燐と蓮
次から新章と言いましたがもうちょこっと後日談挟みます。
それと特定のキャラにスポットを当てたものなので今回と次回は短めです。
秋が蓮を403号室に投げ入れた後、蓮は備え付けのベッドの上に横になり目を閉じた。
《燐、燐…起きてる?》
(なぁに蓮。私もうあなたのお蔭でお腹いっぱいなんだけど)
《ごはんだったら…もっと前に食べたし。さっきまで秋と居たから…何も食べてないよ?》
燐はこめかみを抑え、まったくもう!とでも言いたげにため息をつく。
実際言っていたのだが……
蓮も蓮ですっとぼけているのか、まじめにごはんの話をし始める始末。
本当にわかっていないのだろう、必死に食べたメニューを思い出そうとしている。
ここまで来ると埒が明かないので、結局燐が素直に問いただすことになる。
いつもの流れという事である。
(その秋と一緒に居たことを言ってるの。そのお蔭で胸焼け気味よ。でも本当によかったね、蓮)
《うん…これも、燐のお蔭…ここから支えてくれなくちゃ…最後まで言えなかった》
(そんなことないでしょ?燐の気持ちは本物だったからそうなったんだよ!)
そう。
秋の前で無言になってしまった時、実はあまりの恥ずかしさと無謀さを知った蓮は部屋から逃げ出そうとしていたのだ。
その想いとは裏腹に逃げようとする体を、燐は入れ替わる事で止め、中で必死に後押ししていたのだった。
もし秋がこのことを知っていたら、聞かれていたことの恥ずかしさとともに、真っ先に燐に礼を言っただろう。
秋のそんな表情を思い浮かべた燐はふとある事を思い出す。
(ねえ、蓮。さっきあなた秋と、キス、してたよね?)
蓮はなにを今更といった感じでそうだよと肯定した。
そして燐は更に今更、その事で悶絶する。
(あぁぁ!蓮のバカ!!するならするって言ってよ!ずーっとずぅーっとファーストキスはとっておいたのに!!)
《そう…なの?でも、秋とだから…大丈夫!》
(じゃなーい!あぁ~。こんなんだったら最初に言っておけばよかったぁ)
《でも、表に出てたのは…わたし。ノーカウント…でいいんじゃない?》
(そうかなぁ、そうだね。うん、そう!まだノーカンよ!)
都合のいい蓮の申し出に、事実とは違えど乗るしかない。
それ以外に自分のファーストキスという非常に貴重な体験をなくしてしまったことになるからだ。
もはや燐は暗示の域に達するのではないかというくらいノーカン、ノーカンと呟いている。
若干怖いくらいに。
そんな負の連鎖に陥ろうとする燐に、蓮がふと思ったことを呟く。
《明日から…どうする?秋とは一緒に居たいけど…ずっと私が表に出てる訳にもいかない》
(そういえばそうだね。どうする?)
二人はうんうんと頭を抱えて悩む。
実際、授業の方はどっちかが聞いていれば共有できるから問題ない。
食べ物だって味わう体が一緒だから感覚の共有をすれば問題なく味わえる。
だが、人間関係だけはそうはいかない。
燐は、人当たりも良く話が好きなため、自然と周りに人が集まる傾向にある。
一方、蓮はと言うと秋や燐とは会話が成立しているが、それは気心知れた仲だからだ。
他人に対しては慣れるまでに時間が掛かる。人見知りという訳ではないが積極的に関わろうとはしない。
その所為なのかお蔭なのか、当然人が集まるということもなく、むしろ避けられるくらいだった。
学園に入る前は良かった。
学校に通っている間は、余程のことが無い限り燐が表に出ていたからだ。
お蔭で友人と言える人は数多くいたし、幸か不幸か活躍の場も増えてしまったので【東城の撃鉄】なんて名前までついてしまった。
だが今回はそうではない、蓮は秋という彼氏が出来たので出来る限り表に出ていたい、しかし燐も周りとコミュニケーションをとっておかないと今後の人間関係に不安を残してしまう。
そこのところはお互いにお互いをよく理解しているから、譲り合いばかりしていてなかなかどっちがメインで表に出るかというのに答えが出せなかった。
結局、数時間あれやこれやと悩んだ挙句、ありきたりだが一日交代で変わる事にした。
交代して欲しい時は、表に出ている側が良ければ交代するという事で折り合いを付けた。
そこで次に問題になるのが、表に出ているのがどっちなのか他人にはパッと見で識別できないと言うところである。
その問題には頭を悩ますことなく、名札を使用することにした。
髪型を変えるだとかブローチを付けるだとかの意見があったが、名札以上にその人が誰なのかを判別しやすいものはないという事になった。
ひとしきり話し合い、決まったことは教師に報告して全員に認識してもらえるように伝えて貰おう。
ここまで、いろいろ決めるのに3時間もかかってしまった。
体はただ横になって寝ている様に感じるが、中身ではあーだこーだと話し合いをしていた為か何故か体まで疲れた気がする。
二人はもうなかばウトウトとしながら、最後に明日はどっちが表かという話をして、意識を夢の中に手放した。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回もお楽しみに!!




