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学園生に、破壊と救いと無敗の力を  作者: サトウ
夏 ~戦闘編~
32/57

推薦金髪と憤り

新章始まって、新キャラ投入です。

 麻朝はいまだ若干よろめく足を引き摺りながら歩いていくと、体を支える様に教卓に手を置き秋を一睨みする。

 一瞬あった視線を首を背けることで回避しこの場をやり過ごす。

 麻朝にも教師としての威厳があるらしく、この場は潔く引き下がったように思えたがさらりと一言落としてきた。


「みんな、午後開始の前にまずは推薦枠で入った子が来たので紹介するわね。っとその前に、黒土秋くん、遅刻した理由を知りたいので後で体育教官室まで来るようにね!」


 ね!の後にハートでも付きそうな感じだが、目が一切笑っていない。

 次行ったときはさっさと治してやらないと殺される。

 麻朝に向かい親指を立て了解しましたと満面の笑みで返す。

 それを受けた麻朝はやはり笑顔だが目だけは笑っていない。俺の命もあと数分と言ったところだろう。

 俺の地獄行が確定してことでそこはさておき、推薦枠の特別生の存在を思い出す。

 まだ教室の入り口に立ちつくしている。

 麻朝も忘れていたらしく慌てて手招きしてここまで来いと促す。


「ごめんごめん。さっさと入りたかったわよね、それじゃあさっそくで悪いけど自己紹介をお願いします」


 麻朝の横に立つ金髪の女の子はすっと腰を折る。

 元の位置に頭を戻しその長髪をさらりと一撫でして顔にかかる髪を寄せる。

 満面と言っていいほどの笑顔でニッと笑うと、このクラス人数に対してのものとは思えない大きな声で自己の紹介を始める。


「こんにちは皆さん!名前はミスティ・ロードでッス!見た目は気にしないでどんどん絡んで下さいッス!特にくろつッチ、キミの事がすっごく気になるからいっぱい絡んでね!」


