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学園入学編ⅩⅩⅥ

26話目になります。

 秋は【タイムエクステンド】を使い、イエロースライム(実際の色は紫ベースで赤の斑に緑の縞模様)に接近する。

 こんな言葉は聞いたことがあるだろうか。

 〝速さは重さ”

【タイムエクステンド】発動状態で全力疾走し下から抉り込む様に拳を繰り出す。

 スピードが乗った重い一撃。打撃で重要な事は手数と一撃の攻撃力。

【タイムエクステンド】状態の秋はその両面をカバーできているが、今回の相手はスライム。

 打撃でのダメージはやはり無いと見える。

 だが、引き延ばされた時間の中で打ち込んだ部分が波打ち形状が歪む。

 その兆候を確認し連続して左右から拳を叩きこむ。

 実際の時間の流れでは秋の姿は見えないが、イエロースライムの一部が一撃二撃と拳を与える度にどんどん歪んでいき、次第に地面に張り付いた部分は剥がれ、しまいにはその勢いに負け大きく吹き飛んでいった。

 飛んでいくイエロースライムを追いかけもせず能力を解除し飛ばされた場所までゆっくりと歩いていく。


「おーい。生きてるか?そのくらいだったら大丈夫だろ?スライムだし」

「ぶふぁぁ!!おまえぇ、邪魔するなぁ!さっさとピンクを喰わせろぉ、僕チンのモノだぁ!」

「まぁまぁ落ち着け。邪魔はしてるけどちょっと話をしようぜ?」

「ふひょっ!おまえとの話なんてない。早くピンクをぉぉ」


 邪魔をする秋に向けてスライムの体を変形させた触手で襲い掛かる。

 それを能力の発動無しでひょいひょいと躱し、【破壊】で触手と体の一部を消し飛ばす。


「ぶばふぁぁぁぁ!!痛いよぉ痛いよぉ!うぐ、あぁ、おまえぇぇ!」


 痛がるイエロースライムを無視して勝手に話をしだす秋。


「おまえさ、その体って元に戻せるのか?あとレッドとグリーンはどうなったんだ?」


 イエロースライムは秋からの言葉を恐れを抱いてのものと勘違いし、さっきまでの怒りもピンクの事も忘れ気分良く語りだす。

 この反応を見て秋は、イエローはもう十分な思考判断が出来ない状態であると考えていた。

 能力に呑まれたなれの果て。欲望が暴走している状態。


「ふひゅひゅっ。僕チンのこの姿を恐れているのかぁ?ぶひゃっ!そうだろ、そうだろ、そうだろ!これが僕チンの覚醒能力だぉ!あらゆる人と能力をを吸収し、そのすべてを取り込み巨大化を続けるスライムになれるんだぁ!すごいだろぉ?でもぉこれにはそれなりのリスクがあるんだぁ。悲しいことにこの状態になると元の姿に戻れなくなちゃうんだぁ。でももうなんだかそんなこともどうでもよくなってきたしまぁいいかぁ。ふひゅ?あれ?僕チンはこれから何をしようとしたんだっけ?あれれ?」

「そっかそっか。何がしたのかももうあやふやになってきたのか。じゃあもう一回聞くけどさ、レッドとグリーンは?」

「レッドぉ?レッド……レッド?あぁ!あの赤いのは僕チンの中に居るよぉぉ。ふひょっ、消化するまでは能力が使えるからまだ生きてるのかなぁ?どうなんだろうなぁ?えっとぉそう言えばお前はダレだぁ?そこに居たらぁジャマじゃないかぁぁぁぁ!!」


