クラスメイトと面倒事の始まり
遅くなりました。
最新話です。ここから新章開始です。
「秋・・・起きて。秋・・・」
窓から差し込む光を拒絶する様に絞められたカーテンがいつの間にか全開になっているらしく、まぶたをガンガン照らしてくる。
だがそんな不快な太陽の光とは裏腹に蓮の可愛い声が耳に優しく響いてくる。
呼び起されたはずだがその心地よさに再度睡魔が押し寄せてくる。
「蓮・・・頼む・・あと少し、だけ・・・・」
「秋、お!き!ろ!」
「起きろ・・・って、言葉が汚いよ・・・蓮。だからもう少しぃ・・・いいいあっちちちち!!」
「だから起きろって言ってるだろ!!この寝坊助が!!」
天国が一転、一気に灼熱地獄へと叩き落とされる。
髪についた炎(もはや火と言うレベルではない)を消そうと走り回るが、消した端からすぐさま点火される。
そんな地獄を数回繰り返し、転げまわりながらようやく火が消えた時には俺の大事な頭髪も部分的に消えていた。
これで俺が五十代のおっさんだったら死を決意していただろう。それほど壮絶な部分ハゲ。
燃える頭の事に手いっぱいで犯行に及んだ奴をまだ見ていなかったが誰だかはもうとっくにわかっている。
「お前は鬼か!!俺だからいいものの俺以外にやったら犯罪者だからな、このクソ姉貴!!」
俺の怒鳴り声に苦しむように頭を押さえベッドに転がる姉貴。
どうやら忠告したにも係わらず性懲りもなくまた飲み過ぎたらしい。
「おはよう、秋。とにかくどうでもいいから、お願い・・・治してぇ~」
「頭燃やした相手に治せとか理不尽にもほどがあるだろ!今回ばかりは嫌だ!反省しろ!」
「そんなぁ~、お願い・・治して・・治してくれたらあなたになんでもするから・・」
そんなことを言いながら着ている薄いピンクのシャツのボタンに手を掛け、一つづつ外していく。
三個目まで外すと服の下に隠れていた形の良い山々がのぞく。
谷間を見つめ顔を真っ赤にしている秋をベットに引きずり倒し、着ていた薄手の寝巻用シャツを捲り上げる。
胸板にすっと指を這わせながら下の方へと移動させていく。
抵抗できない秋に満足気に妖艶な笑みを向け、顔を近づけていく麻朝。
もうなるようになれと秋は目を泳がせると、その視界には氷の中に佇む般若が映り込んだ。
「おはよう・・・秋。ずいぶん・・・楽しそうだけど・・・その女、誰?」
窓がビキビキと音を立てている。振り返ると外が見えないほど凍てついたガラスの音だったようだ。
そんな違う意味で固まる秋に変わって、麻朝も不機嫌全開で口を開く。
「誰とは失礼な。私は秋の姉よ!用があってきたんだからさっさと出ていきなさい」
「おいコラ!語弊のある言い方するな!ねぇ、蓮さん違いますよ、この人は決してそう言った人じゃ・・・」
「秋の女・・・ねぇ、秋・・・どういう・・・事?」
「き、聞いてねぇ・・・あの、ですからね・・・」
更に下がる温度。
その所為なのか何なのか口がうまく動かせずにどもりまくってしまう。
「ちちち、違うんだ。っこ、これは、その、えっと、そうだっ!そう!姉貴です!俺の姉!黒土麻朝です!」
「ふーん、分かった。・・・で、秋は・・・巨乳だったら、実の姉でも・・・そういう事するんだ。へぇ・・・そう・・・」
「そうよ!秋は世界で一番姉さんが好きって(小さい頃)言ってくれたんだからね。それにあなたこそ何?なんでこの部屋に勝手に入ってきたわけ?」
「おい!なんでお前はこじらせようとするんだ!」
「一番・・好きなの・・・そう」
凍りつく部屋の温度が、すっと暖かさを取り戻す。
蓮は理解してくれたようでホッと胸をなでおろし、麻朝をどけ立ち上がる。
「そういう訳だから蓮、こっちのはただの姉だから気にしないでくれ」
「・・・・・・」
「蓮?」
部屋の温度は確かにもどった。