 ウインクしながら人差し指をピンと立てる仕草をする。

 一般人の有象無象共ならあれでコロッとイっちまうんだろうが俺は違う。

 てか、くろつッチってなんだよ!いきなり馴れ馴れしいな。嫌ではないけど・・・

 なんて思いながら隣の蓮をちらりと見ると、私は気にしてないよ?って顔で上目づかいで俺を見つめてくる。信頼してくれているのだろう。

 嬉しさと幸せがこみ上げてくる。

 まぁ机の下の手は俺の太腿を千切れるくらい抓りこくっているが気にしない。そこは気にしちゃダメだ。

 俺も蓮に汗をダラダラ流しながら笑顔を向ける。

 蓮との様子にミスティはムッとした表情をして、手のひらを上に向け立てた人差し指をクイっと自身の方に向ける。

 すると蓮の方を向いていた俺の首がいきなりミスティの方へ向く。


「あでっ!なんだ?首がっ」

「ようやくこっち見てくれたね、くろつッチ。ミスティ・ロードだよ!私の事はミスティって呼んでね」

「っててて。ミスティだよ!てへっ!じゃねぇよ。いきなりなんだ・・・よ、あの・・・蓮さん?」


 と、ミスティに対し怒りの抗議をしていたら異常なまでの冷気を感じ、その発信源へとゆっくり視線を移動させる。

 やはりと言うべきか、蓮が静かにキレていた。

 教室全体がビキビキと音を立て凍り始めた。


「さ、さぶっ!蓮ちゃん、いったん落ち着こうさ。な?」

「蓮さん落ち着いて、秋くんは大丈夫だよ」

「おぉ~、やれやれ~。修羅場かぁ~」

「蓮くん。僕の熱意に応えてその冷気を抑えてくれ。ガイアレッドからのお願いだ、と言うか寒いのでお願いします」


 約一名まあさ以外、みんなフォローありがとう。感動で涙が出るわ。

 クラスが決まった初日から団結できるのも珍しい話である。まぁ団結の矛先が多少はおかしくとも許されるはずだ。

 だが、蓮とミスティはそうもいかいない様子だ。

 蓮は秋にちょっかいを出され怒りを通り越し殺意を抱いてる様子。

 一方ミスティはその蓮からの殺意も気にも留めず蠱惑的な笑みを浮かべながら秋を見つめていた。


「くろつッチはさ、彼女とかいるッスか?」

「それは、当然い、」

「いないよねぇ。ならさ、私と彼女になってよ!今ならこれも食べ放題ッスよ?」


 そう言って秋の大好物である、女性だけが天より授かったたわわに実る二つの果実を見せつける様に持ち上げる。

 そして蓮の胸を一瞥すると勝ち誇った様にフンと鼻を鳴らし、秋には召し上がれ?とばかりに前かがみになって上目づかいで訴える。

 男はどうしてこうも単純なのだろうか。

 頭ではNO!と叫んでいるのだがどうしても視線が釣られる。目の前のご馳走に意識が持っていかれるのだ。

 そんな秋の様子見た蓮は、頬を膨らまし、秋の足の小指をピンポイントで狙い氷塊を落とす。


「いっだ!蓮さん、一体何をするんですか」

「秋・・ずっと、あいつの胸・・・脂肪の塊見てた」

「えっと、それはその、」

「くろつッチは大好きなんスよね。わ・た・し・の・む・ね!」


 うぐっ。嫌いだと否定できない。

 そして俺は今この瞬間に悟る。ここは嘘でも偽りでも一泊の間も空けずに否定する場面だったのだと。

 何度目になるだろうか、隣を見るのに躊躇するのは。

 ちらっとだけ隣を視界の端に見ると、予想に反して蓮は俯き黙っていた。

 いつの間にか教室に広がる冷気も消えていることに気が付く。

 いつもの調子だとキレに切れて、秋が謝ってそれで終わりだったのだが、なぜか蓮は自己鎮火させてしまっていた。

 訝しくというか心配に思い秋が声を掛けるも無反応。

 俯き、さらさらとした綺麗な黒髪に阻まれ表情が見えない。

 場の雰囲気が違う意味で冷たくなるのを避ける様に、麻朝はバンバンと教卓を叩き注意を自身に向けさせる。


「まぁなんだか微妙な感じになってしまったけど、今日から入るミスティ・ロードさんです。つきなみだけどみんな仲良くする様にしてね。それじゃあ、一旦休憩にするから二十分後にまた席に着くこと。ミスティさんは端の緋色くんの隣の席に座ること」

「えぇ~、私はくろつッチの隣がイイっス~。今から席替え希望!」

「いいから座りなさい!ほら緋色くん、連れて行って」

「わかりました、先生。さぁこの正義の味方・ガイアレッドこと緋色ひいろ正義まさよしについてきたまえ」

「うっわ、だっさ。この歳でヒーローとかキモイッスね。自分で行けるので触らないでくれますか」

「がっはぁ!」


 口から血を吐き倒れるレッド。

 みんなそう思ってたよ。みんな君の存在に優しかったのさ。

 むしろ今この段階で言ってくれたミスティに感謝しなさい。大人になったらもう事故とか事件扱いされるからさ。

 ひっそりと黙とうを捧げるクラス一同。

 麻朝は酷くなってきた頭痛に顔をゆがませさっさとこの場を去ろうと思い締めくくる。


「ハイそこまで。じゃあ二十分後に席についててね。その時にこのクラスの役割を言うから心しておくようにね。以上!」


 有無を言わさぬ勢いで締めくくるとさっさと教室の外に出て行ってしまった。

 顔が青ざめてきてたから、行先はトイレだろう・・・

 とそんなことはさておき、蓮に話しかけようとしたのだが姿が消えている。

 当たりを見回すとちょうど教室から出ていくところだった。


「蓮、どこいくんだ、待ってくれ」

「どこでも・・・いいでしょ。秋には・・・関係ない」

「関係ないってそんなこと、一度話を、」


 そこまで言いかけると麻朝が教室にひょっこり戻ってきて、蓮と秋の間に割って入る。


「っと、言い忘れてたけど黒土秋くん。今すぐ体育教官室に来てね」

「姉貴。いまはちょっと、あとにしてくれ」

「いますぐって言ったのよ?わかった?」

「後で必ず行くよ!今は蓮と話が、」

「だから!今すぐ来なさい!蓮ちゃんの為でもあるの!わかったらすぐ行動!」

「ッチ。・・・わかったよ」

「素直でよろしい。秋のそういうとこ大好きよ。それじゃあまた後でね、私は一度教職員室に寄ってからいくからね」


 麻朝とのやりとりの中ほどから、蓮は何も言わずにどこかに歩き去ってしまった。

 一時の欲とはいえ、違う女性に意識を向けてしまった、それになんだか今日は朝から蓮を怒らせっぱなしな様な気がする。

 そう思いながら体育教官室に足を向けた。


 **********


 重い足取りで体育教官室までダラダラと歩くと、もう既に麻朝は中に居るようだった。

 扉の前にまで行くと、来たことが分かったのかすぐにはいってもいいよと声がしてきた。

 別段悪いことはしていないはずなのだが何故か少し緊張しながら中に入る。


「遅かったわね。すぐ来なさいと言ったはずだけど、まぁいいわ、まずはここに座りなさい」


 そう言って麻朝は立ち上がり、座っていた背もたれ肘掛付きの高級そうな椅子を差し出してくる。

 そして麻朝自身はと言うと、教官室に備え付けてある救急用の簡易ベットの淵に座る。

 簡易ベットとは言っても、麻朝が持ち込んだのであろう柔らかそうなマットレスがその上に敷かれている。

 余程、居心地をよくしたいらしい。

 昨日は、急いでいた所為もあってかよく見ていなかった場所が気になってきて、ついつい部屋の中を物色してしまう。

 そんな秋の様子に麻朝はため息交じりに軽く注意をする。


「こらこら。あんまり女の子の部屋をジロジロみないの」

「あ、ご、ごめん。でも女の子ってのはどうなん、だぁあちっちち!すんません!」


 失言でした。十分女の子です。

 でも、それでもいきなり燃やすとかどうよ。

 恨めしげな眼で訴えるも、また何か言ったら燃やし尽くすと言わんばかりの眼光に寒気を覚え口元をきつく結ぶ。

 そこから十秒ほどの沈黙ののち、麻朝は再度ため息をつきつつ秋に質問を投げかける。


「まったく・・・で?わかった?」

「なにが?質問が突飛すぎて意味すら分かんないんだけど」

「わからないの?」

「だからなにが?」

「はぁ・・・やっぱりあなたはわかってなかったかぁ」


(なんだ?なにが分かってないんだ?今のやりとりで何が分かるってんだよ)


