえ、今は巡回と言う役割をしている最中。

 そんな時にいきなり秋の下へ行くなどふざけすぎているにも程がある。実際は行きたいのだが・・・

 だから蓮は、おもいきり不快感を露わにした顔を向け再び本へと視線を戻す。

 そんな反応を楽しむ様にミスティは更に口を開く。


「本当にいいんスか?もうすぐでくろつッチは死んじゃうッスよ?」


 反射的に氷の塊を打ち出す。

 だが、ミスティは予期していたのか拳大のそれを事もなくひらりと躱す。

 蓮は更に氷の塊を打ち出すが、ことごとく躱される。


「危ないっスねぇ~。当たったら綺麗な体とお顔に傷がついちゃうじゃないっスか」

「うるさい黙れ。秋に・・・何するつもり?」

「う~ん、簡単に言うとッスねぇ~誰かがくろつッチを殺しに来てるよぉってことっス」

「な・・・て・・・言った?」

「だからぁ、誰かがくろつッチを殺しに、」


 **********


 と、話は冒頭に戻る。

 秋に危険が及んでいる可能性があることはわかった。

 だったらなぜ・・・


「なぜ・・・あなたが、それを知ってる。・・・答えて!!」

「なんでっスか?そこまで教える義理はないと思うッスけど?」

「それはそう。だけど・・・あなたが原因なら・・・今すぐ叩く!!」


 氷の塊を打ち出そうと右腕を正面のミスティに突き出すが、発射寸前に腕が真横を向き、窓ガラスをぶち破り氷の塊が外へと飛んでいく。


「ダメっすよ、痛いのは苦手っス。それに私にはコワーイお化けがついてるっスからねぇ。あなたの体もぉ~、この通り!!」

「!!」


 自身の意に反して蓮の体は、強制的に休めの体勢をとらされる。

 強制的に休めの体勢をとらされているにも拘らず、なぜかそれに抗うことが出来ない。


「体が・・・」

「不思議な感覚でしょ?でもこれ使うと私も同じ体勢とらなくちゃいけないから使い勝手悪いんスよねぇ」

「私が・・・腕を向けないと能力を使えないと思ってるのなら・・・大間違い」

「そのくらい知ってるっスよ。だから一回話だけでも聞いて欲しいっス」

「あなたは・・・秋が殺されると言った。だからまず・・・あなたを疑うのは当然」


 それも当然のことだ。

 疑わしきは罰せよという言葉があるほどなのだから。今後に悪い影響を与える可能性があるのならばその元を叩けばいいのだ。

 しかもその元凶が目の前にいると分かっていれば尚更放ってはおけない。

 だから、であろう。

 ミスティは今回の件については直接的・・・には秋に関与していないと言っている。


「疑うなら疑ってくれてもいいっス。でも、ここにずっと居ればくろつッチはどうなるんスかねぇ?」

「じゃあ・・・疑わせてもらう。でも・・・今は秋のところへ行く。だから今すぐ離すか・・・やられるか、選んで」

「う~ん。やられるのも嫌だしぃ、簡単に離すのも嫌っスねぇ。でもでも今回は離してあげないと私も痛い思いしちゃうっスからね」


 そう言って休めの姿勢を解くと、蓮の体にも動きが戻る。

 手を握っては開いてを数度繰り返し感覚が戻ったことを自身の体で確認する。


「戻った・・・」

「それは良かったっスね。急いでいかないとくろつッチが、」

「言われなくても・・・行く!阿國くん達には・・・言っておいて。それと帰ってきたら・・・聞きたいことが沢山ある」

「そうっスね。帰ってきたらお話しするっス」


 ミスティからの返事を聞き、窓ガラスの割れた窓から飛び出していく。

