D執行隊
クラス委員長という面倒な事を押し付けられ、それを回避できぬままこのクラスの何たるかを麻朝から聞き、もう何が何だかと言った感じである。
結果良く分かったことが一つある。
面倒事からはどうやっても逃れられないという事だ。
しかも一度逃げたと思ったらおまけつきで戻ってくる素晴らしい仕組みも用意されている。
そんな面倒事の一つである、新一年生で起こるであろう問題事の対処をするという旨を麻朝から聞いた一同はそれはもうあからさまにげんなりしていた。
この話を聞いて憂々としていたのは、戦闘狂と自称ヒーローくらいだった。
麻朝の話を簡潔にまとめるとこうだ。
・今季入った一年生の不正を見つけ次第対処すること(戦闘、データ不正持ち出しなど)
・不正を行った生徒への怪我はよしとするが、過剰な攻撃はしない事
・不正な行為を働いた生徒への最終処罰は学園長が行う
以上の三つが主な注意事項で、その他はこまごまと何かしら言っていたが途中から聞いてない。
そしてようやく説明が終わったところで、ついでにと麻朝が言う。
「Dクラスはこんな感じの特殊性があるから、基本的な授業は受ける必要はなし。ただし!その分、不正な行為や戦闘く行為などへの対処はきっちりとやってもらいます。それと今季がうまくいけば来期も同じ取り組みをするという事になってるから、その辺の対応も来期から増えることになります。だから今のうちに慣れておこうね!」
おこうね!じゃねぇっての。他人ごと感満載じゃねぇか。
そんな中、やる気?殺る気?になっている久人が麻朝の話の後に質問がありますと挙手する。
「麻朝さん、殺しはダメですか?」
「バッカかおまえは!!ダメに決まってんだろ!姉貴に聞かなくても良心あれば殺しちゃいけないってことぐらい分かんだろうが!」
「久人くん、昔っから変わんないね。まぁ秋の言う通り基本的にはダメだけど、どうしようもない場合はOKが出てるよ」
「そら見ろ。ダメなもんはダメ・・・っておい!一部OKなんかい!おかしいだろ!学園長呼べ!あの変人め、生徒死んだらどう責任取るんだよ。なんにも考えなさすぎだろあのバカ島は!」
「秋、さすがに言い過ぎだよ。お蔭で僕は心置きなく殺れるんだから」
「殺るなアホ!どいつもこいつもなんなんだ」
「バカ島はいささか言い過ぎな様な気がするのですが、如何ですか?黒土秋くん」
いつの間にか背後から肩を叩かれ、驚きからおかしな声が出てしまった。
宇城嶋は昨日と全く同じ真っ白なスーツに身を包み貼り付けたような笑顔でそこに佇んでいた。
まるで初めから居たとでも言いたげな感じでだ。
「いつの間に来たんだよ!」
「いつの間にとは失礼ですね。説明が始まってからずっと居ましたよ」
「思ってた通りの言葉をさらっと返すなよ!」
「そうは言われてましても居たものは居ましたからね。それで本題に入らせて頂きますが殺傷の件になります」
「急な本題ご馳走様です。この際どうでもいいとして理由は?」
「そうですね。簡単に言いますと不慮の事故、もしくは能力の暴走により自爆ということになるという事です。後者は言わずともお分かりでしょう。昨日のイエローくんの様になってしまった場合の事を言います。前者の場合ですが、もし、万が一にも生徒の中に殺意人者が出てしまった場合はその生徒を生死を問わず不慮の事故として執行してもいいとの許しを国から頂いています。被害が増えるよりはマシとの見解の様です」
国も国だし、宇城嶋も大概だ。
それを許容して生徒に執行を任せるってどうよ。
文句、不満たらたらと言った顔を隠す気にもならない。
宇城嶋は秋の表情をちらりと見て嫌味なくらいにっこりとほほ笑む。
「そう言う笑顔は久人にしてやってくれ。見てみろ、もう今にも教室飛び出していきそうだぞ」
「久人くんは嬉しそうにしてましたので、秋くんにも共有して欲しいと思っての事だったのですが・・・必要なかったですか?」
「必要ないね。そもそもこのクラス自体必要なし。そんなもん粛清委員会に任せれば万事解決だろ?」
「そうですね。でもそうなると結果的に黒土くんが請け負う事になりそうですが?」
「・・・そうですね」
「そういう事です。だから頑張ってください。おっと、そろそろ私も職務を全うするために戻りますので。それではDクラスのみなさん、黒土先生、よろしくお願いします」
秋以外のクラス全員と麻朝は軽く頭を下げ宇城嶋を見送る。
宇城嶋が音もなく出ていったあとで、麻朝呼びかけのもと、班分けをしてパトロールをすることになった。
主に出向く場所は四つ。
今現在居る校舎内の一年生のクラス周りと校庭と体育館、それと最後に宿舎だ。
クラス周りの巡回には、阿國と真理とミスティと蓮の四人。