 受け答えすらもう出来ない状態の様だ。

 自身をスライム変えたことで思考能力までなくなりかけてきている。

 たぶん自身の体のもレッドの体も同様に、消化されてしまえばすべての情報が消え、ただのスライムになってしまうのだろう。

 イエロースライムの体にはまだうっすらだが赤の斑と緑の縞模様が残っている。

 という事は生きてはいるはずだ。


「じゃあやる事は一つ。まずはソコっと!!」


 右手を向けると【破壊】でイエロースライムをの中心部分を消し去る。

 まん中に大穴が空いたイエロースライムの断面部分に、溶けかけたレッドの上半身とグリーンの肩から上部分が力なく垂れ下がっていた。

 レッド達が破壊されずに残ったのは、対象を〝イエロースライム”に設定しているからである。

 一回の発動に対象設定というリスクにもなりえる条件だが、今の状況では好都合な条件になっていた。

 ぐねぐねと蠢くイエロースライムはすぐさま失った部分を再生させ、再び元の姿に戻ってしまった。

 だが秋はレッドとグリーンが無事な事を確認したかっただけなのでそれで十分だった。


「レッドもグリーンもどうにかこうにか原型はとどめてるみたいだな。そんじゃ、これで仕上げだな」

「ふひゃひゃひゃひゃ。痛いよぉぉ。お腹減ったよぉ。あれぇ腹ってどこだぁ?何食べるんだっけ?おまえ喰えるんだっけぇぇ?」

「残念だけどもうここでおしまいだ。無事だったら・・・次から頑張れよ」


 表情を曇らせ目を伏せた秋だったが、それもほんの一瞬のことですぐさま目の前の敵に意識と視線を戻す。

 秋はイエロースライムの表面を突き破り、拳を差し込む。

 握った拳をバッと開き能力を発動する。


「さぁ、全てよ元に戻れ、【再正】!」

「ふぶぅぁぁ!!体が、体が熱いぃぃぃ!!ぴぎぇぇぇ!!」


 淡い緑の光を放ち、みるみる小さくなるイエロースライム。

 スライムの中で溶けかけていたレッドもグリーンもずるりと滑り落ちて来る。

【再正】の効果を3人に向けてかけたお陰でレッドもグリーンも傷ひとつない状態に戻っていた。

 まだ意識までは戻ってないが、呼吸しっかりとしているようだし無事だろう。

 秋は一息ついてピンクを見やると、様子を伺っていたのか今にも泣きそうな顔で立ち竦んでいる。

 もう大丈夫だと教えてやると堪えきれなかったのか、涙を流しながら走り、横たわるレッドの胸にすがりついた。

 憐れグリーン……君の技も存在もイマイチだったけど俺は忘れないよ……


「これであっちはOKだけど、コッチはもうダメかもな」


 スライムという無形の状態になり自身の元の姿をも覚えていない、いや、忘れてしまったイエローは人の形は保っているもののドロドロと溶け出していて安定していない。

 溶けては戻りを繰り返すばかりだ。

 意識自体はすでに覚醒してはいるが、まるで植物状態のように真っ白な空の一点をスライムとなった濁った目で眺めている。

 このまま跡形もなく決してやる方がいいだろう。一生この状態でいるよりその方がいいはずだと思い、右手をイエローだったものに向ける。

 すると意識が戻ったレッドはピンクに肩を借りて、グリーンはどこで拾ったのか今にも折れそうな木の棒で自らを支えてそばまで来ていた。

 グズグズになり溶けては人型に戻るを繰り返すイエローの姿を目の当たりにした三人は、表情こそ違えど思っていることは同じように見えた。


 〝どうしてこんな事になってしまったのか〟


 そういった後悔や憤り、そして悲しみを含む複雑な表情だった。


「やっぱり、イエローはもう」


 結果は聞かずともわかっているが、複雑な心境の中で人はつい口をついて思ったことが出てきてしまうもの。

 そんな状態の三人を意図的に見ずに、秋は右手をイエローに固定したまま答える。


「見てわかるだろうが人間の形すら保ててない。俺の【再正】でも元に戻れなかった。自分がなんなのか、誰なのか、人間なのか、そのすべてがもうわからなくなっている。だからこのままほっとくより、今ここで俺が消す。跡形もなく」