 それと同時に阿國と真理が教室に走り込んでくる。


「なにさ、この有り様は。ミスティちゃん、どうなってるさ」

「氷・・・蓮さんはどこに行ったの?」


 蓮が飛び出して行った窓の外から視線を外す。

 振り返りながら、教室の有り様に動揺する阿國達には聞こえないほどの小さな声で、「あなたが帰って来れたらね、蓮ちゃん」と呟く。


 その後、阿國と真理には少しだけ蓮に意地悪をしたから喧嘩になったのだと伝えた。

 この教室の後処理はどうするのかと言われ、秋に任せればいいとミスティが提案してきたので、阿國と真理はそれに乗る事にした。

 だが、阿國はこの時何故か違和感を感じていた。

 なぜ、昨日居なかったはずのミスティが秋の能力の事を知っているのかと。

 ただ、それを問いただす前に麻朝が教室に戻ってきてしまい、惨状を見た瞬間に説教を受ける羽目になってしまった。

 そして阿國はその違和感があったことすら忘れてしまっていた。



 **********


 校庭の巡回をしていた仁達は教室の方から聞こえるガラスの割れる音と、それとは別の場所から断続的に聞こえる破壊音を聞いていた。


「何事だ!!」

「私たちが居た教室の方からと、あとは、」

「あっち、宿舎の方から聞こえる。ガムルジン!!」

「承知した」


 夏輪はガムルジンに目配せをすると、それに応える様に上空へ飛翔して状況を確認する。

 素早く現状を確認すると一旦地上まで下りてくる。


「どうだった?」

「教室の方は窓ガラスが割れておるぐらいで問題ないと思うのじゃが、宿舎の方はどうなっているのかわからん。建屋自体は見た目変わらぬ様だったのぉ」

「宿舎。あそこの巡回は確か・・・秋くんだわ!」

「そうか。彼が居るのなら問題はないだろうが、もしかしたら困っているかもしれない。やはりヒーローの出番か!!」


 いつの間に着替えたのか緋色があの恥ずかしいガイアレッドスーツに着替えていた。

 いまにも飛び出さんとする、緋色の首根っこを仁ががっちりと掴む。


「いててっ! 何をするんだ仁くん!秋くんが困っているかもしれないだろう!」

「いいや、俺達四人はむしろここに残るべきだ」

「そうじゃな。龍の小僧の言うとおりにするが吉じゃろうな」

「なんで!秋くんが一人であそこに居るんだよ?私は行くから!」


 そう言って走り出す沙理の腕を夏輪が掴み引き留める。


「黒土くんなら大丈夫だよ。それに少し考えてみて。もしこちらにも被害が出そうなときはどうするの?誰が護るの?執行委員だけではこの広い学園内は見切れないよ」

「でも・・・」

「秋なら大丈夫だ。万が一にも何も起こらんだろう。それよりこちらに被害が及ぶ可能性の方が大きいかもしれんくらいだ。だからここで待て。信じることも必要だぞ」


 ガムルジン、夏輪、仁に説得され、沙理もここで警戒することにした。

 秋の無事を祈っている。

 全てを破壊し、痕も残らないほど完璧に元に戻し、置き去りにされるほど早く、そして強い。

 だけど、どうしてかわからないが不安が押し寄せてくる。

 だから、祈るしかできない自分に腹が立つ。でも信じなければ。彼の強さを。

 口には出さず、どうか無事である様にと沙理は願った。


 *********


 内府兄弟との感動?の再開を果たし、なぜか舎弟としてこれから俺のお世話をさせて下さいと言って聞かないというか、言ったっきりこっちの話を聞かない集団を束ねる羽目になってしまった。

