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それぞれのその後……

今回で終わりなので短めです。

 仁は自室に戻り外の部屋がどたばたと騒がしい中、手紙をしたためていた。

 隠れ里にいる龍人なかまに向けてだ。

 今日はクラス決めも終わり、明日から本格的に学園生活が始まること。

 黒土秋という規格外の能力者が居るということ。

 そして学園に対し、自身が龍人であることを暴露したこと。

 最後に、里の安否確認と自らは無事であることを綴った。

 綴る事は山のようにあったが必要最小限にとどめた手紙を里から受け取りに来た、体長50センチくらいの小さな幼竜の口に咥えさせる。


「大丈夫かと思うが用心しろ。ここの学園長は何を考えているか分からん」

「クアァァ!」

「どれ、行く前に幻を掛ける。姿は見えなくなるが辺りには気を付けろ」

「クアッ!」


 仁に透明に見える幻を掛けてもらい、元気よく窓から飛び出していった。

 あの様子だったら三日程度で着くだろう。

 そう思い、これからの学園生活と自身の里の事を想い幼竜の飛び立った窓の向こうを眺めるのだった。


 **********


 一方、久人も同じく明日から始まる学園生活に期待していた。

 今回の戦闘で戦えなかった強い奴もまだまだ沢山いるだろうし、上級生の中にも驚くよな能力者が居るかもしれない。

 それに宇城嶋学園長も何やら不穏な動きを見せている。


「楽しみだな〜、それに秋も強くなってたなぁ。いずれは戦いたいな。そうなったら敵同士かな…」


 久人はどこまでも戦いに対し貪欲だった。

 たとえ友人だろうと家族だろうと強い能力者と戦うことが彼が彼でいられる証になる。

 クラス決めの際は一度しか戦えなかったから正直に言えば不完全燃焼だ。

 夏輪とガムルジンもなかなかだったけど、覚醒・・を使う程の強敵でもなかった。


「まぁでも実際は一度も覚醒能力を使って戦闘したことは無いんだけどね。使いたかったなぁ」


 と小さな電飾がともる部屋の真ん中で小さく呟いた。

 でも使えるときはもう少し先になりそうだ。

 見た限りではこれを使うまでに追い込まれるもしくは楽しめる相手は秋か仁だけ。

 その二人しかいない特別に手を出して早々にお腹いっぱいにしてしまってはもったいない。


「だからもう少し……もう少し我慢するね、秋」


 こぼれた笑みと言葉は夜闇の深さに沈んでいった。


 **********


「あれからそこまで経ってはいないですが、首尾はどうですか?」


 当然順調に進んでいるのだろうとでも言いたげに宇城嶋は七宮に伺う。

 青く透明の水の様なものに満たされた巨大な水槽に浮かぶ実験体から目を外し、七宮は恍惚とした表情で振り返り肯定の言葉を口にする。


「はい、マスター・・・・!思わぬイエローサンプルのお蔭で、三体の素体の状態は安定しています。やはりイエローサンプルの強力な自己蘇生能力と流体生物特有の形状変化が良い影響を与えていると考えられます」

「そうですか、それはよかった。今回のクラス決めを無理をして慣行した甲斐がありましたね。治療と言う合法的・・・な建前も作ることが出来ました。これで残るは素体への能力の封入作業ですね」

「はい。それにあたっては封入する為の強力な能力者を仮死状態で九名用意しています。しかし詰めとなる能力の移譲能力を有する者がまだ用意できておりません。申し訳ございません」

「七宮先生、なかなか見つからないのも無理はありません。能力の性質上、他人に能力を移すなんて能力は、知れれば大抵の場合それを利用しようとする組織に捕らわれてしまうのが当然です。ふむ、どうしたものか」


 少しの間目を閉じ、人差し指で眉間をトントンと軽く叩く仕草をする。

 心配そうに見つめる七宮の視線は無視して、ゆっくりと目を開き確認する様に呟く。


「東城家の【撃鉄】・・・彼女は確かさきのクラス決めの戦闘の際に能力を二つ使っていましたね」


 宇城嶋の呟きに間髪入れずに七宮が応える。


「はい。戦闘データや生徒への聞き取りの結果から東城とうじょうりんは、その体の中に東城とうじょうれんという別の人格、もしくは精神を持っているという事が分かりました。更に、燐と蓮で扱う能力が異なるとのことでした」

「ほう。では表面側に出てきている人物によって扱える能力が変わるという事でいいのですか?」

「そういうことだと思われます。現に、その場で戦闘を見ていた生徒の話ですと、氷の力を使ったあたりから性格が変化したという事も確認が取れています」


 宇城嶋はそうですかと七宮に簡単に答え、再び目を閉じる。

 数分が立ち、考えが一通り纏まったのかおもむろに立ち上がり指示を出す。


「七宮先生、明日中に東城家の当主に連絡を取ってください。宇城嶋が話をしたいと言っていると言ってくれればいいです。くれぐれも言動には留意してください。四方陣家の一角であることを忘れずに。できますね?」

「は、はい!お任せ下さい!」


 薄く微笑む宇城嶋の顔を見て腰が砕けそうになった。

 七宮はすんでのところで足に力を入れ、何とかへたり込むことは無かったが、あまりの嬉しさに恍惚の表情をしてしまっていた。

 その顔を隠す様に深く腰を折ると、宇城嶋からの命令を実行するためにこの場を後にした。

 そんな七宮を変わらぬ表情で見送り、姿が見えなくなると巨大な水槽に浮かぶ素体へと視線を転じ、独り言をつぶやく。


「七宮先生のあの感情は後々やっかいになりそうですね。今はまだ利用価値がありますが用が済んだら処分をしないといけませんね」


 すると宇城嶋の背後に、目も口も空いていないのっぺりとした白い面を被る、全身どす黒い赤色をしたスーツを着こんだ男が立っていた。

 その不気味な男は仮面越しにでも前が見えているのか躊躇うことなく宇城嶋の隣まで歩いてくる。


「そうですね。どうしますか?」


 面を被っているにもかかわらずその声はくぐもった様には感じられない。

 宇城嶋もそんなことには気にも留めず話を続ける。


「素体へのすべての行為が済んだら、急ぎではないですが確実に仕留めてください。貴方がミスをするとは思えませんが一応お気を付けてとは言っておきます」

「わかりました。ですがお気を付けてと言いたいのは私の方です。東城家の当主と話をするのでしょう?この段階ではいささか早いかと思いますが?」

「それもそうですが、このまま手をこまねいていても仕方ありません。それに今日一日で良いカードも手に入りましたから、さすがにその場で消されることもないでしょう」

「そうですか……であれば私も自身の事を気にかけていくとします。それでは失礼します」


 闇に溶ける様に血色のスーツを着た男は消えた。

 そして宇城嶋も、ゆっくりと水槽の淡い光に溶けるように消えていった。

次回から新章突入です!!

ここまで読んで頂いてありがとうございました!

次回もお楽しみに!!

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