だが、蓮の温度は更に下がっていた。
俯きながら蓮が右手をすっと前に突き出すと、そこには冷気でガッチガチに固まった拳大の氷の塊が浮いている。
全身から嫌な汗が止めどなく吹き出してくる。
秋はその後の自分を覚悟して恐る恐る蓮に口を開く。
「あの、そ、それはなん、ですか?」
「秋の・・・・」
「?」
「秋の・・・・」
「どうした?」
「バカぁぁぁぁぁぁ!!!」
目にも止まらぬなんてのは所詮、大げさに言っただけの代物だと今まで思っていたがそれは間違いだったらしい。
避けようとするとか、防ごうとするとか、そういったことが一切できないまま眉間にいつのまにかクリティカルヒットを受けたんだから。
ゆっくりと後ろに倒れながら意識を失う瞬間目にしたのは、真っ赤な目をして涙を流す蓮の姿と、俺のベッドに口から戻ってきたキラキラ物質を撒き散らし横たわる麻朝の姿だった。
**********
意識が戻った時には、すでに時計の針は十時を軽く過ぎて十一時に差し掛かろうかと言うところだった。
そこには蓮と麻朝の姿は当然なく、あるのは置いて行かれた虚しさとベッドに残るキラキラ物質だけだった。
そこからはまず、ある意味奇抜になってしまった髪型を元通りに治し、ベットも昨晩の綺麗な状態に戻す。
眉間の傷は取り敢えずそのまま。謝罪?なのかは分からないが、まずは反省しているところを少しでもみせなければ。
しかしほんと【再正】がなかったらと思うとぞっとする。
もちろん麻朝もそこのところは理解しているだろうけど、実際どこまで理解されているかが不明だ。
そんなこんなで結局、クラスについたのはちょうど飯も食い終わったの一二時半頃だった。
いくらなんでも実質、初日の登校で午後からの大遅刻は反省してます。すみません・・・
さて、中に入ると約四十人が入るであろう教室の中には十セットの机と椅子が二列に並べられ、それぞれが談笑していた。
同じクラスには見知った顔ぶれがほとんどだった。
「おっ、ようやく来たさ。この遅刻魔め」
「黒土くん、昨日はありがとうね」
「黒土殿、昨日は夏輪の言う通り世話になったな。何かあればこの執事めに何なりと言ってくだされ」
「黒土くんおはよう、でいいのかな?」
「秋くん、おっはよう!席は私の隣だよ!」
上から順に阿國、夏輪、ガムルジン、真理、沙理だ。
一日しか経っていないが変わらずに騒々しい奴らだ。
簡単に挨拶を済ませて、視線を巡らせると久人と仁が近くまでやってくる。
「おはよう、秋。なんだか朝から大変だったみたいだね」
「そのようだな。蓮も何故か機嫌が悪いのだがなにかしたのか?話しかけてもいつも以上に素っ気ないのだが」
「まぁ・・・いろいろあったんだよ」
心配してくれる仁の隣で面白いものをみる目で訴えてくる久人。
俺はなんだか遠い日の出来事のようにうつろになり返事をする。
自席まで移動してその遠い日の出来事が、ついさっきの事だと思い知る。
右隣に沙理、左隣に蓮&燐の配置。退路は断たれた・・・
ならば先手必勝。
席に着くと、秋に対し壁を作るように頬杖をついてそっぽを向く蓮に、後ろから耳元にそっと一言伝える。
「今日、全部終わったら俺の部屋にきてくれないか?」
ゆっくりと振り返る蓮の顔は真っ赤になっていた。
そして俯くと、少しのタメを置いてわかったといってくれた。
言葉だけを聞くと素っ気ないものだが、蓮の表情までを見てしまうと嬉しそうにしているのはよく伝わってきた。
そこからはあの惨劇が嘘だったかのように蓮が絡み付いてきて腕にスリスリと頬ずりしてくる。
「蓮はかわいいなぁ」
「ありがとう・・・秋。うれしい」
当然だ!こんなにかわいい子が彼女なんて幸せすぎる!
それに先ほどから腕に大きくはないがハリのある、男にとっての夢物質二つがフニフニと当たっている。
もう!リア充万歳!!