校庭は範囲が広い為、沙理と夏輪&ガムルジンと緋色と仁の四人プラス執事。
体育館も中と周りで広大な広さを持っているが、久人がどうしてもと行って一人で見ることになった。
そして俺はと言うと、基本的には日中のこの時間に生徒が居ない事になっている宿舎になった。
こういう時くらい楽してもいいはずだ。
そんな俺の思惑を知ってか知らずか麻朝は元気よく俺達を送り出す。
「さぁ、さっそくこのクラスの初授業よ。D執行隊!出陣!!」
というなんだか中二全開な名前を授かり、各々の担当箇所へと移動を開始した。
宿舎は基本的に一年、二年、三年生で建屋が別になっている。
更に言えばその中で男子と女子も別の建物になっている。
学生という未熟な能力者を抱える学園側での最低限の措置だろうが、実際は各所で起こる小さないざこざが絶えない。
今まででその有り様だったのにも拘らず、今期から新体制での新入生の受け入れとクラス決めなんてもはやどうかしてるレベルだとしか言えない。
そこを押し切ってまでやる必要があるのかといえば、単なる生徒である俺にはわかるはずもなかったし、知る気もないし、面倒事の匂いが今以上にプンプンするし、触りたくも近づきたくもない。
なぜそこまでボロクソに言うのかって?答えは簡単。
面倒事の神様はどこまでいっても俺を巻き込まないと気が済まないらしい。
班分けが終わって、別の班になった蓮をなだめて、教室を後にして、物思いにふけりながら、ゆっくり目的地を目指して歩いてると、宿舎が見えてきた。
後はダラダラと巡回をして戻ればいいだろうと考えていたのだが、その甘い考えは一瞬で消えてしまった。
宿舎前には飲料の自動販売機があるのだが、その周辺にいかにもと言った感じのチンピラ様がたむろしていた。
人数は今いるだけで十人。
大方授業サボってだべっていると言ったところだろう。初日からツッパル事もなかろうに。
ここは華麗にスルーが定石だが、いかんせん自身は巡回でここにきている。
絡みたくなくとも、積極的に絡まなければならない立場である。
しばしの黙考の末今回は初回という事でスルーを選択したのだが、その選択に少しばかり時間を掛けすぎてしまったようだ。
チンピラの群れの横を通り過ぎようとすると、待てと呼び止められる。
ここまで来たら観念するしかない。
この種族は一回獲物を見つけるとしつこいと言う習性を持っているのだから。
ワザとらしくもう癖になりかけているため息を盛大に吐き出す。
「なんでしょうか?俺は忙しいんですが」
「あっそ、お前の事なんか聞いてねぇんだよ。ってかさ、なんか今日暑くね?お前らもそう思うだろ?なぁ?」
「そういやそうだな、暑いな」
「暑い時にはやっぱりキンキンに冷えた炭酸だよなぁ、って偶然にもこんなところに自販機が!」
「おぉ!じゃあさっそく買うか・・・って今手持ちなかったわ。誰か持ってる?」
「ねぇな」「俺も」「財布すらねぇ」
「ってわけだからさ、助けると思ってさ、金置いてってくんね?置いてってくれれば高い授業料も払わなくて済むと思うんだけどどうよ?」
と言いながらポキポキと音を鳴らしながら威嚇しながら取り囲んでくるチンピラ達。
「安い芝居を見せてくれてありがとね。思った通りつまんなかったけどな」
「んだとコラぁ!」
「舐めてっと痛い目みるぞゴラぁ!」
「そっか。じゃあお前らにもいろいろ教えてやるよ。授業料はそうだな・・・それでいいぞ」
そう言って一番初めに突っかかってきたチンピラに手で銃の形を作り、引き金を引く仕草をする。
一瞬怯んだように一歩後ずさるチンピラだったが自身の体を見渡し何も起こらなかったことがわかると鼻でフンと息をつく。
「な、なんだよビビらせやがって、不発かよ。ならこの俺様の能力で・・・」
「お、おい!おまえ・・・頭・・・」
「頭がどうしたよ」
言われ、何ともなしに頭を触ると異変に気付く。
「は?へ?なんで?」
「おっ!スッキリしたじゃないか。なかなかいい授業料だろ?」
「ふ、ふざけんな!俺の髪を戻せ!!」
「おいおい、誰が髪だけだって言ったよ。全身の毛が無くなってるぞ?もちろん下もな」
はっとなりベルトを緩めズボンの中を見ると、赤子の様な姿になってしまったモノが見える。
そんな無様になった息子を目の当たりにしチンピラくんは怒り狂い、その怒りは周りのチンピラ達をも触発する。
「ブっ殺してやる!!やるぞお前らぁ!!」
「はいはい、こっちも面倒事ばっかりでいい加減ストレス溜まってたんだ、さっさと来いよ」
「言われなくとも!殺してやるよ!!」
チンピラどもは能力で生み出したであろう鉄パイプやら日本刀やらを振りかざし飛び掛かってくる。
秋も能力を発動しようと身構えた瞬間、
「てめぇら!待てやコラ!誰の許可で喧嘩してんだコラぁ!」