 三人に激しい動揺が走るが秋の言っていることの意味も理解しているのか、誰もそれに反論できなかった。

 否、しても誰がどうこうできるわけではないと分かっていたからだ。

 無責任と言われればそうかもしれないが、自らが同じ状況に立たされた時に反論できただろうか。

 ぐるぐると回る思考もまとまらないまま、三人は黙って見ているしかできない。

 そんな状態の三人に秋はあえてここで決断を迫る。


「レッドもピンクもグリーンも、本当にいいんだな?」

「………」

「………」

「ダメだ、と言えれば僕はここで本当のヒーローになれるのかな……」

「俺はヒーローじゃない。だからお前の言っていることに答えは出せない」

「じゃあどうすればいいんだよ!誰に聞けば教えてくれるんだ!」


 ヒステリック気味に叫ぶレッドの肩をピンクが優しく抱きしめる。

 荒い息も次第に落ち着きを見せ、代わりに再度涙が流れ落ちる。


「レッド。答えなんて人それぞれよ。他人併せることもないし、ましてや聞くことでもない。だから自分で導き出すしかないのよ」

「ピンク、僕は君の様にそんなに強くなれないよ」

「なら今は……今だけは黒土くんに任せてもいいんじゃないかな。辛いのもどうしようもないのもわかる。だからこそ、最後の決断、人に任せるってことくらいは自分で決めなくちゃダメよ」

「ごめんピンク。僕は弱い。だからこの決断が恐い。そしてすまない黒土。君に委ねたい……辛いことから逃げてすまない。本当にすまない……」


 レッドからの申し出に今日何度目になるかわからない大きなため息を漏らす。


「お前たちがそれでいいんなら俺が言う事は何もないさ。ただ、今回限りだぞ?次は無いからな」


 ピンクには秋が必ずそう答えてくれると分かっていた。

 だからこの場に不謹慎だがこっそりと笑いながら、


「やっぱり、やさしい人」


 と、誰にも聞こえない声でぽつりとつぶやいた。

 そんなつぶやきなど全く聞こえていない秋は憂鬱だった。

 命を奪う事に躊躇はない。以前、自分がそうした様に。

 ならばなぜ躊躇うのか、わざわざ自問しなくともわかっている。

 蓮との約束があるからだ。

 できれば、こんな学園に入学して早々命を奪うような事を経験させたくはない。

 命を奪うと言う意味は言葉以上に重い。

 そんな葛藤をする秋の気持ちを知ってか、いつの間にか蓮が左腕に絡み付いてきていた。

 近づいてくるのさえ気が付いていなかったらしい。

 まともな声もかけられず固まる秋に蓮はゆっくりとつぶやいていく。


「秋…お疲れ様…」

「蓮、まだ終わってないよ。これから最後の仕事があるんだ。出来れば蓮には見ていてほしくない」

「それは…できない」

「できなくない。いいから向こうで仁達とトランプでもしてろ、な?そっちの方がずっと楽しいだろ?」

「楽しくない…秋が」

「………」


 再び沈黙してしまう。


(どうでもいいから、パパッと能力使って、ハイ、おしまい!でいいじゃないか。なんで躊躇うんだ、俺!)


 そしてまた沈黙を破ったのは蓮だった。


「秋は…やさしい。私の為に…いっぱい考えてくれた」

「やさしくなんかない。俺は……やさしくない」

「ううん…やさしい。私が言うんだから…そう」

「………」

「秋が今辛いのは十分わかった。だから…その辛さを…はんぶんこしよう」

「意味が分からないよ蓮。いいからあっち行ってろって。すぐ終わらせるから」

「ダメ…今度は私が…秋の事考える番」


 言っても聞かない蓮を振りほどこうと、左腕を強めに揺するが離さない。

 腕を掴み、ギュッと両目を閉じて決して離そうとしない。


 ついにはイエローに向けていた右腕も下がり、秋は立ち尽くしてしまった。

 蓮はそっと秋が下ろした右腕に手を添えて、再度イエローに向けさせる。


「秋は打つだけ…私が狙いを付ける。これで…はんぶんこ」


 この一言で秋の中ですべて・・・の決心がついた。

 蓮はもう梃子でも動かないだろう。

 でもそれに対し秋は諦めでもなく、無理矢理でもなく、しっかりと決意する。

 だからまずは蓮に伝えなくては。感謝の気持ちを。


「蓮、ありがとう」

「うん…秋…もう平気?」

「あぁ、もちろんだ。じゃあ二人で終わらせるか!!」

「うん…」


 蓮の添える手に力が入っている。緊張しているのか小刻みに震えていた。


 そこに空いた左手をそっと添え、秋は【破壊】を発動した……

今回もここまで読んで頂きましてありがとうございました。


今回で入学編を終わりにしようかと思っていたのですが終わらず・・・

次で終わりになりそうです。


それでは次回もお楽しみに!!

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