感動の余韻に浸っていると俺の幸せと蓮の笑顔を沙理がバッサリ切り捨てる。
「秋く~ん。それってどういう事かな?かな?私にはそこの雑草女が彼女っぽくなっている様に見えるんだけど気のせいかな?」
「ふん!・・・そうだよ。秋は私の事が好きなんだよ、貧乳妹さん・・・」
「秋くん!雑草が言ってることは本当なの!?」
「えっと、その、まぁそんなとこかな・・・」
驚きと嫉妬のあまり固まる沙理。
だが昨日の戦いで沙理も諦めないことを学んでいたらしい。
嫉妬の眼差しから一転、蓮に向かい人差し指を向け宣戦布告する。
「今は仕方ないけど、いつか必ず秋くんを振り向かせるんだからね!」
「やってみるといい・・・所詮他人から盗む以外・・・何も出来ない・・・貧乳だから」
「それとこれとは関係ないでしょ!!雑草は雑草らしく潔く地べたで枯れてなさいよ!」
といった感じで延々と続きそうなのでここからフェードアウトする。
頑張れ蓮。負けるな沙理。
それじゃあ俺は一旦、残りの二人が気になるので抜けます。
それでは残りはと・・・・いない。
っと言ってる側から暑苦しい奴が教室にインしてくる。
購買にでも言っていたのだろうか、パンを片手に鼻歌混じりでスキップまでしている。
そして三歩目のスキップで突然こっちを見ておっという顔をしてまっすぐ俺のところへ。
「ようやく会えたな黒土秋。俺もお前の様になりたくてDクラスに入れて貰ったのだ!喜べ、今日から俺とお前は親友だ!」
「・・・・どうもはじめまして黒土秋です。何やらわたくしの事をご存じの様ですね。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。それではごきげんよう」
「ああ!ごきげんよう!・・・・・じゃなくてだな!俺だよ俺!」
「一昔前の詐欺師のセリフを吐く知り合いはいませんので」
「なんで分からないんだよ!仕方ない、ちょっとそこで待ってろ!」
そう言って一昔前の詐欺師は自分の机の横に下げてあるバッグをごそごそ漁って何やら取り出した。
ん?何故かあのカラーに見覚えがあるような。
そしてそれをすぐさま身に着けるとくるりと振り返り、またしても見覚えのある決めポーズ。
「思い出したか?そう、なにを隠そうこの俺がガイアレッドだったのだ!」
「な、なんてこった~。びっくりした~。それじゃ」
もう終わりですとばかりにビシッと手をかざして去ろうとすると俺の脚に必死に喰らいついてくる。
「頼む!待ってくれ。せっかく着替えて正体まで明かしたのに本名すら聞いてくれないなんてあんまりじゃないか」
「え?もうレッドで良いだろ、面倒だし」
「そこは聞いてくれ!頼む!」
「はぁ、わかったからもう脚から離れろ。んでさっさと名乗れ」
レッドはさっきのやりとりを無かったことにしたらしい。
そんなに教えて欲しのかとか、仕方がない奴だなとか、教えてやってもいいがとか面倒な芝居を一人で演じ中だ。
もういいやと思い去ろうとするとまた脚にしがみついてくる。
こんなやりとりをあと三回繰り返してようやく本題に入っていった。
名前は、緋色 正義。
覚えやすいなんてもんじゃないくらい正義の味方な名前だった。きっと親御さんもそっち系が大好きだったんだろう。
心配しないでください、息子さんはお名前に誇りをもって生きていますよ。
窓の外に向かいレッドの親へのメッセージを呟く。
このあと更に暑苦しいほどのヒーロー講義を開始しようとしたので、ほとぼりの冷めた蓮に頼んで椅子に座らせた状態で凍り付けにしてもらった。
もちろん口を塞いで。
ようやく落ち着きを見せた頃に、午後からの授業開始のベルが鳴り響く。
なんだか登校してからこの数十分の間で相当疲れたな。
机に突っ伏し顔だけ前に向けるといまだに一席だけ空席だった。
不思議に思い隣の蓮に聞いてみる。
「なあ、まだ一席空いてるけど、あの席の奴も遅刻か?」
「さぁ?・・・私は知らない」
首を小さく左右に振り小首を傾げてくる。
かわいいなぁなんて思いながら、蓮の頭をなでなでしていると隣の席から沙理が割り込んでくる。
蓮はムッとしているが構わず沙理は話に参加してくる。
「そこの雑草はちゃんと話を聞いていない様だから教えてあげるけど、前の子は女の子みたいだよ。午後から先生と一緒に来るんだってさ。なんでも今年ただ一人の推薦枠で入ったって話だよ」
「他人の事なんて・・・どうでもいい・・・秋の事さえ知ってれば・・・いい」
「蓮・・・」
見つめ合いピンクフィールドを形成すると、再び沙理が割って入ってくる。
そこからまた沙理と蓮が俺を挟んでギャーギャー騒ぐ。
その騒ぎを断ち切るように、教室の入り口の引き戸がガラガラと引かれる音がした。
そこには、たぶん担任になったであろう俺の姉の麻朝(まだ酔いが抜けてないらしく青い顔をした)と、金髪ロングで目の青い、まるで造られた人形のような女の子が隣に佇んでいた。
如何でしたでしょうか?
是非ご感想お待ちしております。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回もお楽しみに!!