「おい、兄貴のいう事がきけねぇのか!さっさと出してる能力解除しろやぁ!」
「投也さんに積也さん!どうしてここに」
「あ?俺達がお前の許可取らないとここに来たらダメだってのか?」
「兄貴に許可取れってんならまず俺が相手になるぜ!」
「ち、違うんです。許可もなにもどうしてここにいらっしゃるのかと疑問に思いまして」
しどろもどろになりながらすんません、勘弁してくださいと土下座する元居た十人のチンピラ達。
俺はと言うと突然現れた、たぶん兄弟であろう二人にストレス発散材料を奪われた。
この俺のストレスはどこに向ければいいんだ・・・
なんだか釈然としないので二人の懐に踏み込み鳩尾に一撃づついれてやった。
「はごぅ!」
「どぅえ!」
「勝手に俺の獲物をとるな!まったく、近頃のチンピラは!」
膝をつく兄弟の姿を見たら少しは発散できたような気がしないでもない。
さて、まずは校舎内でも見てこようかと思いながら歩き出すとさっきの兄弟が腹を押さえながら俺の進路を塞ぐ。
まだやられ足りないようだ。
もう一度鳩尾に一撃入れてやろうと構えると兄の方が待ってくれと騒ぎ出す。
「タイム、タイム!黒土の兄貴!俺です、俺ですよ!」
「ん?新手の逃げ口上か?」
「違います!兄貴と俺は黒土の兄貴を探してたんです。そしたらこいつらに喧嘩吹っかけられてるとこを見つけまして」
「弟の言う通りですぜ黒土の兄貴。買った喧嘩に割り込んだことも含めて昨日の無礼のワビ入れさせて下さい。そしたらどうとでもしてくれ!」
「待ってくれ兄貴!そんなこと言ってもいいのか?ここでワビ入れて腕を元通りにしてもらうんじゃなかったのかよ!」
「バカ野郎!!これ以上黒土の兄貴に迷惑になる事言ってるとお前でも許さねぇぞ!それに心配すんな。能力なんぞ使えなくてもやれることなんていくらでもあんだからよ」
「兄貴・・・」
なんか兄弟が涙を流しながら夕方五時くらいからやってそうな青春ドラマみたいな展開になっている。
傍から見れば感動しそうなもんだが、いかんせん俺は当事者になってるらしい。
昨日?あいつらとなんかあったけ?それに腕?
どれだけ頭を傾けても一向に答えが出てこない。まったく思い出せない。
「感動のとこ悪いんだけど、お前らダレ?」
「えっ?」
「あ、あの黒土の兄貴?聞き違いかと思うんですが、俺達が誰だか分からないって言いましたか?」
「そうだな。全くわからん」
「そんな、俺ですよあのナイフ投げる能力使ってた奴ですよ!」
「そんで俺は兄貴の投げたナイフを増やしたりしてたじゃないですか!」
「あぁ~確かにそんなんが居たような居なかったような」
ガックリと膝を落とし首を垂れる兄弟。
その後、兄弟からの必死の力説によりうっすらと記憶を取り戻した俺は、【破壊】で消えてしまった腕を【再正】で戻してやった。
兄弟は嬉しさと感謝から泣いて頭を下げ、それに追従する様に初めに喧嘩を売ってきたチンピラ集団も頭を下げた。
ようやく解放されそうな雰囲気が漂ってきたので、やることがあるので戻ると切り出すと、兄弟及びその他チンピラが喚き出す。
「おぅ、お前ら!黒土の兄貴がなにか困ってるそうだ!手ぇ貸せねぇなんて奴はいねぇだろうな!」
「お、おいお前らちょっとまっ・・」
「兄貴を救って頂いた恩義を少しでも返すんだ!できない奴らは今すぐ出て来い!ワビ入れてやるからよ!」
「だから勝手に・・・」
「わかったかお前らぁ!」
「おおぉぉ!」「わかったぜ積也さん!」「血がたぎる!」「やってやる、やってやるぞ!」
なぜか一致団結してチンピラ達は俺の巡回を手伝うと言いだした。
変なテンションになってる奴もいるし。一人の方がどれほど気楽にできただろうか。こいつらめっちゃ邪魔!
空気の読めないチンピラ達は兄弟を筆頭に後に続けとばかり後ろに並ぶ。
そこで兄の方がそう言えばと口を開く。
「すんません黒土の兄貴。まだ名前も名乗ってなかったぜ。俺は内府投也です。んでこっちの弟は、」
「内府積也です。投也の兄貴、共々よろしく頼んます!」
「よろしく。んで頼むって言われても何もできなないんだが」
「黒土の兄貴はドシッと構えてくれてればいいっすよ。あとは舎弟の俺達が動きますんで」
「舎弟にした覚えなんか全くないんだが」
「任せて下さい、黒土の兄貴!俺達が全て蹴散らしますから!」
こいつら全く聞いてねぇ・・・
面倒事がどんどん増えていく気がする。
もはや全力でため息をするほどに本気で嫌になってきた。
こうして何故か舎弟を手に入れた俺は、諦めと共にゾロゾロと軍隊の行軍の様に宿舎の中へと入った。
如何でしたでしょうか?
今回もここまで読んで頂いてありがとうございます。是非ご感想頂ければと思います。
次回もお楽しみに!!