 現在居るのは宿舎一階の長い渡り廊下。

 途中にすれ違う清掃員さんが怯えきった様子で縮こまっている。

 そんなおばちゃんに邪魔だとでも言いたげに舌打ちする数名。ついてくるまではいいが辺り構わず威嚇するのもどうかと思い、舌打ちした数名を呼ぶ。


「はい、さっきおばちゃんに舌打ちした人はここに来てください」


 内府兄弟以外の全員が俺の前に来て膝に手を置いて頭を下げる。

 俺が気付かなかっただけでみんなしてたらしい。なんて奴らだ。

 今後そう言ったことはしない様にと軽く言うつもりだったが、いかんせんそこはチンピラ様方。

 内府兄弟のなにかに触れたらしく、指導オトシマエをし始める。


「てめぇらコラ!黒土の兄貴の顔に泥塗りやがって!さっきといい反省してないようだなぁコラ!」

「兄貴の言うとおりだ!黒土の兄貴は俺らを思ってついて来いとおっしゃってくれたんだぞ!そのお心遣いにも気が付けないのかお前らは!」

「いや別について来いとは言ってない」

「ならわかるよなお前ら!きっちりオトシマエはつけてもらうからなコラ!」


 そう言って内府兄弟もこちらに振り替えり頭を下げだす。


「お見苦しい所をお見せしてすんません。黒土の兄貴、なんでも言って下さい。きっちり役目は果たさせてください」

「兄貴に免じてどうか」

「黒土の兄貴!」「お願いします!」「なんでもいってくだせぇ!」


 などなど、勝手に盛り上がって勝手に罰をくれと懇願してくる。

 こいつらはドMか! そしてそんな輩を甚振る趣味なんぞ俺にはない!

 かと言って何にもしてやらんとたぶん死ぬまでここに居続けることになるはずだ。

 なにかいい方法は無いかと思っていると、ふとおばちゃんが目に入る。

 いまだに隅の方をせかせかと掃き掃除している。薄汚れた作業着に壊れかけのモップに箒。

 これだと思いさっそく罰と言う名の命令を下す。


「お前ら本当に反省する気があるのか?」

「もちろんです黒土の兄貴!なんでも言ってください!」

「よし、ならこれから三年間毎日この宿舎の掃除をおばちゃん達とする事。おばちゃん達には家族の様に接すること。もちろん宿舎を利用する他の生徒のメンチ切ったりもダメだ。わかったか?」

「はい!!」

「黒土の兄貴がこう言ってくれたんだ!この世から消えるほどの失態をたった三年間の掃除で済ませてくれるっていう温情に対しての返事がそれかぁ!もっと声張れや!!」

「はいっ!!!!!」


 ていよくチンピラ集団に役割を与えることで、毎日付きまとわれる心配も無くなり、かつ集団内と学園内で俺の株も上がる。

 いい事づくめの素晴らしい作戦もとい案だ。


 こうして宿舎内を清掃するチンピラ集団が発足する。

 秋は面倒ごとを避けたかのように思えたのだが、のちにこの集団に入りたいと続々とチンピラが増えていく。

 のだが今はその規模は学園内にとどまらずに増え続けるのだが、今はそれを知る術はない。



 チンピラ達を効率よく排除し終りさっさと宿舎を回ろうかと歩き出そうとした時、先ほどの清掃のおばちゃんが目の前に立っていた。


「ありがとうね。あなたのお蔭でとても助かるわ。重いものを持つにも大変でねぇ」

「いえいえ。気にしないでください。あいつらもやりたくてやってるんでしょうから」

「なにかお礼がしたいのだけど・・・」

「だから気にしないでください。お礼なんていりませんよ」


 おばちゃんは困った顔をして、そうはいってもねぇと頭を悩ませるがすぐに何かを閃いたのか、秋の手をぎゅっと握り笑顔を作る。


「そうだわ、お礼は私の命でどうかしら?」

「は?どういう、」

「私の命とあなたの命でどうかしら」


 握る手にいっそう力が増し、おばちゃんはギチギチと歪んだ笑顔をつくると秋を巻き込み自爆した。


如何でしたでしょうか?

これから夏休みに入りますが更新ペースが心配です。

今回もここまで読んで頂いてありがとうございました。

次回もお楽しみに!!

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