 自問自答してみるがまったくわからない。だったら早々に聞き出すべきだ。

 本当ならこんなところでのんきに油売ってる暇など無いのだから。

 若干のイライラを乗せつつ麻朝に質問の答えを催促する。


「いったいなんなんだよ」

「教えてください、でしょ?」

「くっ、お、教えてください」

「よくできました。可愛い秋くん」


 下げた秋の頭に、麻朝は優しく手の平を乗せゆっくりと撫でる。

 いつもなら恥ずかしさと屈辱ですぐに振り払うのだが、なぜか今はその行為に安心を得ていた。

 落ち着いてきた秋の様子を感じ取り、麻朝は口をひらく。


「いまの私と秋のやりとりを覚えてる?」

「やりとりって、なにかしたっけ?」

「そう、いま秋はなにかしたかな?って思ったでしょ?それくらい私とのやりとりが普通にできていた。でも蓮ちゃんとはどう?」

「どうって、」

「いつも通り普通に出来てた?背伸びしてなかった?気遣いすぎてなかった?」

「それは・・・」

「そう、それが出来ていなかったの。いつもの秋じゃなかった。蓮ちゃんの事を好き過ぎて周りどころか自分も蓮ちゃんすらも見えてなかった」

「・・・・・」

「いつものあなたなら、女の子の胸見てからかわれたって冗談言ってうまく切り抜けられたでしょ?でも相手を想い過ぎて傷つけない様にって庇い過ぎて、自分で抱え込み過ぎて、いつものあなたらしさを無くしてた」

「そうだったのか。蓮にいらない気を遣わせてたのは俺だったのか」

「ようやくわかったわね!お姉ちゃんは安心したわ!」


 心なしか、今の自分よりも晴れやかな顔をした麻朝の顔を見た気がした。

 このあと、落ち着いたんだから少し付き合えと麻朝にお茶を勧められ無駄話に花を咲かせた。

 やれ他の男教師がウザいだの、視線がエロいだの。ストレスが溜まっている様だった。

 麻朝の愚痴から解放されたころには休憩時間の二十分はもうすぐそこまでせまっていた。

 蓮の事が気になり、麻朝を見るとニコッと笑っていきなさいと促す。


「次のクラスについての説明も私が担当するから大丈夫よ。みんなにはうまく言っておくし、説明なら後でいくらでも出来るからね。それにあの様子じゃ蓮ちゃんは次の時間は来ないだろうしね」

「姉貴・・・ありがとう。じゃあ行ってくる」

「いってらっしゃい。秋、いつも通りにね!」

「わかったよ、サンキューな!」


 軽く麻朝に礼を言って体育教官室を後にした。


「これでいつも通りかな。頑張れよ秋くんっ」


 いつにもましてお節介かとは思ったが、本当に素直な弟でよかったと心から思う麻朝だった。


 **********


 蓮は学園の最上階からのびる階段を上り、屋上の隅に置かれた椅子に一人、膝を抱えて座りこんでいた。


「秋の、馬鹿・・・でも、私は・・・もっと馬鹿」


 なんてことはない。男の子だったらあの反応は健全な証拠。

 むしろそうでなくてはいろんな意味で疑ってしまう。主に性的な意味で。

 そんなくだらないことに目くじらを立て、言い寄ってくる女子にも八つ当たりして・・・

 もう自分はいったい何をしているんだろう。

 自己嫌悪に押しつぶされそうだ。

 蓮は燐に話しかけようと心に沈もうとした時、思わぬ人に声を掛けられる。


「こんにちわ。蓮さん・・・だったよね?覚えてますか?」

「七宮・・・先生?」

「そうです!覚えていてくれて嬉しいです。ところでなにかお悩みですか?こんな時間にこんなところに居ると怒られますよ?」

「悩み・・・かもしれないけど、大丈夫。燐と・・・話がしたいだけ」

「そうですか。貴方の中に居る東城燐さんとですよね?」

「そう」


 七宮はそうですか、と優しく微笑んだ。

 そして、蓮の手を包む様に握り、


「何かあった時は力になりますからね」


 と、一言残して振り返り、扉の向こうに去って行った。

 七宮は、さっきまで作っていた笑顔を醜悪に歪ませる。


「ふふっ。思わないところでいい人に出会えたわ。これでまた一つあの方に褒めてもらえるわ」


 くつくつと笑い、ヒールの音を響かせ階段を下りて行った。

いかがでしたでしょうか?

今回もここまで読んで頂きありがとうございました。

次回もお楽しみに!!

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